2025年映画5本目は三谷幸喜のタイムスリップコメディ『おい、太宰 劇場版』。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

2025年映画5本目は三谷幸喜のタイムスリップコメディ『おい、太宰 劇場版』

最寄りの映画館はTOHOシネマズ福津です。映画館が地域から無くなってしまうと悲しいので、できるだけここに足を運びたいなと思っています。「観たい!」と思ったものがなかなか来なかったりもしますが、集客を考えると致し方無し、というところ。なので『おい、太宰』が上映されると知って、驚くやら嬉しいやら。ラッキー!いつ行こうかな♪と上映スケジュールを見ていたら、公開から1週間で終了予定…。というわけで、即座に足を運んでまいりました。

WOWOWで放送されたドラマの劇場版だそうです。演劇的な面白さ満載で、「舞台だったらこのシーンで客席がドッと沸くんだろうな」と思いつつ、映画館なので声を出さずに笑うのに一苦労でした。何度か吹き出しましたが…。

映画のチラシでは「完全ワンシーンワンカットドラマ」と大きく掲げられていて、まあ、それはそれでわかるのですが、無理してワンカットで撮らなくても、と思う部分もあり(笑)。セリフが全部頭に入っているのだろうな、すごいな、と思い、でも舞台だったらそれも当たり前か、と思い。わたしが一番すごいと思ったのは、出演者5人でこの1本を仕上げている面白さでした。これも、演劇的ですね。ちなみに梶原善さんが一人三役しているので、出演者は5名ですが、登場人物は7名です(笑)。

本作、なんといっても太宰治役の松山ケンイチさんが、素晴らしく爆笑ものでした。しゃべりかた、動き、ポーズ。「太宰治といえば」で思い浮かぶイメージが、パロディ的にきっちり組み込まれていたというか、沁み込んでいたというか、一挙手一投足が笑いを誘いました。田中圭さん演じる主人公のセリフのとおり、誰もが若かりし頃に通る道にある「太宰治」。これをこんなに茶化してしまって!と思いつつ、たしかにあの存在は悲劇的でありながら喜劇的だったのだなぁと思い返させられる一本でした。

1社1分の自己紹介ピッチがあるのでスライドを1枚用意してくださいね、と言われ。

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1社1分の自己紹介ピッチがあるのでスライドを1枚用意してくださいね、と言われ。

8月から、とある勉強会(ビジネス系)に参加することが決まり、第1回目に向けての準備を始めています。月1回のペースで来年3月までの約7か月。真夏にスタートして、冬を経て、春を迎えようとするころまでに、どう変わっているか、どれくらい前に進むことができるか、楽しみです^^

これまでに「プレゼン資料を作る」は何度もやってきましたが、初めて「ピッチ」なる言葉で指定され、おお!となりました。「ピッチ」の響きには、「起業家が投資家の支援を得るための手法」というイメージ、絵的にはTEDでのスピーカー的なイメージがわたしのなかにあり、「自分たちの事業とは少々距離があるもの」でした。こんなふうに考えたら主催者の方に「意識が低い」と怒られそうですが、突然降ってわいたような「ピッチ」の一言が、なんだか面白く感じました。

そこでまずは、ChatGPTに「ピッチとは何か、ピッチとプレゼンの違いを教えて」とたずねてみました。その返事の第一文は「英語の動詞 to pitch(売り込む、提案する)や名詞 a pitch(売り込み、提案)に由来しています」。ずっと「ピッチって何の略だろう」と思っていましたが、略ではないのですね。そして大きな違いとして「どちらも「人に伝える」という点では共通していますが、目的とスタイルが異なるというのが最大の違いです」という補足があり、比較表を出してくれました。

いくつかの比較項目のなかでも特に面白かったのが、「意味」「目的」の解説でした。プレゼンが「発表」であるのに対してピッチは「売り込み」、プレゼンが「情報を伝え理解を促す」のに対してピッチは「相手に行動を起こしてもらう」のが目的とありました。もちろん、わかりやすさを重視した説明であるのは重々承知ですが、「ピッチ」の端的で即物的な説明のされ方に、思わず笑いました。

さて「ピッチ」の性質がなんとなくわかったところで、さっそく「1分自己紹介」用のスライド1枚を制作。Canvaのテンプレートを参考にしつつ、必須項目を並べ、簡潔で見やすいものを目指しました。それにしても、この手のテンプレートを探そうと思ったら、ネット上にいくらでも案が出てくるのですから、便利ですね。ちなみに1分のピッチで、日本語でしゃべる場合の文字数を聞いてみたら、300~350文字ということでした。あとはこの文字数(時間)に合わせた原稿を作ればOKです^^

