読書『孫正義2.0 新社長学 IoT時代の新リーダーになる7つの心得』(双葉社)嶋聡著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『孫正義2.0 新社長学 IoT時代の新リーダーになる7つの心得』(双葉社)嶋聡著

このところの読書がすっかり小説か美術系かと二極化しておりましたので、久しぶりのビジネス書です。ビジネス書という言い方が正しいかというと、それもちょっと違うかもしれません。限られた期間でのお話ではあるものの、伝記的要素も強く感じました。「社長室長」として孫さんの間近で仕事をしてこられた著者の目を通して、孫さんの姿・思想を垣間見ることが出来ます。

孫さんについて書いた本は、たくさん出ていますが、わたし自身は、「本」という形で読むのは、ノンフィクション作家佐野眞一氏が著した『あんぽん 孫正義伝』に次いで2冊目。孫さんのことは好きなので、インタビュー記事などはたびたび読んでいますが、本としてまとまっているものは意外に読んでいませんでした。『あんぽん』もいつ読んだかしらと、自ブログ内検索をかけたところヒットせず、わたしがこの本を読んだのは、ずいぶん前だったようです。ちなみに刊行は2012年となっていましたので、出てすぐに読んでいたのかもしれません。

わたしがこのブログ内で孫さんのことを書いていたのは、1本だけでした。

ともあれ『孫正義2.0』、たまたま手に取りました。最新刊というわけではなく、刊行は2016年。すでに7年近く経っていますので、本書が書かれた時点で予言的に描かれていた諸々のことが、2023年時点の実際はどうなのか、現在に照らしながら読むことが出来ます。ただ、本書が書かれた数年後に世界的な「コロナ禍」という出来事がありましたので、いろいろな前提が変わっているとのは当然のことと含んで読む必要はありますが。

孫さんのこれまで(孫正義1.0)と、これからの孫さん(孫正義2.0)が、著者が見た孫さん自身の行動・言葉とともに描かれています。『あんぽん』が、いわば「孫正義1.0」が誕生した背景にある生育環境を中心に描いたものだったのに対して、こちらは完全に事業家としての孫さんの姿を語っています。双葉社サイトでの紹介に『新時代の「新社長学」を明かす』『IoT時代を生き抜くための、ビジネスマン必読の教科書』とあるのを読むと、やはりジャンルとしてはビジネス書なのでしょう。

ストーリーに孫さんの思考・行動のすごさを感じるのは当然のこととして、発言のなかにたくさんの金言を見つけて嬉しくなりました。孫さんの発言は、常に多数のメディアで取り上げられていますので、聞いたことのある言葉もたくさんありますが、どのような背景があって、どのような場でその発言になったのかを知るとまた面白く、桁外れの人物であることをあらためて思い知らされます。

本書でしつこいほど言われていることで、一番響いたのは、やはり

大風呂敷を広げる。

これに尽きます。

先に書いたように、7年前の本になります。なので、読み終わってまず感じたのは、コロナ禍を経た今、孫さんはどのように考えどんなことに取り組んでいるのだろうか、ということ。最近は、わたしのなかでは「孫さん=ホークスオーナー」という側面が強くなっていましたので、事業家・孫さんの情報にもアンテナを張っていきたいと思いました。

『孫正義2.0 新社長学 IoT時代の新リーダーになる7つの心得』(双葉社)嶋聡著

第105回九州EC勉強会に参加して参りました。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

第105回九州EC勉強会に参加して参りました。

九州EC勉強会に久しぶりに参加することが出来ました。九州EC(九州ECミーティング)は、経営者・ECに取り組む方々が幹事となり、事業運営に役立つ情報交換・提供を行う会です。2005年1月に「九州でも東京並みの情報が得られる場」を目的に結成され、現在も完全ボランティアで続いている、稀有な勉強会組織です。わたしも過去に数年間、幹事の一人として微力ながらお手伝いをいたしました。

住太陽氏 2023年のE-E-A-T攻略 〜商人が持つ「経験・専門性・権威性・信頼性」をお客さまとGoogleに伝える

講師の住太陽さんは、これまでにもタイミングごとに九州ECで講師をして下さり、その都度、最新の情報と考察を惜しげもなく公開してくださるすごい方。今回もまた、ウェブコンサルタントとしての最前線の動きと、今後の予測、事業者がなすべき対応を、かみ砕いて解説してくださいました。

