6月9日は開窯記念日-おかげさまで花祭窯は29年目に入りました―

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

6月9日は開窯記念日-おかげさまで花祭窯は29年目に入りました―

昨日の夕食後、ふと「今日ってもしや6月9日?」と気が付きカレンダーを確認。記念日に執着がないので、ついつい「いつだったか」「何年目だったか」を忘れがちです。ここ数年は、このブログに記事を残すことで「〇年目」を確認しやすくなりました^^。ということで、花祭窯29年目に突入。今年もこのようにブログを更新できるありがたさです。弱小なわたしたちを、いろいろな場所・場面で、さまざまに支え助けてくださる皆様に、あらためて心より感謝申し上げます。

少し前のこと。長年にわたりお世話になり、存在自体がわたしたちにとって精神的な支えであるギャラリーさんから、1年後の閉店を決めたとご報告いただきました。ギャラリーの仕事もまた作家と同じで、ほんとうに好きでないとできないし、オーナーの価値観世界観がそのまま空間に反映されるものです。「誰かが継げるものではない」と考えておられるのは、以前からお聞きしていましたし、その通りだと思っていました。ご自身の体力気力が充実しているうちにとご判断なさったとのことで、それもまた共感できます。とはいえ、いつかそういう日が来るとわかっていても、実際にそのご決断をお聞きすると、やはり衝撃は大きいものでした。これまでわたしたちを見守ってくださったオーナーさんに、「藤吉憲典」の道を切り拓いて、面白く進み続ける姿をご覧いただくことが、最大の恩返しになると信じています。

さて29年目。器作家として・磁器彫刻家として・書画家として、という作品作りから、「藤吉憲典」の世界観を全体として楽しんでくださるファンが増えると嬉しいな、というところを目指しています。我ながらうまく言語化できていませんが…。一見ジャンルの異なる作品群も、作家のなかではすべてがつながっていて、幼少期から現在までのさまざまな体験・キャリアに基づいていると明らかに実感することが、年を経るごとに増えています。「無駄な経験などない」と聞くことがありますが、まさに「あのときのあれは、ここにつながってたのね」という「腑に落ちる瞬間」であり「確信」です。

今年は前半に器の展覧会が二つありましたので、年明けからここまでは器づくりに集中していました。ここから後半に向かっては、ひとまずアート方向にかじを切ります。書画作品制作に磁器彫刻作品制作。いくつものジャンルを手掛けるのは、作家にとって良い気分転換になるようで、それぞれの仕事が刺激にもなってお互いに良い影響をもたらしていることが、側で見ていてもわかります。違う脳ミソを使い、手や体の使い方も異なるからこそ、飽きることなく集中できる、という要素があるようです。

「四十、五十は洟垂れ小僧」の世界、今年作家はその50代ラストイヤーを迎えます(まだ先の話ですが)。洟垂れ小僧から卒業できるかどうかは、今年の仕事にかかっています。応援してくださる皆さんが、楽しんでくださる、喜んでくださるものを生み出せると嬉しいです。

大阪万博視察・その3-大屋根リング、スタッフの皆さん、その他雑感。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

大阪万博視察・その3-大屋根リング、スタッフの皆さん、その他雑感。

開場2時間前にゲート前に到着したおかげで、もちろん2時間待ちはしたものの、9時5分には会場内に入っていました。全体的に西ゲートのほうが空いているという情報は得ていたのですが、バスだと時間が読めないかもという不安があって、最初のパビリオン予約時間(9時半)に確実に間に合わせるべく、地下鉄を使いました。朝早かったこともあって、梅田からの御堂筋線も、本町からの中央線も座ることができたというラッキー。

入場までの待ち時間は、思いのほか早く過ぎました。というのも、折り畳み椅子に座って朝ご飯を食べたりしていたので(笑)。またセキュリティスタッフの方々が、随時必要な情報やタイムスケジュール、これまでの入場のときに起きたトラブルや、どうしたらスムーズにいくかなどの経験談を、マイクを通して伝えてくれたのが大きかったです。ユーモアを交えながらの説明に、皆笑顔で聞いていました。こういう時は、命令口調ではないほうが受け入れられやすいですね。おかげで、混雑にありがちなとげとげしい雰囲気は一切無く。これは凄いことだなぁと思いました。

