ダンナ、十二種類の向付(むこうづけ)を一挙制作中。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

ダンナ、十二種類の向付(むこうづけ)を一挙制作中。

たまには、ダンナ=肥前磁器作家・藤吉憲典の仕事ぶりをご紹介。おかげさまで夏に向かって仕事が重なっています。七月は銀座黒田陶苑さんでの個展と、博多阪急百貨店さんでの展覧会、八月の北京個展への納品、その間に親しいお客さまへの大もの納品。そんなわけで年明けから三月のギャラリー栂さんでの個展をはさんで、怒涛の制作が続いています。

制作における新しいチャレンジもいろいろあります。何年キャリアを重ねても、チャレンジはずっと続きますね。作家自身の内側から湧き出てくるものと、お客さまとのコミュニケーションの中から生まれてくるもの。まさに「あれも、これも」の状態です。そのなかでも、今まさに取り組んでいるのが、十二種類の向付の制作。向付はこれまでにもいろいろと作ってきていますが、新作をまとめて十二種類一気に作るというのは、初めての試みですので、制作の様子を見ているだけでも、なかなか面白いです。

向付とは、懐石料理に用いられる器のひとつで、お刺身など酒の肴(「お向こう」と呼ぶそうです)になるものを盛り付ける器です。形やサイズはさまざまで、浅いもの、深いもの、いろいろあります。お膳の向こう正面に配置されることから、向付と呼ばれれているようです。お食事の最初の方に、正面にどんと登場する器ですから、その役割はなかなか重要です。

作り方としては、向付の完成イメージ(形)を粘土で形づくり、それをもとに石膏を流し込んで型を作り、出来上がった石膏型を使って生地をかたどり、ひとつひとつ削って形を仕上げ、足を取り付けるなどの加工を施し、生地が乾いたら素焼きし、下絵付(染付)を施し、釉薬をかけて本窯焼成し、赤絵(上絵)をつけて、赤絵窯で焼成して、ようやく完成です。赤絵は、文様により絵付と焼成(窯)の工程を複数回繰り返すこともあります。

下の写真は、現在制作している十二種類の中の一部。上に紹介した工程のなかで、削りで仕上げを施した生地の状態です。十二種類ぜんぶ並ぶと、なかなか壮観です。この写真を撮った後、素焼きの窯に入っています。

藤吉憲典 向付

藤吉憲典 向付

藤吉憲典 向付

工程が多く、手間と時間がかかる仕事ですが、それだけにイメージ通りに出来上がったときの嬉しさと満足感は大きいものです。そして実際に料理屋さんで使っていただいている場面を見るのも、とても楽しみです。完成形を見ることができるのはまだ先になりますが、ワクワクしています。

藤吉憲典の制作活動のようすは公式インスタグラムで!https://www.instagram.com/ceramicartist_kensukefujiyoshi/

読書『あきらめる』(小学館)山崎ナオコーラ著

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読書『あきらめる』(小学館)山崎ナオコーラ著

山崎ナオコーラさんといえば『人のセックスを笑うな』と、タイトルがすぐに出てきますが、実はわたしは本書が初めましてでした。『人の…』も読んだことはありません。にもかかわらず、お名前に対して親近感があるのは、ペンネームの妙ゆえですね。これって、さりげなくすごいことだと思います。

さて『あきらめる』。小学館のサイトでの紹介文冒頭にあるのが、本書内から引用されている下の文言です。

登山で頂上まで行く? 途中で降りられる?
「『あきらめる』って言葉、古語ではいい意味だったんですってね。『明らかにする』が語源らしいんです」

小学館『あきらめる』https://www.shogakukan.co.jp/books/09380129

火星移住がはじまった近未来が舞台のSFチックな小説とはいいながら、物語の展開自体は、とても身近な家族の問題、個人の生き方の問題として、心あたるところ多々で、頷きながら読みました。最後に登場人物はめいめい「自分の嫌なところ」をあきらめて受け入れる、そんな境地に辿り着きます。その考えはなるほどと思えるのですが、そのように開き直るには、まずは「自分の嫌なところ、ダメなところ」を、自覚して認めないといけません。それが「(自分自身に対して)明らかにする」ということですね。たぶん、それが難しいのだな、と。

最後の方で、途中で降りることが出来た自分が誇らしい、というようなセリフが出てきます。上へ上へとてっぺんを目指して登っていくばかりがすべてではないことに、そろそろ気づくべき時が来ていると、そんなことがストレートに、あたたかく伝わってくる本でした。

