読書『創造思考』(東洋経済新報社)パノス・A・パノイ、R・マイケル・ヘンドリックス著 大田黒奉之訳

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『創造思考』(東洋経済新報社)パノス・A・パノイ、R・マイケル・ヘンドリックス著 大田黒奉之訳

サブタイトルに「起業とイノベーションを成功させる方法はミュージシャンに学べ」とあります。先日ご紹介した『Dark Horse 好きなことだけで生きる人が成功する時代』も表紙が文字でいっぱいでしたが、こちらも文字の多い表紙です。

実は表紙の感じだけでなく、中身で言いたいことも、本書『創造思考』と『Dark Horse』では、アプローチは異なれど、とっても似ています。この2冊を同じタイミングで読んだのは、まったくの偶然だったのですが、これから考え方の中心がこのように移っていくのだろうな、と感じました。

どちらも良書だと思いますが、どちらか一冊を言われたら、わたしは個人的にはこちら『創造思考』をおすすめします。

以下、備忘。


  • 人類最大の知性であるレオナルド・ダ・ビンチが科学者であると同時に芸術家であり、科学と芸術をそれぞれに役立てたのも偶然ではない。
  • 「聴く力」は武器になる
  • テクニックとしての沈黙
  • 自身の奥の直感を信じて耳を傾ける。
  • 失敗したら方向転換したらいいんだし
  • 大事なことは書き続けること
  • 遊ぶことは正義
  • 「誰と組むか」がすべて
  • 一番重視するのはアンサンブル
  • まず自分のスキルに自信を持つこと(中略)2つ目に他の人に興味を持つこと
  • 完成品を作るな、試作品を作れ
  • プロデューサーとして、自分が一番のフォロワーだと考える
  • その仕事はアーティストが成功するための空間作り
  • まず相手の本質を見抜かないといけない。これには経験とか読書が必要だ。
  • 創造性と想像力
  • 事実や数字と同じくらい力になるのは直感と自信
  • その根本に真実があれば、表のシンボルにもそれがにじみ出る
  • リミックス
  • 共通の方向にエネルギーが向いている
  • さあ前に進もう
  • 自分の核を知る

『創造思考』(東洋経済新報社) より。


2021年もあと1か月余り。年内にあと何冊読めるかわかりませんが、本書『創造思考』は、今年のふじゆり的ベスト3に入りそうです。

読書『Dark Horse 好きなことだけで生きる人が成功する時代』(三笠書房)トッド・ローズ、オギ・オーガス

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『Dark Horse 好きなことだけで生きる人が成功する時代』(三笠書房)トッド・ローズ、オギ・オーガス

大浦千鶴子訳、伊藤羊一解説、と表紙に続きます。そしてタイトルの前には「ハーバードの研究チームが実証!」と。文字数の多い表紙です(笑)

わたしの本購入のパターンは大きく3パターンあります。その1、本屋さんで出会って即買い。その2、図書館で出会って本屋さんで購入。その3、メールマガジン「ビジネスブックマラソン(以下、BBM)」のおススメで購入。

本書『Dark Horse』は、その3。出版コンサルタント土井英司氏のメルマガBBMでの書評に『いわゆる王道キャリアではなく、「期待薄」のところから大成功を収めた人(ダークホース)がどうやって成功したのか、その共通法則を導き出した、画期的キャリア論』とあるのを読み、思わず購入しました。

それぞれの事例が興味深く、あっという間に読了。面白かったですが、この話ならよく知っているかも、という読後感でした。というのも、「ダークホース事例のひとつが最も身近にいる」からです。家や親せきに陶芸や芸術関係者が無く、芸術系大学も出ておらず、なんの後ろ盾もないところから出発して磁器作家・彫刻家を生業としているダンナは、まさにDark Horseでしょう。「好きなことだけで生きる」は、まさにその通りです。そして「成功」しているかどうか?という点においては、本書で成功の指標に位置づけられる「充足感」を基準にしたとき、大きく「Yes」と答えることができます。