最初のパビリオンが、入場した東側とは反対側の西側でしたので、すぐに大屋根リングに上り、リング上を西側まで移動しました。ほとんどの皆さんが、目的のパビリオン目指して地上を走って行かれたので、それに巻き込まれないようにした対策です。大屋根リングの上は案内スタッフの方以外はほとんど人がおらず、朝の爽やかな風が海から吹いて、とても気持ち良かったです。おかげで、会場の景色を上から眺めながら、ノンストレスでスムーズに目的地まで歩いていくことができました。

トイレ問題は、万博経験者の方々から「行きたくなる前に、気が付いたら行っておいた方が良い」とアドバイスをいただいていましたので、意識がそのように向いていたと思います。あちらこちらに設置してあって、「トイレが見つからない」ということはまったくありませんでしたし、わたしが使ったところは、幸いなことに、数人待ちはあっても、混んで大行列というところはありませんでした。これは給水スポットも同じで、手持ちのマップと、現地の「現在地図」を見れば、最寄りの給水スポットをすぐに見つけることができました。またちょっと迷うことがあっても、周りをぐるっと見ると、必ず視界に入るところにスタッフがいて、聞くことができました。

この「視界に入るところに、必ずスタッフがいる」というのが、とても素晴らしかったです。「わからない!」と思ったら「あの人に聞こう」とすぐに聞けるのですから、広い会場で不安になったり無駄足で疲れてしまったりということを、ずいぶん防ぐことができました。スタッフと一言に行っても、会場の案内係の人、掃除など環境整備の人、警備の人、各パビリオンの担当者…と、それぞれにいろいろと役割をお持ちです。が、とりあえず近くの人に尋ねると、担当が違っても「それは、あの方に聞くとわかると思います!」とつないでくださる。わたしはかなり何回もあちこちでスタッフさんを捕まえて質問していましたが、皆さんにこやかに気持ちよく対応してくださいました。「デジタル万博」を謳っていますが、結局は人よね、とつくづく感じたグッドポイントでした。

丸一日の滞在では、ピンポイントで目指したところは観ることができて満足でしたが、万博の掲げているテーマや意図を体感できたかというと、厳しいです。というのも、全体から考えれば「見ていないところがほとんど」になってしまうので、仕方のないことかもしれません。残念ながらわたしには、万博の全体像は見えませんでした。今回の万博でリピーターが増えているといわれているのは、そういう理由もあるのかもしれませんね。通期チケットをゲットして何度も足を運び、いろいろな場所を見ることで、万博が目指しているもの、全体像が見えてくるのかもしれません。

ともあれ、チケットやら予約を手配してくれた同行の友人のおかげで、大阪万博を面白く体験することができました。いろいろと考えさせられることもたくさん。現地に足を運んだからこそ見えたことが、てんこ盛りでした。

大阪万博視察・その2

大阪万博視察・その1

大阪万博視察・番外編

大阪万博視察・番外編-「竹中大工道具館」に行ってまいりました。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

大阪万博視察・番外編-「竹中大工道具館」に行ってまいりました。

今回の大阪出張は、万博の視察がメインイベントでした。前日入りでしたので、毎回出張時のミッションにしている、美術館博物館訪問を検討。万博に合わせて、京都・奈良の国立博物館と大阪市美術館では国宝を集めた特別展が開催されている、というのはもちろん知っていたのですが、今回は混雑するところは万博だけで十分…ということで、別の場所を選択。ずっと行きたいと思っていた「竹中大工道具館」に、ついに行ってまいりました。博多から新幹線に乗り、新大阪の一つ手前の新神戸駅で降りて、歩いて3分ほど。駅からすぐ近くの便利な場所です。

