続・読書『新しいアートのかたち NFTアートは何を変えるか』(平凡社新書)施井泰平著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

続・読書『新しいアートのかたち NFTアートは何を変えるか』(平凡社新書)施井泰平著

つい先日読書記録をアップしたばかりですが

ちょっと、時間をとってしっかり自分の考えを整理したい部分が結構ありましたので、あらためてまとめ直し、というか、以下、備忘メモ。


  • アートの歴史を振り返ってみれば、最も時代を象徴するアート作品は、いつもその時代の「長者」が買うような作品群でした。
  • (ラスコーやアルタミラの時代から最新のNFTアートの時代まで、変わらないアートの本質とは)未来に向けて価値を問う、つまり「時を隔てて唯一性のある普遍的な価値を問うこと」
  • 時を隔てて唯一性のある普遍的な価値を問う「意志」を持ってつくったもの
  • NFTという生まれたばかりの技術がすぐにアートと結びついたのは、アートが必要としてきた「価値継承の環境」をつくる上で、それがひじょうに優れた道具であったから
  • 作品の真正性や由来(制作者やつくられた年など)、その後の流通や利用を示すための「証明書」「公式記録」「鑑定書」のようなものとして信頼のできる情報
  • 批評家や美術館学芸員、キュレーターのように、作品が持つ社会的な文脈を言葉で解説してくれる人
  • 「この作品を買った」「このアーティストが素晴らしい」と宣伝を買って出てくれるような「コレクター/インフルエンサー」
  • コレクションをつくる上で重要なのは、ある種のテーマ設定や一貫性のようなもの
  • 厳しい著作権の管理は、既存の現代アート業界ではむしろ当たり前
  • クローン文化財は、それ自体がある種の「作品性」を帯びるものとなる可能性がある
  • アートの民主化
  • 世界中のどんな場所にいても、普遍的な永続する価値を世界に問うことができるようになる
  • これからもアートのメインストリームにおいては、権威に基づいた希少性が価値に直結するであろうことに変わりはありません。
  • アーティストを発見して育て、プロデュースするというギャラリーが持っている基本的な役割
  • 作品の情報アーカイブという役割は徐々にブロックチェーンに移っていくとしても、キュレーションや批評といった職業の重要性は変わらず、むしろ高まっていくかもしれません。
  • これまで、ギャラリーが果たしてきた「物語づくり」の役割を誰が担うのか。
  • 「美しいもの」をつくる
  • アーカイブの重要性
  • 時代を超えた普遍性の感覚
  • 「所有できるもの」の時代へ
  • アカデミーのような文化的、社会的な価値をつくっていく機能
  • ミュージアムの価値は、「歴史」にある過去から未来への長い時間軸のなかでモノや情報を伝えていく「通事性のメディア」(テレビ・ラジオ・新聞など多くの「共時性のメディア」に対して)
  • 時代を先導していく「切り込み隊長」としてのキュレーター
  • 所有がもつダイナミズムによって、時代を隔てた価値を問うアートの生態系が維持されている

『新しいアートのかたち NFTアートは何を変えるか』(平凡社新書)施井泰平著より


NFT以前に大事なことが、たくさんでした。思えばわたしには、コレクターがコレクションを形成していくうえでなにを重視しているのか、という、ある種の「かたまり/まとまり」の価値に対する考察が欠けていたように思います。花祭窯おかみ=キュレーターの果たすべき役割を、ちゃんと自分のなかで整理し直そうと思います。

このところ、インプット>アウトプットでしたので。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

このところ、インプット>アウトプットでしたので。

2月からは、アウトプットを意識して参ります。わたくしごとですが、幼少の頃から「学ぶ」ことが好きだったのだと思います。気がつけば新年スタートの一か月は、本に映画に美術館にと、インプット満載=至福の時間を満喫いたしました。

ところがインプット>アウトプットだな、と感じてくると、本棚に並んでいる成毛眞著『黄金のアウトプット術』が目につくようになってくるのですから、不思議なものです。本書を最初に読んだのは2018年のことですから、もう6年近く前ということになりますが、そこで問いかけられていることはまったく色褪せません。

