自家用にも贈り物にも、蕎麦猪口―見た目の楽しさと使い勝手の良さで人気です―

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

自家用にも贈り物にも、蕎麦猪口―見た目の楽しさと使い勝手の良さで人気です―

日本では、三月~四月は変化の季節。進学・就職・転職・異動など、あちらこちらで別れと出会いの場面があります。なかでも今年の三月は、ここを節目に新たなステージに動く方々がいつもより多いような感じがしています。上の写真は、藤吉憲典のつくる「錦桜散し文蕎麦猪口」。赤絵(上絵)で描かれた淡い桜の花びらは、上絵具の紫色を2種類使い、散る桜の美しさを描いています。

花祭窯にも「贈り物を見繕ってもらえますか?」という急ぎのお問合せを、例年以上に多くいただきました。花祭窯の食器は、日常用途の品でありながら嗜好品的な側面も大きく、「一般的に価値がわかりやすいもの」ではないかもしれません。それを贈り物にとおっしゃってくださる背景に、相手の方に対する深い気持ち(感謝・敬意・ねぎらい・愛情などなど)があることを感じます。そして、その気持ちを載せるメッセンジャーとして花祭窯の器を選んでいただけることを、とてもありがたく思います。

一番人気は「蕎麦猪口」です。蕎麦猪口は磁器作家・藤吉憲典にとってのライフワークであります。花祭窯が目指す価値は、Democratic Luxury=庶民的な贅沢。蕎麦猪口は特にそれを端的に示してくれる存在です。シンプルでありながら造形的な美と、絵画的な美を兼ね備えていて、まさに庶民的な贅沢を実現してくれるもの。日々の生活でさまざまに活用できる「用途の美」術品であり、さりげなく感性を磨いてくれるもの

贈り物に藤吉の蕎麦猪口を指名してくださるお客さまが、「ふだん自分が使っていて、使いやすいから」「贈り物でいただいたことがあって、嬉しかったから」とおっしゃってくださるのを聞くたびに、とても嬉しくなります。ひとつ手にすると、少しづつ増やしていきたくなる蕎麦猪口の魅力。こうしたお客さまの声に支えられて、贈り物にどれを選んだらよいのかわからない、とおっしゃるお客さまには、蕎麦猪口をお勧めすることも多いです。もちろん、贈り先の方がどんな方なのかをお聞きして、別のものをお勧めすることもありますが^^

本日(2021年3月末)現在、蕎麦猪口はネットショップの在庫が補充できない状態が続いております。ご不便をおかけしております。「予約注文」でしたら、お届けまでの時間はかかりますが、ご用意できます。蕎麦猪口欲しいな、と思ったときは、ぜひご相談くださいませ。

花祭窯(HANAMATSURI GAMA)蕎麦猪口倶楽部

オンラインショップ「花祭窯 HANAMAYSURI GAMA 蕎麦猪口倶楽部」リニューアルオープンいたしました。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

オンラインショップ「花祭窯 HANAMAYSURI GAMA 蕎麦猪口倶楽部」リニューアルオープンいたしました。

昨年末から続けていた、オンラインショップのリニューアル作業。今回は新しい仕組みへの引っ越しも伴ったので、慣れないことが多く、心配でなかなかオープンできずにおりました。ショップ制作のアドバイザーの方から「きりがないから、まずオープンしてその都度修正したらいいよ」というアドバイスをいただき、胎が決まりました。

2021年春分のスタート。偶然でしたが、験が良さそうです^^

ただ、お買い物いただける在庫がまだ揃っておらず、在庫と商品ページを追加している最中です(汗)ひとつでも在庫が出来次第、順次追加しています。また、デザインレイアウトの点でも、使いにくいところがあると思います。「もっとこうした方が、わかりやすい、注文しやすい」などお気づきのことがありましたら、お知らせいただけると幸いです。ひとつひとつ改善してまいります。

こんな調子ではありますが、今後ともご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。

お買い物方法について、リニューアルによって変わった点は、主に次の通りです。


〇クレジットカード決済が選べるようになりました。

これまではPaypalでのカード決済のみでしたが、Shopify paymentサービスの利用により、決済の選択肢が広がりました。引き続き、Paypal(ペイパル)銀行振込もご利用いただくことができます。

