読書『時間のないホテル』(創元海外SF叢書)ウィル・ワイルズ著/茂木健訳

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『時間のないホテル』(創元海外SF叢書)ウィル・ワイルズ著/茂木健訳

先日読んだ、著者の小説デビュー作があまりにも中毒性のあるストーリーだったので、もっと著書を読みたいと思い、即、図書館検索で見つけてきました。図書館にちゃんと入っているというのが、嬉しいですね。

実は本書『時間のないホテル』の方が、日本では先に翻訳されていたようです。日本での出版元が「ミステリ・SF・ファンタジー・ホラーの専門出版」を自任する東京創元社さんであり、SF小説系の賞を取ったことで、こちらが先に日本での発売となったようです。

さて『時間のないホテル』。最初は「SFではないよね!?」と読み進めていたものが、中盤からおかしな感じに豹変していきます。「建物から出ることが出来ない」という恐怖感が、「スティーブン・キング的」という書評につながったことは、納得できるものでした。『ミザリー』的といった方が、よりわかりやすいかもしれません。ミザリーが現実的な恐怖であるのに対し、時間のないホテルはSFで非現実的であるのが、まったく異なる点ではありますが。

主人公が本書内でとにかく歩かされます。現実的に歩かされ、非現実的に歩かされ、読んでいるこちらの方が歩き疲れそうになります。歩くという地に足の着いた行為を通しながら非現実的な状況に立ち向かうさまは、徒労感いっぱい。読後は、ふうっと思わず大きく息をつきました。読後しばらくして、物語に登場したいろいろな人物について、いろいろな疑問が沸き上がります。それぞれをすべてきちんと説明してしまわないところが、わたし個人的には、とても良かったです。

ウィル・ワイルズ氏の著作はまだ小説ではまだ2作のみということで、これからがとても楽しみです。2作を読んだかぎりでは、個人的には『フローリングのお手入れ方法』の方が面白かったかな。追いかけたい作家がまた一人増えました。

読書『民王』(文春文庫)池井戸潤 著

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読書『民王』(文春文庫)池井戸潤 著

こちらも「池井戸潤といえば企業小説」の枠から外れた感じの作品です。文春文庫のサイトでは「痛快政治エンタメ!」と評されています。まぁ、設定がハチャメチャ。SFチックで、これまでに読んできた池井戸作品とは、だいぶ前提が異なります。それでどうだったかと問われれば、馬鹿馬鹿しさのなかにちりばめられた現実味が面白かったです。

首相となった政治家の父と、就職活動中の大学生である(漢字をろくに読めない)息子が入れ替わってしまうことから起こるドタバタ劇。しかもその入れ替わりが、どうやらテロの仕業らしいというのがまた笑えます。首相としてふるまわねばならない息子と、就職活動に赴く首相。どうしたって可笑しなことが起こる舞台設定です。

馬鹿馬鹿しくて笑えるストーリーのなかに社会批判(政治批判)を込めた本を、そういえば久しぶりに読んだように思います。シビアなストーリーでの政治批判的な小説は、ある意味簡単かもしれませんし、その手の本はたくさんあります。けれども本書では、現実離れした馬鹿馬鹿しさがあるからこそ、身近に感じました。

しかめ面をして堅苦しく論じるだけが政治批判の在り方ではないことを、思い出させてもらいました。政治に対する無力感を感じる昨今だからこそ、どうにか一矢を報いたい。そんな印象を受けました。政治参加に興味のない人たちに、おススメしたい一冊です。

読書『ようこそ、わが家へ』(小学館文庫)池井戸潤 著

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読書『ようこそ、わが家へ』(小学館文庫)池井戸潤 著

池井戸潤著、『陸王』「鉄の骨』に続いてのわたし的第3作目です。「池井戸潤といえば企業小説」の枠から外れる著作もあることを知り、そちらからも読んでみようと選んだ一冊。最寄りの図書館「日本の小説家『い』」の並びには池井戸作品がたくさん並んでいますので、選り好みできます。ありがたいことです。

