こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。
読書『女たちの沈黙』(早川書房)パット・パーカー著/北村みちよ訳
いつものカメリア図書館新刊棚から。このタイトルを見てまず連想したのは『羊たちの沈黙』。そういう本なのか!?と裏表紙の紹介文を読んで、どうやら違うようだとわかり、安心して借りてきた一冊です。実のところ、戦争の残酷な描写は、決して安心できるものではありませんでしたが。読み終わって気づいたのが、早川書房からの刊行だったということ。そういえばカズオ・イシグロ作品はじめ、わたしがこれまでに読んでいる洋書の邦訳版は、早川書房にずいぶんお世話になっています。
舞台はトロイア戦争。本書は、3千年以上前に起きたと言われている、古代ギリシアとトロイア王国(現トルコ)との戦いを描いた叙事詩『イリアス』を、女たちの側から描いた物語です。「訳者あとがき」によると、中世から近世のあいだトロイア戦争は神話だと考えられていたものが、1870年代のトロイア遺跡発掘から史実の可能性を見直され、研究が続いているのだとか。そんな背景情報を全く持たず、『イリアス』も知らずに読みました。読み終わってからの訳者あとがきで、なるほどそういうことだったのか、と、腑に落ちること多々。
戦いの描写の残酷さ、女たちの暗澹たる行く末の描写は、読み飛ばしたくなるような部分が何度もありました。それなのになぜ読むのか。それは読書の衝動とでもいう、ことばでは説明し難い理由ゆえなのだと思うのです。あえてもっともらしい言い訳をするならば、小説を通してではありながら「ほんとうにこのようなことが起こっていた」と知ることは、今後そういう事態を招かないようにしなければという、危機意識につながるという思いがあるからかもしれません。
著者は英国で「戦争文学の旗手」と呼ばれ、戦争にまつわる著作を多数書いているそうです。本書では、黙殺されてきた「女たちの声」が、ストーリーを通して聞こえてきます。古今東西「すぐれた文学作品」と呼ばれるものの根っこには、大小を問わず「戦い」があるのかもしれないということを、考えさせられました。本書冒頭の「すべてのヨーロッパ文学は戦争から始まった」が、なんとも切ないです。
『女たちの沈黙』(早川書房)パット・パーカー著/北村みちよ訳