〇予約注文はお問い合わせフォームから承ります。

在庫切れ中の器の予約注文は、お問い合わせフォームから承ります。予約注文の確定からお届けまで、通常3-4か月ほど制作期間をいただいております。(ご注文内容・数量により異なります。)特に料理店さんオープンに向けての器選びなど、お時間に余裕をもってご相談いただけると嬉しいです。柔軟に対応できる場合もありますので、まずはお問い合せくださいませ。

〇ブログやインスタグラムからもご注文ができるようになりました。

ブログやインスタグラムでアップした写真から、直接カート(買い物カゴ)へと注文できるようになりました。オンラインショップでは、蕎麦猪口と小皿豆皿だけをご紹介しておりますが、ブログやインスタグラムからは、在庫状況に合わせて様々なアイテムをご紹介してまいります。これから少しづつ増やしてまいりますので、どうぞご期待ください。


「花祭窯 HANAMAYSURI GAMA 蕎麦猪口倶楽部」今後ともよろしくお願いいたします!

続・初めての「レンズとボディが別々のカメラ」-撮ってみた。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

続・初めての「レンズとボディが別々のカメラ」-撮ってみた。

昨日の、初めての「レンズとボディが別々のカメラ」の続編。実際に撮ってみました。

隼(はやぶさ)陶箱 藤吉憲典
隼(はやぶさ)陶箱 藤吉憲典
猟犬と草原陶箱 藤吉憲典
隼(はやぶさ)と矢羽根陶箱 藤吉憲典

初撮りにしては、まあまあですが、同時にまだまだ(笑)。もっとパキッとクリアに撮りたいものです。でも、撮るときのストレスは、これまでに比べてかなり軽減されました。これは大きな前進です。

カメラの設定をどう微調整していくかということも、もちろんあるとは思いますが、むしろ撮影セットの配置の問題であったり、光の加減の問題であったりする気もします。撮ったものを見ていただいて、アドバイスをいただいて、「撮る→修正する」の繰り返しが必要です。引き続き、チャレンジしてまいります♪

念願の、新しい急須が、我が家の食卓にやってきました。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

念願の、新しい急須が、我が家の食卓にやってきました。

仕事柄、食器だけは贅沢に使っている藤吉家ではありますが、どうしても「お客様への納品用が先、我が家用は後回し」になってしまう一面もあります。写真は、やっとこさ出来上がった、我が家用の急須。

緑茶、ほうじ茶、紅茶、中国茶、お抹茶…お茶をよく飲みます。特に食事の前後は緑茶かほうじ茶なので、「急須」は朝晩出番が多い器のひとつ。長年使っている急須がありましたが、ダンナが急須を試しに作り始めたころのもので、お世辞にも使いやすいとは言えないものでした。使うたびに「次はここをこうして欲しい」と要望を出したくなる急須(笑)。

そのおかげで(!?)今回の急須は、合格点です!

  • 茶漉しがちゃんと機能していること
  • 注ぎ口の切れが良いこと
  • ハンドルが持ちやすいこと
  • 蓋に不安が無いこと
  • 持った時に重く感じないこと

見た目に美しいのは、藤吉憲典の磁器作品には当然のこと。それに加えて、上に並べたのが、急須に求めた要素です。急須の機能として、当たり前の内容ではあります。が、実はこれらがすべて満たされている急須って、それほど多くないんですね。かたちがきれいだと思って手に取ると、ずっしりと重かったり…。

手に持って使うのが大前提ですから、まず持ちやすいかどうか。お茶を注いだ時の切れの良さや、茶漉しの詰まりにくさなど。そして、見落としがちですが蓋のつくりの良さ。蓋を取り外しやすいかどうか、つまみの大きさや形も、実は重要な要素。急須づくりには、細かい心配りと、その心配りを形にする技術が必要です。

新しい急須のおかげで「お茶を淹れる」が、いっそう楽しい今日この頃です。わたしはこういうときに道具の持つ力を感じます。道具ひとつで、同じ動作・同じ時間が楽しくなる。日頃よく扱うもの、身近にあるものこそ、好いものを選びたいなぁ、と思います。

三月スタート、ちょっぴりホッ。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

三月スタート、ちょっぴりホッ。

三月三日桃の節句。先日、ご近所の「藍の家」のお雛様をご紹介したところでしたが、花祭窯にも毎年恒例のお雛様が登場しています。そういえば去年の今頃は、学校が突然の休校になり、我が家の息子も長ーい春休みを謳歌していたのでした。

