読書『英国女王が伝授する70歳からの品格』(KADOKAWA)多賀幹子著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『英国女王が伝授する70歳からの品格』(KADOKAWA)多賀幹子著

「英国王室ジャーナリスト」多賀幹子さんによる、エリザベス2世の写真集というか、名言集というか、という本です。世の中には「王室好き」とか「皇室好き」の方々がかなりの数いらっしゃって、そういう「追っかけ」の方々に向けて、けっこうな数の書籍や雑誌が発行されているということに気づいたのはここ数年のことです。

わたし個人は単純に英国の文化や歴史に興味があって、そのなかでエリザベス2世の生きざまに興味が出てきた、という感じです。が、ブログの過去記事をチェックしてみたら、思っていた以上に英国王室関係の本を何冊も読んでいました(笑)。そういえば写真展も観に行っていましたし、

映画も観に行っていました。今年の初めにはミュージカル『エリザベート』も観たし…と考えると、かなり英国王室を「追っかけ」ていますね。ただ、もちろん知っているのは、あくまでもメディアから垣間見えた姿でしかありません。だとしても、わたしはそのイメージの中のエリザベス二世が大好きなのだと思います。

さて『英国女王が伝授する70歳からの品格』。写真を見ているだけでも、気持ちがなんだか引き締まって明るくなります。英国王室の仕事は「君臨すれども統治せず」の言葉に代弁されるそうですが、それがどういうことなのか、わかりやすく伝わってくる本でした。エリザベス2世の言葉はもちろん、彼女について語った人たちの言葉もたくさん出てきます。それらを読みながら、またイメージが膨らんでいきます。なかでもトニー・ブレア元首相のことばは、本質をついているように思いました。

本書を読み終わって思ったことは、自分が住んでいる国(日本)の皇室についても、同じぐらいの熱心さで本を読んだり情報を集めたりしたら、もっと彼らがどのようなことを行い考えているのか、そしてこの国でどのような役割を果たしているのか、身近に感じられるのだろうな、ということでした。そういう意味では、わたしが一番興味があるのは、雅子妃です。皇室に入る前から、入ってこれまでに、雅子妃が何を考えどう行動しておられるのかが、とても気になります。ちょっと本を探して見ようかな。

『英国女王が伝授する70歳からの品格』(KADOKAWA)多賀幹子著

読書『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』(新潮社)坂本龍一著。

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読書『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』(新潮社)坂本龍一著。

本書が発売されていることは、もちろん知っていましたが、なんとなくこれまで避けておりました。が、いつものカメリア図書館新刊棚で、目の前にあったので、これはもう借りるしかないと手を伸ばしました。熱狂的ファンとは言えないけれど、YMOからスタートして小学生の頃から好きだった坂本龍一。音楽、ファッション、思想…無意識に受けた影響は少なからずでした。幸宏さんが亡くなり、後を追うように教授が亡くなり、漠とした喪失感がありました。

さて『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』。その前に、半生を振り返った『音楽は自由にする』が出ていて、それは読んでいませんので片手落ちかもしれませんが、早すぎる晩年を迎えた教授が、何をしてどんなことを考えていたのかが、赤裸々に伝わってくる本でした。読んでいてしんどくなるページも多々で、読み終えたときにはホッとしました。

何かのインタビューで、教授が「僕は本気で世界の戦争を止めることが出来るかもしれないと思っていた」と言うのを読んだことがあり、「思っていた」というのは「けれども、それは無理だった」とつながるのであり、「諦観」の文字が浮かんだことがありました。世界各地で「知っている日本人の名前を挙げ挙げて」と質問したら、上位で名前の挙がってくる「坂本龍一」でもそのように絶望するのなら、我々にできることなど…という感じです。

そういえば東京青山のワタリウム美術館で開催された「鈴木大拙展 Life=Zen=Art」を観たのは、昨年夏のことでした。上の写真はその展覧会の時のチラシ。

↑この報告ブログ↑には書いていませんでしたが、この「禅」の展覧会で、坂本龍一のインスタレーション展示をした部屋があったのでした。前情報を持たずに出かけていたので、思いがけず「坂本龍一」の名前を発見し、喜び勇んで展示室へ。ところがそのときは、そのインスタレーションが何を伝えようとしているのか、展示を観てもキャプションを読んでもさっぱり推し量ることが出来ず、残念な気持ちをもって会場を後にしたのでした。