住さんの講演で毎回有難いと感じるのは、あくまでも「中小企業の経営者」という目線を外さずにレクチャーしてくださることと、複雑に聞こえがちなEC(あるいはより広くIT)業界の先端の概念を、できるだけ平易に伝えようとしてくださること。おかげさまで取り残され感を持つことなく、自分の仕事に反映すべきこと、自分でできることをしっかり持ち帰ることが出来ます。

以下、備忘。


  • 経験E xperience・専門性 Expertise・権威性 Authoritativeness・信頼性 Trustworthiness
  • Experience・Expertise=自社評価(自社メディア)
  • Authoritativeness=他者評価(外部メディア)
  • ➜ Trustworthiness
  • 外部からの言及をいかに引き出すか。
  • エンティティ=単なる文字列ではなく、実体としての事物・概念
  • Earned media(第三者による露出)
  • 自社メディアでやるべきことは、経験と専門性を表現すること。
  • 検索意図とエンティティの一致を目指す=ブランディング。
  • ブログ著者はバイライン(署名欄)を明確に。
  • 経験と専門性➜市場からの信頼。
  • 社長名>会社名
  • 信頼できる文章(あるいは写真・動画)の発信者となる。

第105回九州EC勉強会 住太陽氏 2023年のE-E-A-T攻略 〜商人が持つ「経験・専門性・権威性・信頼性」をお客さまとGoogleに伝える より


「エンティティ」の概念を知ることが出来たのが、わたしにとっては今回のセミナーでの一番の収穫でした。日ごろ仕事をしながらなんとなく感じていた変化を、きっちりを言語化していただいた感じで、すっきり。IT活用における変化のスピードがあまりにも速くて、目をつむりたくなることも多々ありますが(笑)、こうして専門家のお話を聞く機会はやっぱり必要ですね。

今回の九州EC勉強会も、わたしにとって救済的な回となりました。次回九州EC勉強会は2023年10月21日(土)予定。毎回素晴らしい機会を提供してくださる九州EC幹事の皆さまに、心より感謝です。次回も楽しみにしています。

読書『雲を紡ぐ』(文藝春秋)、『犬がいた季節』(双葉社) 伊吹有喜 著

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読書『雲を紡ぐ』(文藝春秋)『犬がいた季節』(双葉社) 伊吹有喜 著

大量に本を読んでいる友人の存在はとてもありがたく、そういう師匠的な友人が何人も周りにいる…と書いたのは、つい先日のことでしたが、本日ご紹介する2冊、著者の伊吹有喜さんもそんなお友だちから教えていただいたのでした。伊吹有喜さんのことは存じませんでしたので、初読み♪

読みはじめてすぐに、どうにも時代背景の描き方に親近感があり著者紹介を探したところ、道理で生まれ年が一緒でした。舞台となる地域については、これまでに縁の無いところばかりでしたので、新鮮な気持ちで読みつつも、同時代の親近感というのは濃いものですね。

『雲を紡ぐ』でも『犬がいた季節』でも、高校生から大人へと成長していく道のりでの葛藤が、登場人物を通して描かれています。その一方で、『雲を紡ぐ』では伝統工芸の手仕事、『犬がいた季節』では美術が、大切な要素として物語を支えていました。著者自身の趣味・興味として、伝統工芸文化や美術があるのでしょうね。そんなところにも、わたしが読みながら親近感を持った理由があったのかもしれません。

いずれのストーリーも、学校の問題、進路の問題、家庭の問題など、登場人物たちはそれぞれにシビアな現実を抱えています。それにもかかわらず、ストーリーは最初から最後までやさしい雰囲気に包まれていると感じました。具体的に説明するのは難しいのですが、あたたかいというよりは、やわらかい感じ。

読む人が自分の高校生時代から社会人に至るまでの来し方を考えたときに、人によっては大きく共感して切ない気持ちがこみ上げるのかもしれません。残念ながらわたしには共感できるストーリーがありませんでしたが、それでも読んでやさしい気持ちになることが出来ました。ふだん自分が選んで読んでいた小説は、どちらかというと攻撃的な空気感を持ったものが多かったのかもしれないと、気づかされた読書でした。

こういう発見があるから、お友だちからのおススメはありがたいです。やさしい気持ちになりたい人、特に50代あたりの皆さまにおススメです。伊吹有喜さん、同世代の作家さんですので、これからも緩やかに追っかけてみたいと思います♪

読書『美術の力 表現の原点を辿る』(光文社新書)宮下喜久朗著

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読書『美術の力 表現の原点を辿る』(光文社新書)宮下喜久朗著

