読書『空芯手帳』(筑摩書房)八木詠美 著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『空芯手帳』(筑摩書房)八木詠美 著

先日読んだ『休館日の彼女たち』の突飛な設定が面白くて引き込まれ、気になった作家さんの読書2冊目。

著者紹介に、本作『空芯手帳』が第36回太宰治賞を受賞し、世界13か国での翻訳が進行中とあり、興味が湧いたのでした。世界13か国での翻訳って、すごいですよね。文化的な背景の違いを超えて、共感されているということです。さっそくいつものカメリアステージ図書館で蔵書検索したところ、ありました。本屋さんより図書館の方が近くなので、毎度まずは図書館検索です。

既に読んだ『休館日の彼女たち』の設定が、現実的には「ありえないこと」としての突飛さであったのに対して、本作『空芯手帳』の設定は、じゅうぶん有り得る突飛さであるところが秀逸でした。実際に身近にこんな人がいたら、ちょっと怖いぞ、と。物語としては、コメディ的な要素もあり可笑しい場面も多々あるのですが、腹の底からは笑えない類です。

主人公の、社会(会社での具体的な出来事や人とか、無形の社会通念とかあたりまえとされがちなこと)に対する、静かだけれど根深い反発が、やや狂気的な怖さを感じさせます。狂気的と書きましたが、とても身近で、ちょっとしたきっかけで自分だって似たようなことをやりかねないと確信・共感できるのが、また怖い。しかも小説全体のトーンは、あくまでも穏やかで、淡々としているのです。妊娠もので怖い小説といえば、わたしは真っ先に小川洋子さんの『妊娠カレンダー』を思い出すのですが、また違った怖さです。

タイトルの「空芯手帳」は、読み終わってなるほど、と理解しました。これまた秀逸なタイトルです。「空芯」は、主人公の会社の仕事の生産物であり、彼女のついている「嘘」を表現している物であり、本来「母子手帳」であるべきものが「空芯手帳」であるという。一見ゆるい雰囲気だけれども、よく見るとちょっと怖い表紙の装画がまた完璧にマッチしています。八木詠美さん、かなり気になる作家さんです。

『空芯手帳』(筑摩書房)八木詠美 著

映画『エリザベート1878』観て参りました。

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映画『エリザベート1878』観て参りました。

2023年の映画7本目は『エリザベート1878』。2週間前に『バービー』を観てきたところでしたので、なかなか良いペースです。

やはり「これは観たい!」と思ったら、時間を作る努力をしますね。

さて『エリザベート1878』、オーストリア映画です。原題は『corsage』で、「コルセット」を意味するフランス語だそうです。日本語読みしたら「コサージュ」。ドレスやお洒落なスーツを着たときに胸元を飾ったりする、あれですね。身体を不自然に縛り付けるコルセットであり、「飾りもの」「引き立て役」などの訳をもつコサージュであり。宣伝チラシにある「お飾りなんかじゃない」のセリフの理由がわかりました。

年初は念願のミュージカル『エリザベート』観劇でスタートしたのでしたが、そのときはこのような映画がつくられているとはまったく知りませんでした。

当然ですが、ミュージカルのストーリーやエリザベートのキャラクターとは、まったく異なる映画のエリザベートです。とても現実味のあるエリザベート、というのが、わたしの印象でした。エリザベート40歳の一年間を描いたものですが、映画のなかで「平民女性なら寿命の年齢」というセリフが出てきます。コルセットをぎゅうぎゅうに締め上げるシーンが何度もあるのですが、そんな毎日を送ってきたエリザベートがその年齢になったときに、何を考えたか。生き方を痛烈に問いかける監督さんも女性だったのだと鑑賞後にわかり、妙に納得いたしました。

最近は現代をカタカナ読みさせたまま日本公開時のタイトルにする洋画も多いなか、久しぶりに原題と邦題とでずいぶん違う映画でした。でも『エリザベート1878』というタイトルだったからこそ飛びついたわたしにとっては、わかりやすくて良かったと思いました。

映画『エリザベート1878』

読書『リバー』(集英社)奥田英朗 著

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読書『リバー』(集英社)奥田英朗 著

奥田英朗著の新刊が届きました。前情報をまったく入れずに臨みましたので、読みはじめてまず思ったのは「今回はシリアス系なのね」ということ。「伊良部先生」が登場するようなコメディ系ではなく刑事ものでした。

