読書『おとなのOFF 絶対見逃せない2024年 美術展』(日経TRENDY)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『おとなのOFF 絶対見逃せない2024年 美術展』(日経TRENDY)

すっかり年初恒例となった、美術展チェックです。昨年に引き続き、今年も『おとなのOFF』の臨時増刊号をゲット。

展覧会会場となる美術館博物館は日本全国にありますので、なかなか足を運べないのが現実ではありますが、昨年は「これは観たい!」ベスト5に挙げていたもののうち、3つの展覧会に足を運ぶことが出来ました。わたしとしては、上出来です。福岡県内あるいは出張先(東京)での訪問がほとんどですが、意識の片隅に置いておくと、時間を見つけて機会を上手く生かすことが出来ますね。

ではさっそく『おとなのOFF 絶対見逃せない2024年 美術展』に掲載されているもののなかから、「これは観たい!」ベスト5。


1位 キース・へリング展 アートをストリートへ

昨年12月の学芸員研修で、「中村キース・へリング美術館」の学芸員さんに「社会課題と向き合う美術館活動」のお話を伺ったばかりで、素晴らしいタイミングです。

現在、六本木の森アーツセンターギャラリーで開催中ですが、福岡への巡回も予定されています。ありがたいことですね。福岡市美術館 2024年7月13日〜9月8日。楽しみです!

2位 永遠の都ローマ展

こちらも福岡市美術館 2024年1月5日~3月10日。新年5日から始まっていますので、近いうちに足を運びます。カラヴァッジョの「洗礼者聖ヨハネ」が目玉とされています。カラヴァッジョの作品を福岡で、生で観ることが出来る貴重な機会です。今からドキドキしています。

3位 没後50年 福田平八郎

大阪中之島美術館 2024年3月9日~5月6日。実のところ「福田平八郎」と聞いてもぴんと来なかったのですが、作品を見て「ああ!」と心当たりました。「写実に基づく装飾画」と呼ばれているそうですが、色使いとパターンがポップで、魅力的です。ぜひ観に行きたい展覧会です。地元・大分県立美術館での巡回展は2024年5月18日~7月15日。

4位 円空-旅して、彫って、祈ってー

あべのハルカス美術館の開館10周年記念展覧会。160体の「円空仏」が揃うというのですから、なかなか稀有な機会だと思います。会期は2024年2月2日~4月7日ですので、中之島美術館の福田平八郎展と合わせて、大阪展覧会ツアーを計画するのも良いかもしれません。

5位 生誕120周年 サルバドール・ダリ―天才の秘密―

福島県にある諸橋近代美術館。本書で見るまで知りませんでした。ゼビオ株式会社の創立者・諸橋廷蔵氏が収集した作品を展示する美術館。ダリをメインに、ルノワール、マチス、ピカソ、シャガール等19・20世紀巨匠20数人の作品を収蔵しているそうです。会津磐梯山の景勝地に位置するという美術館。ぜひ足を運んで観たいものですが、九州では大分県立美術館 2024年11月22日~2025年1月19日の巡回があるので、そちらで観るのが現実的かもしれません。

3位に挙げている福田平八郎の展覧会も大分県立美術館でありますので、これは大分に足を運べということかもしれませんね。


このほか、『おとなのOFF 絶対見逃せない2024年 美術展』に載っていなかったところでは、福岡アジア美術館で新年1月2日から開催されている「日中平和友好条約45周年 世界遺産大シルクロード展」も楽しみにしていた展覧会。近々博多に出たときに鑑賞予定です。

今年も、ひとつでも多くの「お!」な作品と出会えるのが楽しみです。

読書『マルナータ 不幸を呼ぶ子』(河出書房新社)ベアトリーチェ・サルヴィオーニ著/関口英子訳

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『マルナータ 不幸を呼ぶ子』(河出書房新社)ベアトリーチェ・サルヴィオーニ著/関口英子訳

