読書『犬のかたちをしているもの』(集英社)高瀬隼子著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『犬のかたちをしているもの』(集英社)高瀬隼子著

先日初めて読んだ著者の『うるさいこの音の全部』が面白かったので、いつものカメリアステージ図書館で、既刊本をまとめて予約。ありがたいですね、図書館♪

『犬のかたちをしているもの』は、すばる文学賞受賞作。主人公は卵巣手術を経験した女性。そのことに加え、心理的な要因もあって、ふつうのカップルのようになれない自分の状態を客観的に眺める在りようが、不思議なほど淡々と描かれていました。「愛情」とはなにかを自分のなかで問答していくその基準が、愛犬に対して抱いていた無条件の(と思える)愛との比較で繰り返されるのは、犬と暮らしてきたことのある身には、なんとなく理解できるものでもありました。淡々と描かれているのですが、彼女とその彼氏との関係性のなかで起こることは、ちょっと尋常ではないことで、その尋常ならざる出来事に、これまた淡々と巻き込まれてしまう感じが、シュールです。

読み終わって思ったのは、ふつうってなんだ?ということ。どんどん変化していく世の中にあって、愛情の在り方に対してもいろいろな選択肢があるはずで、あるいは夫婦や家族の在り方にだって、正解はない。そのはずなのに、相変わらず何かに勝手に縛られている自分たちを「あるある!」と感じる小説でした。女性であること、妊娠・出産という事柄が起こりえることをテーマにしていて、かつ不思議なアプローチが、昨年読んだ『空芯手帳』とを思い出させました。

高瀬隼子さん、面白いです。次は直木賞受賞作品を読んでみます^^

『犬のかたちをしているもの』(集英社)高瀬隼子著

このところ、インプット>アウトプットでしたので。

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このところ、インプット>アウトプットでしたので。

2月からは、アウトプットを意識して参ります。わたくしごとですが、幼少の頃から「学ぶ」ことが好きだったのだと思います。気がつけば新年スタートの一か月は、本に映画に美術館にと、インプット満載=至福の時間を満喫いたしました。

ところがインプット>アウトプットだな、と感じてくると、本棚に並んでいる成毛眞著『黄金のアウトプット術』が目につくようになってくるのですから、不思議なものです。本書を最初に読んだのは2018年のことですから、もう6年近く前ということになりますが、そこで問いかけられていることはまったく色褪せません。

毎日のブログはすっかり習慣になっていますので、常に一定量のアウトプットはしてはおりますが、インプット量に対してぜんぜん足りていない。もっと言えば、それらが『私』という媒体を通して成果・実績に化けているかどうかが定かではない。「もっと成果として外に出さねば!」の思いが自分の内側から聞こえてくるのは、面白いことです。成毛眞氏によれば「アウトプットをすることが、よりすぐれたインプットにつながる」のであり、これは常々体感していることでもありますから、2月以降もおおいに本や映画や美術館を楽しむためにも、まずはアウトプットです。

実のところ、企み中のアウトプットは、いくつかあるのです。まず力を入れていこうとしているものは次の三つ。それぞれ、カタチになり次第ご紹介して参ります。

  • 藤吉憲典のアートを増殖・拡散させる。
  • アートエデュケーションプログラムのリリース。
  • 出版物制作。

2024年の春節は2月10日からということですが、そのまえに節分と立春がありますので、新しいことのスタートに最適です。皆さんもこの2月、アウトプットに力を入れてみませんか。レッツスタート!

郷育カレッジ講座「リフォームのコツ」を聴いて参りました。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

郷育カレッジ講座「リフォームのコツ」を聴いて参りました。

郷育カレッジの人気講座のひとつです。毎年受講を申し込んでおりましたが、ようやく抽選が当たりました。講師は福津市内で建設業を営む、株式会社片岡建設の片岡志朗さん。一級建築士でいらっしゃいます。2023年度郷育カレッジでの建築系の講座としては、福津市商工会青年部が担当してくださった「福津の仕事人 建築のひみつ」がありました。こちらも人気講座で、市民の皆さんの「家」「住まい」に対する関心の高さがわかります。上の写真は、手作りリフォームした花祭窯のお茶室の天井工事のときのもの。