同著者の『名画の生まれるとき 美術の力II』がとても良かったので、遡って最初の『美術の力』である本書をゲット。こちらもまたわたし的には、大量の名言に出会えた良書でした。頭のなかでもやもやと感じていたことを、明瞭に言語化していただいた、と思える言葉がたくさんでした。

以下、要点整理&備忘


  • 場所の持っている力、いわゆるゲニウス・ロキ
  • 美術作品も、それが位置する場所の力と相まってオーラをまとう
  • 自社でも美術館でも、その作品が本来置かれてきた場こそが作品に生命力を与える
  • 印象に残った作品は必ず場所の記憶と一体になっている
  • 作品の前に実際に立ってみなければわからない魅力
  • どんな地域でもその自然環境と美術とは関係がある
  • 自娯
  • 売るためであろうが自誤のためであろうが、作品がすばらしければ十分であり、作者の意図や制作の事情など関係ない。
  • およそ芸術作品というものは、作者の手から離れた途端、一人歩きを始めて何百年も生き残るのであり、作者というちっぽけな存在に拘束されるものではない。
  • 西洋美術は基本的に公共性を帯びていた。(中略)19世紀以降、西洋で美術館という制度が成立して広く普及したのは、美術が本来このような公共性を持っていたためである。
  • 一方、日本美術は仏像や絵馬を除き、私的な性格が強かった。
  • これはカラスの値段ではなく、長年の画技修行の価なのだ
  • 長年培ってきた自らの技術に関しては絶対の自信を持っていたのである。
  • 古今の名画を模写する経験は、子どもの技術や鑑賞眼を養うことにもなる。
  • 書道と同じく、手本から入らなければ技術も習得できず、自分の様式も確立できない。創造や個性はいつも模倣から生まれるのだ。
  • 個性ばかりを尊重すれば、学ぶことを軽視しがちとなる。
  • 日本の美術環境には、こうした技術軽視と知識軽視の伝統が息づいており、それが日本の現代美術がふるわない要因になっている
  • 美術は、国家や社会の転換に関わらず、どんな時代にもしたたかに存続するもの
  • 美術というものは古今東西を問わず、どんな天才的作品でも必ず過去の作品と密接な関係をもっており、時間と空間の制約のなかからしか生まれないものであって、芸術家の天分や創意工夫などといったものはごくわずかな要素に過ぎないのだ。
  • 一種のオーラというか、愛蔵していた人たちの眼差しや執着までもが張り付いているように感じられる
  • 美術は政治や経済などよりも雄弁にその国の歴史や意義を物語る
  • どんな宗教でも、進行を維持するための物体を必要とする。
  • 信仰の拠り所として形あるものを求め、そこに生命を見出す心性は、(中略)そもそも人間の造形本能の根本であり、美術を生み出す原動力となっている
  • モダニズムが忘れてしまった「場」の力

『美術の力 表現の原点を辿る』(光文社新書)宮下喜久朗 より


1年ぶり3回目、古澤巌コンサート-炎のヴァイオリン-

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1年ぶり3回目、古澤巌コンサート-炎のヴァイオリン-

毎年毎年お隣の町にある宗像ユリックスで開催される古澤巌のヴァイオリンコンサート。ずっと気になりながら、やっと足を踏み入れたのは3年前コロナ禍下でのことでした。

心地よい音の空間にすっかり嬉しくなって、それから毎年参加しています…といっても今年で三回目ですが。

コンサートでも演劇でも映画でも、席をとるのに、わたしはステージに向かって中央から右方向を無意識に選ぶ傾向があるということに気づいたのは、つい最近のこと。今回は中央に近い席がほとんど売れてしまっていたので、意図的にやや左寄りの席を選んでみました。単にいつもと違うパターンも試してみよう、ということで。

演奏がスタートしてすぐに気がついたのは、ピアノの鍵盤の位置が見えるということ。古澤巌さんの演奏会は、古澤さんのヴァイオリンと、金益研二さんのピアノの組み合わせなのですが、過去二回は中央よりやや右側の席で、こちらから見るとグランドピアノの向こうに金益さんが座っていたのでした。今回はその金益さんの手元がよく見えて、ものすごく得をした気分に。次からは俄然左側の席を狙うことにします。

今回も素晴らしかったです。前半は新しいアルバムからのオリジナル楽曲を中心に、後半は定番の曲目を中心に。フルオーケストラでやるような曲目をも、ヴァイオリンとピアノ二人だけで演奏してしまうのですから、そのパワーや如何に!?です。