全648ページの長編です。これまでに読んだ刑事もの(というか犯罪もの)、『罪の轍』『オリンピックの身代金』『最悪』『無理』『邪魔』などに描かれた、これでもかというほどの「社会の底辺」と「救いの無さ」は感じなかったものの、現代的な乾いた雰囲気になってきているのが、逆に空恐ろしさを感じました。そう、まさに現代的な怖さ、です。

奥田英朗著作の刑事ものに共通する点のひとつに、犯罪を犯す側の精神的な病理をにおわせるところがあります。これまでに読んだものにも登場していましたし、今回ははっきりと多重人格者として描かれる登場人物がありました。著者自身の、犯罪を犯すに至る人間心理への強い関心が、登場人物に重なって表れていることを感じます。そういえば、コメディ系の小説に登場する「伊良部先生」は精神科の医学博士ですから、やはり関心の高い分野なのでしょうね。

『リバー』(集英社)奥田英朗 著

2022年9月刊行でしたので最新刊かな、と思ったら、2023年5月に最新刊がありました!こちらも読まねば、です^^

藤吉憲典のAnimal Boxes シリーズ、新作が続々誕生しつつあります♪

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藤吉憲典のAnimal Boxes シリーズ、新作が続々誕生しつつあります♪

ロンドンSladmoreギャラリーでのクリスマス・ショウ用に、制作没頭中のダンナ・藤吉憲典。陶芸・彫刻・書画のうち、「陶芸&磁器彫刻」の分野になりますが、集中ぶりを見ていると、この仕事がほんとうに好きなのだなぁとつくづく感じます。

本日はそんな制作中の作品の一部をちょっぴりご紹介。

制作工程のうち、素焼の焼成が済み、呉須(ごす)絵具での絵付=染付の絵付がおおよそ終わった段階です。このあと釉薬をかけて本窯焼成し、その後、赤絵付→赤絵窯の工程が何回か繰り返されて、出来上がりという工程になります。

藤吉憲典 陶箱作品

藤吉憲典 陶箱作品

藤吉憲典 陶箱作品

藤吉憲典 陶箱作品

藤吉憲典 陶箱作品

ここからどのように変化して完成品となるか。今回もとても楽しみです。

今年もART FAIR ASIA FUKUOKA 2023 が開催されます。

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今年もART FAIR ASIA FUKUOKA 2023 が開催されます。

関係者でもなんでもなく、藤吉憲典の作品が出るわけでもないのですが、アートフェア・アジア・福岡の宣伝です。花祭窯の制作拠点である福岡県でのアートフェアなので、盛り上がってくれると嬉しいな、という気持ちで、毎年微力ながら宣伝活動^^

ART FAIR ASIS FUKUOKA 2023

今年の開催詳細は下記の通りです。


ART FAIR ASIA FUKUOKA 2023

会場:マリンメッセ福岡B館

チケット:前売券2500円(税込)、当日券3000円(税込)

会期:9月22日(金)~9月24日(日)

※オープン時間は日によって異なりますので、公式サイトで確認してくださいね♪

ART FAIR ASIA FUKUOKA 2023 公式サイト


アジアをコンセプトとした国内唯一のアートフェア。年々規模が大きくなってきており、国内外から117ギャラリーが参加する今年は、過去最多の出展数だそうです。昨年はわたしは見に行くことができなかったので、今年は足を運びたいと思っています。

花祭窯の残暑の庭:百日紅(サルスベリ)が咲きました!

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花祭窯の残暑の庭:百日紅(サルスベリ)が咲きました!

我が家のサルスベリは、毎年ゆっくりめ。どれくらいゆっくりかというと、ご近所のサルスベリよりも、約一か月遅れで咲きはじめる感じです。毎年のことなのでわかってはいるものの、ご近所で色とりどりに咲いているのを見ては、今年もちゃんと咲いてくれるかなと少々ドキドキします。

で、今年もちゃんと咲いてくれました。青空に映えますね~♪

花祭窯のサルスベリ

待ちかねたので、喜びもひとしお。つぼみがついている枝がいくつもありますので、これからが楽しみです。盛夏から晩夏は、花祭窯の小さな庭に花の少ない時期なので、濃い緑のなかに貴重な色彩なのです。

花祭窯の露草

庭で見つけたほかの色彩は、↑こちらの露草の紫色と、↓トンボの赤。

花祭窯の庭 トンボ

気がつけば、朝からうるさいほどだったセミの声も聞こえなくなり、外には蜻蛉が群舞する季節になりました。残暑はまだまだ厳しくて、暑さがいつまで続くのかと気になりますが、こうして着実に秋が近づいている風景を見ると、励まされますね。

