読書『テスカトリポカ』(KADOKAWA)佐藤究著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『テスカトリポカ』(KADOKAWA)佐藤究著

いつものカメリアステージ図書館より。直木賞と山本周五郎賞をダブル受賞しているという、ジャンルとしては「クライムノベル=犯罪小説」です。タイトルとなっている「テスカトリポカ」は、15~16世紀に栄えた多神教のアステカ王国において信仰された強大な神様の一つだそう。メキシコでの麻薬密売組織の抗争、人体臓器売買など、国境を越えた大規模な組織的犯罪に、アステカの神話が絡まって、全編に暗い影が漂っています。

個人的には、貧困と資本主義を考えさせられる一冊で、ふた月ほど前に読んだ『沸騰大陸』を思い出しました。『沸騰大陸』は、アフリカの現在とその背景を写真と文章で告発するルポ・エッセイで、アフリカで起こっている紛争が、民族や宗教を起点とするものではなく「富」と「格差」を起点としたものであることを、告発している内容でした。

『テスカトリポカ』は小説(フィクション)の形をとっていますが、小説の舞台となるメキシコでも日本でも、繰り広げられる犯罪はやはり「貧困(富)」と「格差」が起点となっています。現在の世界を覆う資本主義の仕組みに対する問題提起を、強烈に突き付けられたような気がしました。知らずに呑気に暮らしていることが、無意識に罪に加担していることになる可能性があることを、かといってどうすればよいのかという解決策の案や可能性の提示がないまま突き付けられて、なんともやりきれない読後感でした。

『テスカトリポカ』(KADOKAWA)佐藤究著