さて花祭窯のお雛様。あいにく桃の花は身近にありませんでしたが、椿がまだきれいでしたので、牡丹唐草の花器を屏風に見立てて配置してみました。干支の丑(牛)も一緒に。大きな雛飾りでは、たくさんのミニチュアの道具類も魅力のひとつで、道具を運ぶ牛車や牛が含まれているものもあります。いつもはお内裏様とお雛様だけの我が家のお雛様も、牛が入って、ちょっと豪華な感じになりました。

雛人形 藤吉憲典

三月になってわたしがちょっぴりホッとできるか否かは、それまでに決算と確定申告を無事完了できたかどうかにかかります。確定申告の期間は例年2月15日から3月15日あたりですが、三月を「ホッ」と迎えるために、2月末までに申告を済ませることを毎年目標に掲げています。目標に掲げる、なんて書くと、ずいぶんたいそうな感じがしますね(笑)…花祭窯おかみの大切な仕事のひとつです。今年も無事終わり、ホッとして、お雛様。春を迎える準備を一つ一つ楽しむ季節です。

雛人形 藤吉憲典

ダンナの仕事場が、ときどき動物園のようになります。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

ダンナの仕事場が、ときどき動物園のようになります。

ロンドンにある藤吉憲典の契約ギャラリーSladmore ContemporarySladmore Galleryは、半世紀以上続く老舗のギャラリー。「Animal sculpture」分野のプロフェッショナルとして、近代から現代にかけての彫刻家の作品を扱い、その審美眼を信頼するクライアントが世界各地にいらっしゃいます。

昨年来、作家にオファーが届いた展覧会タイトルは、「Dogs, Cats and Other Best Friends」、「Sporting animals」、「Endangered animals A-Z」と動物をテーマにしたもの。これまではほとんどが「ソロ(個展)」でしたので、テーマも作品も作り手が自由に決めていましたが、ギャラリー主催のグループ展に参加するようになると、「あるテーマのなかでの自由な表現」へのチャレンジ機会が生まれてきます。

そんなわけで、磁器彫刻家・藤吉憲典の制作工房には、動物たちの姿があります。カバ、サイ、野鳥などの定番に加え、テーマをいただいたことで新たに生まれるキャラクターもあり、賑やかになってきました。最近の新顔は、猟犬、ハヤブサ、ペンギンなど。

藤吉憲典 箱シリーズ 犬
藤吉憲典 陶箱シリーズ
藤吉憲典 陶箱シリーズ

ここでご紹介した写真は、いずれも「素焼き」の窯から上がった状態のもの。ここまでの工程で、まず形が決まります。そしてここからは、色がついて行きます。染付の下絵から本窯焼成、赤絵(上絵)付をして赤絵窯へと、「絵付け→窯焚き」を複数回繰り返して、完成品となります。それまでは、仕事場に動物の姿がごちゃごちゃといる状態。

それぞれの作品がどのように出来上がるのか、最終形のイメージは作り手の頭のなかだけにあります。窯から出てきて「これで完成!」を目にするのが、とても楽しみです。

肥前磁器の美:藤吉憲典の器「色絵磁器人形(いろえ じき にんぎょう)“お茶を飲む婦人”」

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

肥前磁器の美:藤吉憲典の器「色絵磁器人形(いろえ じき にんぎょう)“お茶を飲む婦人”」

磁器作家・藤吉憲典がつくる肥前磁器の美しさを伝えるシリーズ。「美しさ」には「用途の美」を含みます。使い勝手の良さも含めて「美しい」と言えるもの。そこにこそ、江戸時代から400年続く肥前磁器の価値があると思っています。

「肥前磁器(ひぜんじき)」という呼び方は、まだあまり一般的ではなく、「有田焼」とか「古伊万里」といった方が、イメージできると思います。肥前磁器とは、有田焼、伊万里、鍋島などと呼ばれる、北部九州地方(肥前地域)で作られてきた磁器の総称です。地域的には現在の佐賀県・長崎県あたり。

今回は「用途」からちょっと離れて、磁器人形をご紹介いたします。磁器人形(porcelain doll / figurine)というと、スペインのリヤドロや、ドイツのマイセンといったヨーロッパの磁器メーカーの名前が思い浮かぶ方も多いかもしれませんね。

