思いがけずロンドンからメッセージが届いて、心がとっても温かくなる。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

思いがけずロンドンからメッセージが届いて、心がとっても温かくなる。

上の写真は、2019年開催のロンドンSLADMORE CONTEMPORARYでの個展のときの写真。当時のギャラリーオーナー・Gerryと、ダンナ・藤吉憲典の、初日オープニング前のツーショットです。Gerryに初めて会ったのは2014年のこと。ロンドンの老舗ギャラリーであり、顧客に英国ロイヤルファミリーをはじめとした有名コレクターを抱えるSLADMOREで、藤吉憲典の作品を気に入り迎え入れてくれたのがGerryでした。

実は、そんなにすごいギャラリーだとはまったく知らず、ただ海外ギャラリーの情報を集めていたときに、サイトの雰囲気から「このギャラリーすごくいいよね。ここに置いてもらえたら嬉しいよね」で、アポをとってロンドンに向かったのでした。Gerryもまた、ただ藤吉の作品を見て気に入ったというその一点で、自らのギャラリーで扱うことをその場で即決。芸術の世界では「作品を見ればわかる」と口では言うものの、それを本当に実行してしまうのは難しいことで、まさにアメイジング!なスタートだったのでした。

そのGerryが65歳を超えて、コロナ禍を機にオーナーを引退することを決断した時は、正直なところ大きな不安がありました。ギャラリーは現オーナーである共同経営者のもと続きますし、彼ともコミュニケーションはとれていましたが、Gerryのいないギャラリーで、藤吉憲典作品をどれほど重視してもらえるものか、と。現実的に考えて、屋外設置のブロンズをはじめ大型の彫刻作品を作る作家が多いSLADMORE において、藤吉の作品は売上額に大きく貢献できるものではありません。それでも当初からのスタッフや、熱心なコレクターさんたちの存在があって、引き続き大切にしていただいているのは、ほんとうに嬉しいことです。

そんな先日、藤吉憲典の公式サイトのアドレス宛に、Gerryからメールが入りました。これまでもインスタグラムを通じて「元気?また会いたいね」程度の軽いメッセージのやり取りはしていました。あらためてメールをもらって、おや?と思ったのもつかの間、本文の内容に、嬉しくて涙が出そうになりました。曰く「久しぶりにケンのホームページをじっくり見て、やっぱりケンの作るものは素晴らしくて、自分はケンの作品と世界観が大好きだっていうことを伝えたかったから、メールを書いたんだ」と。こうして言葉にして伝えてくれることが、どれほど心強くありがたいことか、ほんとうに励まされました。

すっかり隠居して、盆栽ガーデンをつくり、盆栽を眺めながら日本茶の玉露を楽しんでいるというGerry。次回のロンドン展覧会のときには、その盆栽ガーデンを訪問することを約束しました。

藤吉憲典公式サイト

SLADMORE GALLERY

読書『フランスから届いたパンのはなし』(産業編集センター)酒巻 洋子著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『フランスから届いたパンのはなし』(産業編集センター)酒巻 洋子著

いつものカメリアステージ図書館新刊棚より。表紙の魅力的なパンの写真に引っ張られて手に取りました。その場でパラパラとページをめくれば、さらに魅力的な写真がたくさん。近所に、オープン以来お気に入りのパン屋さんがあるのですが、そこのお仕事を彷彿とさせる写真の数々です。美味しいパンの写真を見て、味をイメージするだけで、幸せな気持ちになります。

さて本書、ページ構成は、写真6:文章4といったところでしょうか。文章も楽しくて、サクッと読めます。パンにまつわるちょっとした雑学を知ることができるのは、マニアでなくても嬉しいものですね。大好きなパン屋さんでは、最初お店の名前が読めなくて、パンの名前も覚えにくいという難点を感じていたのですが、なるほどフランス語だったのよね、と、今更ながらに納得しつつ。

個人的な「フランスの、パン」に対する認識は、かれこれ30年ほど前の新婚旅行にさかのぼります。ロンドンからパリへと移動するユーロスターのなかで出てきた軽食のパンに感動して、パリではパン屋さんにばかり足を運んでいました。ふつうのパン屋さんだけでなく、屋台のような感じでサンドウィッチなどを売るお店が川沿いにたくさん出ていたのが印象的で、どこで買って食べても美味しかったという至福の思い出があります。

