サロメ ワイルド 原田マハ

読書『サロメの断頭台』(講談社)夕木春央著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『サロメの断頭台』(講談社)夕木春央著

いつものカメリアステージ図書館新刊棚で発見。こちらも初めましての著者さんです。書評サイトをのぞくと、どうやらコアなファンがぎっしりついていらっしゃる人気作家さんであられるご様子。こんなふうに、まだ読んだことのない作家さんがいくらでもいらっしゃるのだと思うと、読書時間がいくらあっても足りませんね。「サロメ」の文字におどろおどろしいイメージが浮かびましたが、そのイメージの上を行く、重い読みごたえのある一冊でした。

主人公である画家が描いた絵の盗作品の存在が見つかったことに端を発し、贋作ビジネスの発覚、連続殺人事件と次々に不穏な出来事が立ち現れます。ストーリーの中には、時代背景の説明めいた文章は見当たりませんでしたが、明治から大正あたりだろうと違和感なく理解しながら読めたところが、著者の力だなぁと思いました。時代設定は大正時代だったようですが、わたしには、鹿鳴館から大正ロマンといったイメージが、読みながら自然と浮かんできました。

最後の方で主人公が犯人たちに投げかける「君たちはきっと、(中略)、崇高な、自分たちだけに許されたことだと勘違いしていたんじゃないかな?まるで芸術家の特権のようにだ。」というセリフが、とても刺さりました。実のところ程度の差こそあれ、そのような「勘違い」が、令和の今もなお根強く残っていることを、芸術の現場にいると感じることは少なくありません。そういう自分だって、勘違いしていることが無いとは言えないのではないかと、ヒヤリとさせられました。

ともあれ登場人物が画家をはじめとした芸術家たちであるということを別にしても、非常に絵画的な小説だと思いました。映像にしたら、とても怖くて美しいものが出来上がりそうです。ちなみにわたしの頭のなかには、ややセピア色がかったほの暗い画が、読書の間中浮かんでいました。

巻末に参考文献として、ワイルドの『サロメ』のタイトルが挙がっているのはもちろんのこと、その他の書籍も、興味深いタイトルがずらりと並んでいました。本書では、大正時代の文化の担い手(自称を含む)と彼らを取り巻く雰囲気がなんともいえず良かったのですが、著者がどんな世界観から紡ぎだしてきたのか、その「元」の一端が参考文献に並んでいました。これらも読まねばと思わせられました。

ちなみにわたしが過去に読んだ『サロメ』は、オスカー・ワイルド著と、そのオスカー・ワイルドを描いた、原田マハ著です。

『サロメの断頭台』(講談社)夕木春央著

投稿者:

ふじゆり@花祭窯

花祭窯おかみ/Meet Me at Art アートエデュケーター ふじゆり のブログです。1997年に開窯した花祭窯は、肥前磁器作家である夫・藤吉憲典の工房です。その準備期から、マネジメント&ディレクション(=作品制作以外の諸々)担当として作家活動をサポートし、現在に至ります。工芸・美術の現場で仕事をするなかで、体系的な学びの必要性を感じ、40代で博物館学芸員資格課程に編入学・修了。2016年からは、教育普及を専門とする学芸員(アートエデュケーター)として、「Meet Me at Art(美術を通して、わたしに出会う)」をコンセプトに、フリーでの活動をスタートしました。美術を社会に開き、暮らしと美術をつなぐことをライフワークとして、コツコツと歩んでいます。