さて「リフォームのコツ」。お話は、「家が出来るまでに関わる業者さん」の職種紹介からはじまり、「リフォーム事例・失敗例」「工務店の選び方」「リフォームのポイント」「補助金の活用」と続きました。いずれも具体的に役立つ内容ばかりで、受講生の皆さんが大きくうなずきながら前のめりに聴いておられる様子が印象的でした。

面白かったのは、建築から生まれたことわざや、豆知識の紹介。「几帳面」「ぼんくら」「埒が明かない」などなど、その語源が建築にある言葉の数々は、とても興味深いものでした。思わず人に話したくなるような豆知識もいろいろ。花祭窯は古民家=古い木造家屋なので、これらの言葉につながるものを体感できる部分も少なからず、あらためてこの建物を大切にしていきたいと思いました。

読書『異能機関 上・下』(文藝春秋)スティーヴン・キング著/白石朗訳

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読書『異能機関 上・下』(文藝春秋)スティーヴン・キング著/白石朗訳

スティーヴン・キング最新作は(も)、二段組の分厚い上下巻。2024年は、なんと作家生活50周年だということです。尽きることのない創作意欲は、読者にとっては嬉しいばかり。わたしにとっての「スティーヴン・キングといえば」は、『ミザリー』で、映画が1990年・小説の刊行は1987年です。自分が10代後半の時には既に第一線で大活躍していたわけで、「すごい!」の言葉しか出てきません。

文藝春秋 キング作家デビュー50周年ページ

さて『異能機関』。超能力を持つ少年少女が全米から拉致され集められている「研究所」に、やはり拉致されてきた天才少年ルークを主人公とした物語です。超能力を持った子どもたちがなぜそこに集められているのか、研究所の目的は何なのか。「世界の平和を維持するため」を大義名分にすれば、何でも許されるのか。その大義名分に嘘やほころびは無いのか。あり得ないことのようだけれども、もしかしたら自分が知らないだけで、実際に起こっているノンフィクションをもとにしているのかもしれないと思わせられる怖さ。そして、ビジュアルイメージが容易に頭に浮かぶ雄弁な文章は、これもまたいずれ映画化されるのか?という期待を抱かせるものでした。

著者あとがきで「ありえざるものを信じられるものにつくりかえる境地」を一貫して追求してきた(している)と書いてあるのを読み、そうだった、そうだよね、と。このあとがきの文章がまた素敵で、大作家をサポートしている(してきた)人たちの存在が、強く暖かく感じられるものでした。作家生活50周年の特設サイトで、近年もずっと本を出し続けているということを、あらためて感嘆の思いで眺めつつ、読んでいない本が大量にあることに気づいたからには、また少しづつ読み進めねばなりません。

2024年九州産業大学国際シンポジウム 博物館と医療・福祉のより良い関係 に参加いたしました。

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2024年九州産業大学国際シンポジウム 博物館と医療・福祉のより良い関係 に参加いたしました。

2019年から毎年開催されている、九州産業大学緒方泉教授が率いる、「大学における文化芸術推進事業(文化庁)」の国際シンポジウム。今年も参加することが出来ました。会場を設けて現地開催したのは最初の2019年だけで、そのあとはコロナ禍下でZoom開催となりました。この経験がそのまま生かされていて、今回も引き続き、日本・英国・米国をつないでオンラインでの開催でした。同じ場所に一同が介するからこそ得ることのできるものももちろんあると思いますが、オンラインによって比較的リラックスした雰囲気で開催できるというのも、大きな成果なのだと思います。また今年は全国から優に100名を超える参加者があり、これもまたオンラインだからこそ、かもしれません。

今回のテーマは「社会課題と向き合う博物館」。2023年度の学芸員技術研修会でも、博物館リンクワーカー人材養成講座でも、この一年間は、これがテーマになっていました。登壇者は、英国ダリッジ・ピクチャー・ミュージアムと米国ケアリングカインドから。米国からは「博物館のアクセス指導者(access educator)」という職種が20年以上も前からあることと、その役割と成果を知ることが出来ました。また毎回、最新の取り組みを報告してくださるロンドンのダリッジ・ピクチャー・ギャラリーからの発表は、今回もとても刺激的でした。