読書『休館日の彼女たち』(筑摩書房)八木詠美 著

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読書『休館日の彼女たち』(筑摩書房)八木詠美 著

いつものカメリアステージ図書館新刊棚。おかげさまで「初めまして」の著者の方々に、出会うことが出来ます。今回も、おそらく「初めまして」。

タイトルに「館」とつくと、無条件に気になります。図書館、美術館、博物館…と、自分の好きなものを連想させるからですね。本書の「館」は美術館でした。そのうえ表紙の装画は、ルネ・マグリット。マグリットっぽいなぁ、と手に取りましたら、その通りでした。「困難な航海」というタイトルの画だそうです。

最初わたしは、どういうわけか、舞台はどこか海外の美術館…と思い込んで読んでいました。でも読み進めるうちに、いや、これふつうに日本が舞台だわ、と理解。「主人公が、美術館にいる古代ローマ彫刻・ヴィーナス像の、ラテン語でのお喋り相手になる」という設定から、勝手に「海外に留学し、卒業後もその地にとどまっている女性の物語」とイメージしてしまっていました。「ここにいる彫刻の像は、絶対夜中におしゃべりしたり動いたりしている!」というイメージを、海外の美術館・博物館で実際に感じたことがあるからかもしれません。

さて本書の著者もまた、「ここにいる彫刻の像は、絶対夜中におしゃべりしたり動いたりしている!」というイメージを抱いたことがあるからこそ、このストーリーが出来上がったのだろうと思います。そこに、主人公をはじめとした登場人物の「人と関わりながら生きるしんどさ」のようなものが合わさって、ストーリーが進みます。筑摩書房のサイトの紹介文のなかに「コミュニケーション不全」という単語が出てきて、なるほどテーマはそこか、と思いました。

設定はかなり突飛ですが、それに反して、とても静かな筆致で、独特の世界観が広がっています。わたしは個人的には、この世界観は嫌いではありません。八木詠美さんの著作も、ちょっと追っかけてみたいと思います。

『休館日の彼女たち』(筑摩書房)八木詠美 著

郷育カレッジ2023「福津の仕事人 建築のひみつ」を受講してまいりました。

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郷育カレッジ2023「福津の仕事人 建築のひみつ」を受講してまいりました。

本日の郷育カレッジは、福津市商工会青年部が担当してくださる「福津の仕事人」シリーズから、大工さんと建築士さんによる「建築のひみつ」の講座でした。人気シリーズで受講希望者が多く、抽選でした。わたしは昨年は抽選に外れていたので、今年は受講出来てラッキーでした。

さて「建築のひみつ」。前半は、株式会社住幸房(すまいこうぼう)の代表であり大工さんである池尾拓さんによる、大工さんの仕事の説明と、家が出来るまでのお話でした。日本の伝統的工法を守り受け継ぐことを使命にしておられる池尾さん。木を中心とした家づくりのお話は、わたし個人的にとても興味深い分野でしたので、ありがたかったです。実際に家を建てる様子を撮った動画映像は非常に面白く、どれほどの「手間」がかかっているのかを、ビジュアル的に感じることが出来ました。

後半は、建築設計を手掛ける相良友也建築工房の1級建築士である相良友也さんによる、建築模型作りのワークショップ。これがまた、とても面白かったです。実際に相良さんが設計した家の模型を、ペーパークラフトで作りました。実際に立っている家の模型を作るという経験は、なかなかできるものではないと思います。現地の写真で外観や中の様子を見ることが出来、そのイメージをもって手を動かすという作業。用意していただいたペーパークラフトは、カッターと糊を使った作業で作りましたが、不器用なわたしでも時間内に作り上げることが出来るよう、工夫されていました。

夏休み期間中とあって、受講生のほとんどは小学生。皆とても嬉しそうに話を聞き、ワークショップに取り組んでいました。今回の受講生の顔ぶれは子ども中心でしたが、これは大人の皆さんにとってもかなり興味深い内容なはずなので、ぜひ大人向けにも開催できたらいいな、と感じました。大満足の講座でした♪