毎日のブログはすっかり習慣になっていますので、常に一定量のアウトプットはしてはおりますが、インプット量に対してぜんぜん足りていない。もっと言えば、それらが『私』という媒体を通して成果・実績に化けているかどうかが定かではない。「もっと成果として外に出さねば!」の思いが自分の内側から聞こえてくるのは、面白いことです。成毛眞氏によれば「アウトプットをすることが、よりすぐれたインプットにつながる」のであり、これは常々体感していることでもありますから、2月以降もおおいに本や映画や美術館を楽しむためにも、まずはアウトプットです。

実のところ、企み中のアウトプットは、いくつかあるのです。まず力を入れていこうとしているものは次の三つ。それぞれ、カタチになり次第ご紹介して参ります。

  • 藤吉憲典のアートを増殖・拡散させる。
  • アートエデュケーションプログラムのリリース。
  • 出版物制作。

2024年の春節は2月10日からということですが、そのまえに節分と立春がありますので、新しいことのスタートに最適です。皆さんもこの2月、アウトプットに力を入れてみませんか。レッツスタート!

2024年九州産業大学国際シンポジウム 博物館と医療・福祉のより良い関係 に参加いたしました。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

2024年九州産業大学国際シンポジウム 博物館と医療・福祉のより良い関係 に参加いたしました。

2019年から毎年開催されている、九州産業大学緒方泉教授が率いる、「大学における文化芸術推進事業(文化庁)」の国際シンポジウム。今年も参加することが出来ました。会場を設けて現地開催したのは最初の2019年だけで、そのあとはコロナ禍下でZoom開催となりました。この経験がそのまま生かされていて、今回も引き続き、日本・英国・米国をつないでオンラインでの開催でした。同じ場所に一同が介するからこそ得ることのできるものももちろんあると思いますが、オンラインによって比較的リラックスした雰囲気で開催できるというのも、大きな成果なのだと思います。また今年は全国から優に100名を超える参加者があり、これもまたオンラインだからこそ、かもしれません。

今回のテーマは「社会課題と向き合う博物館」。2023年度の学芸員技術研修会でも、博物館リンクワーカー人材養成講座でも、この一年間は、これがテーマになっていました。登壇者は、英国ダリッジ・ピクチャー・ミュージアムと米国ケアリングカインドから。米国からは「博物館のアクセス指導者(access educator)」という職種が20年以上も前からあることと、その役割と成果を知ることが出来ました。また毎回、最新の取り組みを報告してくださるロンドンのダリッジ・ピクチャー・ギャラリーからの発表は、今回もとても刺激的でした。

以下、備忘。


  • social impact
  • 大切なのは、わたしたちの行為の内容や意図ではなく、その効果。
  • 博物館が実際に人々の生活や人生を変えられるとしたら、まず人々の生活や人生の一部になる必要がある。
  • 子ども・若者への一貫した支援の必要性。
  • 学校における資源(人的・物的)不足を、美術館が補う。
  • 教員のサポート。
  • マインドフルネス・リラクゼーション・創造的問題解決。
  • 学校現場における創造的資源不足。
  • 移行期に人が持つ感情:未知の世界に対する緊張感・興奮・恐れ
  • slow looking
  • 作品への没入を促す瞑想への手引き。
  • 日常から解放された自由な時間のなかで、何が起きるのか。
  • access educator
  • connect2culture®
  • 認知症患者の支援と、その介護者の支援。
  • Meet Me at MoMA
  • 文化団体のネットワーク構築。
  • プログラムの評価を行う仕組み。

毎年このような素晴らしい機会を用意してくださる緒方先生に、心より感謝いたします。ありがとうございました!

博物館リンクワーカー人材養成講座 2023-その3。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

博物館リンクワーカー人材養成講座 2023-その3。

博物館リンクワーカー人材養成講座 2023。3回目の参加となった今回は、福岡市博物館の教育普及担当さんからの発表でした。タイトルは「“院内学級”に対するオンラインプログラムの開発~これまでとこれから~」。福祉との連携を探るリンクワーカー人材養成講座では、認知症への対応や連携など高齢者の方々とのつながりでの実践発表が多かったのですが、今回は病気やけがなどで学校に通えない子どもたちが学ぶ「院内学級」との連携のお話でした。