演奏される曲に重い感じがするものが、過去二回と比べて多かったような気がして、これは世の中の空気感の重さが少し晴れてきたからかな、と思いました。ファッション業界の流行色の傾向が、景気の悪いときは明るめの色、景気の良いときは黒系になる、というのと似ているかもしれないな、などと勝手に解釈。

それから古澤さんのヴァイオリンの音色が少し変わっているように思えて、音楽素人のわたしは「きっと演奏方法がいろいろとあるのだろうな」と思っていましたが、どうやらふだん使っているヴァイオリンとは違うものを、今回のコンサートではご使用なさっていたということが、あとからわかりました。ともあれ今回のコンサートも大満足。古澤巌さんのヴァイオリンはもちろんのこと、わたしは金益研二さんのピアノが好きなのだ、ということが判明した演奏会でした。

読書『家日和』(集英社文庫)奥田英朗著

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読書『家日和』(集英社文庫)奥田英朗著

このところ立て続けに読んでいた、奥田英朗著作品。『家族のヒミツ』『我が家の問題』と読み、本書で「家族小説」三冊を読了したことになります。もっともいずれも文庫であり、刊行順とは異なる順番での読書になりましたが。

さて『家日和』。安定の面白さでした。あえて順位をつけるならば、わたし個人的には読んだ順=刊行が最近のものの方が、好みだったような気がします。それにしても、サクッと読める量で面白いお話を完結させる力量は、すごいものだなぁ、と思います。

本の面白さというのは、いろいろあると思いますが、奥田英朗著の家族小説シリーズでは、深刻な重々しさが無く、けれども毒はあって、クスッと笑えて読後は爽快、な面白さを楽しみました。読み終わって数日もしたら、それぞれのストーリーや、それらに対する感想はほとんど消えてしまうのですが、その軽やかさがまた良いのです。

すっかりはまってしまったところで、著者を紹介してくださったお友だちから、「奥田英朗をより深読みするには」と、おススメの著作リストを頂きました。

  1. 『最悪』『無理』『邪魔』
  2. 『延長戦に入りました』『泳いで帰れ』『用もないのに』
  3. 『イン・ザ・プール』『空中ブランコ』『町長選挙』

3冊づつの、3ジャンル。この順番で読むと、面白みが増すとのお達し。少し休憩してから、この順番で読むことにチャレンジしようと計画中です。持つべきものは本好きの友。大量に本を読んでいる友人の存在はとてもありがたく、そういう師匠的な友人が何人も周りにいることが、とても嬉しい今日この頃です。

再読書『名画の生まれるとき 美術の力II』(光文社新書)宮下規久朗 著

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再読書『名画の生まれるとき 美術の力II』(光文社新書)宮下規久朗 著

再読書。本書に出会ったのは、5月の連休中のことでした。一度目はさらっと通して読みましたが、刺さる部分が多くて、これはあらためて要点箇条書きしておきたい!と思ったのでした。