今は、ありがたいことに、自転車でぱっと行ける場所に美味しいパン屋さんがあります。これは実はとっても贅沢なことなのだと思います^^

近所の美味しいパン屋さん boulangerie pomme de terre ポムドテール福津

『フランスから届いたパンのはなし』(産業編集センター)酒巻 洋子著

「1年を通して畑の作り方・野菜の作り方をまなぶ」畑レッスン進捗状況その3。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

「1年を通して畑の作り方・野菜の作り方をまなぶ」畑レッスン進捗状況その3。

造園家であり花や野菜を作りハーブの専門家であるガーデンアルテさんの畑で「1年を通して畑の作り方・野菜の作り方を、一緒にやりながら教わる講座」に参加しています。1年後に自分一人で家庭菜園を作れるよう、毎回の畑作業を記録しておおきましょうということで、ブログにも備忘録をアップすることにしました。先日「その2」をアップした時、思いのほか書くべきことが多くてちょっと大変だったので、少し早めに「その3」を。


(13)5/10(土)曇&強風 16/20℃

  • 間引き(ミニ大根、ミニカブ、ラディッシュ、レタスミックス、サラダミックス)。
    →大きいものから。混んでいるところに隙間を作る。
  • 畝を整える。
    →畝の面は丸くしないで、できるだけ平らに。平らで30cmぐらい。
  • キヌサヤ収穫。
    →キヌサヤはサヤごと食べるので、豆が大きくなりすぎないうちに収穫するのが良い。

(14)5/18(日)曇 19/23℃

  • キヌサヤ収穫。
    →サヤのなかの豆が大きくなってきているものは、そのまま残して種にしても良い。
    →苗3つのうち1つは少し枯れかけていたので、すべて収穫して引っこ抜く。
    →次回ここにキュウリを植える。
  • 間引き。(ミニ大根、ミニカブ、ラディッシュ、レタスミックス、サラダミックス)。
  • ニンジンの葉っぱが伸びていた!
  • ナスの苗植え付け。
    →ナスは大きくなるので場所を広くとって植える。
    →苗より大きめに穴を掘る→枯草を入れる→土をかぶせる→苗を入れる→土をかぶせる→枯草で囲む。
  • 苗を植えたら、しっかり周りの土を押さえて定着させる!

(15)5/26(月)曇→晴 14/23℃

  • キヌサヤ収穫
    →来週あたりお終い。よほど小さいものは残して、あとはどんどん収穫。
  • 間引き:ミニ大根、ミニカブ、ラディッシュ、レタスミックス、ニンジン。
    →種まきから時間が経っているため、そろそろ硬くなったり、「す」ができたりしている。
    →混んでいるところはどんどん採る。
    →間に夏野菜の苗を植えている場合は、苗の周りを広く開けるようにする。
  • 雨がたくさん降ったあとに溝に水が溜まっている
    →畝立てをする際に、水が低い方に流れていくよう、溝を作るのが大切。
  • 水が溜まると土のなかで腐敗が進み、それを分解する虫が発生する。
    →虫は腐敗しているものの分解を進めてくれる有用な存在。
  • タイミングよく収穫するには、今の時期は少なくとも週1回畑を観察することが大事。

「気温が20度を超えてくると、一気に成長しますよ~!」と先生がおっしゃったとおり、5月18日の畑では、これまでのゆっくりとした成長具合とは一転、なにもかもが盛り盛りと育っていました。3月の初めに植えて、芽がほとんど出なかったのであきらめていたニンジンが、びっくりするほど葉を伸ばしていたり、前回から収穫を始めたキヌサヤが、育ちすぎるほどに実を付けていたり。肥料を使わなくてもここまで育つものかと、驚き嬉しくなりました。

夏野菜は、トマト、シシトウ、オクラ、ナスの植え付けが済み、次はキュウリです。来月あたりには、ジャガイモの収穫もできるのではないかな、というところ。小さな小さな畑ですが、スタート時のイメージと期待を大きく超える学びと収穫で、わたしのモチベーションも爆上がり。とっても楽しいです^^

読書『皇后は闘うことにした』(文藝春秋)林真理子著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『皇后は闘うことにした』(文藝春秋)林真理子著

引き続き、遅ればせながらの林真理子著作追っかけ。なにしろ図書館に行けば、林真理子さんの既刊本は大量にありますので、気軽に手に取ることができます。ありがたいですね。今回の本書は新刊。

ちょうどひと月前にブログにアップしていた『李王家の縁談』が、とっても面白かったので、本書もそのような感じなのかな、と思って予約を入れた一冊。こちらは短編集でした。上の写真はそのタイトル目次です。読後にあとがきを見たら、本書はいわば『李王家の縁談』のスピンオフ版だという解説があり、なるほどなるほど。

