こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。
読書『シェフ』(東京創元社)ゴーティエ・バティステッラ著/田中裕子訳
著者のゴーティエ・バティステッラさん(声に出して読むのがとても難しい^^;)は1976年生まれ。ミシュランガイドの編集部員として働いた経歴をお餅ということで、そのキャリアが存分に生きている一冊です。
主人公は三ツ星シェフ。作中での呼び方は違うものが使われていますが、それがミシュランガイドの星を巡る物語であることは、本書のあらすじを知らないまま読みはじめても、容易に想い至るものでした。華やかでシビアでドロドロとしたフランス料理界のお話には、実在した人物の名前も頻繁に登場し、舞台裏をのぞき見しているような気分で読み進めました。
パリと地方都市の格差、料理の格付けによる差別、星を獲得した者とそうでない者との間にある明確な境界線、力を持ちすぎるメディア、厨房でのパワハラセクハラ、名声を得たがために起こる親子間夫婦間の確執…。星を維持していくことがどんなに大変なことか、星を獲得することによってがんじがらめになってしまう恐ろしさが、これでもかというほどに伝わってきました。
自分の舞台をどこに設定するのか、何を評価基準とするのか。周囲の声や風潮に惑わされずに、自分の選んだステージで道を究めようとすることは、ことフレンチシェフに限らず、重大かつ悩ましいことだよなぁと、あらためて考えさせられました。どんな分野においても、たとえ崇高な目標を掲げていても、職人(あるいはアーティスト)のプライドや承認されたいという欲求は簡単に消せるものではなく、そこに葛藤が生まれるのはあたりまえ。その苦しさが、痛いように伝わってくる読書でした。
本書は著者の三作目ということで、他の著作も読んでみたいと思います。
『シェフ』(東京創元社)ゴーティエ・バティステッラ著/田中裕子訳