以下、福岡市博物館からのお話と、語り場からの備忘。


  • 「博物館はおもしろい」を扉に、さまざまなことを学ぶ機会を提供したい。
  • 各プログラムの「学習の手引き」を作成し、学校の学習指導要領に沿った視点・解説を入れる。
  • 「院内学級」に限らず、さまざまなパターンでの「出前授業」としての活用可能性。
  • 社会とのつながりが遮断されがちな人たちへのアプローチ―不登校、大人の引きこもり、ギフテッド…
  • 組織としての取り組みが無くても、まずは個人としてできることをスタート➜いずれ広げていけるように。
  • 多職種連携、他業種連携。
  • オンラインプログラム用に、ハードコピー・レプリカ等の手元資料の事前配布。
  • 安定した通信環境があれば、タブレット端末だけで博物館ツアーのオンラインプログラムリアルタイム実施が可能。

博物館リンクワーカー人材養成講座は、参加する方の所属や職種が回を増すごとに広がっています。講座の音頭をとっていらっしゃる九州産業大学緒方先生のご尽力によるもので、すごいなぁと思います。まさに「リンクワーカー」を増やす試みとして、機能しています。そして、毎回の情報共有時間「語り場」で出会う皆さんが、それぞれにご自身の居場所で取り組んでいらっしゃる活動の面白さ。たくさんのお話を聞くなかで、皆さんに次に会ったときに自分の活動報告が出来るように、と、モチベーションが上がります。

次回は2023年度の最終回。楽しみです。

再読書『知覚力を磨く 絵画を観察するように世界を見る技法』(ダイヤモンド社)神田房枝著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

再読書『知覚力を磨く 絵画を観察するように世界を見る技法』(ダイヤモンド社)神田房枝著

美術教育(研修)のプログラムをまとめ直す必要が生じ、このところ関連書籍を読み直ししています。山口周さんの『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』、藤掛明先生の『コラージュ入門』…

そして『知覚力を磨く』へ。前回読んだのは2020年10月末。もう3年も前のことだったとわかり、ちょっと驚きました。というのも、本書に書かれている内容に、今なお新しさを感じるからです。

以下備忘。


  • 思考の前提となる認知、すなわち「知覚(perception)」
  • 知覚とは、目の前の情報を受け入れ、独自の解釈を加えるプロセス
  • 「どこに眼を向けて、何を感じるのか?」「感じ取った事実をどう解釈するのか?」
  • 人間の知的生産には、「知覚➜思考➜実行」という3つのステージがあります
  • 何の先入観も持たず、ただ眼の前の事物・事象をありのままに見ることが出来なくなってきている
  • 知覚とは、自分を取り巻く世界の情報を、既存の知識と統合しながら解釈すること
  • 新しいものは「誰かの主観」から生まれる
  • 知覚の価値は、他人とは異なる意味づけそれ自体のなかにあります
  • 情報は(中略)データそのものよりも、知覚に基づいた「意味づけ」が圧倒的に重要
  • ゼロベースで観る
  • インプットされた情報を既存の知識と統合し、意味を付与する知覚プロセスのほうは、半自動的に進む
  • 知覚という“コントロールできないもの”を磨く
  • 知覚的盲目
  • 何か明確な目的をもって探している状態からは、なかなか新しいものは出てこない
  • 観察眼を鋭くすれば、「アイデアを観る眼」も磨かれる
  • 絵画が最適な理由①バイアスが介在しづらい②フレームで区切られている③全体を見渡す力がつく
  • 注意点①十分な観察時間②多くの解釈を生む眼のつけどころ③知覚を歪める要素の排除
  • (水墨画)この絵に描かれたパーツは、あくまでも全体との調和のなかで意味を持っており、それらの位置・バランス・濃淡・強調度合い・空白部分なども含めた知覚に支えられている
  • ほとんどの創造性に関与しているのは、過去の学習・経験から得た知識を関連づけるプロセス
  • 点と点をつなぐ観察
  • 曖昧性が深まるほど、「知覚」への依存度は高まる