本書は、企業小説的な面と、家族小説的な面の、両方を持ち合わせた一冊。主人公は、会社でもプライベートでもトラブルを抱えてしまい、それも結構ハードな状況です。書評に「身近に潜む恐怖」とありましたが、特にプライベートでのトラブルは、ほんとうに誰にでも起こり得ることで、地味に怖い設定でした。

「公共の場で注意したら逆恨みを買った」こと、逆恨みしてストーカー的な嫌がらせの仕返しをする犯人が「ごく普通に一市民として生きている、どちらかというと生活レベルの高い人」であること、その仕返しをする心理が「匿名性によるゲーム的な感覚」であること。いずれも現代的な要素がぎっしりと詰まっていて、著者の社会批判的視点を感じました。日常生活のなかで、ちょっとしたきっかけで思いがけないトラブルに巻き込まれてしまう怖さ。

ところが不思議なことに、読みながら「手に汗握る」状況にはなりませんでした。これは、池井戸作品読書3作目となったわたし自身が「著者は必ず主人公を助ける」という、ある種の信頼感を持つようになっていたからにほかなりません。「最後には無事に解決するから大丈夫」という安心感を持っての読書は、エンターテイメント作品においては不可欠な要素なのかもしれませんね。

気の弱い主人公が、最後にはいざという場面で啖呵を切るというのは、できすぎかもしれませんが、そうとわかっていても楽しめました。「ガッツリ企業小説」のイメージから離れた池井戸作品も、面白いです。

読書『名画の生まれるとき 美術の力II』(光文社新書)宮下規久朗 著

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読書『名画の生まれるとき 美術の力II』(光文社新書)宮下規久朗 著

本屋さんぶらぶらでタイトルに惹かれ、パラパラとめくったところ著者がカラヴァッジヨの研究者であるらしいことが判明したので、即買いした一冊です。

サブタイトルに「美術の力II」とついていたので、ということは「I」があるということよね、と思い探しましたが、残念ながら書棚には在庫が無く。ネットで探したところ、同じ光文社新書で『美術の力』を発見、これが「I」のようです。「II」がとても面白かったので、遡って読もうと思います。

さて著者の宮下規久朗氏は、美術史家・カラヴァッジョ研究者として、たくさんの著作があるようです。本書はエッセイ風で読みやすいですが、その中身はとっても充実しています。知識的にも思想的にも、学ぶこと考えさせられることが、たくさんでした。カラーで絵がいくつも載っているのも嬉しいです。

第一章 名画の中の名画、第二章 美術鑑賞と美術館、第三章 描かれたモチーフ、第四章 日本美術の再評価、第五章 信仰と政治、第六章 死と鎮魂

いずれの章も読みごたえがありました。なかでも「第二章 美術鑑賞と美術館」は、自分が今やっていること、やろうとしていることと関連しても、考えさせられること多々でした。また章立てに関わらず随所にカラヴァッジョのエピソードが入ってくるところが、個人的にはツボでした。カラバッジョ好きは執着が強いというイメージを勝手に持っていますが、著者もそうなのかもしれないと思いつつ。

サブタイトルについている「美術の力」という言葉こそ、著者の言いたいことなのだと、しっかりと伝わってきました。

読書『フローリングのお手入れ方法』(東京創元社)ウィル・ワイルズ著/赤尾秀子訳

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読書『フローリングのお手入れ方法』(東京創元社)ウィル・ワイルズ著/赤尾秀子訳

お掃除のノウハウ本ではありません。小説です。ジャンルは、なんなのでしょう。ブラックユーモアにあふれています。コメディとはいいがたく、ややホラーっぽい雰囲気も。悪夢的なストーリー展開で、予備知識無しで読みはじめたら、まったく予想外の着地点に辿り着いていました。

めちゃめちゃなストーリーなのですが、文章の端々になんとなくスタイリッシュな雰囲気が立ち上り、読了後に著者の略歴を見て、ああなるほどと思ったのでした。東京創元社のサイトによれば、著者は1978年インド生まれロンドン在住で、建築・デザイン関係のライターとしても有名だとか。本書は小説デビュー作だったようです。同サイトの本書紹介に「恐ろしくもおかしいカフカ的不条理世界」と書いてあり、たしかに不条理すぎる展開だったと笑いました。