竹中大工道具館は、ご存じ関西拠点の大手ゼネコンのひとつ竹中工務店さんが、「大工道具」を民族遺産として収集・保存・研究・展示する目的で、1984年に開館なさったものです。新神戸駅の建物は、2014年に移転したものとのこと。上の写真の見事な門構えに、思わず「おおー!」と声が出ました。当日は霧雨がずっと降っていたのですが、雨の景色を見れてラッキー!とさえ思わせる美しい佇まいでした。中に入れば、見事な建築としつらえと展示の数々に、ワクワクどきどき。ずっと居たくなる空間でした。

竹中大工道具館

展示内容のすごさもさることながら、展示方法の種類・工夫がすごいです。

竹中大工道具館

引き出し式の展示ケースは、わたしのあこがれ。見事でした。

竹中大工道具館

茶室がどのようになっているかを見ることができる、スケルトンの実物大模型。靴を脱いで茶室の中に入ることができるのが嬉しいですね。写真左奥の壁の向こう(裏側)には、ちゃんと水屋もありました。

竹中大工道具館

展示室から外に出ると、小径の奥に休憩室がありました。これまた美しく落ち着く空間で、ゆっくり庭を眺めつつ、一休みすることができました。

お目当てだったミュージアムグッズの「カンナのキーホルダー」は、残念ながら売り切れで、人気が高くて入荷してもすぐ完売してしまうということで、今回は「木槌のストラップ」をゲット。カンナのキーホルダーリベンジも含め、また足を運びたいと思いました。

竹中大工道具館

そして、これは翌日万博会場に行って知ったのですが、大阪万博会場のシンボルである大屋根リングは、実施設計・施工・監理に竹中工務店さんも入っておられたのですね。知らずに竹中大工道具館に行っておりましたが、図らずもグッドタイミングな組み合わせでした。

大阪万博視察・その2-パビリオン訪問、お食事、予約と待ち時間など。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

大阪万博視察・その2-パビリオン訪問、お食事、予約と待ち時間など。

イタリア館を訪問した後は、腑抜けのようになりましたので、あとは同行してくれたお友だちに一任です(笑)。次はお昼過ぎに「日本館」。移動時間を考慮しても少し時間がありましたので、近くにある「コモンズD」館へ。すでに万博に足を運んだお友だちのレポートで、何人もの方がこの「コモンズ」シリーズがかなり楽しいとおっしゃっていたので、実は楽しみにしていたのです。

コモンズDは、25か国が参加。一つ一つのブースは広くはないけれど、それだけに各国が自国の「イチ推し」をアピールしていて、特色がわかりやすく興味深かったです。なかでもわたしが一番「おおー!」と思ったのが、岩塩のパキスタン。床も壁もオブジェも岩塩で出来ている幻想的な空間でした。入り口で迎えてくださった、その国の方であろうスタッフさんに「運んでくるの、たいへんだったんじゃないですか?」と尋ねると、「潮風に乗って、ここまで来ました」とユーモアを交えたお返事。こういうコミュニケーションの楽しさがまた、良かったです。「コモンズD 岩塩」などのキーワードでググると写真がたくさん出てきますので、興味のある方は探してみてくださいね。

さてコモンズDは次の予約時間までに回り切れず、半分以上を見逃したまま日本館へ。予約を入れると、確実に見れるという良さがある反面、時間に縛られるという不自由さもありますね。その日本館は、予約時間に到着してすぐに受付してもらえたものの、そこから館内に入るまでに長蛇の列ができており、30分以上待たされました。予約の上に待たされる…でも日々改善を繰り返しているようで、スタッフの皆さんの心配りが素晴らしかったです。日本館は「循環」をテーマにしたゾーンづくり。「藻のキティちゃん」と「火星の石」が目玉のようでした。キティちゃんはかわいかったけれど、個人的には、意図がよく理解できなかったかな、というところ。訪問前の予習と、訪問後の復習があると、より理解が深まるだろうなと感じました。わたしはといえば、勉強不足でした。