2023年末ラストの読書は、イタリアの作家さん。いつものカメリアステージ図書館で、年末年始用に多めに借りていた中の一冊です。これまでにヒトラー下のドイツを舞台とした小説は何度も読んだことがありましたが、ムッソリーニ政権下のイタリアを舞台にした小説は、記憶している限り初めてかな?と。訳者の関口英子さんのお名前に見覚えがあるなぁと思ったら、その1年ちょっと前に読んでいました。

こちらも河出書房新社から出ていました。『「幸せの列車」に乗せられた少年』の時代背景は第二次世界大戦後でしたので、ムッソリーニ政権のファシズムの影響が色濃く残っていたころですね。『マルナータ 不幸を呼ぶ子』の方が少し前の時代になります。

さて『マルナータ 不幸を呼ぶ子』。労働者階級で貧しく、周囲から忌み嫌われながらも人の目を気にせず自分の意志のままに行動するマッダレーナと、ブルジョワ階級で世間体を気にする母親のもと厳しくしつけられて育ったフランチェスカという、性格も家庭環境もまったく異なる二人の思春期の女の子の物語です。二人の少女の関係性は、どの時代にも有り得る話でありながら、ムッソリーニ政権下という時代背景が、二人の生きづらさを、より際立たせる役割を果たしていることが、読んでいてひしひしと伝わってきます。

この時代がどのようなものであったのかと、そこを舞台に設定した著者の意図については、「訳者あとがき」でわかりやすくまとめられています。この訳者あとがき内にある、著者が言ったという「性差別と人種差別が横行し、好戦的な男社会の典型であるファシズムの時代」「女性や、社会の枠組みからはみ出す者たちが声を上げることの難しかった時代」「ファシズム政権下のイタリア社会は、むろん過去のものではあるのですが、現代社会との危うい類似性も感じられる」「彼女たちの生きづらさは、いまの私たちと決して無縁ではない」の言葉たちが、刺さりました。

「言葉の力」=「言葉の大切さ」と「言葉の恐ろしさ」を考えさせられるセリフが物語の随所に出てきて、ひとつの大きなテーマになっています。これはきっと、言葉を生業とする著者にとっての大きなテーマなのだろうと思いました。

個人的には、これまでほとんど知らなかったイタリアのムッソリーニ政権下がどのような社会であったのか、どのように市民が扇動され、戦争につき進んで行ったのか、その一片をうかがい知る貴重な機会にもなりました。そしてその日本との類似性が恐ろしくもありました。そういえば先日読んだ『戦争は女の顔をしていない』はスターリンのソ連でした。そこにも類似性は多々見られ、つまり「国民性」とか「民族性」ということでは無く、「人間」としての本質なのだということか、と考えさせられました。

1995年生まれの著者、本書は初の長編作品だったということ。『マルナータ 不幸を呼ぶ子』では、欲を言えば、ラストシーンがあまりにもよくできすぎていて違和感が残ったので、著者の別の本も読んでみたいと思いました。日本語版がまた出ることを期待しています。

2023ふじゆり的映画ベスト3。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

2023ふじゆり的映画ベスト3。

と、たいそうに言うほど今年は観ていないかも…と確認したところ、9本でした。ラストにもう1本観る予定にしていたのですが、ちょっぴり風邪をひいてしまい、年末年始に備えてもうやめておこうかな、というところで。まあでも12カ月のうちに9本ですから、わたしとしてはまあまあです。

1位『バービー』

マーゴット・ロビーの美しさと、風刺に込められた棘と、映画内で使われた音楽がとっても秀逸な1本でした。ライアン・ゴズリングをはじめとした「ケンたち」も素晴らしかった。『バービー』のタイトルとポスターのイメージを、いい意味で裏切った作品でした。

2位『生きる LIVING』

脚本がカズオ・イシグロだったので、絶対に観ようと博多まで足を運んだのでした。全編にただよう静かさと、主人公の抑制された雰囲気がとっても良かったです。黒澤監督の『生きる』をオマージュしたものということですが、そちらを観ていませんので、いずれ観てみたいと思いました。

3位『レナードの朝』

「午前10時の映画祭」のおかげで観ることが出来た、1990年の映画です。ロビン・ウィリアムズが、とても良かったです。実は出演作を見たことはほとんどありませんでした。もっと見ておけばよかったな、と。