本書を読み終わった今は、「鈴木大拙展 Life=Zen=Art」に展示されていた坂本龍一のインスタレーションが、何を言おうとしていたのか、自分なりに解釈を持つことが出来ます。現代アートが言葉を必要とする表現であることを、あらためて感じました。そしてまた、観たときにはさっぱり「???」な状態でも、自分のなかに引っかかりが残っていれば、今回のようにあらためて解釈を持つことが出来るのだということも。

個人的には、本書のなかでまったくあっこちゃん(矢野顕子)のことが出てこなかったのことに、違和感がありました。もしかしたら前作『音楽は自由にする』には書かれていたのかもしれませんね。読んでみないといけません。

『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』(新潮社)坂本龍一

読書『堀江貴文のChat GPT大全』(幻冬舎)堀江貴文・荒木賢二郎著

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読書『堀江貴文のChat GPT大全』(幻冬舎)堀江貴文・荒木賢二郎著

タイトルの『堀江貴文の…』の前に赤字で「今やらないヤツはバカ!」と書いてあります。さすがホリエモン。煽り系の乱暴な語り口に、熱意と愛を感じます。メディア(本にしてもテレビにしてもインターネットにしても)を通して見るたびに、どうしてわざとこんな風な言い方にするのかなぁ、と思いますが、実はとても親切な方だと思います。あ、上の写真は、本文とは全く関係ありません。

さて『堀江貴文のChat GPT大全』、ホリエモンはじめ18名の「Chat GPTを自分の仕事(あるいは生活)にどう生かしているか?」が載っています。職業がそれぞれにバラバラな、いろんな方が、ご自身の言葉で「Chat GPTとは?」を書いています。ほんとうに事例がさまざまで、書き方も統一されていません。なのでむしろ、自分の感覚に近い方が見つかると思います。一方的な「こんなにすごい!こう使うべき!」論ではなく、とっつきやすいとわたしは感じました。

Chat GPTはご存じの通り生成AIのひとつなわけで、以前このブログで話題にしたのはちょうどひと月前のことで、「わたし自身はまだ手を出していません」と書いておりました。が、本書を読んでようやく「うん、まずは使ってみよう」と思えました。

ちなみに「あ、なるほど」とわたしが一番胎落ちしたのは、まぐまぐ創業者の大川弘一氏の章でした。具体的な方法論は一切書いておられません。本書のなかでこの部分だけ読んだら、訳が分からないかもしれません。が、「自分の仕事のなかでどう使えるか」が一番イメージしやすかったのが、大川氏の書いた部分でした。

わたし自身は、Chat GPTを含めた生成AIを、誰もがすぐにでも始めるべきだとは思いません。けれども、スマホ文化がそうであったように、好むと好まざるとにかかわらず、生成AIが当たり前に生活の中にあるという状況が、もうスタートしつつあるのだということが、よく分かりました。なので、気になっている方には、本書はおススメです。

『堀江貴文のChat GPT大全』(幻冬舎)堀江貴文・荒木賢二郎著

ところでローカルネタですが、じり貧(といわれている)の在福岡(北九州)ラジオ局 cross FMにホリエモンが入ったので、感謝するとともにとても期待しています。

映画『翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~』観てきました。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

映画『翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~』観てきました。

2023年映画9本目。前回映画館で観たのが、ケネス・ブラナーの『名探偵ポアロ ベネチアの亡霊』で、そこから2か月ほど空いてしまいました。ブラックフライデーということで、週末は「TOHOシネマズデー」になっており、シネマイレージカード会員は、なんと映画鑑賞料が1000円でした。この夏にやっと作ったシネマイレージカードでしたが、おかげさまで恩恵をさっそく受けています。

さて『翔んで埼玉』。一作目はDVDで観ておりました。原作者の魔夜峰央先生といえば『パタリロ!』。わたしがパタリロにハマっていたのは…ググってみたら、1978年に『花とゆめ』で連載がスタートしていますので、10歳ごろからということになります。もう45年も前!という事実に愕然としますが、当時その漫画の世界観から英国やエジンバラに抱いた憧れは、実のところ自分のなかに今もほんのりと続いているわけです。そのギャグ満開の世界観がこのように実写映像で実現する日が来るとは…!しかも2作目が出来るほどに、受け入れられているとは、なかなか感慨深いものがあります。世の中の価値観が、ようやく魔夜峰央先生のセンスに追いついてきたとでも言いましょうか(笑)