ちょっと中毒性のある怖さと可笑しさの絶妙の組み合わせ。同著者の2冊目が日本語版で出ているようですので、ぜひ読みたいと思います。

『フローリングのお手入れ方法』(東京創元社)ウィル・ワイルズ著/赤尾秀子訳

読書『鉄の骨』(講談社)池井戸潤 著

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読書『鉄の骨』(講談社)池井戸潤 著

連休中に完了させようと計画していた二つの仕事のうち一つに目途が立ったので、(もう一つは進捗状況ギリギリだけれど)、読書タイム。いつものカメリアステージ図書館で「池井戸潤」検索をかけ、『陸王』読書に続く池井戸作品2作目は、まったくあらすじを知らなかった『鉄の骨』を選びました。

借りてきたのは文庫でしたが、思わず背表紙の厚さを図りたくなるボリューム。中堅ゼネコンに就職した主人公が、マンション建設の現場勤務から通称「談合課」なる本社部署に異動するところからはじまります。公共工事の落札を巡る熾烈な駆け引きが、物語の中心でした。いやぁ、面白かったです。わたし的には『陸王』よりもこっちのほうが盛り上がりました。これはドラマとかになっていないのかしらと、思わずググったところ、神木隆之介さん主演で連続ドラマになっていましたね。神木隆之介さんは素敵ですが、わたしのイメージの平太(主人公)ではないなぁ、などと思いつつ。

実はかつて1年間ほど、某中堅ゼネコンの地方営業所で事務を手伝ったことがあります。仕事のほとんどが民間からではなく公共工事からの受注という会社で、地方の支社とはいえ、たしかに本書で描かれているのと似たような駆け引きが、常に行われていました。わたしの主な仕事は、そうした受注工事の契約書作成でした。その昔、ゼネコン汚職事件でそうそうたる大手各社から逮捕者が出たのは、わたしが社会人になってすぐの頃のこと。それから数年後に、ゼネコンの地方営業所で見た実態に、わたしもまた『鉄の骨』の主人公と同様「結局談合は無くなっていないんだ」と驚いたものでした。

そんなわけで、読書中の脳内キャスティングは、当時の課長・担当者らの懐かしい顔がそのまま浮かんでくるという始末。課長さんは本書に登場する課長さん同様、眉間に皺を寄せ常に胃のあたりをさすって、胃薬ばかり飲んでおられました。

企業小説はやっぱり面白いですね。次は何を借りてこようか、楽しみです。

映画『Air』観てきました。

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映画『Air』観てきました。

2023年の三本目は、ナイキのバスケットシューズ「エア・ジョーダン」開発秘話を映画化した『Air』。写真は、シューズではありませんが(笑)いまや家族のなかにスポーツをする人がいれば(あるいはいなくても)、毎日でも目にするナイキのマーク。創業者フィル・ナイトの次にナイキでCEOを務めたマーク・パーカー氏が、藤吉憲典作品のコレクターなので、ナイキ関連の本や映画は、できるだけ観ておきたいと思っています。

舞台は1984年。オープニングから、その映像と音楽に、懐かしさでいっぱいになりました。やられた!という感じ。当時わたしは中学3年生。バスケをするしないに関わらず誰もがコンバースのバッシュを欲しがり、たくさんの人が履いていたこと、中学生のお小遣いで買うには高価だったこと、ナイキからエア・ジョーダンが発表された後の熱狂など、一気に蘇って参りました。そうだった、そんな時代だった、と。

映画のストーリーは、熱を持ちながらも淡々と進んだという印象でした。エンタテイメント映画にありがちな誇張した演出が避けられていたような気がします。映像やセリフによる過剰な説明もなく、観る人によってはわかりにくいと感じる向きもあるかもしれませんが、それもまた個人的には好感を持ちました。できるだけ等身大で当時の出来事を描こうとしたのかもしれませんね。熱い時代を描くのに、さらなる装飾は要らないといったところでしょうか。

