読書『晴子情歌』上下巻(新潮社)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『晴子情歌』上下巻(新潮社)高村薫

わたしにとっては久しぶりの高村薫さん。『晴子情歌』は2002年に発刊でしたが、ようやく手に取りました。途中『空海』は読みましたが、高村薫さんの小説から、ずいぶん遠ざかっていたことに気づきました。

高村薫さんの小説にハマったのは、大学を卒業して新社会人になってからの数年間。初めて『黄金を抱いて翔べ』(新潮社)を読んだとき、その緻密な描写とハードボイルドな文体に驚愕。「これ、ほんとうに女性が書いたの⁉」というのが、正直な感想でした。そこから『神の火』『わが手に拳銃を』『リヴィエラを撃て』『地を這う虫』『マークスの山』『照り柿』『レディ・ジョーカー』…。

当時わたしは大阪で法人営業職の仕事をしていました。大阪市内のビジネス街や近郊を毎日歩いており、『黄金を抱いて翔べ』はじめ、小説内に出てくる場所が、細かいところまで面白いように具体的にイメージ出来たのも、夢中で読むきっかけになっていたかも知れません。

さて『晴子情歌』。上下巻合わせて750ページ近くに及ぶ大作でした。 高村薫さんの書くものは、阪神大震災の前と後とで大きく変わったと書評やインタビューなどで目にしていましたが、なるほど、と思いました。でも、緻密な取材のあとをうかがわせる重厚なストーリー・描写は変わりなく、この作家さんはやっぱりすごいなぁ、と思うのです。

ハードカバー版の表紙には、上下巻とも青木繁の作品「海の幸」が使われています。上の写真は、集英社の「20世紀日本の美術 ART GALLERY JAPAN」より、青木繁の「海の幸」。明治時代以降、近代日本洋画の代表作です。これほど物語のイメージが重なる絵があったことも、すごいことだと思いました。表現手段は違えど、現されたタイミングも違えど、共通した訴えが垣間見えます。

十代のころ、久留米市の石橋美術館(現・久留米市美術館 石橋文化センター)で青木繁作品をたくさん見た記憶があます。おそらく「海の幸」もそのなかにあったのだと思いますが、当時のわたしには、青木繁の絵の数々が展示スペース全体を覆う暗さばかりが印象に残っていました。『晴子情歌』のなかでもたびたび登場する「昏い(くらい)」という表現が、ぴったり。

↑こちらは文庫版です。

さあ、『晴子情歌』を読み終えたからには、次は『新リア王』(上下巻)です。少し休憩をはさんでから、取り組むことにいたします。