さておき2作目も、まあ馬鹿馬鹿しくて、けばけばしくて、面白かったです。一作目から踏襲されたパターンの面白さに加え、今回目についたのは、いろいろなものからのパロディー。コメディ映画にはパロディーはつきものとはいえ、特に「チャーリーとチョコレート工場」からの大掛かりなパロディーには、声を殺して爆笑しました。そして豪華な出演者が短時間出演で無駄使いされているという、これもまたコメディ映画のパターンの一つではあるものの、その贅沢さに笑いました。これだけのために出てきたのね!的な。

第2作目が、滋賀県&関西エリアでしたので、どうしたって第3作目への期待が高まります。これはもう「佐賀県&九州エリア」で間違いないでしょう、と勝手に予想(期待)をしています。いやほんとうに、佐賀は「そのポジション」としてこれ以上最適な場所はないでしょう、という感じなので、大いに楽しみにしています。エンディングには、それをにおわすような演出もありましたし。

それにしても、魔夜峰央先生は1953年生まれということで、現在70歳。ってことは、わたしと20も離れていないのね、ということは、パタリロをスタートしたころは25歳だったということで、当時漫画家の方は10代から活躍なさる方が多かったとはいえ、すごいなぁとあらためて尊敬してしまいます。

博物館リンクワーカー人材養成講座 2023。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

博物館リンクワーカー人材養成講座 2023。

九州産業大学地域共創学部の緒方泉教授が音頭をとり、毎年開催してくださっている講座です。「博物館リンクワーカー人材」というキーワードがタイトルに入ったのは、2021年からですが、学芸員技術の向上と美術館博物館施設の地域社会への貢献を目指した数々のプログラムに、もう7年もお世話になっています。

今年度もオンラインでの開催です。そもそもはコロナ禍下で集合研修が出来ない!という状況からのZoom活用だったと記憶していますが、Zoomのおかげで、11月から12月にかけて毎週6回の連続講座に、九州のみならず全国から学芸員・関係者が参加するという、稀有な連続講座に育っています。これって、実はとてもすごいことだと思います。

冒頭30分間、担当講師によるテーマ発表があり、そののち3-5名のグループ「語り場」に分かれて意見交換情報共有。その後、各グループからの発表でフィードバックという次第です。第1回目は九州産業大学美術館の学芸室長・中込先生と、香椎丘リハビリテーション病院のソーシャルワーカー・藤さん。数年前からスタートしている、美術館とリハビリテーション病院両者の連携についての発表でした。わたしは残念ながら第1回は参加できませんでしたが、後日動画で共有してもらえるはずですので、発表を拝聴するのを楽しみにしているところです。

第2回は甲賀市教育委員会事務局歴史文化財課の佐野正晴氏による『「歴史文化財課 佐野さんの民具図鑑」の作り方』でした。上の写真は、花祭窯のある津屋崎で民具の集まる場所、登録有形重要文化財「藍の家」。

以下備忘。


  • 「美術(館)サービス提供者自身の健康」という視点。孤立を防ぐ。
  • 慢性的・全国的な課題「満タンの収蔵庫」「未整理民具の山」「人手不足」。
  • 民具➜地域回想法。
  • 市民向け映像コンテンツの制作➜「民具図鑑」。
  • 行政各部署、市民団体等との協力=役割分担・負担分担による「持続可能化」。
  • 民具+α:民俗学、歴史学、地域密着情報、最新の研究動向、現代社会の動き…。
  • 民具×○○のコラボ。
  • 「民具を守る仲間」を増やしていく。
  • 「緩やかな保存」の視点。民具を使いながら保護していく。
  • 「ひっかかり」を作ることにより、興味を引く=「民具図鑑」動画において「オチ」も大切な構成要素。
  • 民具図鑑を観る➜資料館に足を運ぶ、小中学校が教材として採用する、博物館浴・地域回想法のアウトリーチを伸ばす…
  • まずは学芸員自身が楽しんでできることが大切。
  • 学芸員が楽しんでいる➜一緒に働く仲間も楽しくなる➜観てくれる人・館に来る人も楽しい。
  • 増え続ける資料➜どう保存するか、どう活用するか。
  • デジタル画像・ポジフィルムでのアーカイブ、動画でのアーカイブ。
  • 地域全体で観たときの、資料保存の考え方。ランク付け、取捨選択。