コンバース、アディダス、ナイキの社風の描かれ方が面白かったです。もちろん、ナイキ側から見たものではありましょうが、なるほど~、と。またセリフの端々に含まれる、ベンチャーから巨大企業へと成長することによる葛藤など、いろいろと感じるものがありました。一番残ったのは、マット・デイモン演じる主役ソニーの「だから株式公開なんかするべきじゃなかったんだ」というニュアンスの、創業時から一緒に走ってきたからこそ言えるセリフ。そのほかにも、ベン・アフレック演じるフィル・ナイトのセリフ「走ればわかる」や、「禅」に影響を受けたことが端々に現れるセリフが面白かったです。禅に影響を受けたと言えばまっさきにアップル創業者スティーブ・ジョブスの顔が浮かんでいましたが、そのもっと前ですね。

この映画のノベライズがあれば、読みたいな、と思いました。

ともあれナイキといえば、創業者フィル・ナイトの『SHOE DOG』。『Air』は「負け犬たちの逆転勝利」がテーマになっており、ここでもDOGなのですね。

そして、「シューズ開発」といえば、つい先日読んだ池井戸潤の『陸王』。

読書『人にやさしいナチュラルおそうじ』(大泉書店)岩尾明子監修

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読書『人にやさしいナチュラルおそうじ』(大泉書店)岩尾明子監修

今週末から大型連休という方々も多いと思います。我が家は、連休中はたいてい通常運転で、家で仕事をしつつのんびり、というスタンス。今年のゴールデンウィークも、今のところとくに予定はなく、ふつうに仕事をすることになりそうです。

とはいえ、世間の雰囲気に引っ張られて、休日気分になるのは確実。ならば、ふだんやらない部分の掃除をしてみようかと、本棚から引っ張り出してきたのが本書です。サブタイトルに「重曹 酢 せっけん-天然素材で家中きれい!」とあるとおり、本来食用である重曹や酢など、安全な素材を使った掃除や洗濯の方法を、その用途に合わせて詳しく紹介しています。

十数年前、子どもが生まれてアレルギー体質だと分かったときに、何か少しでもできることがあればと読み漁った本の中の一冊。この手の本は、読む側が「こうしなければ!」と神経質になると窮屈で説教臭く感じますが、自分に簡単に使えそうな知恵だけ拝借して、無理のない程度に生かすことが出来れば、なんとなく「体にやさしい、環境にもやさしい」という自己満足を得ることも出来て、良いと思うのです。

そんなわけで、さっそくお掃除用の重曹とクエン酸を購入。クエン酸は、本書でいう酢の代わりに用います。台所周り、お風呂周り、ガラス窓、排水溝など、少しでもきれいにできたら良いな、と。そろそろ衣替えシーズンでもありますから、お天気が良ければお洗濯にも活用したいところです。5月の連休明けに、少しでも家の中がフレッシュになっていることを期待しつつ。

読書『陸王』(集英社)池井戸潤 著

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読書『陸王』(集英社)池井戸潤 著

いつものカメリアステージ図書館、毎度お世話になっている「新刊棚」に続いて、最近よく使うのが、貸出カウンター前の特集コーナー。図書館スタッフの方々が、いろいろとテーマを考えておられるのが伝わってくる棚です。今月の特集は、ドラマ化・映画化された原作本の特集でした。

特集コーナーから借りてきた一冊。役所広司さん主演のドラマが放映されたのは、何年前のことだったでしょう。とても評判が良かったのを覚えていますが、実は、観ていません。池井戸潤さんの企業小説といえば、半沢直樹に下町ロケットに空飛ぶタイヤに…と、すぐに主演者のイメージとセットで思い浮かびます。そういえば、そのいずれも、観てもいなければ読書したこともありませんでした。あ、半沢直樹は数話だけ見ました。わたしにとっては、『陸王』が池井戸ワールド最初の一冊ということで、めちゃめちゃ期待して読書スタート。

最初、本の分厚さにおののきましたが、まったくの杞憂でした。ぐいぐい引き込まれて読み進み、またその反面、切りよく本を閉じることも出来たので、隙間時間に好い感じに読めました。著者の章立てのうまさとでもいうのでしょうか、読みながら「よし、ここまで」と区切りをつけやすい物語の運び方で、そんなところにも感心しました。

