読書『美術の力 表現の原点を辿る』(光文社新書)宮下喜久朗著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『美術の力 表現の原点を辿る』(光文社新書)宮下喜久朗著

同著者の『名画の生まれるとき 美術の力II』がとても良かったので、遡って最初の『美術の力』である本書をゲット。こちらもまたわたし的には、大量の名言に出会えた良書でした。頭のなかでもやもやと感じていたことを、明瞭に言語化していただいた、と思える言葉がたくさんでした。

以下、要点整理&備忘


  • 場所の持っている力、いわゆるゲニウス・ロキ
  • 美術作品も、それが位置する場所の力と相まってオーラをまとう
  • 自社でも美術館でも、その作品が本来置かれてきた場こそが作品に生命力を与える
  • 印象に残った作品は必ず場所の記憶と一体になっている
  • 作品の前に実際に立ってみなければわからない魅力
  • どんな地域でもその自然環境と美術とは関係がある
  • 自娯
  • 売るためであろうが自誤のためであろうが、作品がすばらしければ十分であり、作者の意図や制作の事情など関係ない。
  • およそ芸術作品というものは、作者の手から離れた途端、一人歩きを始めて何百年も生き残るのであり、作者というちっぽけな存在に拘束されるものではない。
  • 西洋美術は基本的に公共性を帯びていた。(中略)19世紀以降、西洋で美術館という制度が成立して広く普及したのは、美術が本来このような公共性を持っていたためである。
  • 一方、日本美術は仏像や絵馬を除き、私的な性格が強かった。
  • これはカラスの値段ではなく、長年の画技修行の価なのだ
  • 長年培ってきた自らの技術に関しては絶対の自信を持っていたのである。
  • 古今の名画を模写する経験は、子どもの技術や鑑賞眼を養うことにもなる。
  • 書道と同じく、手本から入らなければ技術も習得できず、自分の様式も確立できない。創造や個性はいつも模倣から生まれるのだ。
  • 個性ばかりを尊重すれば、学ぶことを軽視しがちとなる。
  • 日本の美術環境には、こうした技術軽視と知識軽視の伝統が息づいており、それが日本の現代美術がふるわない要因になっている
  • 美術は、国家や社会の転換に関わらず、どんな時代にもしたたかに存続するもの
  • 美術というものは古今東西を問わず、どんな天才的作品でも必ず過去の作品と密接な関係をもっており、時間と空間の制約のなかからしか生まれないものであって、芸術家の天分や創意工夫などといったものはごくわずかな要素に過ぎないのだ。
  • 一種のオーラというか、愛蔵していた人たちの眼差しや執着までもが張り付いているように感じられる
  • 美術は政治や経済などよりも雄弁にその国の歴史や意義を物語る
  • どんな宗教でも、進行を維持するための物体を必要とする。
  • 信仰の拠り所として形あるものを求め、そこに生命を見出す心性は、(中略)そもそも人間の造形本能の根本であり、美術を生み出す原動力となっている
  • モダニズムが忘れてしまった「場」の力

『美術の力 表現の原点を辿る』(光文社新書)宮下喜久朗 より


映画『生きる LIVING』を観て参りました。

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映画『生きる LIVING』を観て参りました。

「月に1本映画を観に行く」。2023年はスタートから「月1回」の波に乗れなかったので、「月1回ぐらいのペース」ということで、仕切り直し。2023年の2本目は、いつものご近所イオンTOHOシネマではなく、博多で。というのも、久々に「これは絶対観たい!」と思った最寄りの館が博多だったのです。

さて『生きる LIVING』。絶対観たいと思った理由は、脚本がカズオ・イシグロだったから、の一点です。黒澤明の映画『生きる』が元であり、イギリスを舞台に撮り直したもの、ということで話題になっていますが、わたしは黒澤版を観ておらず、ストーリーも何もまったく知らない状態で、映画館に参りました。

