映画『ジャンヌ・デュ・バリュー』を観てきました。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

映画『ジャンヌ・デュ・バリュー』を観てきました。

2024年2本目は、フランス映画。ジョニー・デップ出演の最新作ということで、ワクワクしながら映画館へ。

ジョニー・デップ演じるルイ15世の最後の公式愛妾といわれたジャンヌ・デュ・バリューの、波乱の人生が描かれた映画でした。主役ジャンヌを演じたのは、本作の監督であり脚本家でもあるマイウェンという、フランスの女優さん。初めてお名前とお顔を知りましたが、とっても素敵でした。

映画で描かれたのは、ジャンヌがルイ15世の愛妾となり、ルイ15世の崩御とともにヴェルサイユ宮殿を追い出されるまで。そのあとフランスは、ルイ16世とマリー・アントワネットの時代となり、市民革命へと突き進んでいくのだと考えると、時代が大きく動くまさにその一歩手前の夢物語だったのかもしれません。映画のエンディングのキャプションによれば、市民革命によってルイ16世とマリー・アントワネットが処刑されたのに続いて、ジャンヌも処刑されているとのこと。映画ですっかりジャンヌの魅力に引き込まれた者としては、その運命の起伏の激しさに残酷さを感じました。

映画は全編フランス語。ヴェルサイユ宮殿での撮影、衣装はシャネルが全面協力とあり、とにかく美しく眼福な世界観でした。ジョニー・デップは、この役のために体重を増やしたのではないかと見えましたが、相変わらず魅力的でした。ジャンヌの「動」に対して、ルイ15世の「静」。映画はエンディングに向かって悲痛な感じになってくるのですが、それまでは思わずくすっと笑いたくなるような場面も多く、フランス映画のエスプリとでもいうようなものを感じました。

ルイ15世の御付きの人を演じた俳優さんが、とても素敵だなと思っていたら、ちょうど一昨年の2月に観た『フレンチ・ディスパッチ』にも出演なさっていたようです。今では全くどのストーリーのどの役で出ておられたのか、見当もつきませんが(調べればすぐわかるのでしょうけれど)。そういえばフランス映画はその時以来だったかもしれません。

最寄りのTOHOシネマズで上映してくれたことに感謝です。こういう映画を引き続き上映してもらえるように、わたしにできる唯一のことは、足を運ぶことですね。

再読書『ひと目でわかるレイアウトの基本。』大里浩二監修・MdN編集部編

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再読書『ひと目でわかるレイアウトの基本。』大里浩二監修・MdN編集部編

先日のデザイン開発ワークショップのなかで

「使える(おすすめの)デザインの参考書」を挙げるシーンがあり、わたしが真っ先に思い出し、おススメしたのが、本書でした。

タイトルを口にすると、デザインのプロであるアドバイザーの皆さんが、「そう、これこれ!」という反応を返してくださったので、嬉しくなりました。わたしがこの本を見つけたのは約2年前、いつものカメリアステージ図書館でのこと。読んですぐに発注したのでした。ワークショップから帰ってきてから、真っ先に本書を本棚から引っ張り出し、再読。

表紙に書いてある通り「ちゃんとデザインの基本原則が学べるデザイン教本。」なので、わたしのようなデザイン素人にとっては、心強い限りです。今回久しぶりに読み直しましたが、やはり、いいですね♪

雑誌・書籍・ムック・インターネット・イベントを通して、グラフィックデザインやWebデザインのノウハウと可能性を伝える出版社であるMdNさんのサイトでは、本書意外にもたくさんのデザイン関連本を探すことが出来ますので、ご参考まで。

https://books.mdn.co.jp/

「デザイン開発ワークショップ」2日目。

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「デザイン開発ワークショップ」2日目。

福岡県商工部新事業支援課さんからご案内をいただき、先月からスタートした「デザイン開発ワークショップ」。

その2回目です。前回から空くこと3週間、その間に福岡県庁の担当者さんから前回の要旨と、その場で参加者皆で共有した次回までの宿題が送られてきました。おかげさまで、次回までに課題解決案をもってゆかねばと、わたしのアンテナも伸びたようです。新しい展開をいくつか思いつくことが出来ました。