わたしは友人に中小企業の経営者をしている人が少なくないので、企業小説さながらの話をリアルで聞くことが少なからず、いろいろな人の顔が重なりながらの読書となりました。金融機関との関係、お取引業者さんとの関係、事業を継続させるための「新規事業」への取り組み。規模は違えど、そうそう!と思う場面多々でした。

それにしても、シューズの開発競争のすさまじさ。以前に読んだ、ナイキ創業者フィル・ナイトの『SHOE DOG』を思い出しました。そうそう、近いうちに、現在上映中の映画『Air』も観に行かねばなりません。こちらは同じナイキでも、バスケットボールの神様のシューズ「エア・ジョーダン」の成功秘話です。『SHOE DOG』にもそのエピソードが含まれていました。

上の写真は、中学生の頃、陸上部で長距離を走っていた我が息子の試合を応援に行った時のもの。

『陸王』面白かったです。読了後に、役所広司以外のドラマの配役をチェック。なるほど、あの役はこの人だったのね、と。自分が読んでいた時にイメージした人物像と合っている人、合っていない人いろいろですが、そんな擦り合わせも楽しいですね。次は下町ロケットかな。

『陸王』(集英社)池井戸潤 著

読書『アンダスタンド・メイビー』(中公文庫)島本理生著

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読書『アンダスタンド・メイビー』(中公文庫)島本理生著

島本理生さんのお名前は知っていましたが、読んだのは本書が2作目でした。いつものカメリア図書館でなんとなく手にした新刊の『憐憫』が思いがけず響いたので、著者名検索で遡って本書に辿り着きました。

中央公論新社の文庫紹介サイトでは、本書を「中三の春、少女は切ない初恋と大いなる夢に出会う。それは同時に、愛と破壊の世界へ踏み込むことでもあった」と紹介してあります。たしかにそうも説明できるかもしれないけれども、それはあくまでも表面的な事象であって、本書に綴られていたのはそんなことでは無い、というのが、わたしの感想です。

先日紹介した『女たちの沈黙』で書いた「女たちの暗澹たる行く末の描写は、読み飛ばしたくなるような部分が何度もありました」の感想は、そのまま本書にも当てはまります。読んでいてしんどい場面多々。時代も国もまったく異なるけれども、共通しているのは、女性であるがゆえに向けられる悪意に苦しむ主人公の姿でした。もしこのストーリーに自伝的部分があるならば、著者は心に血を流しながら書いたのだろうと思います。

本書のなかで、登場人物の一人が主人公に対して「あなたは強い」というニュアンスの発言をする場面がありますが、決して強いのではなく、自分(の心)を守るために鈍感になっていただけ、という方が正しいような気がしました。気がついて、理解してしまうことで、あまりにも辛く苦しくなってしまうことがある、ということです。

あとがきで、作家の村山由佳さんが書いていることが、とても腑に落ちました。いわく「この小説はおそらく、読む人を選ぶだろう」ということ、それが「読み手の側が、これまでの人生の中でどういった経験を重ね、その一つひとつとどう折り合いをつけてきたかに左右される」だろうということ。

わたしは本書の主人公のような体験をしたことは無いし、育った時代も環境も異なり、共通点を見つけることの方が難しいかもしれません。それでも、帰るべきところを持たない不安定さゆえに危うい方向へ向かってしまう姿は、なぜそうなってしまったのか、なんとなく理解できるような気がしました。また本書のなかに登場する新興宗教のくだりは、実際に起きた事件をモチーフに書いていることが容易にわかるのですが、当時著者は10歳ごろだったはずで、あの事件をどのように感じていたのかを考えさせられました。

これまでに読んだ2作は、字面に見えているよりもテーマが重く(とわたしは思いました)、島本理生さんの作品を続けて読むのは、ちょっとしんどいかも、という感じです。それでもまた時間をおいて、他の作品も読んでみたいと思いました。

アンダスタンド・メイビー』(中公文庫)島本理生著