読書『ロブスター』(角川書店)篠田節子著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『ロブスター』(角川書店)篠田節子著

いつものカメリアステージ図書館新刊棚から、「あ!篠田節子さん」と、久しぶりの名前を見つけて手に取りました。篠田節子さんといえば『女たちのジハード』です。というか、冷静に考えてみたら、わたしはその一冊しか読んでいなかったかもしれません。ただその一冊が、当時の我々世代の働く女性にとっては、共感を誘いインパクトが大きかったのでした。

さて本書『ロブスター』。角川書店の公式サイトでの紹介文では「私は人生の終着点を見つけてしまった 生と死の尊厳に迫る優しく美しい一冊」とまとめられています。たしかに美しさが漂う一冊ですが、わたしにとっては、若い主人公と一緒に自らの未熟さを突きつけられるような、なんとも苦い読後感が残るものでもありました。紹介文の末尾にある「人生の本質や、生と死の尊厳を、外から判断できるのか」の問いかけが重い本です。

主人公は若いフリージャーナリストで、物語のところどころで、「古い時代の」ジャーナリストから投げかけられた「裏をとったのか」の問いかけが、彼女の脳裏によみがえってきます。それはそのまま、読者への問いかけとなり、自分の目で確かめることなく、二次情報三次情報を鵜呑みにすることの怖さと、その状態がまん延してしまっていることへの警鐘が全編に流れています。そして人がなかなか思い込みから抜けだすことが出来ない怖さや、何の得も無くても「話を聞いて欲しい」その一心だけで嘘をつけるという弱さも。現在わたしたちが生きているすぐその先、あるいは既に、本書の物語が警告する世界があることに、自らへの反省と無力感を感じました。

ポップで可愛らしさのある表紙の絵は、読後に見直すと、なんともシュールに映りました。

『ロブスター』(角川書店)篠田節子著