『知覚力を磨く 絵画を観察するように世界を見る技法』(ダイヤモンド社)神田房枝より


おかげでかなり復習&インプットし直しが出来ましたので、そろそろアウトプットにつなげて参ります。

博物館リンクワーカー人材養成講座 2023-その2。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

博物館リンクワーカー人材養成講座 2023-その2。

博物館リンクワーカー人材養成講座 2023、前回は甲賀市教育委員会事務局歴史文化財課の佐野正晴氏による『「歴史文化財課 佐野さんの民具図鑑」の作り方』でした。

今回は、山梨県にある「中村キース・へリング美術館」の学芸員さんによる「社会課題と向き合う美術館活動」のお話。キース・へリングのコレクションを持ち、キース・へリング財団から日本で唯一認証されている美術館ということで、個人的には今年度の連続講座のなかで一番興味を持っていた回です。上の写真は、中村キース・へリング美術館のサイトから。https://www.nakamura-haring.com/

31歳という早逝のキース・へリングですが、ニューヨークでブレイク後、日本では1983年の初来日以降なんども展覧会が開かれ、本人も来日しています。ダンナ・藤吉憲典は、高校卒業後に上京して東京で最初に観た展覧会が、キース・へリングだったとのこと。この時は、へリング本人も来日していました。そんなふうに、我々世代にとっては、とても親近感ある存在です。

以下、中村キース・へリング美術館「社会課題と向き合う美術館活動」のお話より、備忘。


  • キース・へリングが向かい合った(’80年代当時の)社会課題➜美術館としてその意思を継いで「今日的」な社会課題に向き合う。
  • キース・へリング=アーティストであり、アクティビスト(政治的・社会的活動家)。
  • 「展覧会活動」と「社会活動」の両軸。
  • リスペクト&インクルーシヴ。
  • 著作権から生じる利益➜財団➜社会活動資金:本人が没したのちも継続できる社会活動基盤の仕組みを作り上げた。
  • ↑↓キース・へリングの作品は、既に社会に溶け込んでいる
  • ↑例えば…各種ブランド等とのコラボ商品➜コピーライト商品によるのアートの拡散。
    パブリックアートの大量設置➜「見たことがある!」機会の大量提供。
  • Art is for Everybody.
  • アートを見るために足を運んでもらうのではなく、日常の中にアートを出していく。
  • 大切なのは、アートに興味のない人の「目に触れる」こと、「足を止める」こと。

↓中村キース・へリング美術館の取り組み↓

  • 美術分野の専門家だけでなく社会課題に携わる専門家へのインタビュー、共同プロジェクト。
  • 狭い分野の専門家から、個々の声を拾い上げ、発信する。
  • 作家年表・世界史年表・日本史年表(+美術館として起こしたアクション)を一覧➜作品が生まれる裏にあった社会の動きが見え、作品・作家への理解が深まる。

↓「語り場」から↓

  • 身近なところから取り組める社会活動がたくさんあり、そうと意識していないだけで、すでに取り組んでいる社会活動がたくさんある。
  • 各館の取り組みをもっとアピールしていく必要性。
  • 近年格段にやりやすくなってきている情報発信。継続的に取り組むには、まずは発信する側が楽しんでいるか。
  • 資料・情報をどう見せるか、どう伝えるか。
  • 社会課題と美術館をどうつなげていくか➜どの館にも必ず身近な社会課題との接点があり、それほど難しいことでは無い。

アートエデュケーターとしてだけでなく、現代にアーティストをプロデュースする立場としても、ものすごく考えさせられ、勉強になりました。山梨にある館に、足を運ぶ機会を必ず作りたいと思います。

コラージュ(切り貼り絵)講座@郷育カレッジ、今年も開催いたしました。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

コラージュ(切り貼り絵)講座@郷育カレッジ、今年も開催いたしました。

もともとは数年前に、郷育カレッジに美術系の講座がほとんど無いよね…というところから、これではイカンと始まった講座のうちの一つです。美術の教育普及ワークショップメニューのひとつですが、「心の健康」へのアプローチを意図しています。コラージュ制作を通じて、自分の内側を可視化し、客観的に受け入れていくことで、心のリフレッシュを図る。わたしはこのワークショップを「Meet Me at コラージュ(=コラージュ制作を通じて自分に出会う)」と名付けています。

今回の講座では、コラージュ制作に時間をかけるだけでなく、グループワークの時間をたくさんとることが出来ました。毎年、ご参加の方々の特徴がそれぞれにあるのですが、今年はまずご参加の皆さんの集中力の高さに驚かされました。15分ほどのインストラクションを経て、「では実際に作ってみましょう」で作業をスタートしてすぐに、会場がシーンとなったのです。今までの経験からするとかなり珍しいことでした。作業時間が進むにつれて静かになっていくパターンは多いのですが。