以下、備忘。


  • 日本の美術教育はこうした実技、つまり「お絵かき教育」に偏重しており、欧米と違って美術鑑賞や美術史を教えることがほとんどない
  • 元来、美術というものは(中略)言語と同じく、ある程度の素養が必要であり(中略)こうした知識は日本の学校教育では得られないが、美術館に足を運び、適切な美術書を読むことによって培うことが出来る。
  • 古今東西を通じて造形文化が存在しない社会や文明は無い。美術は分け隔てなくあらゆる人間に作用するものである。
  • 美術は美術館にあるものばかりではない。かたちあるものすべてが美術になりうる。
  • 個人的な趣味ではなく、ある造形物が社会的・文化的・歴史的な意味や価値を持つとき、それは美術作品となり、そのうちでとくに質が高くて力のあるものが多くの人に見られ、語られることによって、名画や名作になるのである。
  • 美術は文字と同じく知性を動員してみて考えるべきものである。
  • 西洋では古来、美術は文化の中心とみなされてきた。そのため多くの国では、日本とちがって、美術をどう見るかという美術史が義務教育に組み込まれている
  • 小型のものを愛する日本人の美意識
  • 名画は公共のものであり、人類の遺産として本来すべての人に鑑賞されるべきである。しかし、ほんとうに価値の分かる個人に大事に所蔵され、愛される方が名画にとっては幸福ではないのか
  • そこ(博物館や美術館)に行けば、その地の文化や歴史についての概略を手早くつかむことができる
  • ミュージアムの真価は、情報よりも本物のモノに出会わせてくれることにある。
  • 情報を得るにしても、モノと対面することは、書物や映像から得られるのとはちがう臨場感とある種の緊張感を伴うものだ。
  • ミュージアムの文脈とは、その地域の歴史や美術史、民族史や自然観といった、西洋の近代的な価値観に基づいた思想である。
  • ミュージアムを必要としないということは、モノが本来の環境で生きているということ
  • 当初の空間にある方が美術館の明るい空間よりもよく見えるのが当然である。
  • 大事なのは、ミュージアムの文脈だけでモノを見ないで、当初の環境の中でとらえること
  • ロンドンのナショナル・ギャラリー(国立絵画館)は、世界一バランスの良い美術館
  • 感覚を麻痺させる酒は、日常と非日常、人間と神とを媒介する手段であった。
  • 天才が酒によって詩作したということが称えられるのは、きわめて東洋的である。
  • (西洋では)彼らの作品が酒の力によって生まれたと考える者はいないし、それを称賛する言説もないだろう。
  • 日本人の自然観や美意識は、花や紅葉に彩られた恵まれた自然だけでなく、こうした美術の名品の数々によっても培われてきたのである。
  • 彼ら(狩野派)の古典学習は徹底しており、雪舟や南宋水墨画をはじめとする膨大な古画を忠実に写し取っていた。(中略)そして彼らが室町や中国の古典をどん欲に吸収して後世に正確に伝えたことによって、日本の絵画伝統が受け継がれ、その質が長く保たれたのである。
  • 日本的な枯淡の美やわびさびの美意識とは対極にある、見ようによっては悪趣味でキッチュなもの(中略)こうした過剰な美こそが、現代の美意識に合致するようになったのかもしれない。
  • 西洋や中国とちがって、日本の伝統的な山水画の多くは、人間と融和した平和で親密な自然を表現するものであった。
  • 実物と対峙する重要性
  • 通常の展覧会であれば、作品群が撤去された後の展示室は、そこにあった絵画や彫刻の気配や、展示風景の記憶を濃厚に留めている。
  • 作品のある空間に身を置いて作品と対面する体験がどれほど大切か
  • 宗教は美術の母体
  • 広く民衆に働きかけていた壁画芸術や民族芸術の生命力
  • そもそも世界遺産という制度自体が、欧米の価値観に基づく一元的なものにすぎない
  • 美術作品は文脈によって意味が与えられる
  • 芸術も永遠ではない。人類の芸術は三万年ほど前に遡るが、今後また三万年もたてばほとんどの芸術は忘れ去られ、跡形もなく消え去っているにちがいない。優れたものが残るとは限らず、すべて偶然の作用次第である。
  • 出会うべき人間は人生のしかるべきときに会っており、(中略)そして美術館や展覧会で出会う美術作品もそうである。
  • 最後に見たい絵というものがあるとすれば、何がよいだろうか。
  • 美術は宗教と同じく、根本的な救いにはならないものの、ときに絶望にも寄り添うことが出来る存在(中略)ある種の美術にはそんな力があるはずだ。

『名画の生まれるとき 美術の力II』(光文社新書)宮下規久朗 著より


ずいぶん長くなってしまいましたが、わたしにとっては響く示唆の多い一冊でした。上の写真は、本著で「世界一バランスの良い美術館」と評されたロンドンのナショナルギャラリー。

読書『オリンピックの身代金』(講談社文庫)奥田英朗著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『オリンピックの身代金』(講談社文庫)奥田英朗著

お友だちから教えていただいた「奥田英朗 著」に、すっかりハマっています。先日読んだのは、家族小説の短編集でしたが、こちらは文庫上下巻合わせて900ページ近くの長編で刑事ものというか、社会派もの。質量ともに重々しく読みごたえがありました。

オリンピックは、昭和39年(1964年)開催の東京オリンピックのこと。前に読んだ刑事もの『罪の轍』の舞台がその前年、昭和38年でした。著者の数ある著作のなかで、たまたま手に取ったものの時代が重なっていたのだとは思いつつも、この時代に対するある種の執着が著者にあるのだろうな、と思わずにはいられません。

そう思いつつ読みはじめたら、登場する刑事の皆さんが『罪の轍』に登場していた皆さんでした。主人公は刑事の一人なのだろうと思うのですが、『罪の轍』と同様、犯人側と刑事側、どちらが主人公なのかわからないぐらい、どちらもていねいに描かれています。そしてついついわたしは、読みながら犯人側に感情移入。東京オリンピックを底辺で支えた肉体労働者、地方から出稼ぎに出てきて東京の人柱となった人夫たちの淡々とした絶望に、この国・社会への諦めが漂いました。