カズオ・イシグロ脚本の『生きる』。舞台は第二次世界大戦後のイギリスです。余命宣告を受けた市役所職員の主人公が、「死ぬ前に、生きたい」と願うところから動き出すストーリー。全編にただよう静かさが、登場人物の心の変化や揺らぎを際立たせていました。主人公の抑制された雰囲気が、物語をぐいぐいと引っ張っていく不思議な感覚。時代もストーリーもまったく異なりますが、カズオ・イシグロ原作で映画になった『日の名残り』をほうふつとさせるものを感じました。

周りの観客は、ほぼわたしより上の年齢層の皆さま。平日の午前中にもかかわらず、わりと席が埋まっていたのは、やはり「黒澤明」と「カズオ・イシグロ」効果かしら、と思いつつ。本家の黒澤版も観てみたいと思いました。

古い片口鉢を花器に、白梅が咲きました。

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古い片口鉢を花器に、白梅が咲きました。

お正月用にと佐賀花祭から採ってきた白梅。お正月飾りはとっくに片付けたのですが、活けた枝ものが元気だったので、そのまま玄関周りに飾っておりました。昨年末に活けたときにはまだ固く緑色だったつぼみが、少しづつ膨らんで白い花弁が見えてきたかと思ったら、ここ数日の寒の緩みで、花開きました。

白梅

花器に使っている唐津の片口鉢は、作り手知らずですが、ぽってりとした姿が愛らしく、口が欠けたからと捨てようとなさっていたご近所さんから譲っていただいたもの。昭和初期辺りのものではないかと思います。計量カップとして活躍したのであろうことがイメージできる姿。姿の良い器は、食器としては使えなくなっても、なかに剣山を仕込めば、花器として大活躍してくれます。

欠けた部分の直しは、食器として使い続けるには、それなりに配慮したもの、やはり本漆できちんと直すのが一番安心です。けれども花器として使うのならば、食器ほどには神経を使わずとも、ホームセンターなどで手に入れることのできる「磁器用の接着剤」を使って補修することも可能です。本格的に直そうと思えば、それなりに費用も手間も時間も掛かりますが、このあたりうまく使い分け、役割を変えることで、お気に入りの器を身近に置いて使い続けることが出来ますね。

NEW PORCELAIN SCULPTURE

こんにちは。花花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

NEW PORCELAIN SCULPTURE

11月16日オープンのロンドン個展の案内状イメージが届いて、差し出されたタイトルに、またひとつ今後の展望を示されたような気がしています。

NEW PORCELAIN SCULPTURE by Kensuke Fujiyoshi @ SLADMORE CONTEMPORARY
NEW PORCELAIN SCULPTURE by KENSUKE FUJIYOSHI

藤吉憲典のつくるものを何と称するか、藤吉憲典の肩書は何なのか。第三者に伝えるには、わかりやすく言葉にすることが必須です。なんと表現するのか最も合っているのか、もっとも伝わるのか、その都度頭をひねっているのですが、今回SLADMOREからいただいた「NEW PORCELAIN SCULPTURE」の文字を見たとき、思わず膝を打ちました。

NEW PORCELAIN SCULPTURE。日本語で言い換えれば「新しい磁器彫刻」です。確かに、そうです。ごく普通の言い回しにもかかわらず、ひとつのジャンルが生まれたような気がいたしました。言葉の力ってすごいですね。そういえば昨年5月に参加した展覧会「BEYOND BRONZ」すなわち「ブロンズを超える」というのも、SLADMOREから贈られた一つのイメージでした。

藤吉憲典の作品群に、「新しい磁器彫刻」という位置づけは、とてもしっくりきます。これを新しいジャンルとして切り開いていくことが、陶芸家(磁器作家)でもあるアーティストとしての、道筋のひとつとなりそうです。

読書『素敵な時間を楽しむ カフェのある美術館』(世界文化社)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『素敵な時間を楽しむ カフェのある美術館』(世界文化社)(青い日記帳監修)

SNS上で、いつものカメリア図書館から『本de 美術館巡り』のお誘いがあるのを発見して、嬉しくなりました。


【カメリアステージ図書館】『本de 美術館巡り』

図書館の奥へ進むと、
7番コーナー「芸術」で
“美術館”の特集展示
長いコロナ禍が続き外出自粛で、美術館や博物館なども行けずに我慢されている方もいらっしゃるんではないでしょうか?