読書『帰れない山』が素晴らしかったので、映画も観たかったなと思っていたら、図書館にDVDがあった。

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読書『帰れない山』が素晴らしかったので、映画も観たかったなと思っていたら、図書館にDVDがあった。

いつものカメリアステージ図書館新刊棚から借りてきて、重い感動が残った『帰れない山』。映画化されていたのね、映画館で観れなくて残念…と思いながら、念のためといつもの図書館検索をしたところ、ありました!DVD。さっそく借りて参りました。

本の読後の印象では、それほど「長編!」という感じがしなかったのですが、映画は147分とまぁまぁ長いので、あらためて本のページ数を確認したら272ページでした。十分に長編でしたね。当然、映画のなかでは端折られているシーンは数多くあり、それでも要所要所がきちんとエピソードとして取り込まれていて、違和感はありませんでした。説明しすぎることのないセリフと場面が余韻を感じさせ、とても良かったです。わたしは原作を読んでいましたので、映画で描かれていない部分を補うことができましたが、一緒に観たダンナによると、原作を読んでいなくても大丈夫だったようです。

主人公の父親が、息子に対して「お前は時間を無駄にしている」というようなことを言ったのに対し、「お父さんこそ時間を無駄にしている」と返したシーンが、なんとも印象的でした。そして期待通り、イタリアの山々の景色は美しく、山も川も湖も、素晴らしく見応えがありました。やはり映画館の大きな画面で観たかったな、と思いました。主人公と友人の男二人それぞれの不器用な生きざまは、本で読んだときと同様に、とてつもなく切なく。二人ともが似たような髭面になり、ぱっと見どちらがどちらか見分けがつきにくくなったときは少々焦りましたが(笑)。

図書館で、探していた本を見つけることはよくあることですが、今回はDVDを発見することができて、ラッキーでした^^

読書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)三宅香帆著

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読書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)三宅香帆著

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という本が売れているのは、知っていました。書評欄でも何度か目にしましたし、本屋さんでも目立つところに置いてある話題作。わたしもサラリーマン時代は、読書欲はあるので本を買うものの、時間が取れずに未読本がたまっていく…というループにハマっていました。なので、今の自分には当てはまらないけれど、このタイトルには心当たり有り、というところで。

ここ数年の自分自身の感覚としては、仕事に集中するほどに読書量も増えているような気がしています。根拠を測定したわけではありませんので、気のせいかもしれませんが(笑)。ともあれ、本が読めなくなるのは「働く」の内容にもよるのかもしれないな、と思いました。そう考えはじめると『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の中身にどのようなことが書いてあるのか気になりはじめ、こんなことなら先日丸善で見かけたときに買えばよかった、と思いつつ、試しに図書館で蔵書検索をかけたら…ありました。ありがとう!図書館♪

さて『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』。予想していたよりもはるかに硬派で、興味深い内容でした。「日本人と読書」について、音読から黙読へと「読書」が変化を遂げた明治時代にまでさかのぼり、現代にいたるまでの時代を追って分析をしています。出版文化の広がり、日本人の労働の仕方・階級(格差)の変化、時代背景とブーム、国(政府)の政策(思惑)、出版社の事情などなどを並べて、その関連性を探っています。

読むほどに「なるほど、そういうことだったのかぁ!」と腹落ちすること多々。1980年代~1990年代についての論考は、自分事としてものすごくよくわかりましたし、それ以前の時代については、自分たちの親の世代がどのようであったのかを理解する大きな手掛かりとなりました。感じたのは、無意識に時代の影響を受ける・時代に流される怖さです。「本を読む」という側面から眺めるだけでも、これだけのことがわかってくるのですね。そして第九章、最終章と、著者が本書を書いた理由(言いたいこと)があふれてきます。著者の言うところの「ノイズ」についての考察が、特に面白く理解できました。

読んでよかったです。読む前と読んだ後で、まったく印象が変わった一冊でした。特に最終章での話の展開というか提案には、哲学書的なものも感じました。読了後のわたしには、内容に対してタイトルが軽すぎるのではないかという気もしたのですが、でも、これが、今の時代に求められている出版に合ったタイトルなのでしょうね^^