本書では、これらDark Horseをそれぞれ事例として調査しただけでなく、実は誰もが個性を持ったDark Horseであり、それぞれの個性を尊重し育てていこうという動きが北米でははじまっていること、そうした動きを日本にも世界にも広げることができる(そうしなければならない!)であろうという希望を見ることができました。そこが単なる事例紹介本ではなく「ハーバードの研究チームが実証!」という部分なのだと思います。社会に広げての考察こそ、わたしにとっては本書を読んでの大きな収穫でした。

「個人の充足感の追求」が社会へ好循環を生む、という本書の希望的な結論は、とても腑に落ちるものでした。誰もがそうできる(自分自身の充足感を追及して生きることができる)社会になるならば、「生きづらさ」なんていう言葉もなくなるのかもしれません。

読書『乾物』(家の光協会)有元葉子 著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『乾物』(家の光協会)有元葉子 著

ご存じ料理研究家の有元葉子さんの料理本です。表紙タイトルの右側に「有元葉子の和の食材」と書いてあり、どうやらシリーズもののよう。タイトルの左側には「切り干し大根、干し椎茸、きくらげ、かんぴょう、ずいき、大豆、干し湯葉、車麩、ひじき、煮干し、干し貝柱、干しえび、桜えび、じゃこ」と書いてあります。

乾物は大好きです。長期保存が大前提というところから、近頃は非常食としての側面を説く人たちも出てきましたね。個人的に、もっと活用したいと思っていたところに良書発見!ちなみに今うちの台所にある乾物を上げてみると、切り干し大根、干し椎茸、昆布、高野豆腐、ひじき、煮干し、じゃこ、削り節、ひよこ豆。

乾物って、面倒くさそうに見えて、実は「戻す」という一手間があるだけのこと。調理自体が面倒くさかったり難しかったり、ということでは無いと思います。そして、常備しておけば、いざという時にとっても便利です。なによりも、美味しくて栄養バランスが良いというのもGOOD。本書をパラパラとめくり、もっと買い貯めておこうと思いました。

それぞれの乾物をおいしくいただくための「戻し方」と、特徴にあったレシピがわかりやすく載っています。写真もいい感じです。最近は、調理方法を知りたいと思ったらインターネットでサッと調べることができますので、料理本を購入する機会がめっきりなくなりましたが、この『乾物』は手元に置いておきたい1冊です。

久しぶりのクラシックコンサート。素人だからこその、鑑賞の特権。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

久しぶりのクラシックコンサート。素人だからこその、鑑賞の特権。

東京ほどではないものの、制限の続いた福岡県。緊急事態宣言も、まん延防止措置も解除となって、少し気分的にほっとしていたところに、「秋のお客様大感謝コンサート」なるご招待をいただきました。地域のコンサートホール宗像ユリックス九州交響楽団(以下、九響)の粋な計らい。

今回は「クラシックコンサートが初めての方でも楽しめるように」考えられたプログラムということで、聞き覚えのある曲、初めてでも楽しめる曲が並びました。上の写真はそのプログラムの一部。ジョン・ウィリアムズ「スター・ウォーズのテーマ」でスタートし、オーケストラを構成する楽団・楽器を紹介する「インストゥルメンタル・ブルース」を経て、ヴィヴァルディ「春」、モーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、ベートーヴェン「運命」、スメタナ「モルダウ」と続きました。

素人・初心者にやさしいコンサートを実感しました。「初めての方でも楽しめるように」がしっかりと伝わってくる選曲・曲の並び。わたしは音楽を聴くのは好きですが、楽器はしないし、知識的にもほとんど情報を持っていません。だからこそ、ジャンルを問わずコンサートで思うのは「自分の好きな音かどうか」だけ。 横山奏さん の指揮による九響オーケストラが奏でた音は、とっても好きな音でした。

