こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。
読書『英国メイド マーガレットの回想』(河出書房新社)マーガレット・パウエル著/村上リコ訳
著者名を聞いたことがあるなぁ、と思いましたが、それは音がそっくりの「マーガレット・ハウエル」で、こちらはファッションブランド…の、思い違いでした。
さて本書、タイトルの通り、回想記=自伝です。1907年生まれの著者が1968年に著した60年分の回想記。貧しい家庭に生まれて、富裕な家でのキッチンメイドとなったマーガレットの少女時代から、執筆活動を始めるに至るまで。そこには、現代に生きるわたしがイメージしきれないほどの大きな「階級の壁」があり、その実態を覗き見ることになりました。この間に二度の世界大戦があり、英国の社会も大きく変化しています。訳者による「はじめに」で、時代背景を解説してくださっているのが、その後の読書にとても役立ちました。
英国の階級社会については、これまでに何冊もの本を読んで、なんとなくわかったようなつもりになっていました。
が、それはあくまでも「つもり」でしかありません。実際に英国でメイドとして働くことがどういうことであったのか、「労働者階級」というものがどういうものなのか、赤裸々ともいえる本書を読んで、頭をガツンとやられたような気がいたしました。
例えば、チャーチルやチャップリンの自伝などにも、階級の話は出てくるのですが、チャーチルはアッパークラスですし、チャップリンは上り詰めていった人。
富裕層に使える労働者クラスという意味では、カズオ・イシグロの『日の名残り』の主人公である執事も、まさにその立ち位置ではあります。
映画では、ダウントン・アビーにも、そのような視点が出て参りますね。
ですが、美しくお話としてまとめられているこれらに対し、『英国メイド マーガレットの回想』の実話のインパクトは、とても大きかったです。そしてそのような理不尽な中を生きるマーガレットの強さ。さりげなく「本を読む」ことの価値が伝わってくるくだりがたびたび登場し、読書が彼女を支え続けたのだと知ることは、わたしにとっても嬉しいことでした。