読書『関心領域』(早川書房)マーティン・エイミス著/北田絵里子訳

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『関心領域』(早川書房)マーティン・エイミス著/北田絵里子訳

このところすっかりわたしのなかで鉄板となりつつある、いつものカメリアステージ図書館新刊棚、そして翻訳本といえば早川書房、の組み合わせです。といっても、早川書房を狙って選んでいるわけではなく、読み終わってから確認するとそうだった、という感じです。本書もまったく予備知識無く手に取った一冊。ただ、なんとなくタイトルに既視感があるなぁと思っていたら、映画化されていて今年の5月に日本でも封切られていたということですので、どこかでポスターか何かを見かけたのかもしれません。

さて物語は、ヒトラー政権下のナチスドイツ。加害者側であるナチス・ドイツの軍人とその家族を中心とした登場人物を、アウシュヴィッツ強制収容所を舞台に描いています。景色、数字、色、においの淡々とした描写で、常軌を逸した残酷さが延々と語られていました。なぜそのようなことになってしまったのか、という疑問が物語の底辺に流れているのを感じつつも、このようなことがどこででも起こり得るということ、現に起こってきたということを、突き付けられる読書でした。

巻末のあとがきに、映画は(多くのものがそうであるように)原作とはまた異なるものに仕上がっているということが書かれていましたが、それでも、それぞれに読み・観るべきものとして紹介されていました。第76回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞、そして2024年のアカデミー賞で〈国際長編映画賞〉〈音響賞〉を受賞し、「今世紀最も重要な映画」と評されたそうです。わたしは、本書を読み終わったばかりの現時点では、これを映像で見るのは避けたいという心持ですが。

先日読んだ『女の子たち風船爆弾をつくる』を読んだ時も感じたのですが、今、こうした過去の戦争本が新刊でどんどん出てきているのは、やはり時代の空気への危機感があるように思います。本書を読みながら『女の子たち風船爆弾をつくる』と『戦争は女の顔をしていない』を思い出していました。

本書の著者の書くものに興味を惹かれましたが、残念ながら日本語訳が刊行されている本は、今のところ少ないようです。あとがきで武田将明氏が(東京大学教授)、本書を契機に、マーティン・エイミス著作がもっと日本語訳で出てくることを期待していると書いておられましたが、わたしも一読者として楽しみにしておきたいと思います。

『関心領域』(早川書房)マーティン・エイミス著/北田絵里子訳