前回ワークショップが白熱して、1時間以上も予定時間をオーバーしてしまった反省を生かして、今回は皆で時間を意識しながらの2時間となりました。そのなかで感じたのは、3社の受講者それぞれが、前回の状態から大きく前へ進んでいたということ。もちろんアドバイザーの先生方もいろいろと調べて各社への提案・アドバイスをご用意してくださっていましたが、やはり当事者が自分事の意識をもって考え・動くことに勝るものはありませんね。期限(次回ワークショップ)が決まっていること、皆さんの前で公言することって大きいな、と、今更ながらに思いました。

ワークショップの時間は面白くて、たくさん気づきがあって、あっという間に時間が過ぎていきます。残りあと2回(4時間)のうちに成果を出すことが求められていますが、今回のワークショップを通して、各社とも形にできるものがありそうだと感じました。なので、わたし=花祭窯としても、なんとか成果を出すべく進めて行きたいと思います。

そもそもこのワークショップは、福岡県の商工部新事業支援課が事務局を務める「福岡県産業デザイン協議会」の主催。協議会では「福岡デザインアワード」なる賞レースを主催していて、これまでにわたしの知っている経営者の方々の会社も、何社も受賞しておられます。今回一緒にワークショップに参加している、花祭窯以外の2社さんは、デザインアワードへのエントリーと受賞も目指しておられますので、頑張って欲しいなと思いつつ。

読書『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)高瀬隼子著

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読書『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)高瀬隼子著

連続で高瀬隼子さん。すばる文学賞受賞作『犬のかたちをしているもの』に続いては、

芥川賞受賞作『おいしいごはんが食べられますように』。こちらの主人公は、会社でそこそこ仕事ができる女性。女性であることに加えて、「無理をしてでもやろうとしてしまう、できてしまう(ある意味真面目)」気質であること、「これっていいことよね」とされる同調圧力にひそかに反感を抱いていることが、同僚女性への嫌悪を生み、その嫌な感じがどんどん澱となって溜まっていく様子が、淡々と描かれています。

どうもわたしは高瀬隼子氏の著書を表する際に「淡々と」という言葉を使い過ぎているようにも思うのですが、読中・読後に湧き上がってくる感触が、そのものなので仕方ありません。そして、「淡々と」の下には登場人物のどろどろとした感情がある。その描き方こそが、わたしが彼女の著書に惹かれる部分なのだと思います。

それにしても、わたしには主人公の「ムカつく」が手に取るようにわかりました。わかるけれど、その感情がいまや時代遅れであり、現代ではそれを口に出してしまうと、嫌な人・常識外れな人になってしまうということも。小説のエンディングでは、結局、「弱い人」が勝ちます(勝つという表現が正しいかどうかは別として)。読みながら、弱いって最強だよね?と悪態をつきたくなる自分の性格の悪さに向き合わされる一冊でした。

けれども、本書が芥川賞を受賞し、たくさん読まれているということは、主人公のような感情を持つ読者がまだまだいるのかもしれません。そう考えて、なんだか少しホッとしている自分がおかしくなりました。

『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)高瀬隼子著

読書『犬のかたちをしているもの』(集英社)高瀬隼子著

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読書『犬のかたちをしているもの』(集英社)高瀬隼子著

先日初めて読んだ著者の『うるさいこの音の全部』が面白かったので、いつものカメリアステージ図書館で、既刊本をまとめて予約。ありがたいですね、図書館♪

『犬のかたちをしているもの』は、すばる文学賞受賞作。主人公は卵巣手術を経験した女性。そのことに加え、心理的な要因もあって、ふつうのカップルのようになれない自分の状態を客観的に眺める在りようが、不思議なほど淡々と描かれていました。「愛情」とはなにかを自分のなかで問答していくその基準が、愛犬に対して抱いていた無条件の(と思える)愛との比較で繰り返されるのは、犬と暮らしてきたことのある身には、なんとなく理解できるものでもありました。淡々と描かれているのですが、彼女とその彼氏との関係性のなかで起こることは、ちょっと尋常ではないことで、その尋常ならざる出来事に、これまた淡々と巻き込まれてしまう感じが、シュールです。

