読書『暗殺者たち』(新潮社)黒川創著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『暗殺者たち』(新潮社)黒川創著

先月読んだ黒川創さんの『この星のソウル』がとても興味深かったので、図書館で著者名検索をかけて、本書を借りてきました。

本書は「日本人作家がロシアで大学生への講義として語っている」という形で成り立っています。最初から最後まで口語体。その文体のやわらかさが、少し難解な感じのする内容を、読みやすくしています。前回読んだ『この星のソウル』は1890年代あたりを中心として、近代から現代につながるお話でした。本書は1900年頃を中心としたお話になりますが、やはり近代日本史。発刊されたのは本書の方が早くて2013年発売となのですが、わたしとしては、『この星のソウル』を先に読んでいたことが、本書を読みやすくしてくれたと感じました。

伊藤博文暗殺、大逆事件の幸徳秋水とその周りにいた人物たち、夏目漱石などの名前が出てきます。本書もまた日本近代史を、小説ならではの方法で覗き見ることができるものでした。近代における日本と朝鮮半島・韓国との関係や、中国、ソ連との関係が、実際の事件と、文学作品を例に引き出しながら描かれるのが、興味深かったです。日本であれロシアであれ、本を書く人の思想や信条が色濃くその作品に反映される時代。その時代に限らず、そもそも「本を書く」というのは、フィクションかノンフィクションかを問わず、そういうことなのかもしれませんが。

新潮社のサイトでの紹介ページのなかに、著者・黒川さんと作家・四方田犬彦氏による対談が掲載されているのですが、そのなかで著者が「語られている個々の事実は、すべて資料的典拠を示せるファクト」とおっしゃっています。そのうえで「ここから大きな一つのフィクションをつくりだすこともできる」と。そういえば過去にNHK大河ドラマになった『西郷どん!』を書いた林真理子氏が、「事実と事実の間にあるもの、とくに何をどう言ったか、というセリフの部分は自由に作ることができるから、そこにいかに想像力を働かせることができるかが書き手の力量」というようなことをおっしゃっていましたが、まさにそういうことなのでしょう。

日本の学校教育では自国の近代史をおろそかにし過ぎているという議論はずいぶん前からあるものではありますが、今回も、自身を省みて、知らないこと理解できていないことがあまりにも多いと気づかさる読書でした。黒川創さんの作品、また少しづつ読んでいきたいと思います。

『暗殺者たち』(新潮社)黒川創著