こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。
読書『戦争は女の顔をしていない』(岩波現代文庫)スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著/三浦みどり訳
いつものカメリアステージ図書館新刊棚から。今年夏に開催されたカメリアステージ図書館の選書ツアーで、ご一緒だった参加者の方が選んでおられた本。少し前に新聞だったか雑誌だったかで見かけて気になっていた本でした。
1941年開戦の独ソ戦争について、粘り強い調査と500名を超える従軍女性へのインタビューで書き上げられた本書。著者のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチさんは、2015年にノーベル文学賞を受賞しています。本書のもととなる取材をはじめたのは1978年ということです。1984年に発表。原稿を書き上げるまでの困難に加え、発表してから刊行が許されるまでにさらに2年かかったという事実が、本書の内容が「国」にとって都合の悪いものであったことを裏付けていると思いました。そして日本語版はようやく2008年に群像社が刊行しています。実に30年を経てようやく、わたしたちが読むことのできる形になったのですね。知らんぷりをしてはならないものを、ここまで届けてくれた著者と訳者と出版社の方々の強い気持ちに、頭が下がりました。
第二次世界大戦末期の独ソ戦については、昨年春に読んだ『グッバイ、レニングラード』でその凄まじさをはじめて知ったのでした。上の写真は『グッバイ、レニングラード』から引用。
『グッバイ、レニングラード』を読んで、少しその戦争のことを知ったつもりでいましたが、本書『戦争は女の顔をしていない』を読んだ今となっては、それもやはり「男の顔をしたもの」すなわち男の視点・言葉で語られたものを前提としているとわかります。戦争に関する記録や表現に関しては、本にしても映画にしても、ソ連に限らずそういうものである可能性が極めて高いのだと思います。
従軍した女性たちの話から見えてくるものは、これまでに聞いたこと・読んだことのある日本の戦前・戦中・戦後の話と重なるものがたくさんあって、とても他国の他人ごとではありませんでした。「歴史から学ぶ」という言葉よりも「歴史は繰り返す」という言葉の方が現実味をもってくるように思いました。今まさにその国が戦争をしているのですから、なおさらです。あるのは「戦争か平和か」ではなく、「戦争か戦後か」。暗澹たる思いで途中何度も本を閉じ、読み終わるまでに時間がかかりました。
巻末に訳者・三浦みどりさんの「あとがき」と、澤地久枝さんの解説「著者と訳者のこと」があります。ここまで、きちんと読み通したい一冊です。一人でも多くの方が手に取ってくださるといいな、と思います。今回わたしが手に取ったのは岩波現代文庫版で、文庫として残っていることが、とても良かったと思える本です。