『あきらめる』(小学館)山崎ナオコーラ著

読書『家庭用安心坑夫』(講談社)小砂川チト著

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読書『家庭用安心坑夫』(講談社)小砂川チト著

先日読んだ『猿の戴冠式』がツボにはまったので、図書館で著者名検索。蔵書にありましたので、すぐに手に取ることが出来ました。ありがたいですね、図書館。本書は群像新人文学賞受賞作だそうです。

さて『家庭用安心坑夫』。『猿の戴冠式』もずいぶん不思議で独特な世界でしたが、ファンタジーっぽくもSFっぽくも解釈できるものでした。ところがこの『家庭用安心坑夫』は、とても現実味があって、それゆえに狂気的な怖さを感じました。

主人公の行動と、主人公の記憶にある母親の行動やセリフは、ちょっと視点をずらせば大笑いできそうなコメディ的要素がありながら決してそうはならず、ジワジワと切迫感が押し寄せてきます。一気に読み上げたあとは、本書のタイトルの秀逸さに、ため息が出ました。小砂川チトさん、これからも読んでいきたいと思います。

上の写真は講談社bookのサイトから。『家庭用安心坑夫』も『猿の戴冠式』も、独特の表紙絵のインパクトが大きかったので、少しネットで調べてみました。装画は榎本マリコさん、装幀が岡本歌織さんという、どうやら今とても人気のあるクリエイターさんのようです。「顔の無い人物」の画は、いろいろな想像を掻き立てるテーマ性を感じますね。

『家庭用安心坑夫』(講談社)小砂川チト著

今年の南坊忌献茶式&お茶会は、芦屋釜の勉強もあって盛沢山でした。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

今年の南坊忌献茶式&お茶会は、芦屋釜の勉強もあって盛沢山でした。

毎年四月に開催される「南方流遠祖南坊宗啓禅師献茶会」。南方流の祖である南坊宗啓禅師にあらためて感謝する機会であり、献茶のお点前を拝見できる貴重な機会であり、和尚さんから直々に『南方録』の一節をご教授いただく嬉しい機会でもあります。今年は、南方録の勉強の代わりに、芦屋釜の勉強がありました。

南方流の先生のなかに、芦屋釜の先生がいらっしゃいます。福岡県芦屋町にある「芦屋釜の里」では、1997年から町の事業として芦屋釜製作技術の継承・鋳物師の養成を行ってきています。その鋳物師養成の指導をなさってきた遠藤先生。ふだんはお茶会でごあいさつできるぐらいで、運よく一緒の席に入れたときに、少しお話をお伺いできるくらいでした。今回、南方流に伝わる「古芦屋釜」の復元にあたり、専門的なお話を聞くことが出来たのは、とてもありがたいことでした。

芦屋釜の里

芦屋釜が歴史の中で一度途絶えてしまったのは、なぜだったのか。「釜」がお茶道具のなかで、どのような存在・位置付けものであるのか。修理修復・復元を検討する際に現れた課題と、それを紐解くための文献資料等についてのお話など、とても興味深く拝聴いたしました。九州国立博物館の協力を得ての古釜の解析、そこから復元工程の地図を描き、制作・完成に至るには1年半ほどを要しておられ、その道のりのたいへんさをうかがい知ることが出来ました。

お勉強のあとは、お弁当をいただき、濃茶薄茶の残茶拝服。あいにくの雨で、露地からの席入りはできませんでしたが、雨音と新緑を感じながら、おいしくお茶をいただきました。今年も贅沢な一日でした。

読書『地球の歩き方 北九州市』(Gakken)地球の歩き方編集室

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『地球の歩き方 北九州市』(Gakken)地球の歩き方編集室

4月の初めに小倉(北九州市)に出かけたときのこと。

小倉駅近くの本屋さんに立ち寄りましたら、入ってすぐ一番目立つところに、本書が大量に平積みされていました。若かりし頃、海外旅行ガイドといえば『地球の歩き方』でした。その国内版の第一弾として刊行されたのが、この『地球の歩き方 北九州市』なのだとか。今年から北九州方面にご縁が増えそうな予感がしていたところにこの平積みを目にして、迷わず一冊手に取りレジに向かいました。

368ページ。『地球の歩き方』は、特集エリアによって厚さがかなり異なりますが、市町村規模のガイドとしては、そこそこ(かなり!?)厚い方なのではないでしょうか。記事を読むと、編集室の皆さんが楽しみながら、面白がりながら記事を作り上げていった感じがとても伝わってきました。そして、これがとても売れているのだそうです(笑)

