読書『映画館を再生します。』(文藝春秋)小倉昭和館・館主 樋口智巳著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『映画館を再生します。』(文藝春秋)小倉昭和館・館主 樋口智巳著

タイトルに「小倉昭和館、火災から復活までの477日」とあります。福岡県北九州市は小倉旦過市場の、二度目の火災で焼失した映画館「小倉昭和館」再生のドキュメント。

小倉旦過市場では、2022年4月に商店街を焼く火災が起こり、ようやく復興に向けて動き始めようかという同年8月に、二度目の火災が起こりました。古い建物が密集しているエリアで、いずれの火災でも何店舗もが消失しています。小倉昭和館は、福岡最古の映画館と言われ、創業83年を目前にしたところでした。

三代目映画館主である樋口智巳氏の気持ち、言葉、行動が、火災後間もない時点から記録されています。なかには著者自身が、「わたしはよく覚えていないのですが」というような記述もあります。物理的にも心理的にもとても大きなダメージを受けた状態で選択を迫られるなかで、「再生するにしても、再生しないにしても本にしましょう」という編集者によって、かたちになったものだということがわかります。著者が再生を決意するまでには、かなりの時間がかかっており、本書が「映画館の再生ありき」でスタートしたものではないということが、伝わってきます。

それにしても、80年を超える歴史のなかで、小倉昭和館がたくさんの映画人にどれほど愛された場所であったのかを、本書で初めて知りました。今回の再生にあたっても、リリー・フランキー、光石研、仲代達矢、秋吉久美子、片桐はいり、笑福亭鶴瓶など、そうそうたる顔ぶれが様々な形で館主を支えています。火災があるまで、わたしは小倉昭和館の存在は知っていましたが、「小倉にある老舗の単館映画館」というほどの認識でした。火災以降のローカルニュースでの報道内容を目にしながら、その存在に興味が湧いてきて、本書を読んで、これはぜひ一度足を運ばねばと思いました。再生したのは昨年冬、2023年12月。そこから魅力的なイベントを次々に開催なさっています。

小倉昭和館の公式サイト

『地球の歩き方』の北九州市版をブログで紹介したのは、つい先日のことでした。

このところ北九州市に足を運ぶ理由がどんどん増えています^^

思いがけずふらっと立ち寄ってくれるお友だちがあると、びっくりする以上に嬉しくなる。

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思いがけずふらっと立ち寄ってくれるお友だちがあると、びっくりする以上に嬉しくなる。

花祭窯へのご来店は「完全予約制」にしています。ギャラリースペースで器やアート作品をご覧いただくことができるのですが、ギャラリーに常駐の店員さんを雇っているわけではないので、外出していたり、仕事の手がどうしても離せなかったりで、来客対応が出来無いことがしばしばあります。また、ちょうど個展中のときなど、ギャラリースペースにほとんどモノがない!ということもあります。花祭窯にお越しのお客様には、比較的遠方からいらっしゃる方々が少なくありません。せっかくお越しになったときに、上述のような理由でギャラリーに上がっていただけないことがあると、とても心苦しいので、「完全予約制」を導入することにしたのでした。

一方、プライベートでは、ふらっと立ち寄って声をかけてくれるお友だちがあります。このような場合は、例えば忙しければ「ごめん、今手が離せない!」と言えますし、ある程度お互いの状況を理解したうえでのこととなりますので、ウェルカム!となります。うちのダンナ自身が、よくそれ(=友人のところにふらっと立ち寄る)をするので、相手の方にご迷惑にならないと良いけれど…と思うのですが、逆の立場で考えると、自分たちのことを気にかけてくれたり頼りにしてくれたりする友人がいる、というのは、とても嬉しいことです。

つい先日も、久しぶりの友人が「近くを通ったからついでに」と顔を見せてくれました。まずは「留守してなくて良かった」とホッ。ついでと言いつつ、我が家は入り組んだ町中に在りますので、足を延ばして会いに来てくださったことは間違いなく、とても嬉しくなりました。そして「次回は、ゆっくり遊びに来てね」です。「ふらっと」は「ゆっくり(じっくり)」のきっかけになることも多いですね。

