読書『マリリン・モンローという女』(角川書店)藤本ひとみ

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『マリリン・モンローという女』(角川書店)藤本ひとみ

先日カメリアステージ図書館『桜坂は罪をかかえる』(講談社)に出会い、久しぶりに「藤本ひとみ」著書を手にしたところから、一人で勝手に「藤本ひとみ祭り」開催中です。わたしが著者に対して持っていたイメージ「大人向けのちょっとドロドロした感じの小説」の本領が発揮されているであろう本を、まとめて借りてまいりました。

まず一冊目『マリリン・モンローという女』。マリリン・モンローの生涯は、アイコン的なエピソードを断片的に読んだことはありましたが、まとまった物語として読んだのは今回が初めてでした。知っているようで知らなかった、マリリンモンロー。かといって、本書は小説であって伝記ではありませんので、これがほんとうの姿だったのかと問われたら、それもまたわかりません。

フィクションとノンフィクションとの間とでもいうのでしょうか。それは、書き手・読み手の双方に、想像力を働かせる余地が多分にあるということでもあります。以前、『西郷(せご)どん』を書いた林真理子さんがインタビューで、歴史ものを書く面白さを語っていたのを思い出しました。記録に残っている史実と史実の間にある「会話」は、書き手が自由にしゃべらせることができること、そこで登場人物に「何を言わせるか」こそが、書き手の腕の見せ所…というようなことをおっしゃっていました。

さて、『マリリン・モンローという女』、あまりにも切なく、やりきれない気持ちになる物語でした。マリリンの物語というよりは、本名ノーマ・ジーンの物語であり、「ハリウッドスター」の光の部分がまったく感じられませんでした。貧困、愛情への渇望、薬物、今なら「#MeToo」と声を上げるべき業界事情…。

時代背景も含めてなんとなく既視感を感じたのは、少し前に映画『ジュディ虹の彼方に』をDVDで観ていたからでした。もしやと思い二人の生きていた時代を調べてみたら、ジュディ・ガーランドが1922年-1969年、マリリン・モンローが1926年-1962年と、ほぼ重なっていたのですね。わたし自身が生まれるほんの少し前に実在したスターたちの物語は、華やかさよりもやりきれなさの残るものでした。

本を読み終わったときに息子から「マリリン・モンローって誰?」と問われ、説明できませんでした。あらためてマリリン・モンローの属性は「マリリン・モンロー」なのだと思いました。彼女はきっと「ハリウッドで活躍した演技派女優」と説明してほしかっただろうな、と思いつつ。

一人で勝手に「藤本ひとみ祭り」、次の読書は『シャネル』です。

読書『注文をまちがえる料理店のつくり方』(方丈社)小国士朗

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読書『注文をまちがえる料理店のつくり方』(方丈社)小国士朗

発刊当初にあちらこちらの書評で話題になり、読みたいと思いながら手に取る機会を逸していた本です。2017年末に出た本です。

認知症の方々がスタッフとして働くレストランのお話。わたしは常設営業のお店だと思い込んでいたのですが、単発的な試みでした。ただ単発とはいっても、そのノウハウをきちんと資産にして、日本各地・世界各地でこのような取り組みにチャレンジしようとする人たちが現れることを期待し(促し)サポートする仕組みを、本書をはじめとして形に残しているという意味で、より永続的なものにしていると感じました。

この本に出てくるのは認知症の方々でしたが、「認知症の方々に活躍の場をつくる」という直接的なことを超え、「一生懸命生きようとしている人、一生懸命生きている人たちがちゃんと応援される社会がとっても大事」(本書内p298、実行委員長和田さんのことばより)だということが、文章の端々からにじみ出ていました。

「間違えちゃった、ごめんね」「まぁ、いいか」をお互いにできる社会。厳格さよりも、寛容さ。これがどんどん広がっていけば、すべての人の「生きやすさ」につながると思えてきました。クラウドファウンディングチームの方の「このプロジェクトは、特定の人の共感ではなく、社会に共感されるテーマ」という言葉があり、このプロジェクトとこの本が注目されている理由を端的に表していると感じました。

そのうえで「料理店」ならば料理店としてのプロレベルのサービス提供を目指すことの大切さ。それを可能にするための「仕組み」をいかに構築していくかが問われ、それは働く人が認知症であるかどうか、ということとは関係なく重要であるという意識。「注文をまちがえる料理店」を継続的なものにしたり、汎用性を持たせたりするには、最も大切な部分だと感じました。このプロジェクトに関わるすべての人たちの、「プロ」としての気概が伝わってきました。2017年以降の「これから」について、継続させるために法人化する=ビジネス化するという決意を書いてあるのも、とても腑に落ちました。