それらヨーロッパ磁器のお手本となっていた江戸時代の肥前磁器にも、磁器人形を作る文化はありました。有名なところでは、柿右衛門窯の色絵磁器による人形。たとえばサントリー美術館には、1670年代~1690年代に作られた柿右衛門の手によるとされる色絵女人形があります。

下の写真は、藤吉憲典による色絵磁器人形「お茶を飲む婦人」。藤吉憲典の所属するロンドンのギャラリーでは、藤吉は「ceramicist(陶芸家)」と呼ばれたり「ceramic sculptor(磁器彫刻家)」と呼ばれたりしています。それはまさに、このようなポーセリンドール(porcelain doll)(フィギュリン figurineとも呼ばれます)を制作するから。磁器を素材とする彫刻家ということです。

色絵磁器人形 藤吉憲典
藤吉憲典の器「色絵磁器人形(いろえ じき にんぎょう)“お茶を飲む婦人”
藤吉憲典の器「色絵磁器人形(いろえ じき にんぎょう)“お茶を飲む婦人”

現代の肥前磁器の産地で、このように丁寧に美しい人形を作る技量を持った職人さんは、もうほとんどおられないかもしれません。「肥前磁器=食器」だけではないことを、形で残していくのも、藤吉憲典の現代肥前磁器作家としての大切な使命です。

お客さまからのご相談をきっかけに生まれるもの。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

お客さまからのご相談をきっかけに生まれるもの。

芸術家(アーティスト)は「自分勝手に好きなものを作る」イメージを持っている方も多いと思います。たしかにそういう面も強いです。でも「全くの無」からイメージが降ってくるわけではありません。たまに、自分は何からも影響を受けていない完全なオリジナルだと言う作り手がありますが、それは傲慢です(笑)

古今東西あらゆる芸術は、意識的無意識的に「何かにインスパイアされて生まれる」もの。そこには「第三者の意見」も含まれます。「他者の要望に応えて作るのは芸術ではない!」という方は、美術史に名を残しているアーティストたちを振り返ってみると良いでしょう。芸術のあらゆる分野で、王様をはじめ宗教家、政治家、資産家といった「人」や組織のオーダーに応え、そこに自らの創造性を発揮するところから、名だたる作品が生まれ残ってきていることがわかります。

さて、磁器作家・藤吉憲典もまたしかり。藤吉にインスピレーションを与える最も大きな存在は、「身の回りの自然」と「古き良きもの」ですが、彼の作品を愛してくれる常連のお客さま(ギャラリーやコレクターなど)からの相談もまたその源、きっかけとなることがあります。そしてそれらは、作り手にとって、とてもワクワクすることであることが多いです。

上の写真は、10年以上のお付き合いのお客さまからのご相談に応えたもの。古典的でありながら新しい、用途ある装飾品「葉巻用の灰皿」です。ご相談が無ければ、おそらく藤吉自ら作ろうとは思わなかった分野ですが、ご相談を受けて「面白そう!」と思えば集中して取り組むのが、アーティスト気質なのだと思います。

葉巻の専門店に足を運び、根掘り葉掘り話を聞いたり、灰皿などのアクセサリー類をに手にって見てみたり、実際に何本か購入してみたり。また葉巻を吸っている友人から資料を借り出したり、「実際に吸っている人」の立場からの意見を聞いてみたり。最初に相談を受けてから、実際にこうして「ひとつめ」が形になるまで、1年近くかかっています。

なお特別注文のご相談につきましては、ギャラリーさんも個人のお客さまも、親しく価値観や理想のイメージを共有できるお客さまに限らせていただいています。詳しくは「特別注文のご相談について」をご覧くださいませ。

肥前磁器の美:藤吉憲典の器「染付栄螺型香炉(そめつけ さざえがた こうろ)」

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

肥前磁器の美:藤吉憲典の器「染付栄螺型香炉(そめつけ さざえがた こうろ)」

磁器作家・藤吉憲典がつくる肥前磁器の美しさを伝えるシリーズ。「美しさ」には「用途の美」を含みます。使い勝手の良さも含めて「美しい」と言えるもの。そこにこそ、江戸時代から400年続く肥前磁器の価値があると思っています。

「肥前磁器(ひぜんじき)」という呼び方は、まだまだ一般的ではありません。「有田焼」とか「古伊万里」といった方が、わかりやすくイメージできると思います。肥前磁器とは、有田焼、伊万里、鍋島などと呼ばれる、北部九州地方(肥前地域)で作られてきた磁器の総称です。地域的には現在の佐賀県・長崎県あたり。