読み終わって思ったのは、ふつうってなんだ?ということ。どんどん変化していく世の中にあって、愛情の在り方に対してもいろいろな選択肢があるはずで、あるいは夫婦や家族の在り方にだって、正解はない。そのはずなのに、相変わらず何かに勝手に縛られている自分たちを「あるある!」と感じる小説でした。女性であること、妊娠・出産という事柄が起こりえることをテーマにしていて、かつ不思議なアプローチが、昨年読んだ『空芯手帳』とを思い出させました。

高瀬隼子さん、面白いです。次は直木賞受賞作品を読んでみます^^

『犬のかたちをしているもの』(集英社)高瀬隼子著

郷育カレッジ講座「リフォームのコツ」を聴いて参りました。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

郷育カレッジ講座「リフォームのコツ」を聴いて参りました。

郷育カレッジの人気講座のひとつです。毎年受講を申し込んでおりましたが、ようやく抽選が当たりました。講師は福津市内で建設業を営む、株式会社片岡建設の片岡志朗さん。一級建築士でいらっしゃいます。2023年度郷育カレッジでの建築系の講座としては、福津市商工会青年部が担当してくださった「福津の仕事人 建築のひみつ」がありました。こちらも人気講座で、市民の皆さんの「家」「住まい」に対する関心の高さがわかります。上の写真は、手作りリフォームした花祭窯のお茶室の天井工事のときのもの。

さて「リフォームのコツ」。お話は、「家が出来るまでに関わる業者さん」の職種紹介からはじまり、「リフォーム事例・失敗例」「工務店の選び方」「リフォームのポイント」「補助金の活用」と続きました。いずれも具体的に役立つ内容ばかりで、受講生の皆さんが大きくうなずきながら前のめりに聴いておられる様子が印象的でした。

面白かったのは、建築から生まれたことわざや、豆知識の紹介。「几帳面」「ぼんくら」「埒が明かない」などなど、その語源が建築にある言葉の数々は、とても興味深いものでした。思わず人に話したくなるような豆知識もいろいろ。花祭窯は古民家=古い木造家屋なので、これらの言葉につながるものを体感できる部分も少なからず、あらためてこの建物を大切にしていきたいと思いました。

読書『異能機関 上・下』(文藝春秋)スティーヴン・キング著/白石朗訳

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『異能機関 上・下』(文藝春秋)スティーヴン・キング著/白石朗訳

スティーヴン・キング最新作は(も)、二段組の分厚い上下巻。2024年は、なんと作家生活50周年だということです。尽きることのない創作意欲は、読者にとっては嬉しいばかり。わたしにとっての「スティーヴン・キングといえば」は、『ミザリー』で、映画が1990年・小説の刊行は1987年です。自分が10代後半の時には既に第一線で大活躍していたわけで、「すごい!」の言葉しか出てきません。

文藝春秋 キング作家デビュー50周年ページ

さて『異能機関』。超能力を持つ少年少女が全米から拉致され集められている「研究所」に、やはり拉致されてきた天才少年ルークを主人公とした物語です。超能力を持った子どもたちがなぜそこに集められているのか、研究所の目的は何なのか。「世界の平和を維持するため」を大義名分にすれば、何でも許されるのか。その大義名分に嘘やほころびは無いのか。あり得ないことのようだけれども、もしかしたら自分が知らないだけで、実際に起こっているノンフィクションをもとにしているのかもしれないと思わせられる怖さ。そして、ビジュアルイメージが容易に頭に浮かぶ雄弁な文章は、これもまたいずれ映画化されるのか?という期待を抱かせるものでした。