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)三宅香帆著

読書『フェアリー・テイル』(文藝春秋)スティーヴン・キング著/白石朗訳

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読書『フェアリー・テイル』(文藝春秋)スティーヴン・キング著/白石朗訳

いつものカメリアステージ図書館新刊棚。スティーヴン・キングの最新作が出ているのを、少し前から新刊棚で確認はしていたのです。上下巻のどちらかがあるのを見かけていたので、上下巻とも揃って並んでいるときに借りようと思っていましたら、ついにその時が、思いのほか早くやってきました。

なにせ上下巻それぞれに328ページで、そのうえ二段組。文字数がすごいです(笑)。これ手に取ったらしばらく他は何も読めないぞ~!と思いつつ、二冊揃って借りることができるラッキーに、迷わず手を伸ばしました。で、現在上巻を読み終わったところです。

読み始めてすぐに、おや?と思いました。わたしのなかで「スティーヴン・キングといえば」のイメージである『ミザリー』や『シャイニング』寄りの物語ではなく、つまりホラーやらサイコやらという感じではなく、主人公の成長物語的な要素を考えると『スタンドバイミー』の世界観が一番近いかも、と思いました。そしてあらためてタイトルを見れば『フェアリー・テイル』ですから、さもありなん。文芸春秋公式サイトでも「ファンタジー超大作」とあり、ああ、なるほどと思うのでした。もちろんキングの作るファンタジーですから、一筋縄ではありませんし、もし絵にしたらしかめたくなるであろう場面も多々出てきます。けれどもたしかにファンタジー。そして古今東西の「フェアリー・テイル=おとぎ話」に対するキング自身のオマージュが感じられます。

わたしが前回キング作品を読んだのは、昨年初めの『異能機関』で、これも分厚い上下巻でした。そして本書『フェアリー・テイル』との間に、もうひとつ『ビリー・サマーズ』が出ています。これはまだ読んでいませんがこれまた上下巻の分厚い長編です(笑)。と考えると、とてつもない執筆ペースですよね。旺盛な創作意欲と、それを実現する体力気力に、巨匠の凄みを感じます。

文藝春秋公式サイトには「作家生活50周年を飾る巨匠の新たな代表作!」とあります。ほんとうに、すごい一冊です。下巻も読み始めていますが、どのような結末に導かれるのか、とっても楽しみです。

『フェアリー・テイル』(文藝春秋)スティーヴン・キング著/白石朗訳

令和7年度(2025年度)郷育カレッジ、無事開講式を迎えました!

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令和7年度(2025年度)郷育カレッジ、無事開講式を迎えました!

福津市民のための生涯学習システム「郷育カレッジ」。福津の「ひと、もの、こと」を題材に、ふるさと、健康福祉、環境、生きがいなど、さまざまな分野の講座を開催します。7月5日(土)に2025年度の開講式を開催いたしました。

これまで10年ほど、わたしは開講式では受付を担当していましたが、今年は裏方のステージ担当へ。受付は式典がスタートしたら持ち場を離れることができませんでしたので、開講式でのオープニングイベントや公開講座を聴講することができないでいたのですが、今回は舞台裏からすべてのプログラムを見ることができて、個人的にとても嬉しい開講式となりました。

朝9時前から集合して会場設営を整え、リハーサルをして午後からの式典に備えます。受付は受付でそれなりに神経を使う仕事でしたが、ステージ側の仕事は初めてでもあり、また違った緊張感がありました。皆さんに教えていただきながら、自分の役割を確認。11時にはオープニングイベントで、「獅子楽」を舞ってくれる小学生が到着し、演舞のリハーサル。太鼓の移動場所、マイクを渡すタイミングなどを確認しつつ、リハーサルを見ている段階ですでに感動です(笑)。

小学生の獅子楽演舞の本番では、子どもたちの緊張が伝わってきて、こちらまでドキドキ。そろいの衣装も可愛らしく、舞台袖から近距離で見ることができたのは、役得でした。その後の公開講座では、ここ数年、放送大学とのコラボ講座を開催しています。今年は九州大学名誉教授の小山内康人先生が「九州・福岡の活断層と地震」のタイトルで、講演してくださいました。

