読書『言葉のトランジット』(講談社)グレゴリー・ケズナジャット著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『言葉のトランジット』(講談社)グレゴリー・ケズナジャット著

いつものカメリアステージ図書館新刊棚から、ジャンルもわからないままに、なんとなく手に取った一冊。きっとタイトルにある「言葉」の文字に引っかかったのだと思います。著者名の後に訳者名が入っていないと気が付いたのは、本を開いた後でしたが、英語を母国語とする著者は、わたしが知らなかっただけで、日本語でいくつもの小説を書き、いろいろな文学賞を受賞したり芥川賞の候補にも入ったりしている方でした。そういえば『鴨川ランナー』という本のタイトルは、見覚えがあります。

講談社の公式サイトで「英語を母語としながら、日本語で創作する著者だからこそ見えてくる」と紹介されている本書は、著者初のエッセイとのことです。実用書か小説かなという感じで、エッセイだと思わずに手に取りましたので、エッセイよりも小説を先に読みたかったなぁ、という気もしましたが、このエッセイを手に取ったからこそ著者の存在を知ることができたわけで。つい先日読んだ、小川哲さんの『言語化するための小説思考』を手に取ったときと同じパターンです。さっそく今後に向けて図書館蔵書チェックしたところ、著者の小説を何冊も発見し、安心したところです。

さて『言葉のトランジット』。まず、とてもやさしい語り口に引き込まれました。音読で本書を聴いたら、きっと心地よいだろうな、という感じ。随所に「日本語を流暢に操る外国人」であるご本人の実際と、そうと知らずに「外人さん」として相対する日本人との間に生じるコミュニケーションの微妙なズレいうか、勘違いというか、に対する気遣いの細かさが感じられて、読んでいるわたしまでがソワソワとするような場面がいくつもありました。自分ももしかしたら、まわりの外人さんに、こんなふうに気を使わせていることがあるのかもしれないな、と。

小川哲さんの『言語化するための小説思考』でも感じたことでしたが、小説を書く人の、言葉に対する嗅覚というか触角というか、感覚的なことと、哲学的な思考とが垣間見える、とても面白い読書でした。

『言葉のトランジット』(講談社)グレゴリー・ケズナジャット著