指揮を務めた横山奏さんの「おはなし」からも「優しいクラシックコンサート」のコンセプトがしっかり伝わってきましたが、それはあくまでも補足的なもの。自分が好きかどうか、音が心身に響いてくるかどうかに、知識は要りません。音楽を学んだことのある人は、きっとそうもいかないのかもしれないな、と思うと、素人だからこその鑑賞特権を嬉しく思います。

こういうとき、いつも思い出すエピソードがあります。それは一流の日本料理人さんとお食事に行ったときのこと。「和食の会食は、いろいろと目についてしまって心から楽しむことができないから、フレンチや中華の方がいい」とおっしゃったのを思い出すのです。どんなジャンルでも、純粋に自分自身の五感で味わいたいと思ったときに、「知らない」ことは大きな強み。

ともあれ、「耳に入ってくる音」「響いてくる振動」だけを純粋に味わうことのできた、贅沢な時間でした。

郷育カレッジ講座『カメリアステージ図書館を活用する楽しみ』に参加してまいりました。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

郷育カレッジ講座『カメリアステージ図書館を活用する楽しみ』に参加してまいりました。

福津市民のための生涯学習システム「郷育カレッジ」。令和3年度は7月に開校式を開催したものの、コロナ禍による「緊急事態宣言」や「福岡コロナ警報」といった制限が続いて、講座の中止を余儀なくされておりました。10月になってやっと解除になり、講座スケジュールも再開となっています。

さて 『カメリアステージ図書館を活用する楽しみ』 。ふだんは60代、70代の受講者が多い郷育カレッジ講座ですが、土曜日の開催とあって、嬉しいことに小中学生の参加者が三分の一を占めました。講師は郷育カレッジ学長でもあり、図書館での活動を長くなさっている成清鉄男先生。カメリアステージ図書館の説明と館内探検は、図書館長の森さんがご担当くださいました。

座学で図書館活用の概要を学んだあと、実際にカメリアステージ図書館へ。森館長の案内で、一周しました。書架の構成・特徴、企画展示の説明など、ふだんから通っている図書館であるものの、説明を聞きながら周るとまた新たな発見があるから不思議です。郷育カレッジ講座の運営側の一員として、一参加者として、充実した時間となりました。

福津市には福津市図書館とカメリアステージ図書館の二つの図書館があり、図書館探検は、一年ごとに交代で開催しています。市民にとって価値の高い講座内容なので、継続的にカリキュラムに入れています。数年おきに参加すると、図書館自体の進化も感じることができます。知ってますます好きになる図書館です^^

読書『キリギリスのしあわせ』(新潮社)トーン・テレヘン著、長山さき訳

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『キリギリスのしあわせ』(新潮社)トーン・テレヘン著、長山さき訳

オランダから届いたお話。読後にまず思ったのは「読後感」に既視感があるということ。とてもやさしくて、ちょっぴり切ない、そんな気持ちなのですが、過去にもそんなことがあったような。すぐにその理由がわかりました。『くまのプーさん』です。でも、キリギリスのお話の方が、プーさんのお話よりも、切ない感じ、不条理感がちょっぴり大きいかな。あくまでも個人的な感想ですが。

くまのプーさんは、石井桃子さんの訳が素晴らしくて、さらに大人になって原著を読んだら、石井桃子さん訳のイメージにぴったりの語感の英語が並んでいて、とても嬉しかったのです。本著『キリギリスのしあわせ』も、長山さきさんの訳が素晴らしいからこその、この読後感なのだと思います。ただ、原著はオランダ語になりますので、語感の確認は私には難しいですが。

『キリギリスのしあわせ』 にはいくつものお話が入っています。「なんだかちょっぴり不条理」な感じのお話も。とてもいいな、と思うのは、それらのお話から、教訓めいた説教臭い感じが一切してこないこと。同じストーリーでも、教訓めいた雰囲気が出た途端に、鼻白んでしまいますので。「ただ、そうなんだよ」というお話を書くことの方が、もしかしたら難しいのかもしれませんね。そう考えると、貴重な出会いです。