このところずっとトカラ列島の地震が続いていたり、7月5日の災害予言が取りざたされていたりという影響があったのでしょうか、予想以上にたくさんの皆さんがご来場くださいました。地質学・岩石学を専門とする小山内先生による、地震発生のメカニズムの解説はとても分かりやすく、現在どのように研究が進められているのか知ることができたのは、とても良いことでした。そして、講座のなかで何度も強調しておられた「自然現象を止めることはできないが、対策によって災害を防いだり減災することはできる」というお話が、とても心に残りました。

毎年、放送大学側にコラボ講座でお願いしたい内容についてテーマを決めるときに運営委員が心がけているのは、学術的な内容でも、来場する市民の皆さんが「自分ごと」として聴きたくなる内容をお願いする、ということです。今年のこの集客状況をみて、皆さんの関心の高さをうかがい知ることができたのは、大きな収穫でした。

当日のアンケートをもとに、また来年の開講式に向けて準備がはじまります。講座もいよいよスタート。今年度も早々に「満員御礼」となった講座がたくさんあり、とてもありがたいことです。が、まだ参加できる講座もあります。興味のある福津市民の皆様には、ぜひ一つでも多くの講座に足を運んでいただけると嬉しいです。

郷育カレッジについてのお問い合わせは、福津市郷育推進課へどうぞ^^

読書『狼の幸せ』(早川書房)パオロ・コニェッティ著/飯田亮介訳

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読書『狼の幸せ』(早川書房)パオロ・コニェッティ著/飯田亮介訳

いつものカメリアステージ図書館。先日読んだ『帰れない山』(新潮社)が素晴らしかったので、著者追っかけです。本書は最新刊のようですね。早川書房さんからの出版で、訳者も変わりましたので、興味深く読みました。早川書房の公式サイトでの紹介では「山岳小説」と書いてあり、ということは『帰れない山』も山岳小説だわ!と妙に腑に落ちました。「○○小説」とジャンル名が付くと、説明しやすくなり、整頓しやすくなりますね。たまに「そんなジャンルなのか?」という感じのものもありますが。

さて『狼の幸せ』。前作同様、映画にしたらさぞかし美しいだろうな、と思える舞台でした。主要登場人物4名それぞれのストーリーも面白く。巻末の訳者あとがきで、著者が「ずっと書きたかった恋愛小説に本書で挑戦した」とあり、恋愛小説だったのだとわかりましたが、恋愛以外の要素のほうが、わたしには面白かったです。恋愛の要素を入れなくても、じゅうぶんに読み応えのあるストーリーだったんじゃないかな、と。そうそう、最初に気になった「訳者が変わった」件は、まったく気になりませんでした。

というわけで、『帰れない山』ほどの切なさやインパクトはありませんでしたが、読んだあとに、自分では見たことのない山々の景色を思い浮かべて、その美しさに酔うことのできる本でした。パオロ・コニェッティ氏、今後の作品も楽しみにしたいと思います。

『狼の幸せ』(早川書房)パオロ・コニェッティ著/飯田亮介訳

2025年映画4本目は『国宝』-話題作をやっとこさ観てまいりました♪

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2025年映画4本目は『国宝』-話題作をやっとこさ観てまいりました♪

六月は博多座大歌舞伎のチケットをとっていましたので、映画『国宝』をどのタイミングで観るかな、と考えておりました。6月初旬の公開から、あちらこちらで評判を聞くにつけ、これはロングランするな、と思いましたので、博多座大歌舞伎の後にすることに。

映画の日。お客さん多いかもな、と思っていましたが、ほんとうに多くて驚きました。満席ではなかったものの、わたしがここの映画館で観るようになってから、こんなに席が埋まっていたのは初めてかもしれません。観客が多い=映画館の存続につながりますので、とても嬉しいことです♪

さて国宝。なんといっても舞台のシーンが見応えありました。これはたしかに「映画館で観るべき」ですね。博多座の舞台演出を思い出しながら、映画で舞台裏をちょっぴり垣間見ることができたような気がして、わたしにとってはこれ以上ないグッドタイミングでした。映画のなかで出てきた歌舞伎の演目に興味が沸いたのも、良かったです。この映画をきっかけに歌舞伎ファンが増えるかもしれませんね。

実は当初「約3時間」の長さが気になって「どうしようかな」と思っていたのですが、これも先に観ていた皆さんがおっしゃったように、まったく長さを感じさせませんでした。映画館に観に行ってよかったです。ここ数年「長い」を理由に観に行かなかったものがいくつもありましたので、反省の機会になりました。興味の沸いた作品は、上映時間にかかわらず観に行った方がいいですね。