とはいえ、重ねてのお願いとなりますが、「お客様」の場合は、必ず事前のご連絡をお願いいたします。近所までお越しになった場合など、直前の問い合わせの場合は、近所の観光案内所・津屋崎千軒「なごみ」から電話でご連絡を頂けると良いと思います。ただ、ご連絡いただいたうえで、ご来店不可能な場合もございます。そのときは、津屋崎千軒内の観光スポットをお楽しみくださいますよう、何卒ご了承くださいませ。

津屋崎千軒なごみ 公式サイト

読書『落日』(角川春樹事務所)湊かなえ著

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読書『落日』(角川春樹事務所)湊かなえ著

わたしが「湊かなえ著作を読む」デビューしたのは、今年の三月のことでした。その後、図書館の「湊かなえ」さんの棚にずらりと並んだなかから、ときどき借りてきては読んでいます。まだまだ今から読める既刊がたくさんあるので、嬉しくなります。

『落日』は2019年発刊の書下ろし。『告白』を読んだときと同じような、ざわざわした感じが、読みながら胸の内に広がりました。幾重にも張り巡らされた伏線がどこにつながるのか、推理しながらの読書は、頭の体操にもなったような気がします。半分以上読んだあたりで、「真実はこうなのではないか」とつながったあとは、それが正解かどうかを確かめるための読書となりました。

主要な登場人物が脚本家と映画監督であり、フィクションとして事件を描くために、事実をできるだけ明らかにしていくというスタンスが、読んでいるわたしにとっては新しい視点でした。事実と真実との違いというのは、最近よく耳にしたり目にしたりするテーマですが、言葉での説明というよりも、このストーリー全体を通して、なるほどと理解できたような気がします。

ところで一番上の写真は、わたしの夕方散歩コース・津屋崎浜から海に沈む夕陽。『落日』のなかでは、「海に沈む夕日」が象徴的なイメージとして登場します。わたしにとっては、海に沈む夕日はここ津屋崎に住みはじめて以来、日常的に見ることができる当たり前の景色となっています。当たり前ではあっても、毎回その美しさに感動するのには違いありませんが。それでもこの場所から離れることになったとき、離れたあとに、自分にとってもっともっと特別な景色になるのかもしれないなぁと、思いながらの読書となりました。

『落日』(角川春樹事務所)湊かなえ著

花祭窯の磁器制作材料や道具は、佐賀県有田の陶磁器産業の方々にお世話になっています。

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花祭窯の磁器制作材料や道具は、佐賀県有田の陶磁器産業の方々にお世話になっています。

花祭窯の独立以来ずっと、材料や道具は有田焼の産地である佐賀県有田とその近辺にある関連産業の事業者さんにお世話になっています。そしてその多くは、藤吉憲典が独立前に、有田の複数の窯元で社員として商品開発をしていた時からお世話になっていたところ。つまり窯元勤め時代を合わせると、30年を超えるお付き合いがあるところも少なくありません。

独立前から、伝統工芸である有田焼はバブル期の割烹食器需要をピークに衰退の一途をたどっていました。花祭窯を開いたのは1997年ですが、当時、産地の方々からは「よくこんな景気の悪い時期に独立するね」と言われたものでした。その後も多くの窯元・メーカーが廃業するのに伴い、関連産業の事業者さんも廃業に追い込まれたところがたくさんありました。そんななか、堅実なお仕事で産地を支えてくださっている事業者さんのおかげで、今も安心して仕事ができることは、ほんとうにありがたいことです。

さて久しぶりに、有田への仕入出張にダンナと一緒に行ってきました。ダンナは1‐2カ月に一度くらいの頻度で有田に足を運んでいますが、わたしはここ数年足を運べず。前回は2021年かな…コロナ禍があったとはいえ、ずいぶんご無沙汰してしまいました。

久しぶりの有田は、街並み自体はそれほど変わったようには見えませんでしたが、連なるお店や会社の名前がずいぶんと変わったところもあるようでした。釉薬やさん、絵具やさん、筆や機械などの備品を扱う陶芸材料やさん、化粧箱やさん、梱包材やさん…陶磁器産業を支えるさまざまな事業者さんが集積しているのを見ると、やはりここは一大産地なのだなぁと思います。

磁器土を扱う陶土やさんだけは、有田からほんの少しだけ離れた嬉野市塩田川沿いにありますが、これは有田泉山の磁器土が採石できなくなってから、熊本天草で採石された原料土が水路で運ばれてきたからという地理的な理由があるようです。