著者の『ハリネズミの願い』(新潮社)が2017年に本屋大賞の翻訳小説部門賞を受賞しているということでした。まったく存じませんでしたので、これはぜひ、遡って読んでみようと思います。

読書記録のアップが継続できる、シンプルなカラクリ。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書記録のアップが継続できる、シンプルなカラクリ。

ブログで立て続けに読書記録をつけていると「よくそんなに本を読む時間があるね」と言われることがあります。たしかに、忙しくても読書記録を続々とアップできるときがあります。これ実は単純なカラクリがあります。それは「サッと読めるもの」を図書館からたくさん借りてきていること。

「サッと読めるもの」具体的にはどんなものかというと…

  • 細切れの時間を上手に使える短編集
  • 図解や表での解説が多いビジネス書
  • 図解や表での解説が多い論文系書籍
  • 写真が多い美術系書籍
  • 写真が多いノウハウ本(料理本とか)
  • 絵本
  • 絵や写真がメインの大型本
  • 字が大きく行間が広めの軽いエッセイ

などなどなど。

特に最近「絵本」のジャンルが広がってきていて、侮れないと感じています。子ども向けと見せつつ、大人にもわかりやすい解説系の絵本も多く、非常に役に立ったものが少なくありません。これまでこのブログで紹介したもののなかでは『美術館っておもしろい!』『Are You Ready?』などもそのひとつです。

借りてきたからといって、読んでしまおうとこだわる必要が無いのも、図書館本の良いところ。興味を持って手に取った本でも、読み進められるかどうかは、その時の自分の状態にも大きく左右されます。すぐに読めそうにないときは無理をせず、「気持ちよくページをめくる」状態になったときにあらためて開くのが一番です。図書館の本ならまた後日借り直せばよいですし、必要だと分かっている本ならば購入していつでも読めるようにしておけば良いのです。

なにはともあれ、わたしにとっては、自転車で気分転換に出かけるのに丁度良い近所に「行きつけの図書館」があること、その図書館の新刊棚に「わたしが借りたくなる本」が必ずあるという信頼感が、読書習慣ひいては「読書記録のアップ」の強い味方になっています。おかげでさまで「タイトル&表紙イメージ」だけで「まずは借りてみる」ことに躊躇が無くなりました。もし「違うな」と思っても、読むのをやめたらよいだけ。たくさん借りて、読みたいものだけ読んで、速やかに返却する。このサイクルが、読書記録の継続につながっています^^

読書『まちづくりと図書館』(青弓社)大串夏身

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『まちづくりと図書館』(青弓社)大串夏身

図書館の在り方をまちづくりとの関連で提言する本です。図書館で見つけ借りてきましたが、これは資料として手元に置いておきたい一冊。報告書というか研究論文という感じの内容ですが、とても読みやすく、わかりやすいです。

図書館を「まちづくり」の中心に置いた取り組みを具体的に紹介しつつ、考察しています。「まちづくり三法」による政策に伴って地方自治体が事業化・計画し取り組んだ、全国各地の事例が載っています。情報源(参考書籍、サイトなど)も巻末にきちんと載っていますので、この本からさらに個別の取り組みをもっと知りたいときには、調べることも容易でしょう。

本書は「図書館」の事例ですが、要は「文化」をまちづくりの中心に据えた自治体の取り組みと考えることができます。「図書館」は「美術館博物館」に置き換えて考えることも可能。公共文化施設としての図書館がその意義を大いに発揮するための取り組み事例の数々は、これからの美術館博物館の在り方を考えるうえでも、とても参考になります。