次の予約までに少し時間があるので、その間にお昼ご飯を食べることに。ランチ難民になりたくないと思いつつ、せっかくだから海外のお国柄を感じることができるような食事にありつきたいと思っていたところ、すでに14時近くになっていたからか、比較的すんなりアフリカのレストランに入ることができました。お値段は、もちろん万博価格。イタリアのサンドウィッチ1600円にも驚きましたが、アフリカのランチセットは、お野菜たっぷりの具材がかかったクスクスにハイビスカスのジュースがついて3900円也。美味しかったです&ボリュームたっぷりでお腹いっぱいになりました。わたしたちがレストランに入ったときに、ジャンベを使った太鼓演奏がちょうど始まり、観ることができたのがラッキーでした。飛び入り参加で踊り出す人があり、それがまたとてもかっこよくて、大いに盛り上がりました^^

次に予約で入ったパビリオンは「飯田グループ×大阪公立大学共同出展館」。未来の「ウェルネススマートシティ」をテーマにしていました。が、わたしの興味はといえば、会場中央に据えられた大きなジオラマ。電車も車も動いていて、夜になれば明かりが灯り、楽しかったです。ああいうものは、ずっと観ていて飽きないですね。大好きです。パビリオンが伝えたかったこととはまったく異なる目線だったとは思いますが、楽しみました。そうそう、こちらは予約のおかげで受付がスムーズだったほか、入り口から中に入るのにも、10分も待たされなかったと思います。その10分ほどの間にも、中の様子やパビリオンの概要を説明してくださる方があり、こういうサービスがあると、待ち時間も苦になりませんね。

というわけで、思いのほか長くなってしまいましたので、続きはまた次回。

↓大阪万博視察・その1はこちら↓

大阪万博視察・その1-カラヴァッジョ『キリストの埋葬』を拝んでまいりました!

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

大阪万博視察・その1-カラヴァッジョ『キリストの埋葬』を拝んでまいりました!

ここひと月ほどの大阪万博関連のニュースを見ていると、開幕前の酷評はいずこへ、というほどに盛り上がっている感じがします。かくいうわたしも、当初気になっていたのは、大阪万博=「カラヴァッジョの絵が来る!」その一点だけでした。友人から「チケットあるけど、行く?」のお誘いをいただいたのは、3月初めのこと。それまでまったく考えてもいなかった「万博視察」が、急に現実味を帯びてきて、即決で「行く」となったのでした。

すぐに日程を決めて、そのあとはパビリオン予約。チケットを持っている友人がすべて手配してくれて、とっても助かりました。「どこ行きたい?」に対して「イタリア館さえ見れたら、あとはどこでもOK」の希望を出していたところ、イタリア館の予約を取ってくれました。現在、イタリア館は人気が高すぎて予約がなかなか取れないようですが、3月初旬時点ではすんなりと予約が取れたようで、ありがたいことでした。

朝9時半からのイタリア館予約に間に合わせるには、オープンする9時にすぐ万博会場入りしていなければならない、ということで、前日から大阪入り。入場ゲート前には2時間前に到着するも、すでに長蛇の列ができていました。それでも広い入場ゲートのおかげで、オープンしてからはスムーズに入ることができ、朝一の誰もいない大屋根リングをゆっくり歩いてイタリア館に向かうことができました。

さてイタリア館。無事予約時間に入場。インストラクションの映像を数分見た後に本会場へと入ると、最初の空間では、1920年に飛行家アルトゥーロ・フェラーリンがローマから東京への初飛行に使用したという飛行機「アルトゥーロ・フェラーリンの飛行機」と、紀元2世紀の大理石彫刻「ファルネーゼ・アトラス」が出迎えてくれます。飛行機は、オリジナルの技術図面に基づいて忠実に再現したものだそうで、つくづくと天井を見上げてしまいました。天文学の巨神アトラス、人間と宇宙の関係を擬人化したアトラスは、今回のイタリア館のシンボル。1800年前にこのような彫刻が作られていたこと、それがここに運ばれてきて、現代のわたしたちが見ることができるということに驚愕します。ぐるりと一周回ってみることができるように展示されているので、あらゆる角度から拝むことができます。

そして次の間に進むと、目指すカラヴァッジョの絵画に会うことができました。バチカンが万博に参加したのは初めてのことだとか。小さく暗い空間に、絵だけがバン!とスポットライトを浴びていて、その圧倒的な存在感に、思わずこみあげてくるものがありました。皆さん遠慮してか、絵からかなり離れていたので前の方ががら空きで、絵の正面真ん前に陣取って至近距離でじっくりと拝見することができました。絵とわたしと、一対一(実際には周りにたくさん人がいましたが)で対峙することができた、素晴らしい時間でした。わたし的にはこの時間だけで充分、大阪万博に足を運んだ意味がありました。

