花祭窯の茶室「徳り庵」

読書『利休の闇』(文藝春秋)加藤廣著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『利休の闇』(文藝春秋)加藤廣著

利休関連の小説といえば、山本兼一著『利休にたずねよ』を読んだのが、約5年前のことでした。

本書『利休の闇』は、2015年発刊。存じ上げなかったのですが、著者の加藤廣氏は、丹念な史資料精査と独自解釈が人気だそうですね。「丹念な資料精査」の片りんは、本書内で千の宗久、宗及らによる茶事記録などを多数引用しているところからも伺えました。

宗易(利休)の秀吉との出会いから切腹までのお話です。信長から秀吉の時代へと、秀吉が成りあがっていくなかで、お茶がどのように位置づけられていたのか、戦国時代の茶道と政治の関係があからさまに描かれています。「遊びに過ぎない」はずであったお茶が、政治の道具としてその姿を変えていくさまは、なんとも切なくもありました。

それにしても『利休にたずねよ』のときも思ったのですが、この手の小説を読むほどに、宗易(利休)の人間らしさが印象に残ります。人間らしさといえば聞こえは良いものの、言い方を変えれば「遊び好きで好色で権威欲がある」一人の姿。小説とはいえ、完ぺきな師とは言い難い姿に、「なんだ、そうだったのか」と、ちょっとホッとします。

本書内のエピソードでもっとも「へぇ~!」と思ったのは、宗易から利休へと改名を命じられた「利休」の名の由来でした。真実か否かはわかりません。でも、不本意ながらの改名でも、その後の歴史のなかでは多くの人に改名後の名前で愛されているのですから、それを知ったら本人はどんな気持ちになるかな、と思いました。

利休さんにまつわる本は、茶道の指南書関連のものを読むことが多いのですが、こういう小説をたまに読むと、また視野が広がるような気がいたします。

投稿者:

ふじゆり@花祭窯

花祭窯おかみ/Meet Me at Art アートエデュケーター ふじゆり のブログです。1997年に開窯した花祭窯は、肥前磁器作家である夫・藤吉憲典の工房です。その準備期から、マネジメント&ディレクション(=作品制作以外の諸々)担当として作家活動をサポートし、現在に至ります。工芸・美術の現場で仕事をするなかで、体系的な学びの必要性を感じ、40代で博物館学芸員資格課程に編入学・修了。2016年からは、教育普及を専門とする学芸員(アートエデュケーター)として、「Meet Me at Art(美術を通して、わたしに出会う)」をコンセプトに、フリーでの活動をスタートしました。美術を社会に開き、暮らしと美術をつなぐことをライフワークとして、コツコツと歩んでいます。