総務省サイトによると、2024年4月19日現在の「本日の市町村数」は、1718市町村(北方領土除く)なのだそうです。そんなにたくさんの自治体があるなかで、北九州市が最初の一冊というのが、一福岡県民としてはなんとも面白く、「なぜ!?」という感じが無きにしも非ずも、「よくぞ!」と編集室を称える気持ちが沸き上がってきました。

読書『地球の歩き方 北九州市』(Gakken)地球の歩き方編集室

上の写真はわたしが買ったものですが、2024年2月13日の初版第1刷に対して、既に2024年3月25日第3刷。第1刷の部数が少なかったのかもしれませんが、ひと月あまりの間に第3刷って、すごいですよね。廃刊に追い込まれる紙の媒体誌のニュースが多い昨今で、これはすごいことだと思いました。

と思っていたら、なんとタイムリーに西日本新聞に特集記事が。

読書『地球の歩き方 北九州市』(Gakken)地球の歩き方編集室

やはり「大ヒット」といえる現象のようです。

行こうと思ったらすぐに出かけられる距離感の、ふだんならまず買わないガイドブック。ですが、わたしにとっても大ヒットの一冊でした^^

『地球の歩き方 北九州市』(Gakken)地球の歩き方編集室

花祭窯の卯月の庭。

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花祭窯の卯月の庭。

先日、手入れをしていただいたばかりの庭は、これからが新緑と花の季節です。

花祭窯の庭

どんどん増えるスノーフレーク。先月の咲き始めから、いよいよ満開です。

ヤマブキ

今年はヤマブキが久しぶりにたくさん花をつけてくれています。

花祭窯の庭

紫色の花が増えてくるのも、この季節の楽しみです。

花祭窯の庭

駐車場前の花壇エリアには、芝桜がずいぶん広がってきました。この調子で「芝桜の絨毯」になるのが楽しみです。

花祭窯の露地の手入れをしてもらいました。

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花祭窯の露地の手入れをしてもらいました。

2月頃に「そろそろ剪定お願いしないとね~」と思っていたのが、うっかりしていて、気がつけば4月も半ばになっていました。プロの手をお借りしての、露地の手入れ。2015年に花祭窯の露地を作ってくださった、ガーデナー・造園家のガーデンアルテさんに、年に1回ぐらいの頻度でメンテナンスをお願いしています。

が、今回はちょっと間が空いてしまいました。既に花が咲いたり、新芽が出てきているところもたくさん。そんななかでの剪定は、素人には「どこを切ったらよいのやら!?」です。安心してお任せできるプロの存在は、ほんとうにありがたいですね。

ガーデンアルテさんのインスタグラム 「花祭窯さんの剪定作業」

サザンカ、シラカシ、ザクロ、ヤマブキ、ヤツデ、キンモクセイ、サルスベリなど、ずいぶん伸びていた木を思い切って剪定してもらい、春の雨で元気よく茂ってきていた下草の手入れと、これから花のつく植物の皆さんへの栄養補給=施肥作業を完了していただきました。良いお天気のなか、丸一日がかりの庭仕事でした。

花祭窯の露地

あとは、増殖しているツワブキを適当に摘んで春の味を楽しめば、完璧。おかげさまで新緑の季節を清々しく迎えることが出来ます♪

ギャラリーオーナーの意図・意欲が伝わってくる大胆な展示空間。

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ギャラリーオーナーの意図・意欲が伝わってくる大胆な展示空間。

肥前磁器作家・藤吉憲典の次の展覧会は7月、銀座黒田陶苑さんでの個展となります。黒田さんはこの4月11日に新しいビル・新本店がオープン。オープンに先駆けて、作家宛てに内覧のご案内をいただいており、過日ダンナがおじゃまして参りました。上の写真は旧本店、2016年の個展でお世話になったときのもの。

「これまでより展示スペースがかなり広くなっているから、ぜひ内覧に来てください」とのご連絡を受けて、足を運んだダンナ。帰ってきての第一声は、「黒田さんの覚悟というか、チャレンジ精神というか、意志がビシビシと伝わってくる空間で、ものすごくテンションが上がった!」でした。これまでの2倍かあるいは3倍かという広さに、全体のテーマカラーは黒。簡単に変更のできない内装を黒で決めるというのは、明確な意図と確固とした意志が無ければできないことのように思います。その展示スペースに並ぶモノづくりを任される作家が、どれほど意気に感じるか。内覧から帰ってきたダンナの表情を見れば、一目瞭然です。