今年は実は「あまり観たいもの、気になるものがない」という現象が発生していました。ひとつには最寄りのTOHOシネマで「午前10時の映画祭」の上映が今年度から無くなってしまったことがあります。まあ近所で観ようとこだわるからそうなってしまうことはわかっているのですが。足を運ばないと、どんどん観たい映画が来なくなる(ひいては映画館自体の存続にかかわる!)という悪循環にならないよう、できるだけ地元で鑑賞しつつ、福岡市内まで足を延ばせば、キノシネマ天神KBCシネマといったミニシアターがありますので、来年はこちらにも足を延ばすことを考えようと思います。

2023読書、年間ベスト5。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

2023読書、年間ベスト5。

昨日、下半期ベスト5を出しましたので、

この流れに乗って、年間ベスト5まで出してみます。

1位『私はスカーレット 上・下』(小学館)林真理子著

林真理子氏のすごみを感じた上下巻でした。本書とアレクサンドラ・リプリー著『スカーレット』で、今年下半期はスカーレットの魅力にすっかり取り込まれました。来年はマーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』の再読を企んでいます。

2位『罪の轍』奥田英朗著

本書が「奥田英朗」ワールドに引き込まれた最初の一冊。今年5月からはじまり、たくさん読みました。著者を教えてくれた方が、「この人は、腹抱えて転げまわるほど面白い小説と、とんでもなくシリアスな小説の両方書くので毎回楽しみ」とおっしゃっていたのですが、ほんとうにその通りでした。

3位『名画の生まれるとき 美術の力Ⅱ』宮下喜久朗著

本書より先に出版されていた『美術の力』と並び、これから先、何度も読み返すことになることが確実な一冊です。「通常の展覧会であれば、作品群が撤去された後の展示室は、そこにあった絵画や彫刻の気配や、展示風景の記憶を濃厚に留めている」「作品のある空間に身を置いて作品と対面する体験がどれほど大切か」など、言葉が重く響きます。

4位『フローリングのお手入れ方法』ウィル・ワイルズ著

本書に続いて読んだ『時間のないホテル』も面白かったウィル・ワイルズ。「SF小説」のイメージが変わりました。出版社(東京創元社)のサイトで本書紹介に「恐ろしくもおかしいカフカ的不条理世界」と書いてありましたが、その通り、中毒性のある怖さと可笑しさの絶妙の組み合わせでした。新作が楽しみな作家さんです。

5位『休館日の彼女たち』(筑摩書房)八木詠美 著

設定はかなり突飛ですが、それに反して、とても静かな筆致で、独特の世界観が広がっていました。現実的には「ありえない」突飛さでしたので、ある意味「SF」と呼べるのかもしれません。本書の前に出ている『空芯手帳』は、現実的にじゅうぶん有り得る突飛さ(怖さ)で相当面白く、追っかけたい作家さんの一人となりました。

振り返ってみれば、上半期から3冊、下半期から2冊とバランスよく。「初めまして」の作家さんにたくさん出会えているのは、いつものご近所カメリアステージ図書館のおかげです。しかし年間通しても、5位内のうち4つまでが小説でした。いかに逃避先を確保していたか、ですね(笑)

来年もたくさんの良書(わたしにとっての!)に出会えますように♪

2023読書、下半期ベスト5。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

2023読書、下半期ベスト5。

例年よりもかなり早いですが、2023年下半期(7月~12月)読書のベスト5です。今年上半期のベスト5を出すのが遅れてしまった反省を生かして。

ふじゆり的、2023年下半期(7月~12月)読書のベスト5は、以下の通り。


1位 『私はスカーレット 上・下』(小学館)林真理子著

2位 『スカーレット』(新潮社)アレクサンドラ・リプリー著/森瑤子訳

3位 『口訳 古事記』(講談社)町田康著

4位 『戦争は女の顔をしていない』(岩波現代文庫)スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著/三浦みどり訳