それにしても、全国各地で図書館を中心にしたまちづくりに取り組んでいる事例がこんなにあるとは思いませんでした。個人的には、福津市の図書館協議会の一員として視察訪問したことのある「伊万里市民図書館」が取り上げられていたのが、嬉しかったです。

公共文化施設としての図書館は、一部の本好き、図書館好きのためだけにあるのではなく、広く市民に使われる場所でなければなりません。市民や市政に対して良い意味で影響力を持つ図書館を目指して、さらに頑張って欲しいな、応援していきたいな、との想いも新たになりました。

読書『文豪たちの断謝離 断り、謝り、離れる』(秀和システム)豊岡昭彦・高見澤秀編

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『文豪たちの断謝離 断り、謝り、離れる』(秀和システム)豊岡昭彦・高見澤秀編

「文豪ブーム」が来ていたらしい!と知ったのは、先日読んだ『文豪たちの住宅事情』がきっかけでした。

知るとアンテナがそちらに反応するのかもしれませんね、またまた新刊の「文豪本」を発見しました。タイトルの「断捨離(だんしゃり)」ならぬ「断謝離(だんしゃり)」は、「捨てる」ではなく「謝る」の「しゃ」です。文豪たちが実際に書いた手紙を資料とした本。手紙って、残ってしまうものですね。なんとも生々しいやり取りが迫ってきます。

上の写真、本書の表紙を見ただけでも、そうそうたる文豪の顔ぶれ。皆さん期待(!?)を裏切らない強烈なインパクトの手紙を残していらっしゃいます。個人的には、中島敦、中原中也、太宰治が、トップスリーでした。伝わってきたのは、文豪たちの切実さ弱さだけでなく、その図太さ厚顔さ。自らのことでありながら、どこか他人事を書いているのようにも見える文面に唖然とするものもありましたが、その筆力もまた「文豪」故なのかもしれません。

巻末に載っている「参考文献」のタイトルが、いちいち気になりました。面白いこと間違いないでしょうね。文豪ブーム、まだまだ楽しめそうです。

読書『名画小説』(河出書房新社)深水黎一郎

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『名画小説』(河出書房新社)深水黎一郎

新刊棚で表紙に描かれた美術館の雰囲気に惹かれて手を取った一冊。タイトルも作者も存じませんでしたが、大正解でした。上の写真は、その表紙の画から連想した、ロンドンナショナルギャラリー。

タイトルの『名画小説』は、「名画についての小説」ではなく、「名画から連想してできた小説」を意味しています。13の短編=13の名画が題材となっている、短編集。短編ながら、いずれも一筋縄ではいかないストーリー展開に引き込まれ、一気に読みました。

絵画に描かれているものからイメージを読みとり、自らの言葉で「お話」を紡ぎあげていく手法は、アートエデュケーションのプログラム「対話型鑑賞法」でやっていることとつながります。もちろん「お話」をつくっているのがプロの小説家で、「本」としてたくさんの人に読んでもらう前提で書いているというのは、大きな違いではありますが。

それぞれに絵画から導き出されている13の短編にあふれているのは、まさに著者独特の世界観です。こんなふうに作品(小説)化するところまで昇華できると、絵画鑑賞の楽しみもさぞかし大きいことでしょう。そういえば子どもの頃は、絵画からそのような空想世界のお話を導き出していたことを思い出しました。この感覚は、今後のアートエデュケーションプログラムに生かせそうです。

ひとつだけ難を言えば、カタカナ語、とくに固有名詞の多くを漢字表記にしているため、フリガナはついているものの読みにくいというところでしょうか。それもまた敢えてのことでしょう。読み飛ばしたくなるところを、読み飛ばすと訳が分からなくなりますのでグッと我慢して(笑)読み続けました。

深水黎一郎さんの本はこれまで読んだことがありませんでしたが、独特の世界観に俄然興味が湧いてきました。このように、偶然見つけた本からの著者との出会いは、とても嬉しいです。遡って読んでみようと思います。