こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。
読書『日はまた昇る』(早川書房)
アーネスト・ヘミングウェイ著、土屋政雄訳。これまでも何度か手に取り、途中までは読んでいましたが、このたびようやく読了。つくづく「本を読むタイミング」ってありますね。読むつもりで手にとっても、まったく内容が入って来ないときもあれば、同じ本が別のタイミングではスイスイと入ってきます。
新書版の訳者・土屋政雄氏は、カズオ・イシグロ作品の訳書でもなんどもその文章を読んでいます。わたしにとっては、今回もその日本語表現がとてもしっくりきました。名作がときどき「新訳」で復刊されることにはきちんと理由があるのだなぁ、と思いました。
ヘミングウェイの最初の長編であり初期の代表作と言われている本書。あらためて、27歳の時の作品というのがまず驚きです。その若さで、登場人物の心の機微をこのように描けるものなのですね。解説では「粗削り」とされていましたが、その後の作品を読むことによって、そう感じられるのでしょう。このあと『誰がために鐘は鳴る』を読もうと思っていますので、楽しみです。
舞台は第一次世界大戦後のヨーロッパ。ヘミングウェイ自身が戦後パリで経験したのであろう環境が、色濃く反映されているのだろうと思えました。登場人物は、イギリス人、フランス人、ユダヤ人、スペイン人…主人公はヘミングウェイと同じアメリカ人であるものの、そのことを忘れそうになりました。
主人公はじめ、登場人物それぞれが、プライドと自嘲の間を行ったり来たり。とても切なかったです。そして、直接的な表現はないものの、戦争の悲惨の影がずっとつきまとっていました。分類すれば「恋愛小説」ということになるのかもしれませんが、もっと重々しいものを感じました。
その後の作品を読んだ後に、もう一度読み返したい本です。