さて必要なものを買い揃えたあとは、古くからの友人であり、陶芸作家としての先輩でもある、陶房七〇八・豊増さんの工房へ。連絡無しにふらりとおじゃましても、いつも嫌な顔一つせず、中国茶でもてなしてくださいます。久しぶりにご夫妻とお会い出来て嬉しかったうえに、ちょうど北京に行ってこられたという豊増さんに、現地情報をいろいろとお伺いすることができました。

佐賀に行くと、独立以来ずっとさりげなくサポートしてくださっている皆さんにお会いできて、初心に戻ります。そういう場所があることのありがたさを、あらためて感じた一日でした。

読書『化学の授業をはじめます。』(文藝春秋)ボニー・ガルマス著/鈴木美朋訳

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読書『化学の授業をはじめます。』(文藝春秋)ボニー・ガルマス著/鈴木美朋訳

いつものカメリアステージ図書館新刊棚から。少し前に新聞の書評欄で見て気になっていた本です。文藝春秋のサイトで「全米250万部、全世界600万部。2022年、最も売れたデビュー小説!」と紹介されている、話題の書。AppleTVでドラマ化もされたそうです。

舞台は1950~1960年代のアメリカ。半世紀以上も前の設定ですが、本書を読みながら、2017年に始まった「#MeToo」運動や、それに続くジェンダー論争につながっていることをひしひしと感じました。だからこそ、今、全世界で読まれているのだと思います。半世紀以上も経っているのに、未だ世の中は…という現状に対する怒りと反発が、読者のなかにあるのではないでしょうか。

主人公は、研究職=保守的な男社会で奮闘する才能ある化学研究者エリザベス。彼女と一緒になって憤り、失望し、喜び…と、感情の起伏の激しいの読書時間となりました。エンタメ小説として面白かったのはもちろんですが、それ以上にいろいろなことを考えさせられた一冊です。

日本で男女雇用機会均等法が成立したのは、1986年。わたしが社会に出た頃には、「男女雇用機会均等法第一世代」と呼ばれる方々が、少し先を切り開きつつある時代でした。幸いわたし自身の就職先は、性別学歴関わらず機会が与えられ評価される会社でしたので、その手の理不尽からは守られていました。が、法人営業職として多くの会社の「人事の現実」を目の当たりにするなかで、「男女雇用機会均等法」の存在価値を疑うことは数知れず。そんななかでキャリアを切り開いた女性たちの姿、能力と勇気と責任感と我慢強さを思い出した読書となりました。

『化学の授業をはじめます。』(文藝春秋)ボニー・ガルマス著/鈴木美朋訳

映画『劇場版「鬼平犯科帳 血闘」』を観てきました。

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映画『劇場版「鬼平犯科帳 血闘」』を観てきました。

行こう行こうと思いながら、久しぶりの映画鑑賞。いつものご近所TOHOシネマです。前回観た『ジャンヌ・デュ・バリュー』からふた月も空いてしまいました。2024年の三本目です。

フランス映画の次は邦画、それも時代劇です。池波正太郎生誕100年企画で新たに復活した鬼平犯科帳。

『鬼平犯科帳』といえば、わたしの頭に浮かぶのはもちろん中村吉右衛門。テレビで観たことのある世代です。今回は吉右衛門の甥である松本幸四郎が長谷川平蔵を演じることに加え、その青年時代を幸四郎の実息である市川染五郎が演じるという、話題性たっぷりの作品。気になっていたところに、観た人からの「よかった!」という感想があちらこちらから聞こえてきましたから、これはもう観に行くしかありません。

約二時間の上映時間、自分の記憶にある鬼平犯科帳のイメージ・世界観を損ねることなく期待以上で、見終わったときに「良かった!」と思わずつぶやきました。松本幸四郎さんは、この役のために体重を増やしたかしら?と思しき貫禄が出ていました。吉右衛門さんに比べると、遊び人らしい風体というか色香が少し足りないかなぁという感じもしましたが、やや堅物っぽい雰囲気の鬼平も、個人的には好みでした(笑)染五郎さんの演じる、青年時代の平蔵も、良かったです。