オープニング展として開催中(5月7日まで)の「古今の名陶展」では、黒田さんがお持ちのお宝の数々をじっくりと拝見することが出来ます。作り手はその展示を見ながら、自分の個展での展示イメージをいろいろと思い描くことが出来たようです。小さいものの得意な藤吉憲典ですが、7月の個展では、大きいもの、高さのあるものもお届けすることになりそうです。壁面をどう彩るかも、楽しみですね。陶板作品・書画作品と、可能性が広がりそうです。

黒田陶苑さんでの展覧会は、おおよそ隔年で機会をいただいております。個人のお客様だけでなく、料理人さんをはじめプロのお客さまも多いのが黒田さんの特徴の一つだと感じています。目の肥えたお客さまが、心から楽しんでくださる展覧会にできるよう、すでにワクワクドキドキしています。

銀座黒田陶苑さんでの藤吉憲典個展は、7月13日(土)~7月18日(木)です。

銀座黒田陶苑さんの公式インスタグラム

銀座 黒田陶苑 新本店
東京都中央区銀座7-8-17-5F
虎屋銀座ビル5階
TEL.03-3571-3223
営業時間11:00-19:00 
毎週月曜日・定休

読書『猿の戴冠式』(講談社)小砂川チト著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『猿の戴冠式』(講談社)小砂川チト著

いつものカメリアステージ図書館新刊棚より。タイトルの不思議さと、インパクトのある表紙に手が伸びました。第170回芥川龍之介賞候補作だったそうですが、わたし個人的には、小砂川チトさん、初めましての本でした。

不思議な物語でした。最後の最後まで読まないと、ほんとうのところが見えてこない。いえ、最後まで読み切っても、どこまでが実際に起こったことで、どこからが脳内(妄想)で起こったことなのか、確信を持つことはできませんでした。わたしはとても好きですが、受け取る印象(好きか嫌いか)が読む人によってはっきり分かれるかもしれません。

悲痛な叫び声が聞こえてくるようであり、かといって主人公の彼女たちは、決して弱弱しいだけの存在ではなく。講談社サイトでの紹介文最初にある一文が、本書内からの引用なのですが、きっとこの本のテーマなのだろうな、と思いました。「思いました」と書いたのは、全部読み終わってもなお、著者の意図に確信が持てないからです。

「いい子のかんむりは/ヒトにもらうものでなく/自分で/自分に/さずけるもの。」

独特の雰囲気がツボにはまりましたので、図書館検索で著作を探してみました。群像新人文学賞受賞作という本を発見・予約完了。読むのが楽しみです。

『猿の戴冠式』(講談社)小砂川チト著

読書『シェフ』(東京創元社)ゴーティエ・バティステッラ著/田中裕子訳

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『シェフ』(東京創元社)ゴーティエ・バティステッラ著/田中裕子訳

著者のゴーティエ・バティステッラさん(声に出して読むのがとても難しい^^;)は1976年生まれ。ミシュランガイドの編集部員として働いた経歴をお餅ということで、そのキャリアが存分に生きている一冊です。

主人公は三ツ星シェフ。作中での呼び方は違うものが使われていますが、それがミシュランガイドの星を巡る物語であることは、本書のあらすじを知らないまま読みはじめても、容易に想い至るものでした。華やかでシビアでドロドロとしたフランス料理界のお話には、実在した人物の名前も頻繁に登場し、舞台裏をのぞき見しているような気分で読み進めました。

パリと地方都市の格差、料理の格付けによる差別、星を獲得した者とそうでない者との間にある明確な境界線、力を持ちすぎるメディア、厨房でのパワハラセクハラ、名声を得たがために起こる親子間夫婦間の確執…。星を維持していくことがどんなに大変なことか、星を獲得することによってがんじがらめになってしまう恐ろしさが、これでもかというほどに伝わってきました。

自分の舞台をどこに設定するのか、何を評価基準とするのか。周囲の声や風潮に惑わされずに、自分の選んだステージで道を究めようとすることは、ことフレンチシェフに限らず、重大かつ悩ましいことだよなぁと、あらためて考えさせられました。どんな分野においても、たとえ崇高な目標を掲げていても、職人(あるいはアーティスト)のプライドや承認されたいという欲求は簡単に消せるものではなく、そこに葛藤が生まれるのはあたりまえ。その苦しさが、痛いように伝わってくる読書でした。

本書は著者の三作目ということで、他の著作も読んでみたいと思います。

『シェフ』(東京創元社)ゴーティエ・バティステッラ著/田中裕子訳