藤吉憲典 雲龍図

読書『忘れられた巨人』(早川書房)

こんにちは。花祭窯・内儀(おかみ)ふじゆりです。

読書『忘れられた巨人』(早川書房)

カズオ・イシグロ作品。

早川書房編集部による解説の表現を借りるならば「神話や歴史を取り込んだファンタジー仕立てで、これまでのイシグロ作品を読んできた読者は不意打ちを食らう」であろう本。全編読んだ後にこの解説を読み、なるほどと思いました。

これも解説で知りましたが、物語の設定を位置付ける要素を「道具立て」というのですね。『忘れられた巨人』では、道具立ての要素として「アーサー王」という時代設定があり、「鬼・竜・魔女」といった空想上の存在がありました。

ただ、だからといって単純に「歴史小説」「ファンタジー」とならないところが、この物語の深みであったように思います。ではジャンルは何かと問われると、よくわかりません。作者的には「ラブストーリー」だそうで、そういわれて見ればなるほどと思えなくもありませんが、この際ジャンルは何でもよいように思います。

とても考えさせられる本でした。歴史小説的・ファンタジー的道具立てでありながら、現在をリアルに生きるわたしたちにも突きつけられるものがありました。その普遍性があるからこそ、目が離せず、夢中で読んでしまうのでしょうね。

これまでにも、イシグロ作品にビックリさせられることはありました。個人的には特に『充たされざる者』。読みながら募る「?」、上下巻すべてを読み切ってなお残る「?」。なので今回の物語も、たしかに不意打ちではありながら「なるほど、今回はそういう展開なのね」と落ち着いて受け止めることができたように思います(笑)

投稿者:

ふじゆり@花祭窯

花祭窯おかみ/Meet Me at Art アートエデュケーター ふじゆり のブログです。1997年に開窯した花祭窯は、肥前磁器作家である夫・藤吉憲典の工房です。その準備期から、マネジメント&ディレクション(=作品制作以外の諸々)担当として作家活動をサポートし、現在に至ります。工芸・美術の現場で仕事をするなかで、体系的な学びの必要性を感じ、40代で博物館学芸員資格課程に編入学・修了。2016年からは、教育普及を専門とする学芸員(アートエデュケーター)として、「Meet Me at Art(美術を通して、わたしに出会う)」をコンセプトに、フリーでの活動をスタートしました。美術を社会に開き、暮らしと美術をつなぐことをライフワークとして、コツコツと歩んでいます。