著者あとがきで「ありえざるものを信じられるものにつくりかえる境地」を一貫して追求してきた(している)と書いてあるのを読み、そうだった、そうだよね、と。このあとがきの文章がまた素敵で、大作家をサポートしている(してきた)人たちの存在が、強く暖かく感じられるものでした。作家生活50周年の特設サイトで、近年もずっと本を出し続けているということを、あらためて感嘆の思いで眺めつつ、読んでいない本が大量にあることに気づいたからには、また少しづつ読み進めねばなりません。

2024年九州産業大学国際シンポジウム 博物館と医療・福祉のより良い関係 に参加いたしました。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

2024年九州産業大学国際シンポジウム 博物館と医療・福祉のより良い関係 に参加いたしました。

2019年から毎年開催されている、九州産業大学緒方泉教授が率いる、「大学における文化芸術推進事業(文化庁)」の国際シンポジウム。今年も参加することが出来ました。会場を設けて現地開催したのは最初の2019年だけで、そのあとはコロナ禍下でZoom開催となりました。この経験がそのまま生かされていて、今回も引き続き、日本・英国・米国をつないでオンラインでの開催でした。同じ場所に一同が介するからこそ得ることのできるものももちろんあると思いますが、オンラインによって比較的リラックスした雰囲気で開催できるというのも、大きな成果なのだと思います。また今年は全国から優に100名を超える参加者があり、これもまたオンラインだからこそ、かもしれません。

今回のテーマは「社会課題と向き合う博物館」。2023年度の学芸員技術研修会でも、博物館リンクワーカー人材養成講座でも、この一年間は、これがテーマになっていました。登壇者は、英国ダリッジ・ピクチャー・ミュージアムと米国ケアリングカインドから。米国からは「博物館のアクセス指導者(access educator)」という職種が20年以上も前からあることと、その役割と成果を知ることが出来ました。また毎回、最新の取り組みを報告してくださるロンドンのダリッジ・ピクチャー・ギャラリーからの発表は、今回もとても刺激的でした。

以下、備忘。


  • social impact
  • 大切なのは、わたしたちの行為の内容や意図ではなく、その効果。
  • 博物館が実際に人々の生活や人生を変えられるとしたら、まず人々の生活や人生の一部になる必要がある。
  • 子ども・若者への一貫した支援の必要性。
  • 学校における資源(人的・物的)不足を、美術館が補う。
  • 教員のサポート。
  • マインドフルネス・リラクゼーション・創造的問題解決。
  • 学校現場における創造的資源不足。
  • 移行期に人が持つ感情:未知の世界に対する緊張感・興奮・恐れ
  • slow looking
  • 作品への没入を促す瞑想への手引き。
  • 日常から解放された自由な時間のなかで、何が起きるのか。
  • access educator
  • connect2culture®
  • 認知症患者の支援と、その介護者の支援。
  • Meet Me at MoMA
  • 文化団体のネットワーク構築。
  • プログラムの評価を行う仕組み。

毎年このような素晴らしい機会を用意してくださる緒方先生に、心より感謝いたします。ありがとうございました!

映画『ラーゲリより愛をこめて』を観てきました。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

映画『ラーゲリより愛をこめて』を観てきました。

年末に2023年の映画ベスト3を出しておりましたが、2024年も引き続き「だいたい月に1本ペース」の映画鑑賞を目指して参ります^^

その1本目となったのは、いつものカメリアステージ図書館が主催する映画上映会。これまでにもたまに開催されていたのは知っていましたが、古い邦画やアニメーションが多かったこと、タイミングが合わなかったことなどで、足を運んだことがありませんでした。会場は、図書館に隣接する「カメリアホール」。500席以上を有する立派なコンサートホールです。スクリーンの位置が舞台の後方に設置されるため、どうしてもちょっと遠くなってしまう感じは否めませんが、図書館の隣ですから、花祭窯から徒歩圏内。こんなに近所で映画を観ることができるとは、ありがたいことです。

『ラーゲリより愛をこめて』は、つい最近、2022年の映画でした。邦画好きの我が家の息子が公開後すぐに観に行っており、「号泣ものだよ」と称した一本です。わたしは気になりつつも観ていませんでしたので、思いがけず嬉しい機会となりました。