大阪万博カラヴァッジョ

イタリア館、ほかにももちろん見どころの展示やお庭があり、素晴らしかったですが、わたしはもう大満足で、館内を回りつつひたすら絵の余韻に浸っていました。もうひとつ目玉作品とされていた、レオナルド・ダ・ヴィンチの「アトランティック手稿」の素描は、立ち止まらないように流れるよう促されていて、そこはちょっと残念でしたが、仕方がないのでしょうね。胸いっぱいになって館の外に出ると、ピッツァやジェラートのキッチンカー。ジェラートのところには大行列ができていたので、トマトとモッツァレラとバジルソースのサンドウィッチ(1600円也)を購入して、ベンチでかじりながら一休み。

イタリア館のテーマは「芸術は生命を再生する」。ご興味のある方、これから足を運ぶ方は、イタリア館のサイトにある展示内容の解説を読んでから行くと、見え方が一層深まるかもしれません。ちなみにわたしは、まっさらな状態で観に行って、帰ってきてから復習しております^^

イタリア館 – L’ITALIA A EXPO 2025 OSAKA

読書『六条御息所 源氏がたり』(小学館)林真理子著

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読書『六条御息所 源氏がたり』(小学館)林真理子著

実はこれまでに、ちゃんと『源氏物語』を読んだことがありません。わたしの世代だと、大和和紀さんの漫画『あさきゆめみし』で読んだ!という人が大勢だと思います。ちゃんと読んだことがないわたしでも、そのストーリーのところどころをなぜか聞き知っているというのが『源氏物語』のすごいところ。古典から小説、漫画、ドラマ、映画と、あらゆるメディアになっているが故、ですよね。

さて林真理子版・源氏物語。正直なところ、林真理子版が出なければ、『源氏物語』を読まずにいたかもしれませんので、ありがたいことでした。福津市の図書館にあったのはハードカバーの単行本版で、一章・二章・三章の各章が一冊になった三巻。文庫版は上下二巻にまとまっているようですね。ハードカバー三巻まとめて借りてまいりました。現在その「上」を読み終わったところです。

いやぁ、面白い。毎回同じような感想でなんですが、やっぱり林真理子さんはすごいなぁと思いました。長編を、本の厚さをものともせず、実に読ませます。そして、古典の原書では一登場人物である「六条の御息所」の「一人語り」形式で物語が進むのは、異例のことだそうですね。わたしは『源氏物語』のお話を通して読むこと自体が初めてでしたので、まったく違和感なく没入して読みました。そういえば林真理子版『風と共に去りぬ』の『私はスカーレット』は、主人公スカーレットの一人語りだったなぁ、などと思いつつ。

ストーリー自体は、皆さまご存じの『源氏物語』。それを、誰の視点から描くか、誰にどんなセリフを言わせるか、で、きっと印象が大きく変わるのだろうな、と思いました。古典を読むのはたいへんですが、このように現代語で意訳されたものが出ることで、気軽に楽しむことができるのは、とてもありがたいことです。そういえばカメリアステージ図書館では、NHK大河ドラマで『光る君へ』を放映していたときに(2024年なので昨年ですね)、『源氏物語』の読み比べイベントを開催していました。イベント参加者は、それぞれに自分が推す『源氏物語』関連本を一冊持って参加する、というもの。そんなイベントが企画出来るほど、『源氏物語』を底本とした本が出ているということですね。

さてわたしはこれから、二章・三章と二冊を読み進めることにいたします。ここからの展開も楽しみです。

『六条御息所 源氏がたり』(小学館)林真理子著

『「つくる」を続けるために―中川政七商店の経営とデザイン』を聴いてまいりました。

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『「つくる」を続けるために―中川政七商店の経営とデザイン』を聴いてまいりました。

