読書『旅する日曜美術館 東海・近畿・中国・四国・九州』(NHK出版)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『旅する日曜美術館 東海・近畿・中国・四国・九州』(NHK出版)

本日も読書記録が続きます。ご存じNHKの長寿美術番組『日曜美術館』を本にまとめたもの。わたし自身はテレビから離れて久しいので、日曜美術館もずっと見ていませんでしたが、昨年の学芸員研修会「展示グラフィック」のなかで、「構成・見せ方」のヒントがこの番組内にたくさんあると学んだのを思い出し、手に取りました。

「北海道・東北・関東・甲信越・北陸」編と、「東海・近畿・中国・四国・九州」編の全2巻。1976年の番組開始以来のアーカイブのなかから生まれた旅との設定の通り、番組中でのインタビューやメッセージなどのエピソードが盛り込まれています。文章と写真で美術館をたどる旅の本。

「東海・近畿・中国・四国・九州」編には、ワクワクする顔ぶれの36館が紹介されています。当然、ふつうの美術館ガイドブックとは少々趣が異なります。さまざまなエピソードも、いつ番組で放送されたもので、誰の発言によるものなのかが、明確になっています。それだけに、当事者の言葉として読む側に迫ってくるものがあります。

九州では、佐賀県の「九州陶磁文化館」(以下、九陶)も取り上げられているのが、嬉しかったです。上の写真は、その九陶が発行する図録の一部。九陶は「柴田コレクション」を誇る、藤吉憲典が陶芸家として師と仰ぐ存在です。「陶磁」に特化した美術館ですので、一般の人が足を運ぶことは多くはないのが現状ですが、佐賀県にとって、日本のやきもの文化にとって、とても重要な館です。そういう館を紹介してもらえるのは、とても嬉しいこと。

ただ、九陶のページで一緒に紹介されているエピソードのなかで、違和感を感じる部分が少なからずありました。「唐草の描き方を指導している人」のくだりは、いかにもテレビ用に設えられた感じがしますし、「様式を支える仕事」として紹介されている柿右衛門窯でのやり取りのなかにも、都合の良い美談と感じられるものがあり…あくまでも個人的な感想ですが。せっかくならば、九陶の学芸員(研究者)の方々のお話を載せていただいた方が、中立的であったはず、との思いが正直なところ。

自分の知っている館、知っている分野について、このように「すんなりとは同意しかねる部分」が見つかるということは、他館についても多かれ少なかれ、そういう部分があるかもしれないなぁ、と。いまだに「NHKの番組で言っていたから」と頭から信じてしまう人たちは、少なくないと思います。テレビ的な影響が良くも悪くもそのまま本書にも反映されているとしたら、ちょっと残念です。

とはいえ「読み応えのある美術館ガイドブック」であることには間違いありません。遠くへお出かけしにくい昨今、手に取ってみるのも楽しいと思います^^