皆さん黙々と手を動かしはじめて、すぐに制作の世界に没入されたので、予定時間通りにスムーズに進みました。あとから何人かの方にお話を伺うと、「自分が形にしたいもの」のイメージが既になんとなく自分のなかにあった、という方が少なからずおられました。もしかしたら、受講に合わせてイメージトレーニングをしてきてくださっていたのかもしれません。皆さまの意欲を感じました。

以下、受講者の皆さまからのご感想から。


  • たいへん楽しい講座でした。
  • 初めての体験でしたが、とても楽しかったです。自宅でもやってみようと思います。
  • 毎年参加しているが、自分を振り返る大事な時間になっています。
  • 切り貼り絵、参加してみて楽しかったです。またこのような機会があればと思います。
  • 初めての体験で、あっという間に時間が経ちました。ありがとうございました。
  • 初めてでしたが楽しかったです。自宅でもまた作ってみたいと思います。
  • 他の人の作品を見せてもらって、思いを話していただいたのが楽しかった。

初受講の方が楽しんでくださったこと、二回目以降の方が自分の振り返りの機会にしてくださっていることに、まずは講師としてはホッとしています。そして「自宅でもやってみる」と思ってくださった方が、何人もいらっしゃったのも、とても嬉しいことでした。そうなんです。簡単なので、ぜひ気が向いたときにやって欲しいのです。と言いつつ、自分自身そんなに定期的にできているわけではありませんが。

まずはコラージュ制作自体を「楽しい!」と思っていただけることが、一番大切です。その次の段階として、コラージュから読みとれる「自分」に関心を持って向き合うことの大切さを、じわじわと伝えていけたら良いな、と思います。美術的コラージュの良さを存分に生かしつつ、くつろいで対話を楽しめる場になるように、エデュケーターとして心がけて参ります。

博物館リンクワーカー人材養成講座 2023。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

博物館リンクワーカー人材養成講座 2023。

九州産業大学地域共創学部の緒方泉教授が音頭をとり、毎年開催してくださっている講座です。「博物館リンクワーカー人材」というキーワードがタイトルに入ったのは、2021年からですが、学芸員技術の向上と美術館博物館施設の地域社会への貢献を目指した数々のプログラムに、もう7年もお世話になっています。

今年度もオンラインでの開催です。そもそもはコロナ禍下で集合研修が出来ない!という状況からのZoom活用だったと記憶していますが、Zoomのおかげで、11月から12月にかけて毎週6回の連続講座に、九州のみならず全国から学芸員・関係者が参加するという、稀有な連続講座に育っています。これって、実はとてもすごいことだと思います。

冒頭30分間、担当講師によるテーマ発表があり、そののち3-5名のグループ「語り場」に分かれて意見交換情報共有。その後、各グループからの発表でフィードバックという次第です。第1回目は九州産業大学美術館の学芸室長・中込先生と、香椎丘リハビリテーション病院のソーシャルワーカー・藤さん。数年前からスタートしている、美術館とリハビリテーション病院両者の連携についての発表でした。わたしは残念ながら第1回は参加できませんでしたが、後日動画で共有してもらえるはずですので、発表を拝聴するのを楽しみにしているところです。

第2回は甲賀市教育委員会事務局歴史文化財課の佐野正晴氏による『「歴史文化財課 佐野さんの民具図鑑」の作り方』でした。上の写真は、花祭窯のある津屋崎で民具の集まる場所、登録有形重要文化財「藍の家」。

以下備忘。


  • 「美術(館)サービス提供者自身の健康」という視点。孤立を防ぐ。
  • 慢性的・全国的な課題「満タンの収蔵庫」「未整理民具の山」「人手不足」。
  • 民具➜地域回想法。
  • 市民向け映像コンテンツの制作➜「民具図鑑」。
  • 行政各部署、市民団体等との協力=役割分担・負担分担による「持続可能化」。
  • 民具+α:民俗学、歴史学、地域密着情報、最新の研究動向、現代社会の動き…。
  • 民具×○○のコラボ。
  • 「民具を守る仲間」を増やしていく。
  • 「緩やかな保存」の視点。民具を使いながら保護していく。
  • 「ひっかかり」を作ることにより、興味を引く=「民具図鑑」動画において「オチ」も大切な構成要素。
  • 民具図鑑を観る➜資料館に足を運ぶ、小中学校が教材として採用する、博物館浴・地域回想法のアウトリーチを伸ばす…
  • まずは学芸員自身が楽しんでできることが大切。
  • 学芸員が楽しんでいる➜一緒に働く仲間も楽しくなる➜観てくれる人・館に来る人も楽しい。
  • 増え続ける資料➜どう保存するか、どう活用するか。
  • デジタル画像・ポジフィルムでのアーカイブ、動画でのアーカイブ。
  • 地域全体で観たときの、資料保存の考え方。ランク付け、取捨選択。