甲賀市教育委員会事務局歴史文化財課の佐野正晴氏による『「歴史文化財課 佐野さんの民具図鑑」の作り方』と、「語り場」より


甲賀市教育委員会事務局歴史文化財課「歴史文化財課 佐野さんの民具図鑑(YouTubeチャンネル)

民具を巡る「慢性的・全国的な課題」は、ここ福津市でも同じことです。「民具図鑑」の制作は、もしかしたらここでもできることかもしれず、なんとか提案できるといいな、と思います。

再読書『コラージュ入門』(一麦出版社)藤掛明著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

再読書『コラージュ入門』(一麦出版社)藤掛明著

今月末にコラージュを活用した美術講座を行うので、資料準備の前に読み直し。わたしがアートエデュケーターとしてコラージュを取り入れるきっかけとなったのは、学芸員技術研修会の「美術館でコラージュ療法」講座でした。そのときご指導くださった、聖学院大学心理福祉学部心理福祉学科教授・藤掛明先生の本です。2021年に新刊を購入していますので、約2年ぶりの復習読書。

藤掛先生は博士号を持つ臨床心理士であり、特に芸術療法のスペシャリストとして現場での仕事をしてこられた方です。本書は「コラージュ療法入門」ではなく、あえて「療法」を外して『コラージュ入門』となっています。治療や更生を目的とした臨床的コラージュの枠を出て、誰もが(本書での言い方を借りれば「一般の人たち」が)使い、自己の成長に役立てることが出来るコラージュ。活用の場が広がっていくことへの期待を感じさせる本です。

以下、備忘。


  • 「自分を新しく発見できる」「自分が好きになれる体験」
  • 完成した作品は、独特の魅力を放つ。それは美術上の美しさというのに止まらず、自分を新たに知り、周囲との関係を考えるヒントに満ちた不思議な魅力がある。
  • コラージュで自分を知り、関係を深める
  • コラージュのイメージの心地よい流れに身をゆだね、そのイメージから、勇気づけられるもの、触発されるものを受け止めていけばよい
  • 即興的に取り組む
  • 「最近のわたしの気持ち」
  • 第一印象
  • 作者の意図を味わう
  • 多義的に味わう
  • 「印象や感想を交換する」
  • 「解釈はしない。印象を述べる」
  • その後も作品を眺め直す習慣を作る
  • 自由にイメージから入る
  • (Doコラージュは)言葉の関与が増え、表現に一定のコントロールが及びやすくなる。
  • (その結果)メッセージ性・意図性が非常に高まる。
  • (研修参加者の期待)自分を発見する
  • 自己洞察も自己表現も楽しいが、一番楽しくわくわくするのは、会場で起きる相互作用性のドラマ
  • 会場参加者全体に向かって肯定的なコメントをフィードバックする
  • 暴くのではない
  • 安全で保護された環境を用意し、開放的な雰囲気の中で、意味ある発見がもたらされる
  • 頭の整理
  • 欲しいものと要らないものがくっきりと浮かび上がってくる
  • 現実には好きなものを自由に手に入れることは無理でも、台紙のイメージの世界ならば体験できる
  • 自分の世界を自分らしく意味づけしてもよいのだという自信
  • 他者のコメントが、他者の意味付けと異なる場合でも(というか異なるからこそ)、それも多義的な意味の一つとして受け止められ、むしろ作者の世界を広げ、深めてくれることになる。
  • 新しい自分との出会いであり、多くは、少し感じていたものを言葉にしてもらったような納得感
  • 自己受容
  • 「何かがわかるものではなくて、作ったものをヒントにして、いろいろなことを考えて行く方法」
  • 作品が完成した段階では、まだイメージは多義的なままの世界をとどめている
  • 完成後の分ちあいを丹念におこなうとその時点で、統合に向けて動き出します。
  • 多様性の世界
  • 参加者一人ひとりの感想が皆意味がある
  • 描き手自身やグループメンバーが、どの意味にぴんと感じるかで、より意味のある事柄が明らかになってきます。
  • 今大切な意味が何なのかを発見しあう、探しあう
  • 一つの正解に絞り込むのではなく、一つでも多くの正解を生み出し、広げていくという感覚
  • ここがめずらしいな、この人のユニークな表現だな
  • 一つの作品の中に共通しているテーマや比喩を探す
  • 台紙の使い方の特徴から分かること
  • 描画作品の用紙は、実施者から参加者に与えられた「世界」
  • この与えられた「世界」をどう使おうとしているのかという視点
  • 空間象徴
  • コラージュ作品は、作成者本人に自由に語ってもらうのが大切
  • 相手の大切な世界を引き出す質問
  • コラージュ画面の写真が、自分自身の(比喩的に)分身であることを感じてもらう体験
  • 無意識と意識との双方にまたがっており、言葉によって介入することに向いている
  • 既存の写真に意味を与えていくおもしろさ

