こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。
読書『危険な斜面』(文春文庫)松本清張著
いつものカメリアステージ図書館特集コーナーで、「地元(福岡県)の作家特集」的な並びのなかに見つけた一冊。松本清張は2-3年前に手に取って、そういえば読んだことが無かった!と気づき、何冊か読んだのでした。そこからまた時間が空き、たまたま目に飛び込んできたので、借りることに。
第一章を読み終わった、と思ったら、実は物語はそこで終了、いわば短編集でした。長編だと思い込んでいましたので、ちょっとびっくり。第2章のつもりで2編目を読みはじめたら、ずいぶん設定が飛躍していて、これは…と、とりいそぎ「あとがき」を読んだら短編集だったことが判明した次第です。6つの物語が入っています。
で、その短編集、良かったです。なんとなく勝手に松本清張は長編だと決めつけていたので、意外で新鮮でした。そういえば前回読んだのは『点と線』でしたが、終盤に向かうほどに物語が駆け足で雑な感じになり、連載で締め切りに追われていたのかなぁ、などと考えさせられて少々がっかりしたのでした。今回読んだ短編は、いずれも最後まで面白かったです。
1960年代から70年代と思しき時代背景がぎっしり詰まったストーリーの数々は、当時の社会や生活を垣間見ることが出来るという意味でも興味深く、時代の流れを感じました。そういえば、先日読んだ奥田英朗著の『罪の轍』も舞台となっていたのが1960年代でしたが、両者の大きな違いは、時代背景は同じでも、書いている時代が異なること。書いている時代が異なることが、これほどまでに大きな違いを感じさせるのだと、気づかされた読書にもなりました。
それは行間ににじみ出る、著者自身の持つ偏見、特に女性に対する見方です。ただそれは、著者の個人的な性格というよりは、当時の人々が当たり前としていた空気でしょう。そうと頭ではわかっていても、読みながら苛立つことは否めませんでした。よく巻末に「差別的な表現」を使用することの断りが書いてありますが、そういう単語レベルのことではなく、書いている人の思想が「書き方」に現れる怖さがありました。これがもっと時代を遡った古い話になると、別次元の話として気にならないのだと思いますが、自分にとっては割と近い時代の話だと感じ、実際に思い当たる断片的な記憶もあるがために、気に障るのですね。
そう気がつくと、「松本清張もの」はドラマや映画で観る方が、わたし的には気軽に楽しめるのかもしれないと、一人納得するに至った読書でもありました。