映画館で時代劇もいいなぁと思わせる一本でした。まず思いがけず、画的にとても見応えがありました。ストーリー的には、どんなふうに話が展開するかなんとなくわかっているのだけれど、それでも手に汗握りドキドキする。そんな予定調和の醍醐味を、久しぶりにたっぷり満喫いたしました。エンディングで次作への伏線が張られていましたが、こちらは時代劇専門チャンネルでの番組になるようですね。劇場版ならぜひ観に行きたいところでしたが、ちょっぴり、いやかなり残念です。上の写真は、フリーペーパー「TOHOシネマズマガジン」に載っていたインタビュー記事より。このインタビューで松本幸四郎さんがおっしゃっていることもなかなか素敵でした。

劇場版「鬼平犯科帳 血闘」

約ふた月ぶりの映画館での鑑賞は、やっぱり良かったです。大きな画面に好い音響、映画上映のために作られた空間ですから、その違いは大きいですね♪

アートの新しいプラットフォームArtStickerにKensuke Fujiyoshが参加。

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アートの新しいプラットフォームArtStickerにKensuke Fujiyoshが参加。

山口周氏の『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?』を読んだのは2017年、刊行されたその年でした。「アート(美術・芸術)とビジネス」の動きが日本国内でも加速し出したのは、このころからだろうと思います。もう7年も経つのですね。

特にそうした動きをけん引した(している)のは、従来からのアート業界関係者というよりは、IT技術の有用性を理解し、それらを駆使して「つなげる」ことを得意とする若い世代の方々だと感じます。あちらこちらにアート系のプラットフォームが立ち上がってきているようなので、今どんなサービスが存在するのか、知らないことが多く情報に追いつけないというのが正直なところですが、運良くわたし自身のアンテナに引っかかったときにはチェックするようにしています。

アート・コミュニケーション・プラットフォーム ArtStickerの存在を知ったのは、つい先日。運営しているのは、株式会社The Chain Museum。2018年7月設立で、翌2019年2月に「アーティスト支援アプリArtSticker」として、iOSのβ版公開との記事を見つけましたので、すでにリリースから5年ほど経っているということですね。タイトルに「アートの新しいプラットフォーム」と書きましたが、わたしたちにとって新しい、というところです。

Artsticker : Kensuke Fujiyoshi のページ

現在のところ、まだ1点の作品掲載のみですが、1点づつゆっくり増やして参ります。藤吉憲典のアート作品はこれまで新作のほとんどがロンドンのSladmoreに送られ、そこでSoldとなっていましたので、国内でご覧いただいたり、ご購入いただいたりの機会がとても少なかったのですが、Artstickerを通じて一人でも多くの方の目にとまると良いなと思っています。

藤吉憲典の制作の様子は、Kensuke Fujiyoshi 公式Vimeoでご覧になれます。

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藤吉憲典の制作の様子は、Kensuke Fujiyoshi 公式Vimeoでご覧になれます。

初めて動画サイトVimeoを使ったのは2017年のこと。当時、特に国内では、動画サイト=YouTubeという認識が強かったので、Vimeoの存在は嬉しい驚きでした。

そもそもは、ロンドンの取引先ギャラリーSladmoreが使っている動画サイトを教えてもらったのがきっかけでした。アート系・デザイン系の利用者が多く、その特徴は、画像が美しいことと、なんといっても広告が入らないこと。これがYouTubeとの大きな違いです。アップロード容量に制限のある無料プランから、サービス内容の充実した有料サービスまで、すべての動画再生で広告が入りません。

久しぶりに動画をアップしました。これで6本目です。使いはじめてから7年ほど経っていると思うと、超スローペースですね。アップロード容量に制限がありますし、そもそも動画をバンバンとることをしておりませんので、このようなペースですが、ぜひ皆さんにご覧いただきたい良い動画が出来たら、Vimeoで紹介して参ります。

Kensuke Fujiyoshi公式Vimeo  https://vimeo.com/kensukefujiyoshi

ちなみに現在、Sladmoreで紹介されている藤吉の紹介ページにも、ロンドン個展の際に撮った動画がvimeoの埋め込みで公開されています。よかったらこちらもご笑覧くださいませ^^

読書『いちばんの願い』(新潮社)トーン・テレヘン著/長山さき訳

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読書『いちばんの願い』(新潮社)トーン・テレヘン著/長山さき訳