第二次大戦終戦後のシベリア抑留の物語。原作は辺見じゅん著『収容所から来た遺書』で、事実をもとに描かれた物語だということです。主人公・山本幡男を演じた二宮和也くんはもちろん、俳優さん一人一人の存在感が胸に迫ってくる映画でした。シーンのタイミングごとに「194○年 戦後○年」のテロップが現れ、そのたびに、戦争が終わって何年経っても何も終わっていなかった現実が重くのしかかってきました。どうしてそんなことが許されたのか、敗戦国には何の権利も残されていなかったのだろうと、腹立たしさと無力感を感じながらの鑑賞でした。ラストの方で、北川景子扮する山本の奥さんが手にした新聞に、かの有名な「もはや戦後ではない」の文字が躍っているシーンでは、当時このセリフをはらわたが煮えくり返る思いで聞いていた(読んでいた)人たちの存在を思わずにいられませんでした。それにしても二宮くんの、静かななかにも凄みのある演技が、すごかったです。渡辺謙と共演した『硫黄島からの手紙』のときも感じましたが、圧巻でした。

さて上映会の出口では、原作本を置いて図書館スタッフさんが貸し出し予約の受付を声掛けしていらっしゃいました。本と映画。「本→映画」もあれば「映画→ノベライズ」もありますから、図書館主催の映画上映会というのは、理に適っているのです。これからもどんどん、このようなイベントをしてくれたらいいな、と思いつつ。わたしはまだ原作を読んでいませんでしたので、貸し出し予約を入れておこうと思います。

読書『新古事記』(講談社)村田喜代子著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『新古事記』(講談社)村田喜代子著

いつものカメリアステージ図書館新刊棚から。『新古事記』のタイトルに、昨年読んだ町田康著の『口訳 古事記』を連想し、勝手にそのようなものだと思い込んで借りてきた一冊です。今気が付きましたが『口訳 古事記』も講談社さんからの発刊でしたね。

さて『新古事記』。事前情報無しに読みはじめ、すぐに「思っていたの(古事記の新訳版とか意訳版とか)と違う!」とわかりました。が、ストーリーと文章に引き込まれてそのまま読み続け。

第二次世界大戦日米開戦後のアメリカにおける原爆開発の物語です。開発者たる科学者たちのお話ではなく、その妻たちのお話。半分ほど読み進んだところで「あとがき」をチェックし、これが実際に科学者の妻であった人の手記をもとにした物語であることを知りました。

原爆開発チームに入った科学者とその家族が、世界と隔絶したニューメキシコの大地に続々と集まり、ひとつの街が出来、その最終実験、投下、チームと街が解散するまで。主人公はその開発チームに参加している若き科学者のパートナー(のち妻)であり、日系三世であることを公にはせずにきた女性で、その目線で描かれる物語は、一見穏やかに流れる時間のなかに小さくはない緊張感や不安がつきまとっていました。

主人公が受付兼看護助手として勤める動物病院は、研究者の家族たちの犬(犬もまた大事な家族の一員)のために設けられていて、そこに「うちの子」を抱えてやってくる奥さんたちの緊張や不安もまた、直接的に描かれないからこそ切実に伝わってきました。自分の夫がここで何をしているのか知らされず、箝口令が引かれた暮らしのなかで、いかにして平静を保つか。科学者たちは科学者たちで、自分たちの研究開発が目指す結果の重さに耐えながらも、家族に対してさえ、事実を話すことが出来ない。

その抑圧的な街での暮らしの結果が、犬の出産ラッシュだったり、人間の結婚ラッシュと出産ラッシュだったりして、なんだか生き物の根幹を見せつけられるようでもありました。犬たちの姿を通して見えてくるものが、物語のなかで大きな役割を果たしていました。

村田喜代子さんのお名前は知っていましたが、著作を読んだのは、おそらく今回が初めてでした。とても文章がやわらかくて引き込まれましたので、これから過去作遡って読んでみたいと思います。