『甘くない湖水』(早川書房)ジュリア・カミニート著/越前貴美子訳

読書『甘くない湖水』(早川書房)ジュリア・カミニート著/越前貴美子訳

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『甘くない湖水』(早川書房)ジュリア・カミニート著/越前貴美子訳

新年最初の読書は、イタリア・ローマ生まれの作家さん。昨年末ラストの読書もイタリアを舞台とした小説でした。どちらもいつものカメリアステージ図書館新刊棚で直感的に手に取ったもので、読みはじめてからイタリアなのだと分かったもの。この偶然を、今年もイタリアにご縁があるということね!?と、勝手に好解釈。

年末に読んだ『マルナータ』がムッソリーニ政権下、1930年代ごろを舞台にしていたのに対し、『甘くない湖水』は、ストーリーにアメリカでのツインタワーテロ(2001年9月)のエピソードが出てきますので、ほぼ現代。どちらも思春期-青春期の女の子が主人公です。ところが時代設定の違いがあるにもかかわらず、ストーリーの核となる、格差社会に拳を握り締める弱者の叫びは共通であり、読後になんともいえない無力感が残りました。

『甘くない湖水』の「湖水」は、主人公の思春期から青春期を象徴するものであり、「青春時代の苦み」とでも言い換えることができるものです。けれどもここに描かれている「青春時代の苦み」は、単に若さゆえの苦さではなく、経済的弱者であるからこそ倍増される苦みでした。著者も訳者も「あとがき」で書いている通り、本書に横たわっているのは「痛み」そのもの。主人公の行動にひやひやしながらも、一緒になって拳を握り締める読書でした。

『マルターナ』も『甘くない湖水』も、新進の女性作家によるものでした。このような作品が続いて出ているということに、現代のイタリアに暮らす人々が抱えている社会への不安の大きさを見る思いがしました。そしてその不安は、ここ日本でも決して他人事ではなく。海外の良書を日本に出してくださる出版社と翻訳者の皆さんに、心より感謝。今年もたくさんお世話になりそうです。

『甘くない湖水』(早川書房)ジュリア・カミニート著/越前貴美子訳

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ふじゆり@花祭窯

花祭窯おかみ/Meet Me at Art アートエデュケーター ふじゆり のブログです。1997年に開窯した花祭窯は、肥前磁器作家である夫・藤吉憲典の工房です。その準備期から、マネジメント&ディレクション(=作品制作以外の諸々)担当として作家活動をサポートし、現在に至ります。工芸・美術の現場で仕事をするなかで、体系的な学びの必要性を感じ、40代で博物館学芸員資格課程に編入学・修了。2016年からは、教育普及を専門とする学芸員(アートエデュケーター)として、「Meet Me at Art(美術を通して、わたしに出会う)」をコンセプトに、フリーでの活動をスタートしました。美術を社会に開き、暮らしと美術をつなぐことをライフワークとして、コツコツと歩んでいます。