いつものカメリアステージ図書館新刊棚から、既視感のある本を無意識に手に取っておりました。既視感があるはず、過去に同著者の「動物もの」を読んでおりました。著者のトーン・テレヘンさんはオランダ・アムステルダムで開業医をしつつ、ご自身のお子さん向けに、動物を主人公とする本を50冊以上発表してきた作家さん。

『キリギリスのしあわせ』を読んだ時に感じた、翻訳された日本語の絶妙な「いい感じ」は今回の『いちばんの願い』でも健在で、翻訳者である長山さきさんにありがとうを言いたくなりました。

上の写真は「目次」。目次がそのまま、本書に登場する動物たちの顔ぶれとなっています。その数63。それそれの持つ「いちばんの願い」は、当人にとってはそれぞれにちょっぴり(あるいはとても)切実で、やさしい言葉で書いてあるものの、読み手にはそれぞれにちょっぴり(あるいはとっても)考えさせられるものでした。

それ(考えさせられる)は著者が特に意図したものではないと思います。けれども何十年も生きてきた今読めば、それぞれのストーリーに比喩的に重なる(勝手に重ねてしまう)ものがあり。だからこそ、大人が読んで心に響く本になっているのだと思います。

装丁のイラストレーションはDaisuke Soshiki氏で、トーン・テレヘン著では本屋大賞を取った『ハリネズミの願い』からずっと続いています。やわらかい雰囲気の画が本の内容とピタッときていて、最初に思わず手が伸びたのは、この表紙に惹かれたから、というのも大きいです。

『いちばんの願い』(新潮社)トーン・テレヘン著/長山さき訳

読書『サロメの断頭台』(講談社)夕木春央著

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読書『サロメの断頭台』(講談社)夕木春央著

いつものカメリアステージ図書館新刊棚で発見。こちらも初めましての著者さんです。書評サイトをのぞくと、どうやらコアなファンがぎっしりついていらっしゃる人気作家さんであられるご様子。こんなふうに、まだ読んだことのない作家さんがいくらでもいらっしゃるのだと思うと、読書時間がいくらあっても足りませんね。「サロメ」の文字におどろおどろしいイメージが浮かびましたが、そのイメージの上を行く、重い読みごたえのある一冊でした。

主人公である画家が描いた絵の盗作品の存在が見つかったことに端を発し、贋作ビジネスの発覚、連続殺人事件と次々に不穏な出来事が立ち現れます。ストーリーの中には、時代背景の説明めいた文章は見当たりませんでしたが、明治から大正あたりだろうと違和感なく理解しながら読めたところが、著者の力だなぁと思いました。時代設定は大正時代だったようですが、わたしには、鹿鳴館から大正ロマンといったイメージが、読みながら自然と浮かんできました。

最後の方で主人公が犯人たちに投げかける「君たちはきっと、(中略)、崇高な、自分たちだけに許されたことだと勘違いしていたんじゃないかな?まるで芸術家の特権のようにだ。」というセリフが、とても刺さりました。実のところ程度の差こそあれ、そのような「勘違い」が、令和の今もなお根強く残っていることを、芸術の現場にいると感じることは少なくありません。そういう自分だって、勘違いしていることが無いとは言えないのではないかと、ヒヤリとさせられました。

ともあれ登場人物が画家をはじめとした芸術家たちであるということを別にしても、非常に絵画的な小説だと思いました。映像にしたら、とても怖くて美しいものが出来上がりそうです。ちなみにわたしの頭のなかには、ややセピア色がかったほの暗い画が、読書の間中浮かんでいました。

巻末に参考文献として、ワイルドの『サロメ』のタイトルが挙がっているのはもちろんのこと、その他の書籍も、興味深いタイトルがずらりと並んでいました。本書では、大正時代の文化の担い手(自称を含む)と彼らを取り巻く雰囲気がなんともいえず良かったのですが、著者がどんな世界観から紡ぎだしてきたのか、その「元」の一端が参考文献に並んでいました。これらも読まねばと思わせられました。

ちなみにわたしが過去に読んだ『サロメ』は、オスカー・ワイルド著と、そのオスカー・ワイルドを描いた、原田マハ著です。

『サロメの断頭台』(講談社)夕木春央著