5位 『休館日の彼女たち』(筑摩書房)八木詠美 著

5位 『絵師金蔵赤色浄土』(祥伝社)藤原緋沙子著


いやぁ、振り返るとよく分かりますが、ありがたいことに、下半期もたくさんの良書に出会っていました。そして、すっかり内容を忘れてしまった本もある一方で、心に深く残っているものが何冊も。そんなわけで、5位、5位って、なんだ!?という声が聞えてきそうですが、これはどうしてもどちらも入れたかったので、こうなりました。あと、この下半期に特徴的だったのが、少し前に読んだ本の「再読」が何冊もあったこと。個人的に学び直しというか、再確認したいことがいくつもあったことがわかります。

さてこうして並べてまず気がついたのは、町田康氏以外は、すべて女性作家の著作だったということ。あたりまえですが、本を選ぶときに、その著者が男性か女性かなんて気にしたことはありませんでしたので、結果的にそうであったということが、個人的な感想として、なんだか嬉しいことでした。

6冊中4冊が小説。『口訳 古事記』も、古典とはいえストーリー的には(というか、読み手の受け取り方的には)小説のようなものですので、これも含めると6分の5が小説。ビジネス書や実用書がひとつも入らなかったというのが、ちょっと驚きでした。読んではいるのですが、結局心に残るのは小説だったということでしょう。

下半期ベスト5が出ましたので、次は年間ベスト5です。上半期に何を読んだか、すでに忘却の彼方ですので、振り返りが楽しみです^^

読書『ザ・シット・ジョブ 私労働小説』(角川書店)ブレイディみかこ著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『ザ・シット・ジョブ 私労働小説』(角川書店)ブレイディみかこ著

ブレイディみかこさんといえば、著書『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』。ところが、読もう読もうと思いつつ、読まないままに新刊を発見。こちらを先に読むことになりました。ブレイディみかこさんは福岡出身なので、地元ローカル紙「西日本新聞」にもコーナーを持っておられます。英国の労働者階級に身を置いたなかから発せられる声は、かの国のみならず日本にも共通の社会課題を捉えていて、記事を拝読するたびに、いろいろなことを考えさせられています。

さて『ザ・シット・ジョブ 私労働小説』。「自伝的短編小説」の形を借りて、出版社曰く「魂の階級闘争」を描き出した一冊は、とても力強く響いてきました。階級制度が色濃く残る英国の、学術的に見た実態はこれまでに本でも読んできましたが、生の声(フィクション化されていてはいても)に勝るものはないと感じました。

水商売(日本)からはじまり、英国に渡ってのナニー(ベビーシッター兼家庭教師)、クリーニング工場、洋服のショップ店員、慈善センターでのボランティア活動、保育士、まかない食堂料理人、ケア仕事…。さまざまな労働の現場から、魂の叫びが聞こえてきました。読みながら一緒になって腹を立て、理不尽を憎み、負けてたまるかという気持になるものでした。軽快な文章が心地よく、一気に読みました。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』も、ますます楽しみになってきました^^

『ザ・シット・ジョブ 私労働小説』(角川書店)ブレイディみかこ著

読書『喜ばれるおせち料理とごちそうレシピ』(朝日新聞出版)牛尾理恵著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『喜ばれるおせち料理とごちそうレシピ』(朝日新聞出版)牛尾理恵著

いつものカメリアステージ図書館の「特集棚」で発見。お節料理のレシピ本は、長年使っている手持ちのものが気に入っているので、なかなか新しい本を追加することがないのですが、毎年この季節になると、図書館で借りてきてお節料理のイメージトレーニングをするのが楽しみになっています。

本書は大判で144ページオールカラー。眺めるだけでも楽しい一冊ですが、内容の充実度合いがすごいです。サブタイトルに「作りやすくておいしい おせち&ごちそう料理148レシピ」とあり、読後の印象は、まさにそのサブタイトル通り。基本のおせちからアレンジまで、作り方だけでなく、盛り付け、シーン別のおススメなど、幅広く網羅していて、しかも「わたしでも出来そう!」がたくさんみつかりました。

