読書『失われたものたちの本』(東京創元社)ジョン・コナリー著/田内志文訳

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『失われたものたちの本』(東京創元社)ジョン・コナリー著/田内志文訳

同著者の『キャクストン私設図書館』(東京創元社)を読んだのは、つい2週間ほど前のこと。『キャクストン…』は本書『失われたものたちの本』のスピンオフ版だということを知り、ならば本家を読まねばと探し求めたのでした。幸運にもいつものカメリアステージ図書館に所蔵されていたので、すぐに予約。

前著でも本書でも、「訳者あとがき」から「ジョン・コナリーの著書が多産の割に日本ではあまり翻訳されていない、もったいない!」との熱い思いが伝わってきます。著者・著書に惚れ込んだ訳者による日本語版。翻訳をしてくださる方があるからこそ手に取ることができるありがたさです。

主人公が物語の世界のなかに入り込んでしまう、というストーリー展開は、それほど目新しいものでは無いかもしれません。でも主人公がそうなってしまうに至る背景や、入り込んでしまった物語のなかで体験していくことのさまざまが、これまでに読んだことのない独特の世界観をつくりあげています。冒険小説と言ってしまうには憚られる、ある種の重苦しさ、ダークな雰囲気。もっと正直にわかりやすく言えば「おどろおどろしい」描写が少なくなく、好き嫌いがはっきり分かれる本だと思います。

本の物語の中に入り込むという空想(妄想)は、誰しも経験したことがあると思います。そういう意味では「ちょっと懐かしい感覚」もする読書でした。『本当は恐ろしいグリム童話』をはじめ、古典的な物語に潜む真意の恐ろしさを暴く(あるいは新解釈する)手の本が流行ったことがありましたが、そのように、元の物語の「解釈」を考えさせるストーリーでもあります。