津屋崎浜

読書『時間のないホテル』(創元海外SF叢書)ウィル・ワイルズ著/茂木健訳

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『時間のないホテル』(創元海外SF叢書)ウィル・ワイルズ著/茂木健訳

先日読んだ、著者の小説デビュー作があまりにも中毒性のあるストーリーだったので、もっと著書を読みたいと思い、即、図書館検索で見つけてきました。図書館にちゃんと入っているというのが、嬉しいですね。

実は本書『時間のないホテル』の方が、日本では先に翻訳されていたようです。日本での出版元が「ミステリ・SF・ファンタジー・ホラーの専門出版」を自任する東京創元社さんであり、SF小説系の賞を取ったことで、こちらが先に日本での発売となったようです。

さて『時間のないホテル』。最初は「SFではないよね!?」と読み進めていたものが、中盤からおかしな感じに豹変していきます。「建物から出ることが出来ない」という恐怖感が、「スティーブン・キング的」という書評につながったことは、納得できるものでした。『ミザリー』的といった方が、よりわかりやすいかもしれません。ミザリーが現実的な恐怖であるのに対し、時間のないホテルはSFで非現実的であるのが、まったく異なる点ではありますが。

主人公が本書内でとにかく歩かされます。現実的に歩かされ、非現実的に歩かされ、読んでいるこちらの方が歩き疲れそうになります。歩くという地に足の着いた行為を通しながら非現実的な状況に立ち向かうさまは、徒労感いっぱい。読後は、ふうっと思わず大きく息をつきました。読後しばらくして、物語に登場したいろいろな人物について、いろいろな疑問が沸き上がります。それぞれをすべてきちんと説明してしまわないところが、わたし個人的には、とても良かったです。

ウィル・ワイルズ氏の著作はまだ小説ではまだ2作のみということで、これからがとても楽しみです。2作を読んだかぎりでは、個人的には『フローリングのお手入れ方法』の方が面白かったかな。追いかけたい作家がまた一人増えました。

投稿者:

ふじゆり@花祭窯

花祭窯おかみ/Meet Me at Art アートエデュケーター ふじゆり のブログです。1997年に開窯した花祭窯は、肥前磁器作家である夫・藤吉憲典の工房です。その準備期から、マネジメント&ディレクション(=作品制作以外の諸々)担当として作家活動をサポートし、現在に至ります。工芸・美術の現場で仕事をするなかで、体系的な学びの必要性を感じ、40代で博物館学芸員資格課程に編入学・修了。2016年からは、教育普及を専門とする学芸員(アートエデュケーター)として、「Meet Me at Art(美術を通して、わたしに出会う)」をコンセプトに、フリーでの活動をスタートしました。美術を社会に開き、暮らしと美術をつなぐことをライフワークとして、コツコツと歩んでいます。