こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。
読書『オードリー・タン 天才IT相7つの顔』(文藝春秋)
写真は「オードリー=鳳」に敬意を表して、鳳凰文様の珈琲碗皿(藤吉憲典)。
昨年コロナ禍での台湾政府の素早い防疫戦略に関する報道のなかでお名前を知ってから、あちらこちらでその名前とエピソードを目にするようになり、気になっていたオードリー・タンさん。彼女に関する本が図書館の新刊書に入ったと聞いて、「オードリー・タン」とついた書籍に片っ端から貸し出し予約を入れていました。予約からひと月ほどで最初に順番が回ってきたのが本書。
読み進めるほどに、どんどんその人物の魅力に引き込まれていきました。インタビューでの受け答えをはじめとして、彼女の発する「ことば」に内包される視野の広さと温かさ。天才であるだけでなく、精神的な豊かさが基盤にあるからこそ、世の中を動かす行動を実現できるのだろうと感じました。
オードリー・タンその人の凄さもさることながら、そういう人が政府の要員として活躍できる環境のある台湾政府のオープンさが目を引きました。ただ、青く見える隣の芝生は、決して無いものねだりではないと思わせる記述が、希望を感じさせてくれました。
かつて台湾の多くの若者は、(中略)国に失望し、「台湾政治に無関心」になった。次に、政治に関心を示す若者を嘲笑するような時代があった。そして今、若者が政治に参加し、国に関心を示すことは、「最初からそうだった」ように当たり前のことだ。
(『オードリー・タン 天才IT相7つの顔』(文藝春秋)より)
それを実現するカギは「情報の可視化」。どうして情報の可視化が進むと、市民が政治に失望することなく参加できるようになるのか。その重要性を字面だけでなく理解するためにも、市民たるわたしたちが知っておくべきことが、たくさん書いてありました。国・地方自治で政治や教育を担う人たちにも、ぜったいに読んで欲しい本です。
巻末付録がまた秀逸です。「Q&A 唐鳳召喚 オードリーに聞いてみよう!」とするインタビューと、「特別付録 台湾 新型ウィルスとの戦い」と題したレポートがついていて、それらが実に読み応えのあるものでした。ウィルス防疫戦略が国防のひとつとして重大だという共通認識を持って着々と整備してきた台湾。「中国もWHOも信じない」という言葉には、政府の市民を守る覚悟が感じられました。
Q&Aインタビューでは、ネットに関するオードリーの基本的な見解が心に残りました。いわく、情報をダウンロードするばかりでなく、アップロードすること、そのバランスが大切だということ。情報をアップロードすることは、インターネットへの貢献につながるということ。アップロードするということはすなわちクリエイティブであれ、ということだと。あくまでも「人」が中心にあってのネットだということが、しっかりと伝わってきました。