肥前磁器の伝統は「写し」の文化によって受け継がれてきています。朝鮮半島から伝わった技術でスタートした磁器制作は、中国磁器に学び真似ることにより、その技術やデザインを発展させてきました。写しによる文化の継承は、江戸時代から現代にいたるまで続いています。

染付栄螺型香炉 藤吉憲典
染付栄螺型香炉 藤吉憲典

「コピー」が質を劣化させながらの表層的な真似であるのに対して、「写し」はオリジナルを超える良いものを生み出そうとする行為。写し継がれることによって、現代に生きています。現代作家・藤吉憲典が作るものも八割方は「写し」あるいは「写しを発展させたもの」です。

染付栄螺型香炉(小) 藤吉憲典

「香炉」自体は、現代の生活のなかで「ふだん使うもの」ではないかもしれません。ただ「蓋付きの器」として考えれば、それは食の器にもなり、大切なものを入れる箱にもなります。そもそも名前は便宜上つけられるものですから、名前にとらわれず用途に生かすことこそが、「見立て」の文化の面白さ。

今回ご紹介している栄螺型の香炉も「本や美術館で見たことがある!」という方があるのではないでしょうか。肥前磁器の収集で知られる戸栗美術館(渋谷区松濤)のサイトでも、江戸時代(17世紀後半)の貝型の蓋物が紹介されています。時代により、作り手により、どのように変わるのかを楽しむことができるのも、肥前磁器の魅力です。

肥前磁器の美:藤吉憲典の器「染付梅散し文小壺」

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

肥前磁器の美:藤吉憲典の器「染付梅散し文小壺」

磁器作家・藤吉憲典がつくる肥前磁器の美しさを伝えるシリーズ。「美しさ」には「用途の美」を含みます。使い勝手の良さも含めて「美しい」と言えるもの。そこにこそ、江戸時代から400年続く肥前磁器の価値があると思っています。

「肥前磁器(ひぜんじき)」という呼び方は、まだまだ一般的ではありません。「有田焼」とか「古伊万里」といった方が、わかりやすくイメージできると思います。肥前磁器とは、有田焼、伊万里、鍋島などと呼ばれる、北部九州地方(肥前地域)で作られてきた磁器の総称です。地域的には現在の佐賀県・長崎県あたり。

下の写真は、藤吉憲典の作った「染付梅散し文小壺」。つくりも絵付も、それぞれは古典に倣ったものですが、このつくりと絵付の組み合わせは全くのオリジナル。古いものを古いままに写すのではなく、組み合わせや創意の足し算で新しいものを生み出すことこそが、現代作家としての仕事の価値だと思います。

染付梅散し文小壺 藤吉憲典
染付梅散し文小壺 藤吉憲典

名前に「小壺」と付けていますが、この形を見て「文琳(ぶんりん)」とピンとくる方も多いと思います。茶道具の一つ、お抹茶を入れる「茶入(ちゃいれ)」に見られる形です。文琳とは、林檎(りんご)の異名(美称)です。ご覧の通り、リンゴのような形をしているから、ですね。

茶道具でお茶を入れる器を「茶入」と呼び、茶葉を入れる大きな壺に対して、お抹茶を入れる小さな壺を「小壺」と呼び、さらにその形によって「茄子(なす)」「瓢箪(ひょうたん)」「肩衝(かたつき)」「文琳(ぶんりん)」「弦付(つるつき)」「大海(たいかい)」「丸壺(まるつぼ)」「鶴首(つるくび)」などの呼び名がついています。

実際にお茶を習う場面、お茶会の場面では、磁器の絵付のついた茶入に出会ったことはほとんどありません。けれども、そもそも「見立て」の道具もまたお茶の楽しさのひとつですから、いろいろなものがあって良いはず…ということで生まれた小壺。

ちなみに茶入の蓋(ふた)は、古いものだと通常「象牙(ぞうげ)」で作られているのですが、本作は「象牙っぽく作った磁器製」です。本作をお買い上げのお客様が「これは面白い!」と一番気に入ってくださったポイントでした。お使いになる方と作り手との間に、こうした遊び心を共有できるのも、お茶をはじめとしたやきものを取り巻く文化への造詣あってこその楽しみです。