読書『スクラップ・アンド・ビルド』(文藝春秋)羽田圭介著

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読書『スクラップ・アンド・ビルド』(文藝春秋)羽田圭介著

いつものカメリアステージ図書館から先日借りてきた、羽田圭介さんの短編集『バックミラー』の「日常版滅びの美学」のインパクトが大きかったので、今回も羽田氏の著書を借りようと思っていたら、ちょうど図書館の貸出カウンター横の特集コーナーに本書が並んでいました。わたしの心の声が司書さんに聞こえたかしらと思いつつ、即座にゲット。

10年前の芥川賞受賞作。だからというのではもちろんありませんが、おもしろくて、一気に読んでしまいました。短編ではありませんが、長編という感じでもなく、サクッと読めます。家族小説であり、介護がテーマでもあり、深刻にしようと思えばいくらでもできる材料を、軽くいなしている感じがなんとなく痛快でジワジワ来る、不思議な感覚でした。

「死にたか(死にたい)」が口癖の87歳の祖父と、「死にたい」の手助けを不自然でない形でやろうと決意した主人公と、家族に甘える祖父に我慢の限界が近づいている主人公の母(=祖父の娘)。それぞれのセリフが面白いです。特に祖父の行動とセリフの端々にあらわれる、「イラつく要素」の描写が秀逸です。祖父の方言は長崎弁のようで、祖父の気持ちの載せ方がうまいなぁと思いました。そのニュアンスがよくわかるわたしとしては、思わず笑ってしまいました。

ラスト、思いがけない終わり方に唸りました。全編を通して、そしてラストも、大きな事件やイベントは起こらず、日常の延長線上にある展開なのですが、そのなかでこれだけ面白く読ませることができるんだなぁと思いました。そういえば『バックミラー』も「日常版滅びの美学」でしたので、「日常」の絶妙な切り取り方が、著者の持ち味の一つなのかもしれません。ほかの著書も読んでみようと思います。

『スクラップ・アンド・ビルド』(文藝春秋)羽田圭介著

読書『帰れない山』(新潮社)パオロ・コニェッティ著/関口英子訳

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読書『帰れない山』(新潮社)パオロ・コニェッティ著/関口英子訳

いつものカメリアステージ図書館新刊棚より。新潮社のサイトで本書の紹介文を見て気づいたのですが、2022年に映画化されていたのですね。日本でも公開されていました。これは映画館で観たら、さぞかし見ごたえがあっただろうな、と思います。日本では2018年に本書刊行で、2023年に映画が公開されていたようです。映画を見逃したのは残念でしたが、本書を仕入れてくださったカメリアステージ図書館に感謝です^^

久しぶりに、ガッツリと重く残る本に出合いました。『帰れない山』はイタリアで権威ある文学賞を受賞し、世界39か国で翻訳されているそうです。読み始めたところから最後まで、切なくて切なくて、なにがこんなに胸に迫ってくるのだろうと不思議でした。というのも、主人公と父親との関係も、主人公と友人との関係も、まったく自分と重なるところはなく、単純に共感するものではないのです。訳者あとがきを読んで、その理由がなんとなくわかりました。だからこそ、世界中で共感を呼んだのだろうと理解できました。

著者のパオロ・コニェッティ氏は今回初めましてでしたが、訳者の関口英子さんのお名前は見覚えがあり。ブログに読書記録を残しているだけでも、『「幸せの列車」に乗せられた少年』、『マルナータ 不幸を呼ぶ子』の二冊がありました。出版社・訳者の方が素晴らしい本を届けて下さるおかげで、こうして読むことができます。感謝感謝です。

上の写真は、わたしにとっての「山」である、花祭。山というよりは、山間の谷であり、里山と呼んだほうが正しいです。わたしが生まれてからこれまでに暮らした場所は、10カ所を超えますが、そのなかでもっとも自然環境の厳しい場所でしたし、限界集落で人の去っていく様、土地が放棄され寂れていく様をリアルに目にした場所でした。そこに暮らしたのは15年ほどでしたが、わたしのこれまでの人生のなかで、現時点で最も長く暮らした場所でもあります。住んだのは結婚後でしたから、幼少期を過ごしたわけでもありません。なのに、そこに行けば「帰ってきた」という感じがする。わたしにとっては、花祭が「山」なのだなぁと、本書を読み終えて思いました。

『帰れない山』(新潮社)パオロ・コニェッティ著/関口英子訳