こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。
読書『運命のコイン 上・下』(新潮文庫)ジェフリー・アーチャー
小説から歴史を眺める。今回の舞台はソビエト(ロシア)、イギリス、アメリカの近・現代史でした。1968年から1999年の約30年間の出来事として設定されていて、わたし自身が生まれた(1969年)まさにリアルタイムでの世界情勢を垣間見ることができました。
政治・経済、そしてちょっぴり美術の世界を通じて眺める近現代史。タイトルの「運命のコイン」は、主人公がソビエトを脱出して乗る船の行き先を、アメリカにするかイギリスにするかの二択をコインの裏表で決めようというところからついたもの。
イギリス行きの船に乗った場合と、アメリカ行きの船に乗った場合の、両方のストーリーがあり、面白い手法だなぁと思いました。それぞれのストーリーで、主人公がしばしば「もう一方の船に乗っていたらどうなっていただろうか、この選択は間違っていたのではないだろうか」という思いにとらわれるのに対し、読む側はその結果を知っているのですから、なんとも不思議な立ち位置に立たされている感じがしました。
それにしても、その結末をどう理解したらよいか、考えさせられました。アメリカ行きとイギリス行き、最初はかなり異なった道になるように見えたのが、同じようなお終いを迎えることになった二つのストーリーに、苦いものが残りました。
その人の行き先(将来)を決めるのは、結局は環境ではなくその人自身だということでしょうか。持って生まれた宿命があるのか。あるいは母国への抗えない帰巣本能とでもいうべきものがあるのか。それとも、ある種の「欲」ゆえの結果なのか。いずれにしても、タイトルで「運命のコイン」といいながら、コインの表裏は主人公の運命を最終的に決めるものではなかったということになります。
ジェフリー・アーチャーその人自身にも興味が湧いてきました。作品を読み広げていきたいと思います。