以下、備忘。


  • social impact
  • 大切なのは、わたしたちの行為の内容や意図ではなく、その効果。
  • 博物館が実際に人々の生活や人生を変えられるとしたら、まず人々の生活や人生の一部になる必要がある。
  • 子ども・若者への一貫した支援の必要性。
  • 学校における資源(人的・物的)不足を、美術館が補う。
  • 教員のサポート。
  • マインドフルネス・リラクゼーション・創造的問題解決。
  • 学校現場における創造的資源不足。
  • 移行期に人が持つ感情:未知の世界に対する緊張感・興奮・恐れ
  • slow looking
  • 作品への没入を促す瞑想への手引き。
  • 日常から解放された自由な時間のなかで、何が起きるのか。
  • access educator
  • connect2culture®
  • 認知症患者の支援と、その介護者の支援。
  • Meet Me at MoMA
  • 文化団体のネットワーク構築。
  • プログラムの評価を行う仕組み。

毎年このような素晴らしい機会を用意してくださる緒方先生に、心より感謝いたします。ありがとうございました!

映画『ラーゲリより愛をこめて』を観てきました。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

映画『ラーゲリより愛をこめて』を観てきました。

年末に2023年の映画ベスト3を出しておりましたが、2024年も引き続き「だいたい月に1本ペース」の映画鑑賞を目指して参ります^^

その1本目となったのは、いつものカメリアステージ図書館が主催する映画上映会。これまでにもたまに開催されていたのは知っていましたが、古い邦画やアニメーションが多かったこと、タイミングが合わなかったことなどで、足を運んだことがありませんでした。会場は、図書館に隣接する「カメリアホール」。500席以上を有する立派なコンサートホールです。スクリーンの位置が舞台の後方に設置されるため、どうしてもちょっと遠くなってしまう感じは否めませんが、図書館の隣ですから、花祭窯から徒歩圏内。こんなに近所で映画を観ることができるとは、ありがたいことです。

『ラーゲリより愛をこめて』は、つい最近、2022年の映画でした。邦画好きの我が家の息子が公開後すぐに観に行っており、「号泣ものだよ」と称した一本です。わたしは気になりつつも観ていませんでしたので、思いがけず嬉しい機会となりました。

第二次大戦終戦後のシベリア抑留の物語。原作は辺見じゅん著『収容所から来た遺書』で、事実をもとに描かれた物語だということです。主人公・山本幡男を演じた二宮和也くんはもちろん、俳優さん一人一人の存在感が胸に迫ってくる映画でした。シーンのタイミングごとに「194○年 戦後○年」のテロップが現れ、そのたびに、戦争が終わって何年経っても何も終わっていなかった現実が重くのしかかってきました。どうしてそんなことが許されたのか、敗戦国には何の権利も残されていなかったのだろうと、腹立たしさと無力感を感じながらの鑑賞でした。ラストの方で、北川景子扮する山本の奥さんが手にした新聞に、かの有名な「もはや戦後ではない」の文字が躍っているシーンでは、当時このセリフをはらわたが煮えくり返る思いで聞いていた(読んでいた)人たちの存在を思わずにいられませんでした。それにしても二宮くんの、静かななかにも凄みのある演技が、すごかったです。渡辺謙と共演した『硫黄島からの手紙』のときも感じましたが、圧巻でした。

さて上映会の出口では、原作本を置いて図書館スタッフさんが貸し出し予約の受付を声掛けしていらっしゃいました。本と映画。「本→映画」もあれば「映画→ノベライズ」もありますから、図書館主催の映画上映会というのは、理に適っているのです。これからもどんどん、このようなイベントをしてくれたらいいな、と思いつつ。わたしはまだ原作を読んでいませんでしたので、貸し出し予約を入れておこうと思います。

アジ美(福岡アジア美術館)で開催中のベストコレクション展も良かった!