『コラージュ入門』(一麦出版社)藤掛明 著より


今回は特に「わかちあい」における要点をピックアップしてみました。研修の場面でも「対話」が復活し、ワークショップに取り入れることが出来るようになって参りましたので、ますますコラージュの効果が期待できます。楽しみです。

読書『スカーレット』(新潮社)アレクサンドラ・リプリー著/森瑤子訳

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『スカーレット』(新潮社)アレクサンドラ・リプリー著/森瑤子訳

林真理子著『私はスカーレット』にすっかり魅了され、このあとスカーレットはいったいどうなるのやら…と、気にかけていたわたくし。

マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』の後を受けたアレクサンドラ・リプリーによる続編『スカーレット』が、ちゃんと図書館にありました!で、さっそく借りに行き、まず驚いたのがその厚さ。上の写真を見るとわかりますが、なんと6cm超、ページ数にして1090ページ。今なら文庫版でなくても分冊にするだろうな、というところですが、この厚さと重さも含めて迫力の一冊でした。

スカーレットの「その後」は、マーガレット・ミッチェル本人が書くことを良しとしなかったため公募されたといわれており、世界中の熱烈なスカーレットファンが、それぞれに「その後」の物語を紡いだのだと思うと、ドキドキしました。たくさん寄せられたであろう「続編」のなかから見事その座を射止めた本書は、質・量ともに期待に違わずお腹いっぱいになるものでした。

森瑤子さん訳の本書、林真理子著を読んだ後で、ほぼ違和感なくしっくりときました。もしかしたら、林真理子氏が森瑤子訳の『スカーレット』のイメージをある程度意図的に踏襲していたのかもしれないな、と感じました。森瑤子さんと少しだけ異なる点としては、林真理子さんは黒人や地方の登場人物のセリフに方言のような日本語を当てていません。これは出版された時代の違いだと思います。ともあれ、とてもスムーズにストーリーに入り込めたのは、世界観に大きなずれが無かったからであり、大切なポイントだったと思います。『私はスカーレット』は一人称での訳本ですが、スカーレットの一人称語りはアレクサンドラ・リプリーの『スカーレット』から始まっていたので、そこが踏襲されていたのも良かったのかもしれません。

さて『スカーレット』。『風と共に去りぬ』のアメリカ南北戦争に対して、イギリスのアイルランド問題を持ってきたところに、ただの大恋愛小説としては終わらせない著者の意気込みを感じました。人種と階級、持つ者と持たざる者。わたしにとっては、アメリカとイギリスの歴史の一側面を知るための興味深い教材にもなりました。そして、スカーレットとレット・バトラーのすれ違いは、これでもかというようにまた繰り返されながらも、少しづつ距離を詰めていく感じが絶妙でした。読者に二人の愛が成就するという確信を疑わせないあたりは、続編を書く上で不文律だったのでしょう、安心して読み進めることが出来ました。