福岡県産業デザイン協議会の特別講演『「つくる」を続けるために―中川政七商店の経営とデザイン』を聴いてまいりました。お話は、株式会社中川政七商店代表取締役社長の千石あや氏。オープンしたばかりの「ワンビル」ことONE FUKUOKA CONFERENCEへ、思いがけず早い時期に足を運ぶ機会となりました。

福岡県産業デザイン協議会の講演会に参加したのは、昨年に続いて二度目でした。昨年は北九州のネジチョコの会社、オーエーセンター株式会社・代表取締役社長の吉武太志氏のお話で、これがとっても面白かったのでした。

さて中川政七商店さんは、今や有名ブランドに仲間入りしたといえる奈良の老舗。工芸をテーマにしていることもあり、ぜひお話を聞いてみたいと、申し込んでおりました。

以下、備忘。


  • 日本の工芸を元気にする=経済的自立と職業への誇り。
  • 新しいことをスタートするにあたり、きっかけとしての「本」出版。
  • 知ってもらうきっかけとしての「本」。
  • 工芸産地の衰退スピードが想像以上に速い→産地全体で取り組む必要性。
  • 経営者の覚悟+独自の方法論。
  • 中小企業経営の学問。
  • 会社の業績は社長の力量できまる。
  • 社長が一番勉強しなければならない。
  • 会社の力=ビジョン×ブランディング×組織能力。
  • 経営とは社会(お客様)と調和しながら、自分のやりたいことをやり続けるための努力。
  • やりたいことをやり続けるために、学び続ける。
  • 商品を作ることとブランドを作ることとの違い。
  • 他との違い、世界観、らしさ。
  • ブランドとは、○○に関するあらゆる情報・要素が集まった結果としての(ポジティブな)イメージ。
  • 伝えるべき情報を、どのような方法で伝えていくのか、あらゆるタッチポイントで「同じポジティブ情報」を伝える。
  • 言語化・共有化。
  • SPIRIT・CONCEPT・VALUE・VISION→GOAL
  • 常にブラッシュアップすることが必要。
  • 経営の技術→すべては事業計画(管理関係)次第。
  • 問題・課題の多くは、事業計画を立てることで解決に向かう。

福岡県産業デザイン協議会の特別講演『「つくる」を続けるために―中川政七商店の経営とデザイン』(株式会社中川政七商店 代表取締役社長 千石あや氏)より


中川政七商店さんが今のような形になったのは、先代社長の中川淳氏の力によるということでした。そこから受け継がれた千石あや氏が共有する、日本全国的な、現代の「工芸・工芸産地」の問題点への意識に、大きくうなずいた1時間でした。なんとなく味方を得たような嬉しさを感じながら、会場を後にしました。

それにしても、ワンビルのスペースの広さに驚きました。会場となった6階のカンファレンスホールは、フリースペースが広々としていて、ここで仕事をする人たちのモチベーションになる空間だなぁと、感心。できたばかりのワンビルに足を運ぶ絶好の機会を作ってくださった福岡県産業デザイン協議会に感謝です^^

読書『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』(早川書房)シーグリッド・ヌーネス著/桑原洋子訳

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』(早川書房)シーグリッド・ヌーネス著/桑原洋子訳

いつものカメリアステージ図書館新刊棚より。砂糖菓子のような色合いの表紙につられて手に取った一冊です。なんとなくタイトルに既視感があるような気がしたのは、どうやら本書が映画化されていたからのようです。映画を観たわけではありませんが、どこかで宣伝を目にしたことがあったのかもしれません。

末期癌になった友人に、自殺するまでの期間を一緒に過ごしてほしいといわれて、承諾してしまった主人公の物語。パステルカラーの表紙とは、だいぶ温度差のある、考えさせられる内容でした。タイトルの「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」は、死ぬときに近くに誰かにいて欲しいという友人の気持ちを表しているものであり、その第一発見者とならなければならない主人公にとっての「蹴破るべきドア」であり。

自分がそうなったときに、この友人のような気持になるものか、もし友人からこのようなことを頼まれたときに自分は「イエス」といえるのか、どれくらいの近しさだとそれを受け入れることができるのか、あるいはできないのか。ほんとうにその時にならないと答えは出ないだろうな、この主人公たちのように、実際にそうなってからもずっと「ほんとうにこれでいいのか」は付きまとい、答えは出ないのだろうな、と思いながらの読書でした。

