カメリアステージ図書館

読書『可及的に、すみやかに』(中央公論新社)山下紘加著

こんいちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『可及的に、すみやかに』(中央公論新社)山下紘加著

いつものカメリアステージ図書館新刊棚より。この場所のおかげで、たくさんの「はじめまして」の小説家さんに出会います。ふと気がつけば、そうした作家さんの多くが、わたしよりもお若い方々。だんだんと、そんなふうになってきますね(笑)。そしてこれは洋書・邦書問わずなのですが、すごい!と思ったら若い女性の作家さん、ということが最近とみに増えてきました。

本書の著者、山下紘加さんもそんななかのお一人。と思ったら、2年ほど前に著書『あくてえ』を読んでいましたので、厳密には「はじめまして」ではありませんでした。『あくてえ』は、家族の問題てんこ盛りのヤングケアラーの物語でした。

さて『可及的に、すみやかに』。こちらも家族の問題を扱った中編二編が収録されています。タイトルは『掌中』と、表題にもなっている『可及的に、すみやかに』。ふたつとも「母と子」の関係を描いています。母の目線で「母と息子」を軸に物語が進む『掌中』と、娘であり母である立場から描かれる『可及的に、すみやかに』。どちらも、じりじりとする立場の痛みが伝わってきて、苦しくなりながらも目が離せませんでした。

物語の主人公と読んでいる自分に性格的に重なる部分がまったく無くても、そうなってしまう主人公の追い詰められた感じはなんとなくわかる、というのが、読みながらの感想でした。スマホに残る指紋の跡のこととか、鏡にやつれたおばさんが映っていると思ったら自分だったとか、細かい描写に心当たるところが、登場人物への共感につながります。光が見えそうだと思ったらあっけなくひっくり返されるラスト。むしろ残念な状況が続くことを予感させる終わり方にも、リアリティを感じました。著者追っかけをしてみたいと思います。

『可及的に、すみやかに』(中央公論新社)山下紘加著

投稿者:

ふじゆり@花祭窯

花祭窯おかみ/Meet Me at Art アートエデュケーター ふじゆり のブログです。1997年に開窯した花祭窯は、肥前磁器作家である夫・藤吉憲典の工房です。その準備期から、マネジメント&ディレクション(=作品制作以外の諸々)担当として作家活動をサポートし、現在に至ります。工芸・美術の現場で仕事をするなかで、体系的な学びの必要性を感じ、40代で博物館学芸員資格課程に編入学・修了。2016年からは、教育普及を専門とする学芸員(アートエデュケーター)として、「Meet Me at Art(美術を通して、わたしに出会う)」をコンセプトに、フリーでの活動をスタートしました。美術を社会に開き、暮らしと美術をつなぐことをライフワークとして、コツコツと歩んでいます。