レベル別のアレンジレシピは、特に便利に使えそうです。初級者向けには「盛り付けるだけプレート」やら「詰めるだけおせち」やら、「簡単だけど豪華」を謳ったレシピは、パパッと何か用意しなければならないときに役立ちそうです。また本の後半では、年末年始に喜ばれる鍋料理や持ち寄り料理、おつまみレシピもあります。「おせち」を超えて、かゆいところに手が届く一冊です。久しぶりに「おせち本」を購入リストに追加しました^^

『喜ばれるおせち料理とごちそうレシピ』(朝日新聞出版)牛尾理恵著

毎年、器に助けられている我が家のお節料理。本書が力強い味方になってくれそうです。

読書『戦争は女の顔をしていない』(岩波現代文庫)スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著/三浦みどり訳

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『戦争は女の顔をしていない』(岩波現代文庫)スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著/三浦みどり訳

いつものカメリアステージ図書館新刊棚から。今年夏に開催されたカメリアステージ図書館の選書ツアーで、ご一緒だった参加者の方が選んでおられた本。少し前に新聞だったか雑誌だったかで見かけて気になっていた本でした。

1941年開戦の独ソ戦争について、粘り強い調査と500名を超える従軍女性へのインタビューで書き上げられた本書。著者のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチさんは、2015年にノーベル文学賞を受賞しています。本書のもととなる取材をはじめたのは1978年ということです。1984年に発表。原稿を書き上げるまでの困難に加え、発表してから刊行が許されるまでにさらに2年かかったという事実が、本書の内容が「国」にとって都合の悪いものであったことを裏付けていると思いました。そして日本語版はようやく2008年に群像社が刊行しています。実に30年を経てようやく、わたしたちが読むことのできる形になったのですね。知らんぷりをしてはならないものを、ここまで届けてくれた著者と訳者と出版社の方々の強い気持ちに、頭が下がりました。

第二次世界大戦末期の独ソ戦については、昨年春に読んだ『グッバイ、レニングラード』でその凄まじさをはじめて知ったのでした。上の写真は『グッバイ、レニングラード』から引用。

『グッバイ、レニングラード』を読んで、少しその戦争のことを知ったつもりでいましたが、本書『戦争は女の顔をしていない』を読んだ今となっては、それもやはり「男の顔をしたもの」すなわち男の視点・言葉で語られたものを前提としているとわかります。戦争に関する記録や表現に関しては、本にしても映画にしても、ソ連に限らずそういうものである可能性が極めて高いのだと思います。

従軍した女性たちの話から見えてくるものは、これまでに聞いたこと・読んだことのある日本の戦前・戦中・戦後の話と重なるものがたくさんあって、とても他国の他人ごとではありませんでした。「歴史から学ぶ」という言葉よりも「歴史は繰り返す」という言葉の方が現実味をもってくるように思いました。今まさにその国が戦争をしているのですから、なおさらです。あるのは「戦争か平和か」ではなく、「戦争か戦後か」。暗澹たる思いで途中何度も本を閉じ、読み終わるまでに時間がかかりました。

巻末に訳者・三浦みどりさんの「あとがき」と、澤地久枝さんの解説「著者と訳者のこと」があります。ここまで、きちんと読み通したい一冊です。一人でも多くの方が手に取ってくださるといいな、と思います。今回わたしが手に取ったのは岩波現代文庫版で、文庫として残っていることが、とても良かったと思える本です。

『戦争は女の顔をしていない』(岩波現代文庫)スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著/三浦みどり訳

再読書『知覚力を磨く 絵画を観察するように世界を見る技法』(ダイヤモンド社)神田房枝著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

再読書『知覚力を磨く 絵画を観察するように世界を見る技法』(ダイヤモンド社)神田房枝著

美術教育(研修)のプログラムをまとめ直す必要が生じ、このところ関連書籍を読み直ししています。山口周さんの『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』、藤掛明先生の『コラージュ入門』…

そして『知覚力を磨く』へ。前回読んだのは2020年10月末。もう3年も前のことだったとわかり、ちょっと驚きました。というのも、本書に書かれている内容に、今なお新しさを感じるからです。