現代でもなにかと大きな話題になる、皇室の婚礼をとりまくニュース。その根っこにあるものが、単に野次馬的な興味だけでなく、政治に大きな影響を与える要素だからなのだということを、あらためて思わされる読書となりました。「政略結婚」というのは、戦国時代だけのものではなく、その前後もずっと続いてきているのだよな、と。

皇族とか華族とか呼ばれる仕組みが、明治維新以降どのように政治利用されてきたかが垣間見える本でしたが、短編になっている分、わたしにはそれぞれが分離してしまって、つなげるのが難しかったです。各ストーリーの前に家系図が付いているので、それを参照すればよいということなのですが。短編でつづられたすべての物語が一つのストーリーで展開される小説が、いつか出来上がるのを待ちたいと思います^^

『皇后は闘うことにした』(文藝春秋)林真理子著

花祭で梅摘み―今年の梅仕事はいつもよりちょっぴり早くシーズンイン。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

花祭で梅摘み―今年の梅仕事はいつもよりちょっぴり早くシーズンイン。

花祭へ、草刈りと、梅の収穫時期をチェックしに、行ってまいりました。5月は新緑が美しく、良い季節ですね。花祭の里山も、山の緑がキラキラして、小鳥がさえずっていて、とても気持ちが良かったです。上の写真は梅ではなく、先月行ったときには満開の花で迎えてくれた桜の木。葉っぱが青々と伸び、果樹用の桜ではありませんが、花のあとに小さなサクランボがたくさんついていました。

梅摘み=6月に入ったら「そろそろかな」というイメージなのですが、今年は少し早そうです。と思って確認してみたら、昨年も5月末に収穫に出かけていましたので、それよりまたちょっぴり早い、という感じですね。梅の状態チェックで出かけたのですが、もう採った方が良いものもあって、急遽ちょっぴり摘んできました。ちょっぴりといっても、3キロほどにはなったかな。もう少し実が大きくなりそうな木もありましたので、それはまたあとにすることに。それでも5月中に収穫したほうが良いかな、という感じですので、やはりいつもより少し早いですね。

今年の梅仕事は「梅干」一択。なんやかや言っても、結局我が家で一番消費されるのは梅干だと、20年以上の梅仕事でわかりました。週末は、漬け込み用の瓶やら塩やらの準備です^^

梅仕事

5月の九響定期演奏会は、演奏会形式の「オペラ トスカ」でした。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

5月の九響定期演奏会は、演奏会形式の「オペラ トスカ」でした。

1月の九響ニューイヤーコンサート、2月の日本フィル以来、久しぶりのコンサートは、九響の定期演奏会。昨年来ずっと、3階席を指定席にしていましたが、いろいろ試してみようと思い、今回は1階に席をとってみました。演奏会形式のオペラで1階だったのは、わたし的には観やすくて良かったです。

さてプッチーニの歌劇「トスカ」。タイトルは聞いたことがありましたが、どんなストーリーなのだか、まったく知らないままに会場へ向かいました。演奏の内容がどんなものなのか、よく知らないというのはいつものこと。毎回会場でいただく九響の冊子に、プログラム詳細と解説が載っているので、演奏会の概要を自分が知りたいと思えば、それを開けば大丈夫という安心感があります。素人のわたしにとっては、ものすごく助かります。

いつもはあまり事前にプログラム情報を入れないのですが、開演を待つ間にちょっと解説を読んでみました。なるほどなるほど。そして、今回は開演前に指揮者の熊倉優さんによるプレトークがあり、そこで「なぜ今年プッチーニなのか」の解説もあって、気分が盛り上がってきました。この「プレトーク」、わたしは初めての経験だったのですが、指揮者の方と聴衆との距離が近まるような感じがしました。とてもいいファンサービスですね。

演奏会形式のオペラは過去に数回観たことがありました。オーケストラと、演者、そして舞台両側には字幕のディスプレイ。目に見える派手な舞台装置も道具もなく、そのことが余計に、これだけで世界観を作り上げる力のすごさを感じさせます。歌劇「トスカ」全3幕で、すべてをフルで演奏するのはあまり無いことのようですね。プレトークでそのことを知り、貴重な機会なのだとわかりました。

休憩時間を含め2時間半を超える演奏会は、夢中になっているうちにあっという間に過ぎました。「人の声ってすごい!」というのが、率直な感想です。主役のトスカを演じた高野百合絵さん、すごく迫力がありました。昨年11月の定期演奏会のときにも高野さんのソプラノがあって感動したのですが、そのときよりもさらに迫力が増していたように思いました。

