こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。
読書『あの図書館の彼女たち』(東京創元社)ジャネット・スケスリン・チャールズ著/高山祥子訳
巻末の「著者の覚書」と「訳者あとがき」を読んで、実話をもとにした小説であったことを知りました。登場人物も、実在した人物が実名で登場していて、そこにフィクションの登場人物が加わっています。事実がより伝わりやすくなるように、こういう本の書き方があるんだな、と感じました。上の写真は、わたしにとってのシェルターであるカメリア図書館入口にある宣言。
本と、図書館と、図書館を支える人々の物語。第二次世界大戦中、ナチス占領下のパリで開館し続け、常連の市民たちに本を届け続けたアメリカ図書館の物語です。本、図書館、当時の女性が仕事を持つ意味、人種、国、戦争、家族、友情…。考えさせられる要素がそれぞれに重いものでした。
主人公オディールの「でも真面目な話、なぜ本なんでしょう。それは、他者の立場から物事を見せるような不思議なことのできるものは、ほかにないからです。図書館は本によって、違った文化どうしをつなぎます」のセリフが響きました。このセリフだけではなく「本が他者の視点を疑似体験できるツールである」という主題がたびたび出てきます。絶望的な状況での大切な心の逃避先になること、本を通して得た知識が生きていくための糧・武器になること。そしてそれらの本を必要な人に届ける、図書館の存在と、司書をはじめそこで働く方々の仕事の計り知れない価値。人々のシェルターとして働く図書館の存在を強く感じました。
その一方で、「思ったことをすぐに言わないと約束して」「(言おうとしていることがなんであろうと)黙っていて」「誰がそのような(密告の)手紙を書くのか分かった。わたしのような人間だ」などなど、登場人物のセリフにちりばめられた「ことば」に関する忠告が心に刺さります。
もしこのような状況下に置かれたら、自分ならどうするか。どうすべきか、すべきことがわかっても、ほんとうにそのように勇気をもって行動できるか。自分のなかにあるマイナスな要素(保身や妬み)に支配されてしまうのではないか。ずっと問いかけられているような気がしました。
パリのアメリカ図書館を開館し続けた司書たちの勇気をたたえる本、と一筋縄ではくくれない本でした。世界に不穏な空気が広がりつつある今、一人でも多くの人に読んで欲しいし、わたし自身繰り返し読みたい本です。そして次回パリに行く機会があれば、今なお開館し続けているアメリカ図書館に足を運びたいと思います。