こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。
読書『失墜の王国』(早川書房)ジョー・ネスボ著/鈴木恵訳
いつものカメリアステージ図書館新刊棚から、海外長編ミステリーです。単行本544ページで、しかも久々に目にした二段組。ぱっと開いてその「字の詰まり方」を見たときに、途中で挫折するかも…と思ったのですが、まったくそんなことはなく、ページを繰る手がどんどん進み、実に読みごたえがありました。
巻末の解説で、本書は「重厚なノワール小説である」という言葉が出てきました。「ノワール小説」の意味を知りませんでしたのでググったところ、「暗黒小説」「犯罪小説」といったところのようです。たしかに主人公は「殺人犯」であり、主人公の一人称で進むストーリーは、全編を通して陰鬱な雰囲気をまとっています。その一方で、読み始めてすぐに、登場人物らが破滅に向かっていることがうかがえるのだけれど、不思議と楽観的な空気が漂っているという、なんとも言葉にし難い感じがありました。
ひとつには、文章がとても読みやすく美しいことが、暗黒小説という言葉とは一線を画していたように思います。文学的な表現が文章のあちらこちらに登場し、主人公の声(心の声も含めて)の端々には、哲学的なことばが垣間見えます。こうした文章の美しさは、著者はもちろん、日本語に置き換える訳者の方の力の大きさを感じさせました。こんなふうに日本の読者に届けてくださる存在(出版社・訳者)に、あらためて感謝です。というところでやはり、安定の早川書房さんだということに気づきました。
どうやら嬉しいことに、本国では本書の続編がすでに出ているということ。日本での刊行が楽しみです。本書はわたしにとっては「初めまして」でしたが、著者のジョー・ネスポ氏は「北欧ミステリ界の巨匠」だということです。さっそく図書館で検索してみたところ、既刊本を数冊発見。まずは既刊本を読みながら、続編を待ちたいと思います。