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アジ美(福岡アジア美術館)で開催中のベストコレクション展も良かった!

世界遺産大シルクロード展を観たあとは、コレクション展示室へ。九州国立博物館、福岡市美術館の常設展示室の所蔵品の充実度合いの分かりやすさに比べると、アジ美のコレクションは、少し分かりにくいかもしれません。というのも、福岡アジア美術館は「アジア現代アートの聖地」を謳っている通り、アジアの作家さんによる美術、それも現代アートですから、見た目に馴染みが無くて難解に思う人もいらっしゃるだろうな、と。だからこそ、ぜひ実物を観てみていただきたいな、とも思います。

アジ美は2024年3月6日に開館25種年を迎えるということで、記念の「ベストコレクション」展が開催中です。会期は2024年4月9日までとなっています。上の写真は右側に写っているのは、展示のメインとなる作品のひとつ、中国の現代アーティスト・方力鈞(ファン・リジュン)さんの「シリーズ 2 No.3」。一度見たら忘れられないインパクトと、ちょっと中毒性のある作品です。何度も観たことがありますが、見るたびに新鮮な衝撃があります。初めて見たときには(それが何年前のことだったか覚えていませんが)、正直気持ち悪さを感じたのでしたが、だんだんと親しみに変わってきているのを自分でも感じるのが、面白い。

そしてコレクション展ではもう一つ「切り紙の魔術師 呂勝中」も開催されていました。これがまた素晴らしかったです。中国で1500年以上の歴史を持つ伝統文化の「剪紙(切り紙)」の手法を用いて、なんともポップでシュールな現代的な表現が出来上がっていました。陶芸家・磁器彫刻家・書家である藤吉憲典は「伝統の継承を、生きた個性で形にする」をミッションとして制作を続けていますが、まさにそのような意気込みを感じる作品の数々でした。

今年は1月から素晴らしい展覧会に足を運ぶことが出来ていて、とてもラッキーです♪

世界遺産 大シルクロード展@福岡アジア美術館を観て参りました。

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世界遺産 大シルクロード展@福岡アジア美術館を観て参りました。

福岡アジア美術館で正月1月2日から開催中の「日中平和友好条約45周年 世界遺産大シルクロード展」。ダンナが会期スタート早々に足を運んで大絶賛していましたので、博多に出たタイミングで観て参りました。

「世界遺産認定後、中国国外で初めて行われる大規模展」と銘打ってありましたが、まさに圧巻でした。石彫、壁画、絵画、手紙や写経(書)、唐三彩、彫金、青銅器…シルクロードが運んできた文化が、どれほど日本に大きな影響を与えてきたかを、痛烈に感じる展覧会でした。その、時間と空間にまたがるスケールの大きさを、展示物とともに写真資料・映像資料とで感じることができ、展示計画にも頭が下がりました。

数ある名品のなかから、わたしが特に見入ってしまったのは、次の三つ。

世界遺産 大シルクロード展@福岡アジア美術館

↑まずひとつめは、パッと見て兵馬俑を思い起こした、青銅器の馬隊。大きさは兵馬俑に比べたらずっとミニチュアですが、馬の表情が良くて迫力がありました。もっとたくさんあったのかもしれないな、どんなふうに並んでいたのかな、と想像すると楽しくて、思わずニヤニヤしながら眺めました。

↓ふたつめは、唐三彩のラクダ。やきものでこのような造形を作る難しさがわかっているだけに、感嘆のため息が出ました。

大シルクロード展@福岡アジア美術館

ラクダの姿の美しさはもちろん、鞍についた魔除けの顔がインパクト大でした。

↓みっつめは、ラクダのはく製。

大シルクロード展@福岡アジア美術館

数々の名品にお腹いっぱいになった出口付近で待ち構えていたラクダ2頭。こんなに大きいのですね。大迫力のサイズと毛並みの豊かさに、思わずじっと立ち止まりました。本展覧会は写真撮影OK(フラッシュ禁止・動画撮影禁止)でしたので、このコーナーで写真を撮っている人多数。