(福津市複合文化センター カメリアステージより)


なんと、そのような素敵な特集展示をしているとは!つい先日も足を運んだばかりなのに、芸術コーナーに足を伸ばしておらず、気づいていませんでした。というわけで、既読本を返却がてら図書館へ。このゴールデンウィークに入ってから、ほぼ毎日足を運んでいます(笑)。

さて『本de 美術館巡り』コーナーで見つけた本書『カフェのある美術館』、ワクワクしながら開きました。2017年の発刊でしたので、最新データではありませんでしたが、ほとんどのデータは現在もそのまま使えそうです。足を運んだことのある場所もいくつかあり、また行きたいなぁ、の思いも新たです。上の写真は、本書の一番最初に取り上げられている「三菱一号館美術館」。わたしが前回訪問したのは、偶然にもちょうど2年前の今日でした!

婦人誌で特集が組まれそうな内容…と思ったら『家庭画報』でお馴染み世界文化社さんから出ていました。もとは「青い日記帳」さんのアートブログとのこと。「はじめに」に寄せられた文章を読んで、美術鑑賞後の余韻に浸るためにカフェが果たす役割の大きさを、あらためて思いました。足がくたくたになるまで鑑賞してまわり、カフェでホッと一息、甘いものでも食べながら余韻に浸り、体力回復したらミュージアムショップをぶらぶら…至福の時間ですね。

これをご縁に「青い日記帳」さんのブログ拝見。すごい情報量のアートブログです。本書の監修者紹介でも「月20件以上の展覧会を鑑賞」「ブログ毎日更新」と書いてありましたが、その「毎日更新」の記事の内容がまた素晴らしくて脱帽です。きれいな写真、わかりやすい情報掲示、情報源へのリンク…熱量が伝わってきました。

そういえば昨年の今頃は、国内外問わず美術館博物館は休館を余儀なくされていたのでした。各館から届いていたメールマガジンには、休館中も楽しめる「オンライン美術館」の工夫がたくさん紹介されていて、世界中の美術館をオンライン訪問する機会にもなりました。今年は本を通じて、そしてその本で知ったアートファンが綴るブログを通じて、美術を楽しむゴールデンウィークです。

肥前磁器の美:藤吉憲典の器「色絵磁器人形(いろえ じき にんぎょう)“お茶を飲む婦人”」

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

肥前磁器の美:藤吉憲典の器「色絵磁器人形(いろえ じき にんぎょう)“お茶を飲む婦人”」

磁器作家・藤吉憲典がつくる肥前磁器の美しさを伝えるシリーズ。「美しさ」には「用途の美」を含みます。使い勝手の良さも含めて「美しい」と言えるもの。そこにこそ、江戸時代から400年続く肥前磁器の価値があると思っています。

「肥前磁器(ひぜんじき)」という呼び方は、まだあまり一般的ではなく、「有田焼」とか「古伊万里」といった方が、イメージできると思います。肥前磁器とは、有田焼、伊万里、鍋島などと呼ばれる、北部九州地方(肥前地域)で作られてきた磁器の総称です。地域的には現在の佐賀県・長崎県あたり。

今回は「用途」からちょっと離れて、磁器人形をご紹介いたします。磁器人形(porcelain doll / figurine)というと、スペインのリヤドロや、ドイツのマイセンといったヨーロッパの磁器メーカーの名前が思い浮かぶ方も多いかもしれませんね。

それらヨーロッパ磁器のお手本となっていた江戸時代の肥前磁器にも、磁器人形を作る文化はありました。有名なところでは、柿右衛門窯の色絵磁器による人形。たとえばサントリー美術館には、1670年代~1690年代に作られた柿右衛門の手によるとされる色絵女人形があります。