甲賀市教育委員会事務局歴史文化財課の佐野正晴氏による『「歴史文化財課 佐野さんの民具図鑑」の作り方』と、「語り場」より


甲賀市教育委員会事務局歴史文化財課「歴史文化財課 佐野さんの民具図鑑(YouTubeチャンネル)

民具を巡る「慢性的・全国的な課題」は、ここ福津市でも同じことです。「民具図鑑」の制作は、もしかしたらここでもできることかもしれず、なんとか提案できるといいな、と思います。

再読書『コラージュ入門』(一麦出版社)藤掛明著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

再読書『コラージュ入門』(一麦出版社)藤掛明著

今月末にコラージュを活用した美術講座を行うので、資料準備の前に読み直し。わたしがアートエデュケーターとしてコラージュを取り入れるきっかけとなったのは、学芸員技術研修会の「美術館でコラージュ療法」講座でした。そのときご指導くださった、聖学院大学心理福祉学部心理福祉学科教授・藤掛明先生の本です。2021年に新刊を購入していますので、約2年ぶりの復習読書。

藤掛先生は博士号を持つ臨床心理士であり、特に芸術療法のスペシャリストとして現場での仕事をしてこられた方です。本書は「コラージュ療法入門」ではなく、あえて「療法」を外して『コラージュ入門』となっています。治療や更生を目的とした臨床的コラージュの枠を出て、誰もが(本書での言い方を借りれば「一般の人たち」が)使い、自己の成長に役立てることが出来るコラージュ。活用の場が広がっていくことへの期待を感じさせる本です。

以下、備忘。


  • 「自分を新しく発見できる」「自分が好きになれる体験」
  • 完成した作品は、独特の魅力を放つ。それは美術上の美しさというのに止まらず、自分を新たに知り、周囲との関係を考えるヒントに満ちた不思議な魅力がある。
  • コラージュで自分を知り、関係を深める
  • コラージュのイメージの心地よい流れに身をゆだね、そのイメージから、勇気づけられるもの、触発されるものを受け止めていけばよい
  • 即興的に取り組む
  • 「最近のわたしの気持ち」
  • 第一印象
  • 作者の意図を味わう
  • 多義的に味わう
  • 「印象や感想を交換する」
  • 「解釈はしない。印象を述べる」
  • その後も作品を眺め直す習慣を作る
  • 自由にイメージから入る
  • (Doコラージュは)言葉の関与が増え、表現に一定のコントロールが及びやすくなる。
  • (その結果)メッセージ性・意図性が非常に高まる。
  • (研修参加者の期待)自分を発見する
  • 自己洞察も自己表現も楽しいが、一番楽しくわくわくするのは、会場で起きる相互作用性のドラマ
  • 会場参加者全体に向かって肯定的なコメントをフィードバックする
  • 暴くのではない
  • 安全で保護された環境を用意し、開放的な雰囲気の中で、意味ある発見がもたらされる
  • 頭の整理
  • 欲しいものと要らないものがくっきりと浮かび上がってくる
  • 現実には好きなものを自由に手に入れることは無理でも、台紙のイメージの世界ならば体験できる
  • 自分の世界を自分らしく意味づけしてもよいのだという自信
  • 他者のコメントが、他者の意味付けと異なる場合でも(というか異なるからこそ)、それも多義的な意味の一つとして受け止められ、むしろ作者の世界を広げ、深めてくれることになる。
  • 新しい自分との出会いであり、多くは、少し感じていたものを言葉にしてもらったような納得感
  • 自己受容
  • 「何かがわかるものではなくて、作ったものをヒントにして、いろいろなことを考えて行く方法」
  • 作品が完成した段階では、まだイメージは多義的なままの世界をとどめている
  • 完成後の分ちあいを丹念におこなうとその時点で、統合に向けて動き出します。
  • 多様性の世界
  • 参加者一人ひとりの感想が皆意味がある
  • 描き手自身やグループメンバーが、どの意味にぴんと感じるかで、より意味のある事柄が明らかになってきます。
  • 今大切な意味が何なのかを発見しあう、探しあう
  • 一つの正解に絞り込むのではなく、一つでも多くの正解を生み出し、広げていくという感覚
  • ここがめずらしいな、この人のユニークな表現だな
  • 一つの作品の中に共通しているテーマや比喩を探す
  • 台紙の使い方の特徴から分かること
  • 描画作品の用紙は、実施者から参加者に与えられた「世界」
  • この与えられた「世界」をどう使おうとしているのかという視点
  • 空間象徴
  • コラージュ作品は、作成者本人に自由に語ってもらうのが大切
  • 相手の大切な世界を引き出す質問
  • コラージュ画面の写真が、自分自身の(比喩的に)分身であることを感じてもらう体験
  • 無意識と意識との双方にまたがっており、言葉によって介入することに向いている
  • 既存の写真に意味を与えていくおもしろさ