以下備忘。


  • 思考の前提となる認知、すなわち「知覚(perception)」
  • 知覚とは、目の前の情報を受け入れ、独自の解釈を加えるプロセス
  • 「どこに眼を向けて、何を感じるのか?」「感じ取った事実をどう解釈するのか?」
  • 人間の知的生産には、「知覚➜思考➜実行」という3つのステージがあります
  • 何の先入観も持たず、ただ眼の前の事物・事象をありのままに見ることが出来なくなってきている
  • 知覚とは、自分を取り巻く世界の情報を、既存の知識と統合しながら解釈すること
  • 新しいものは「誰かの主観」から生まれる
  • 知覚の価値は、他人とは異なる意味づけそれ自体のなかにあります
  • 情報は(中略)データそのものよりも、知覚に基づいた「意味づけ」が圧倒的に重要
  • ゼロベースで観る
  • インプットされた情報を既存の知識と統合し、意味を付与する知覚プロセスのほうは、半自動的に進む
  • 知覚という“コントロールできないもの”を磨く
  • 知覚的盲目
  • 何か明確な目的をもって探している状態からは、なかなか新しいものは出てこない
  • 観察眼を鋭くすれば、「アイデアを観る眼」も磨かれる
  • 絵画が最適な理由①バイアスが介在しづらい②フレームで区切られている③全体を見渡す力がつく
  • 注意点①十分な観察時間②多くの解釈を生む眼のつけどころ③知覚を歪める要素の排除
  • (水墨画)この絵に描かれたパーツは、あくまでも全体との調和のなかで意味を持っており、それらの位置・バランス・濃淡・強調度合い・空白部分なども含めた知覚に支えられている
  • ほとんどの創造性に関与しているのは、過去の学習・経験から得た知識を関連づけるプロセス
  • 点と点をつなぐ観察
  • 曖昧性が深まるほど、「知覚」への依存度は高まる

『知覚力を磨く 絵画を観察するように世界を見る技法』(ダイヤモンド社)神田房枝より


おかげでかなり復習&インプットし直しが出来ましたので、そろそろアウトプットにつなげて参ります。

読書『名画と建造物』(角川書店)中野京子著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『名画と建造物』(角川書店)中野京子著

ご存じ『怖い絵』シリーズ中野京子さんの最新作です。

ドイツ文学者であり、絵画をテーマにした書籍を、大量に生み出しておられる中野京子さん。西洋絵画史に伝わる名品の数々を、現世のわたしたちにぐっと身近にしてくれる本の数々は、誰でもが気軽に絵画を楽しめるようになる、大きなきっかけになっていると思います。と同時に、美術界にとっても大きな貢献になっているのは間違いないでしょう。実のところ、わたしはまだ読んでいない本がたくさんありますが、これまでに読んだなかでは『名画で読み解く 王家12の物語』シリーズが、とても興味深かったです。

さて『名画と建造物』。『怖い』シリーズとはまた少し異なる角度からの、絵画へのアプローチで、図書館で発見して期待が高まりました。『怖い絵』シリーズから続く、独特の重厚感ある文章まわしによるエピソードが、安定の面白さでした。もともと雑誌の連載であったものを編集し直したとのことでしたが、対象となる絵画と、そのなかに描かれている建造物の「今」の写真が加わり、歴史と今を比較しながら見ることが出来ます。絵と写真はいずれもオールカラーという贅沢さ。なので、文章を読むのが面倒でも、ビジュアル的な要素で十分に楽しめます。

個人的には巻頭の、エドワード・ホッパー『線路脇の家』(=映画「サイコ」の家)の解説がツボにハマり、そこから一気に読み込みました。読者それぞれに、心に響く絵、建造物、エピソードを見つけることが出来ると思います。本書を片手に、美術館と建造物を巡る旅行するのも楽しそうですね。

『名画と建造物』(角川書店)中野京子著

美術と建築は密接な関係にあるものですから、相性が良いことは間違いありません。最近開いていませんでしたが、わたしの本棚には『くらべてわかる世界の美しい美術と建築』があった!と、引っ張り出してきて復習しました。この第2章が「美術のなかの建築」の特集になっています。西洋史をベースにした中野京子さんのアプローチと、建築を専門とする五十嵐太郎さんのアプローチ。どちらも面白いです。