残りのページ数が少なくなるにつれ、もうすぐスカーレットとバトラーが今度こそ気持ちを通じさせるはず!という期待と、もうすぐストーリーが終わってしまうことに対する寂しさが、ないまぜになって押し寄せてきました。林真理子氏の『わたしはスカーレット』にはじまり、こんなに気持ちを持っていかれた読書は久しぶりでした。こうなると次は、もう一度『風と共に去りぬ』に立ち返らねばと感じています。その次は原著に挑戦することが出来たら良いな、と。続編の『スカーレット』も、原著からするとずいぶん意訳されているという評価もあるようなので、やはり原著を読んでみるべきかな…と。これを全部果たそうとしたら、読書時間がいくらあっても足りなくなりそうですが(笑)。おかげさまで、すっかりスカーレットのとりこです。

そういえば!2023上半期ふじゆり的読書ベスト5。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

そういえば!2023上半期ふじゆり的読書ベスト5。

明日から11月!とカレンダーを見て、ふと思い出しました。今年はまだ上半期の読書まとめをしていなかったのではないかと。「上半期」でブログ検索をかけたら案の定、今年の読書ベスト5はヒットしません。ということは、やはり書いていない。

ということで、遅ればせながら2023年上半期(1月~6月)読書のベスト5。あと二月待てば年間ベスト10を出せるというこの期に及んで、あえて上半期を出さねばと思ったのは、漠然とした感触ではありながら、今年の読書はかなり濃い!と思ったからです。とりあえず半年分をまとめておかないと、年間分の順位をつけるのは難しいだろうな、と。まあ、なによりその振り返り作業が楽しいから、というのが一番ではありますが。


1位 『名画の生まれるとき 美術の力Ⅱ』宮下喜久朗著

本書より前に出ている『美術の力』も、もちろん良かったです。わたしはたまたま『美術の力Ⅱ』を先に読んだため、本書のインパクトの方が強かったのかもしれません。いずれにしても、これからも繰り返し読む本になるのは間違いない2冊です。

2位『罪の轍』奥田英朗著

奥田英朗著の追っかけがスタートしたのも、この上半期でした。わたしにとって最初の一冊目となった『罪の轍』。これにハマったからこそ、でしたが、おかげでかなりの冊数読みました。シリアス路線もお笑い路線も、いずれも外れ無しです。

3位『オリバー・ツイスト』チャールズ・ディケンズ著

ディケンズはこれを読まねば!ということで、「読んでいなかった名著」の一冊を読破。時代背景も興味深く、圧巻でした。個人的には『クリスマス・キャロル』よりもこちらが響きました。

4位『フローリングのお手入れ方法』ウィル・ワイルズ著

これに続いて読んだ『時間のないホテル』も面白かったウィル・ワイルズ著。かなり不思議な感じのあるストーリーは、ジャンルとしては「SF」ということで、SFのイメージが変わりました。新作が出たらまた読みたい作家さんです。

5位『書籍修繕という仕事』ジョエン著

「書籍修繕」という、知らなかった世界を、とても魅力的に教えてくれた一冊です。仕事の中身に興味があるからこそのランク入りであるだけでなく、文章自体がとても魅力的でした。


いや、ほんとうにこの時点で一度振り返りをしておいてよかったです。思った通り、濃い読書をしていました。この5冊を選び出すのに、かなり悩みました。年間ベスト10を出すのが今から楽しみです♪

続・読書『店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる―倉本長治の商人学』(プレジデント社)笹井清範 著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

続・読書『店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる―倉本長治の商人学』(プレジデント社)笹井清範 著