『コラージュ入門』(一麦出版社)藤掛明 著より


今回は特に「わかちあい」における要点をピックアップしてみました。研修の場面でも「対話」が復活し、ワークショップに取り入れることが出来るようになって参りましたので、ますますコラージュの効果が期待できます。楽しみです。

Omer Koc’s Ceramic Collection (陶磁コレクション図録)へのインタビュー記事日本語原稿。その2。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

Omer Koc’s Ceramic Collection (陶磁コレクション図録)へのインタビュー記事日本語原稿。その2。

現代アートコレクターのOmer Koc氏は、藤吉憲典のSladmore Contemporaryでの最初の個展の時から、作品を購入してくださっています。ロンドンのギャラリーMESSUMSから刊行される氏のコレクション図録に、インタビュー記事を提供いたしました。英文原稿については刊行待ちとなりますが、元となっている日本語原稿を一足早くこちらでご紹介いたします。


Q3. あなたにもっとも影響を与えたアーティストあるいはアート作品は?

A3. わたしに影響を与えたものとして、一人のアーティストあるいは一つの作品を上げるのは、とても難しいことです。ミケランジェロ、ルノアール、マティス、ピカソ、シャガール、クリムト、ロダン、モネ、北斎、漫画家の永井豪、大友克洋、手塚治虫、そして、名も知らぬ古伊万里の職人たちや、あらゆる分野のアーティストとその作品からさまざまな影響を受けています。

表現手法や技術的な影響だけでなく、彼らのチャレンジングな生き様もまた、わたしに大きな影響を与えています。彼ら先人たちのおかげで、わたしは作りたいものを作り、好きなことに挑戦する勇気を持つことが出来ました。

例えば「人魚」という作品があります。伝統的な肥前磁器の表現技法・技術で作られていますが、海の色や鱗の色の表現はモネの影響が強く出ています。またその姿・造形には、マニエリスムの時代の影響がみられます。そして作品全体の醸し出す雰囲気を見れば、漫画家・永井豪の世界観に強く影響を受けていることがわかります。

ただ、実のところ制作している最中には、まったくそのようなことは意識も意図もしていません。ただ自分が「こうすると一番美しくなる」と信じるように作るのみです。完成した作品を観た人からそのような感想を得て、あらためて自分で振り返ると、なるほどその通りかもしれないと感じる次第です。

わたしはアカデミックな美術教育を受けていませんので、わたし自身の五感の美意識に忠実に作品を作っています。美しさの基準は、ひとつではありません。たくさんの偉大な先人たちが創り出した美しい作品の数々に、たくさんの影響を受けています。


実はこのほかにもいくつか質問を受けていましたが、それらは個別の作品についての質問で、文章だけでは伝わりにくいものがありますので、ここでは割愛いたしました。全文(英文)の公開は、図録の刊行を待つことになります。とっても楽しみです。

↓「Omer Koc’s Ceramic Collection (陶磁コレクション図録)へのインタビュー記事日本語原稿。その1.」はこちら↓