下の写真は、藤吉憲典による色絵磁器人形「お茶を飲む婦人」。藤吉憲典の所属するロンドンのギャラリーでは、藤吉は「ceramicist(陶芸家)」と呼ばれたり「ceramic sculptor(磁器彫刻家)」と呼ばれたりしています。それはまさに、このようなポーセリンドール(porcelain doll)(フィギュリン figurineとも呼ばれます)を制作するから。磁器を素材とする彫刻家ということです。

色絵磁器人形 藤吉憲典
藤吉憲典の器「色絵磁器人形(いろえ じき にんぎょう)“お茶を飲む婦人”
藤吉憲典の器「色絵磁器人形(いろえ じき にんぎょう)“お茶を飲む婦人”

現代の肥前磁器の産地で、このように丁寧に美しい人形を作る技量を持った職人さんは、もうほとんどおられないかもしれません。「肥前磁器=食器」だけではないことを、形で残していくのも、藤吉憲典の現代肥前磁器作家としての大切な使命です。

読書『鳩居堂のはがき花暦』(小学館)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『鳩居堂のはがき花暦』(小学館)鳩居堂監修

常々手帳にはがきを入れていて、書きたいときにすぐ書けるようにしています。大阪でサラリーマンをしていたころからですから、これが習慣になってほぼ四半世紀(笑)。ひところずっとお世話になっていたのが、まさに鳩居堂さんの絵ハガキでした。

四季の花々が絶妙に配置されたバランスの美しさと、少し厚手の紙と、シルクスクリーン印刷の、なんともいえない質感が大好きで、見かけるたびに何枚も買い込んでいました。季節ごとに売り場に並ぶ絵柄が変わるのも魅力でした。その時に使いたいものを、その都度選ぶ贅沢。

その絵柄を一挙公開してくれているのが、本書です。絵葉書の発売から30年以上経ち、二百種以上の絵柄があるといいます。よく使っていた大好きな絵柄もあれば、初めて見る絵柄もあり。ついつい欲しい絵柄に〇をつけてしまいます。そして鳩居堂さんに出かけたくなります。東京なら銀座の東京鳩居堂、福岡なら天神のTOHJIJULIET’s LETTERSで手に入りますが、やっぱり京都の鳩居堂本店にも足を運びたいですね。

絵柄についての解説だけでなく、鳩居堂さんの歴史や、はがき文化の気軽な楽しみ方も書かれています。この本を読んで(見て)、誰かにハガキを出したくなる人が増えると嬉しいな、と思います。

続・読書『観光再生』(プレジデント社)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

続・読書『観光再生』(プレジデント社)村山慶輔 著

先日ご紹介したばかりですが、自分のための備忘メモ。


  • 観光による負の側面
  • 「地域住民の暮らしを豊かにする」という視点
  • インバウンドはあくまで「手段」であって「目的」ではない
  • 旅行者側にその地域に住む人々の文化や環境を尊重する配慮を求める取り組み
  • 住んでよし、訪れてよし
  • 「環境をよくする」という考え方
  • シビックプライドを醸成する「地域教育」
  • “かっこいい大人”との出会いの重要性
  • コミュニティ・ツーリズム
  • 観光客による収入が(地域社会に)分配される仕組み
  • 復元力
  • 公共空間の質を低下させてはいけない
  • BCP(事業継続計画)の策定
  • “最短”や“最速”ではなく、“最適”
  • 旅行のハードルが高いゲストの受け皿
  • 「人」にファンがつく
  • 「品質の担保」「環境の保全」「安全性の確保」
  • プライベートツアー
  • 長期滞在型旅行者
  • 生き方・働き方における工夫が生産性の向上に資する
  • 観光客に責任ある行動を促す
  • ツーリズム・ラーニング
  • それが「本物」であるかどうか
  • 世界の水準を知ろう
  • 「生き方」「ライフスタイルデザイン」そして「自己実現」
  • パーソナライズされた人間との接触
  • 「顧客台帳」
  • 収益構造の分散
  • コア人材
  • リカレント教育
  • 世界から受講者が呼べるような訴求力のあるプログラム
  • 無意識の偏見

以上『観光再生』(プレジデント社)村山慶輔 著より