本書のブログ記事を上げたのはほんの3日前でしたが、

この週末に2周目を読みました。先のブログでは総論的な感想を書いたので、今回は、個人的に刺さった文言をピックアップ。


  • 「真」「善」「美」
  • 世に認められるには他者とのネットワークをしっかり築いて良い関係を育んでおくこと
  • 「いや、30年と30秒だ」(ピカソ)/積み重ねた修練の価値
  • 失敗は成功の素に、間違いは成長の糧になる
  • 「物売っている 自分売っている」(「物買ってくる 自分買ってくる」河井寛次郎)
  • 「恕(じょ)」(孔子)
  • 常に変わり続ける決意
  • 常にお客様の利益を守りつつ、かつ己の利益も外さない値決め
  • そのために私たちはもっと儲けなければなりません。(中略)商人が責任を負う未来のための資源なのです。
  • 目的を実現するために利益が必要なだけ
  • 一つ一つの商品に実印を捺すような商売
  • お客様自身はまだ気づいていないけれど、心から望んでいるに違いないとあなたが確信する品
  • 「この商品をあのお客さまに出会わせたい」
  • 「君子九思」(李氏篇)
  • 変わらぬ真実を軸に変わり続けなければなりません。
  • お茶室は四畳半 だからいつも行き届く
  • 店の語源は「見世」 自分の世界観を見せる場所
  • 制作において観る者を意識し、喜ばせようとする(村上隆)
  • (お客様の)顕在化していない思考・意思
  • どうやって真実を上手に伝えるか
  • 1)あなたがやれること/2)あなたがやりたいこと/3)あなたがやるべきこと
  • 物を費やして消す「消費者」/物を活かして生きようとする「生活者」
  • やれることのレベルを上げつつ、やるべきことに意識を集中
  • まず社会に利する
  • 最上のサービスとは高価なもの
  • 価値を誰よりも理解してこそ、その価値を伝え続けようとする覚悟が生まれます。
  • 儲からなければ、託された役割を果たすことが出来ない「見たままを写実的に描いたものは絵ではない。筆意を加えたものが絵である」(歌川広重)

『店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる―倉本長治の商人学』(プレジデント社)笹井清範 著より


ピカソの逸話に見られる「積み重ねた修練の価値」を価格とする考え方は、そのままアーティスト・藤吉憲典の仕事における値付けにあてはまるものですし、「一つ一つの商品に実印を捺すような商売」というのは、すべての作品に「名」を入れる作家としては、すでに行っていることです。こうしてピックアップすると、いくつもアート関連の人物の名前が出てきているのが面白いですね。文章のピックアップはしていませんが、ゴッホに関する記述も出てきましたので、ゴッホの絵の写真を入れてみました。

そういえば、アーティストも経済活動をしているのだという記事を書いたのも、つい先日のことでした。

そう考えると尚のこと、本書は、アーティストの皆さんにもおススメできる本だと思います。

『店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる―倉本長治の商人学』(プレジデント社)笹井清範著

読書『店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる―倉本長治の商人学』(プレジデント社)笹井清範著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる―倉本長治の商人学』(プレジデント社)笹井清範著

出版コンサルタント・土井英司氏が発行しているメールマガジン「ビジネスブックマラソン」略して「BBM」からの新着書籍の一冊です。このBBMを購読(無料です)している友人が少なからず、さっそく本書を読んだお友だちが数名SNS上に高評価の読後感想を載せていらっしゃるのを拝見。メルマガで気になっていたところに、尊敬するお友だちの皆さんの高評価を読んで、即買いしました。

『店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる―倉本長治の商人学』(プレジデント社)笹井清範著

「商人道」本。帯にも推薦の言葉が書いてありますが、巻頭にユニクロの柳井さんが14ページにわたって熱烈な解説を執筆しています。そのあとに続く筆者・笹井清範氏による「はじめに」が8ページ。本文に入る前のウォーミングアップから、本書に託した並々ならぬ情熱が伝わって参りました。

そのあとに続く本文で、商人の行動指針「商売十訓」が紹介されます。さらに十訓のそれぞれには、関連する10編の教えが紹介されています。これらを読み込むことで、理想とされる商人像のなんたるかの本質理解に近づいていくことが出来る、という構成。ひとつひとつの訓示は、字面を読めば、あたりまえにそのとおりだと思えるものです。が、そのような薄っぺらい理解ではなく、言葉の深い意味・本質をしっかり自分のものにして商いをしてほしいという願いが、各訓示に続く10編の教えから伝わってきます。いわば「倉本長治」という方の思想本。

商人学ではありますが、商人に限らずふつうに仕事をしている人すべてに応用できると思います。友人からは「芸術家には当てはまらないかも!」と言われましたが、そんなことはありません。芸術家用に解釈するにはいくつか注釈が必要になるパターンは多少出てこようものの、どんな職業にでも生かせる姿勢(≒思想)が説かれていると思いました。実のところ、訓示の理解を促すための10編の教えのなかに、「ゴッホ」「村上隆」など、例として芸術家の名前が出てくるところもあります。

何度も繰り返し読むことで、理解を深め、自分の姿勢を見直していくことのできる本だと思います。