会期は3月24日(日)まで。お近くの方はぜひ足を運んでみてください。

小雪舞うなかお茶のお稽古始め。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

小雪舞うなかお茶のお稽古始め。

この冬一番の寒気で雪の注意報が出ているなか、お茶のお稽古始めに行って参りました。今年は初釜茶会が中止になりましたので、ちょっぴり遅めの「本年もよろしくお願いいたします」。お天気のせいか、お稽古に来ていた人の数はいつもより少し少なめでしたが、先生方はお元気に揃っておられ、新年のご挨拶が出来ました。

引き続き奥点前のひとつ「袋茶碗」のお稽古をしています。茶道南方流では、奥点前のお稽古は、ひとつのお点前を一年かけて習います。昨年の春からはじめたので、この春を目途にある程度身に付けねばなりません。前回のお稽古からひと月以上経っていましたので、またゼロからとは言わないものの、思い出しながらのお点前です。ひたすら繰り返しですね。

お稽古始めで、いくつかのお道具が新しくなっているのを発見。仕覆の一つに、長年使い込まれていたものがあり、これ以上劣化させないようにと、扱うのにとても緊張していたのですが、新しくなっていました。姿を見ただけでは気が付かなかったのですが、新しい仕覆は紐を広げるときに「キュッ」と、音というか感触があって、お点前をしながら「あ!新品だ!」とわかりました。まだ馴染んでいない感じが、とても新鮮でした。

コロナ禍以降、お稽古ではまだ「ご自服(自分で立てて、自分でいただく)」が続いていますが、それでもお菓子とお抹茶をいただくと、とてもホッとして幸せな気持ちになります。今年もこの場所に来ることができるありがたさ。亀の歩みですが、精進してまいります。

読書『新古事記』(講談社)村田喜代子著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『新古事記』(講談社)村田喜代子著

いつものカメリアステージ図書館新刊棚から。『新古事記』のタイトルに、昨年読んだ町田康著の『口訳 古事記』を連想し、勝手にそのようなものだと思い込んで借りてきた一冊です。今気が付きましたが『口訳 古事記』も講談社さんからの発刊でしたね。

さて『新古事記』。事前情報無しに読みはじめ、すぐに「思っていたの(古事記の新訳版とか意訳版とか)と違う!」とわかりました。が、ストーリーと文章に引き込まれてそのまま読み続け。

第二次世界大戦日米開戦後のアメリカにおける原爆開発の物語です。開発者たる科学者たちのお話ではなく、その妻たちのお話。半分ほど読み進んだところで「あとがき」をチェックし、これが実際に科学者の妻であった人の手記をもとにした物語であることを知りました。

原爆開発チームに入った科学者とその家族が、世界と隔絶したニューメキシコの大地に続々と集まり、ひとつの街が出来、その最終実験、投下、チームと街が解散するまで。主人公はその開発チームに参加している若き科学者のパートナー(のち妻)であり、日系三世であることを公にはせずにきた女性で、その目線で描かれる物語は、一見穏やかに流れる時間のなかに小さくはない緊張感や不安がつきまとっていました。

主人公が受付兼看護助手として勤める動物病院は、研究者の家族たちの犬(犬もまた大事な家族の一員)のために設けられていて、そこに「うちの子」を抱えてやってくる奥さんたちの緊張や不安もまた、直接的に描かれないからこそ切実に伝わってきました。自分の夫がここで何をしているのか知らされず、箝口令が引かれた暮らしのなかで、いかにして平静を保つか。科学者たちは科学者たちで、自分たちの研究開発が目指す結果の重さに耐えながらも、家族に対してさえ、事実を話すことが出来ない。

その抑圧的な街での暮らしの結果が、犬の出産ラッシュだったり、人間の結婚ラッシュと出産ラッシュだったりして、なんだか生き物の根幹を見せつけられるようでもありました。犬たちの姿を通して見えてくるものが、物語のなかで大きな役割を果たしていました。

村田喜代子さんのお名前は知っていましたが、著作を読んだのは、おそらく今回が初めてでした。とても文章がやわらかくて引き込まれましたので、これから過去作遡って読んでみたいと思います。