それにしても、これだけの舞台を数千円のチケットで観ることができたというのは、ものすごく贅沢でした。九響の定期演奏会は、とってもお得だと思います^^

九州交響楽団

「美」とか「美術」とか「美学」と言いながら、おしゃれにとても疎いもので。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

「美」とか「美術」とか「美学」と言いながら、おしゃれにとても疎いもので。

若いころから「おしゃれをする」ことに目を向けてこなかった結果、この歳になって慌てることが増えてきました(笑)。一般に、おしゃれに興味を持ったり気を使ったりしだすのは、10代思春期の頃からでしょうか。10代のころから「自分の身だしなみ」について考えることをしてきた人と、50代になって「なんとかせねば」と思いはじめる人(わたし)とでは、すでに約40年の開きがあるわけです。この差は大きい!

あらためて考えてみると、ずっと長い間、わたしにとっての「美」は、自分が見たり感じたりするもの=自分の外にあるものなのでした。いわば「自分のことは棚に上げて」語っている状態ですね。美術的な仕事について25年以上が過ぎた今頃になって、そもそもその語り手があまりにも見た目にこだわらなさすぎるのはいかがなものか、説得力があるのだろうか、という疑問が頭をよぎるようになってきました。ひとつには、更年期の年頃を経て、自分自身のいろいろなことが目に見えて変化してきた、というのも現実的に大きな要因だと思います。

『美 「見えないものを見る」ということ』福原義春

そういえばわたしにとってのバイブル的な本の一冊である『美 「見えないものを見る」ということ』の著者である福原義春さんは、化粧品会社・資生堂で名誉会長まで務めた方。うーん…。

というわけで、今更ながら、いつもきれいな友人に話を聞いてみたり、女性誌のファッション雑誌を手に取ってみたりしています。これまであまりにもそういうことをしてこなかったので、正直どこから手を付けたらよいのかわからない状態(笑)。あるときには「ローマは一日にして成らず」と思い、またあるときには「始めるのに遅すぎることはない」と思いながら、「少しはなんとかせねば」とジタバタしています。義務感や焦燥感ではなく、もっと楽しんで取り組めるようになると良いのでしょうけれど、なにしろ、慣れていないのです。きっとおしゃれ上級者の皆さんは、楽しんでいらっしゃるのだろうな、と思いながら、修業は続きそうです。

自営業者は体が資本、年に一度の健康診断ミッションコンプリート。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

自営業者は体が資本、年に一度の健康診断ミッションコンプリート。

個人事業者は身体が資本。市が実施してくれる年に一度の健康診断は、すっかり恒例行事化した定期点検の機会です。昨年の記録を見てみると5月22日となっていましたので、ほぼぴったり1年ぶり。以前は自分から申し込みの電話をしていましたが、最近は新年度になるとすぐに市の担当者から「検診いつにしますか?」の連絡が入るので、そのタイミングでスケジュールを調整すると、ほぼ同じタイミングになるのです。福津市の検診受診率は高い水準にあると聞きましたが、このような地道な声かけの成果なのでしょうね。

健康診断の運営は年々システマティックになり、どんどん「待ち時間」が少なくなっています。健診結果の記録が自動化されるなどの要素ももちろんありながら、「人の動き」も目に留まります。順番にとらわれすぎず空いているところに受診者を誘導する、スタッフさん同士の声掛け・アイコンタクトで常に情報共有を行っている、混雑している場所に自発的にスタッフが移動する…。臨機応変な動きを「なるほど~!」と思いながら観察するのも、最近の楽しみとなりました。

今回もほぼ待ち時間無しでサクサクと進みました。どこからともなくスタッフが現れて、声をかけてくださいます。いくつもある検査場所で「次にどこに行けばよいか、ちょっと不安」な状態になる間もなく、このサービスレベルはすごいなぁと思いました。検診は市の施策ですが、実働部隊は民間の検診サービス会社なので、プロフェッショナルです。

結果の報告書は40日ほど後に郵送されます、ということで。これも以前は2か月後だったような気がしますので、多少なりとも短縮されているようです。ともあれ今年もミッションコンプリートです^^

読書『ヒール 悪役』(日経BP)中上竜志著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『ヒール 悪役』(日経BP)中上竜志著

いつものカメリアステージ図書館新刊棚より。「ヒール」の単語を見て「プロレスのヒールになぞらえた小説かな」と思いながら借りてまいりました。読み始めてすぐに、そのまま「プロレス」のお話だと判明。ストレートなタイトルでした。