「準備」については、昨今は日本でも「終活」という言葉で語られるようになってきていますね。「終活」という言葉が使われるとき、なんとなく明るく積極的な雰囲気をまとっているのがずっと気になっていたのですが、それが受け入れられる状態のときでないと、冷静な判断ができないというのもあるだろうな、と思いつつ。

『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』(早川書房)シーグリッド・ヌーネス著/桑原洋子訳

読書『テスカトリポカ』(KADOKAWA)佐藤究著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『テスカトリポカ』(KADOKAWA)佐藤究著

いつものカメリアステージ図書館より。直木賞と山本周五郎賞をダブル受賞しているという、ジャンルとしては「クライムノベル=犯罪小説」です。タイトルとなっている「テスカトリポカ」は、15~16世紀に栄えた多神教のアステカ王国において信仰された強大な神様の一つだそう。メキシコでの麻薬密売組織の抗争、人体臓器売買など、国境を越えた大規模な組織的犯罪に、アステカの神話が絡まって、全編に暗い影が漂っています。

個人的には、貧困と資本主義を考えさせられる一冊で、ふた月ほど前に読んだ『沸騰大陸』を思い出しました。『沸騰大陸』は、アフリカの現在とその背景を写真と文章で告発するルポ・エッセイで、アフリカで起こっている紛争が、民族や宗教を起点とするものではなく「富」と「格差」を起点としたものであることを、告発している内容でした。

『テスカトリポカ』は小説(フィクション)の形をとっていますが、小説の舞台となるメキシコでも日本でも、繰り広げられる犯罪はやはり「貧困(富)」と「格差」が起点となっています。現在の世界を覆う資本主義の仕組みに対する問題提起を、強烈に突き付けられたような気がしました。知らずに呑気に暮らしていることが、無意識に罪に加担していることになる可能性があることを、かといってどうすればよいのかという解決策の案や可能性の提示がないまま突き付けられて、なんともやりきれない読後感でした。

『テスカトリポカ』(KADOKAWA)佐藤究著

花祭窯は古民家なので、少しづつ修繕しながら住み継ぐことが必要で。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

花祭窯は古民家なので、少しづつ修繕しながら住み継ぐことが必要で。

現在花祭窯がお世話になっている建物は、昭和元年に建ったと伺っていますので、おおよそ築100年です。わたしたちが入居する前は何年も空き家になっていて、その前には借りて住んでいた人が何人かあったとのこと。その間にリフォームされている部分も、かなりありました。2012年に工房を移転してきたタイミングで、まあまあ大掛かりな改修をしましたが、その多くは「できるだけ建った時の状態に戻す」作業でもありました。フローリングになった板を外して土間を復活させたり、あとから張り付けられた天井を外して梁が見えるようにしたり。現代建築の便利さや快適さとは逆を行く修繕です。とはいえ手を入れようとすれば果てしなく修正すべき箇所がありましたので、優先順位をつけて、できるところから。

10年以上が経ち、その間も都度修繕を重ねてきましたが、古民家の良さを維持しながら、今後も長持ちするようにと考えるのは、建築素人のわたしたちだけでは難しいことです。幸い信頼できる建築家さんや建設会社さんがご近所にいらっしゃいますので、ことあるごとに意見を聞いたり、困ったときには教えていただいたりしながら、少しづつ修繕をしています。下の写真は移転してきてすぐのころ。こうして見直すと、そういえば格子戸も破損したり無くなったりしていたのを、古い建具から合うものを探し出してきてつけ直したのだったなぁ、などと、思い出します。修繕の必要な個所を見ていると、古くからの部分の老朽化ももちろんあるものの、途中でリフォームが入るなどの手が入ったところをきっかけに傷んでいるところが多いということに気づきます。

津屋崎千軒古民家、花祭窯

文化財的価値のある建物。わたしたちにできることは限られていますが、できるだけその価値を損なわないように、ここから100年後もこの建物が受け継がれているようにと、心しています。