読書『クワトロ・フォルマッジ』(光文社)青柳碧人著

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読書『クワトロ・フォルマッジ』(光文社)青柳碧人著

お盆休みはとっくに終わっておりますが、いつものカメリアステージ図書館から借りてきた「お盆読書」記録4冊目です。

美味しそうなタイトルと表紙です。そしてたしかに「クワトロフォルマッジ」は関係があるというか、そこにかこつけてはあるのですが、ストーリーの重要な位置を占めるものというよりは、アクセサリー的な要素に思えます。ジャンルは、ミステリーなのかもしれませんが、ミステリーっぽくありません。個人経営の小さなピッツエリアを舞台として、殺人事件が起こるのですが、殺人事件が起こっているという緊迫感はほとんどありません。

それぞれにちょっとクセがある登場人物の描写が面白く、そこが読みどころと感じました。ふつうに「ありそう」な設定と、「その辺にいそう」な人物たちでストーリーはスタートしますが、読み進めるうちに状況のおかしさというかズレが大きくなっていき、「いやいや、そんなわけないやん!」と、心のなかで突っ込む回数が増えていきます。

登場人物それぞれのセリフや行動を読んでいるうちに、わたしのなかで勝手に脳内キャスティングがはじまりました。この役は誰がやったらハマるだろうな、と、俳優さんの顔がすんなりと浮かんでくる面白さがありました。あの役は西島秀樹さん、この役は田口浩正さん、あの子は永野芽衣ちゃん…など、勝手にイメージが膨らみました。

サクッと読み終えることのできる娯楽小説でした。いろいろ考えずに読めます。青柳碧人さんの著書を読むのはたぶん初めてだったと思うのですが、この軽さは嫌いではありません。

『クワトロ・フォルマッジ』(光文社)青柳碧人著

ちなみに2023お盆読書記録、他の3冊は以下の通り。いずれも「あたり!」でした。

津屋崎千軒民俗館「藍の家」で、展示「戦時下のくらし」を見て参りました。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

津屋崎千軒民俗館「藍の家」で、展示「戦時下のくらし」を見て参りました。

藍の家(あいのいえ)は、花祭窯のご近所さんです。国登録有形文化財。建物自体の価値・見応えもさることながら、館内で開催される展示やイベントにも工夫を凝らしておられます。なかでも、季節ごとに定期的に開催されているものは、年々資料も増え、どんどん重厚な展示になっていると感じます。

そんな、季節の定期開催の展示のひとつが、夏季に開催されている戦争関連の展示です。現館長さんになられてからの取り組みで、その展示企画への共感・反響が大きく、年々資料が増えているもののひとつだと思います。展示最終日の先日、閉館前に滑り込みで拝見してまいりました。

今年は特に「証言」を多数集め、資料としておられました。「証言で考える戦時の暮らし」。自分たちが暮らしている福津で、どのようなことが実際に起こっていたのか、その地に暮らしている(暮らしていた)方々の生の証言だからこそ見えてくるものが、とてもたくさんありました。

一学芸員としてなるほどと感心したのは、展示物となる資料は遺物にこだわらなくても、証言自体をテキストに起こし展示することによって、立派に展示資料となるということ。証言者の顔写真を添えることで、より力のある展示となっていました。「伝えたい」という展示側の強い気持ちが形になっていました。

また展示されていた遺物のなかで、やきものの仕事関係者として目を引いたものは、磁器製のフォークとナイフ。金属類がすべて供出に回されたあと、磁器制作の技術がその代替として活躍したことがわかります。手に取ることが出来ましたので、触って見たところ、フォークの先はしっかり尖り、ナイフの刃もシャープでした。実際の使用感はわかりませんが、このようなものを作っていたのですね。

それにしてもすごいなぁ、えらいなぁと思うのは、市の所有物でありながら、運営を担っているのは「藍の家保存会」というボランティア団体であること。市からの予算がとても小さいなかで、さまざまな工夫で社会教育施設としての役割を担っておられます。文化・教育関連の予算がないがしろにされているのは、そもそも国の方針がそうなので、福津市だけの課題では無いかもしれませんが。ともあれ、現館長さんはじめ、藍の家のスタッフの皆さんには、頭が下がります。

今年の展示は終了いたしましたが、また来年の夏に向けて、資料収集が進むことと思います。日本では、夏は戦争と平和を考える季節。ぜひ来年の夏は、藍の家でいかがでしょうか。特に、教職など子どもたちの教育に関わる立場にある方々には、ぜひ足を運んでいただきたい内容です。自分たちの住んでいる場所の名前が出てくる資料は、反戦映画など「他所での昔の出来事」ととらえられがちなものよりも、切実さを伴って伝えることが出来ると思います。また来年、次は会期の早いうちにご紹介できればと思います。