著者の中上竜志さんは、本書の前作となる『散り花』で第14回日経小説大賞受賞なさっているのだそうですが、それも「プロレス小説」だったとのこと。日経BPの公式サイトによると “「プロレスを書きたい」という強い思い” が「プロレス賛歌」の受賞作を書かせたということで、それに続く本書『ヒール』もまた、その「強い思い」の延長線上にあるといえそうです。

さてストーリーは、章ごとに何人もの登場人物の視点から描かれます。それぞれの立ち位置からの葛藤が語られ、章を読み進めるほどに全体が見えてきました。本書に限らず、プロレスを語る時に必ずと言っていいほど出てくるのが、エンターテインメントであるプロレスを、「真剣勝負」と呼べるか否かについての議論。わたしが小学生の頃には「プロレス=八百長」というような話題は、子どもたちの間でも熱く交わされていました。それをひとことで八百長と呼んでしまうのは少し違うと思っても、ちゃんと説明する言葉は持っていなかった頃のこと。

小学生の頃にテレビでプロレスを見ていた者としては、とても興味深く入り込めるお話でした。当時わたしが好きだったスタン・ハンセンやタイガー・ジェット・シンは、そういえば「ヒール」だったんだよなぁ、などと思いつつ。プロレス小説では長いこと、中島らも著『お父さんのバックドロップ』が、わたしのなかでは一番で、1993年に出た文庫版が今でも手元にあります。

遡って『散り花』も読もうと思います。

『ヒール 悪役』(日経BP)中上竜志著

サントリー美術館での展覧会『酒呑童子ビギンズ』を観てまいりました。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

サントリー美術館での展覧会『酒呑童子ビギンズ』を観てまいりました。

サントリー美術館の良いところは、数々のお宝を所蔵しておられるのはもちろん、立地が便利なこと、朝10時から開いていること、火曜日が休館日で月曜日は開いていること。ギャラリーのオープンはほとんどが11時か12時のため、そのオープン前にひとつ展覧会を見ることができるのは、とてもありがたいのです。また今回行ったのは金曜日でしたが、多くの美術館博物館施設がお休みをとる月曜日に開館しているというのは、美術館好きにとって救世主的であり、とても嬉しく助かります。

というわけで、今回の宿泊場所から歩ける場所ということもあって、展示内容を確認する前にサントリー美術館に行くことは決めていました。直前にウェブサイトで展覧会を確認したところ「酒呑童子」のタイトルが。実は酒呑童子の物語を知らないわたしには、いまひとつピンと来ていなかったというのが、正直なところでした。が、そこは美術館に対する信頼感があります^^

サントリー美術館公式サイトによると “酒呑童子は、日本で最も名高い鬼です。平安時代、都で貴族の娘や財宝を次々に略奪していた酒呑童子が武将・源頼光とその家来によって退治される物語は、14世紀以前に成立し、やがて絵画や能などの題材になって広く普及しました。” ということで、サントリー美術館が所蔵する「サントリー本」と呼ばれる絵巻物を中心とした展覧会でした。

修復が終わったばかりのお披露目展覧会となったサントリー本は、色彩が美しく、見事でした。絵巻物の絵が楽しいのはもちろん、物語を語る筆文字がまた素晴らしかったです。字の姿もまた饒舌ですね。サントリー本だけでなく、それに続く模本、類本の数々がまた面白く、絵の描かれ方の違い、文字の書き手による違いが、とても興味深かったです。気が付けば、観覧に予定していた1時間があっという間に過ぎていました。

個人的には、酒呑童子の物語を遡る「エピソードゼロ」の存在に興味を惹かれました。「はじまりの物語を描く」というのは、近年に始まったことではないのだと知りました。酒呑童子のルーツを日本神話に結びつけ、「スサノオノミコトによって酒に酔わされ退治されたヤマタノオロチの息子として生まれたのが酒呑童子」というストーリーが存在していた、というのがとても面白かったです。

展示室では、能の演目としての「酒吞童子」が演じられている様子の動画を観ることもでき、酒吞童子事態をよく知らなかったわたしにとっては、お話を理解するのに役に立つ仕掛けでした。絵巻物ばかりの展示は飽きることも多いのですが、今回のサントリー美術館さんの展示は、わたしにとっては時間が足りなかったくらいで、圧巻でした。

会期は2025年6月15日(日)まで。

サントリー美術館で開催中の展覧会『酒呑童子ビギンズ』