こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。
読書『新古事記』(講談社)村田喜代子著
いつものカメリアステージ図書館新刊棚から。『新古事記』のタイトルに、昨年読んだ町田康著の『口訳 古事記』を連想し、勝手にそのようなものだと思い込んで借りてきた一冊です。今気が付きましたが『口訳 古事記』も講談社さんからの発刊でしたね。
さて『新古事記』。事前情報無しに読みはじめ、すぐに「思っていたの(古事記の新訳版とか意訳版とか)と違う!」とわかりました。が、ストーリーと文章に引き込まれてそのまま読み続け。
第二次世界大戦日米開戦後のアメリカにおける原爆開発の物語です。開発者たる科学者たちのお話ではなく、その妻たちのお話。半分ほど読み進んだところで「あとがき」をチェックし、これが実際に科学者の妻であった人の手記をもとにした物語であることを知りました。
原爆開発チームに入った科学者とその家族が、世界と隔絶したニューメキシコの大地に続々と集まり、ひとつの街が出来、その最終実験、投下、チームと街が解散するまで。主人公はその開発チームに参加している若き科学者のパートナー(のち妻)であり、日系三世であることを公にはせずにきた女性で、その目線で描かれる物語は、一見穏やかに流れる時間のなかに小さくはない緊張感や不安がつきまとっていました。
主人公が受付兼看護助手として勤める動物病院は、研究者の家族たちの犬(犬もまた大事な家族の一員)のために設けられていて、そこに「うちの子」を抱えてやってくる奥さんたちの緊張や不安もまた、直接的に描かれないからこそ切実に伝わってきました。自分の夫がここで何をしているのか知らされず、箝口令が引かれた暮らしのなかで、いかにして平静を保つか。科学者たちは科学者たちで、自分たちの研究開発が目指す結果の重さに耐えながらも、家族に対してさえ、事実を話すことが出来ない。
その抑圧的な街での暮らしの結果が、犬の出産ラッシュだったり、人間の結婚ラッシュと出産ラッシュだったりして、なんだか生き物の根幹を見せつけられるようでもありました。犬たちの姿を通して見えてくるものが、物語のなかで大きな役割を果たしていました。
村田喜代子さんのお名前は知っていましたが、著作を読んだのは、おそらく今回が初めてでした。とても文章がやわらかくて引き込まれましたので、これから過去作遡って読んでみたいと思います。