つい先日の、二度目の東京オリンピック開催でも、一度目とは形を変えたさまざまな不条理があったのは想像に難くなく、それらは一般人のわたしたちの目にもわかりやすく見えていたものも多々ありました。「オリンピック開催」を免罪符にいろいろなことが突き進んでいく様子には、少なからず腹立たしさを感じていましたが、本書を読んで、それは今に始まったことでは無く、結局一度目のオリンピックの時から権力構造的になにも変わっていない(むしろ強化されている)のだろうと思いました。下々のわたしたちが出来ることは、諦めることだけなのでしょうか。小説にして、底辺の怒りを残していくことでささやかな抵抗をする。著者の社会批判を痛烈に感じた一冊(上下巻なので2冊)でした。あとから講談社のサイトをチェックして、本作は「吉川英治文学賞受賞作」だったと知りました。

読み終わって、写真を撮ろうと上下巻を並べたら、上のように風景が繋がりました。そっか、こんな風になってたんだ!と、嬉しくなり。

『オリンピックの身代金』(講談社文庫)奥田英朗著

読書『我が家の問題』(集英社文庫)奥田英朗著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『我が家の問題』(集英社文庫)奥田英朗著

お友だちのおススメを受けて読んだ奥田英朗氏の小説が面白くて、しばらく追っかけとなりそうです。

今回読んだ『我が家の問題』は、先日読んだ『家族のヒミツ』と並ぶ、家族小説短編集。あとがきによると、本書『我が家の問題』の前にもう一冊『家日和』なる家族ものの短編集があり、本書はその対となる短編集だということで、どちらにも登場する家族があるとのこと。これはもう、次は『家日和』も読まねばなりません。

さて『我が家の問題』。面白かったです。奥田氏の家族ものは、その家族が問題を抱えてはいても、ハッピーエンドとまでは言えなくても、ほっとできる結末が用意されている安心感があるので、読んでいてストレスレスなのです。本書では「サラリーマンの夫」が何人も登場しますが、その夫と妻の関係性が、ある種の時代性を感じるものでもあり、ちょっと懐かしく読みました。

もしかして著者はわたしがサラリーマンをしていた会社にいたことがあるのかもしれない、と思えるような描写がいくつも登場し、なんとなく親近感。あらためて著者の略歴を読み直すと、1959年生まれで雑誌編集者でコピーライターを経ている、ということですから、あるいはこの直感「もしかしたら同じ会社を経験しているかもしれない」は、当たっているかもしれません。もし外れていたとしても、そう共感させる筆力に感心するばかりです。

リアリティがあり、ユーモアがあって、ちょっと涙腺も緩む。上質な娯楽小説です。

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』観てきました。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』観てきました。

2023年の4本目は、2022年から「月1本ペースで映画館で観よう」をスタートして以来、邦画としては1本目。高橋一生さんのファンというわけではなく、岸辺露伴シリーズのファンというわけでもなく、つまり漫画もドラマも観たことはありませんでした。そう、単純に「ルーヴル」に釣られてしまった、というところです。

ルーヴルまでロケに行っているんだから、映画館の大画面で、パリの街並みや、もしかしたらルーヴル内もたくさん見れるかも…という思い込みをもって臨みました。が、そうは問屋が卸しません。冷静に考えれば、映画を作る人は、岸辺露伴のストーリーや魅力をまず伝えたいわけであって、パリやルーヴルは道具立てのひとつですから、そこばかり期待されても困るわけです。もちろん、観たい景色を見ることも出来ましたが、過剰な(しかもお門違いの)期待を抱いたわたしには、少々残念な結果となりました。

映画館内は、昨今の水曜日にしてはまあまあ多かったと思います。高橋一生ファンまたは岸辺露伴ファンなのでしょうね。そんな皆さんにとっては、きっと大満足の映画だったのではないでしょうか。個人的には、久しぶりに白石加代子さんの顔を見れたのが嬉しかったのと、木村文乃さんがとっても可愛くて素敵だったのが、GOODでした。

ちなみに2023年1本目は、午前10時の映画祭から『レナードの朝』。

2本目は、カズオ・イシグロ脚本に釣られて『生きる LIVING』。

3本目はナイキのことを知ろう!の一環で、『Air』。