本書内にふんだんに載っている写真がまた素晴らしいです。その場の空気が伝わってきて、自分もその場に一緒に居てみたいという気持ちになります。誰もが生きやすい世の中を目指すというと、絵空事のように聞こえるかもしれませんが、その可能性を垣間見せてくれる本です。これからも何度も読み返したい本です。

読書『桜坂は罪をかかえる』(講談社)藤本ひとみ

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読書『桜坂は罪をかかえる』(講談社)藤本ひとみ

いつものカメリアステージ図書館。このブログでも、何度も「カメリアステージ図書館の新刊紹介棚が秀逸!」という内容を書いていますが、もうひとつ、貸出カウンター横にある「今月の特集棚」も、わたしにとっては要チェックコーナーです。貸出の際に必ず目に入りますので、さしづめレジ横のお菓子といったところ^^

先日、テーマが「桜」に代わっていました。表紙の絵画(「髪を編む少女」アルベール・アンカー)に釣られて思わず手に取ったのが本書。藤本ひとみさんの本は、20代の頃に何冊か読んでいて、とても久しぶりでした。西洋史・西洋美術史の周辺を題材にした小説といえば「藤本ひとみ」さんが居たことを、この本を手に取るまで失念しておりました。

さて『桜坂は罪をかかえる』は、中学生が主人公のミステリー小説。わたしが20代の時に出会った本から抱き続けていた著者のイメージからは離れていて、ちょっとびっくりしたというのが正直な感想でした。調べてみたところ、講談社青い鳥文庫から小中学生向けのミステリー小説がシリーズ化されて大人気なのですね。

わたしのもっていた彼女の著作イメージは、どちらかというと「大人向けのドロドロしたもの」でしたので、拍子抜けしました(笑)が、ストーリーもテーマも人物描写も面白く、サクッと読める本でした。この小説を大人読者向けにもっと書き込んでくれたら、もっと面白くなるだろうな、と思いながら読みました。

登場人物の中学生たちのセリフや胸中の思いを読みながら、中学生の頃って、こんなにものごとを考えていたかなぁ、これは大人が書いている本だからこうなるのではないか?などと疑問も持ちつつ。自分が中学生の頃どうだったかをすっかり忘れていることに気づかされつつ。

これをきっかけに「藤本ひとみ」本をまた読んでみようと思っています。きっかけを作ってくれたカメリア図書館の特集棚に、今日も感謝です。

読書『眺める禅』(小学館)増野俊明 著

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読書『眺める禅』(小学館)枡野俊明 著

週末、タイトルに『禅』のついた本を物色しておりました。そのなかで、最もわかりやすく読んだ(あるいは、眺めた)のが本書です。

著者の枡野俊明さんは、曹洞宗徳雄山建功寺のご住職であり、庭園デザイナー。本書は、庭園デザイナーとして著者が設計した禅庭のミニ写真集とでもいったところでしょうか。ただそこはさすがご住職、それぞれの写真に添えられたタイトルや文章が、禅のことば・教えを伝えています。

著者は「寝る前に30分、本書を開きませんか?」と誘います。静かに座って禅の庭を無心に眺めることで、就寝前に不安や雑念を払い、静かな気持ちで眠りにつくことができますよ、と。これが習慣化することで心の安寧が得られると説いています。

園芸療法的視点で考えても、実際に庭(禅庭に限らず)の自然を眺めることが心身に良い影響を与えるのは間違いありません。現代社会において、ふだんの生活のなかで就寝前に30分庭(自然)を眺めることができる環境にある人は、多くは無いかもしれないことを考えると、本書で提唱する「写真で禅庭を眺める」ことは、その代わりとして誰でもが取り組みやすい方法といえるかもしれません。

28か所の禅庭の写真が載っています。「禅の庭」とひとことに言っても、そのデザインは多種多様。気に入った庭の写真を眺めていたら、30分はあっという間に過ぎそうです。「30分瞑想しなさい」と言われたら難しそうですが、禅の庭を眺めることならば容易にできそうだと気づいたとき、著者であるご住職の、「現代生活を送るふつうの人たち」への心遣いを感じました。

コンパクトな写真集本です。願わくば、写真がもっと大きかったらよかったなぁと思いましたが、「就寝前に開く」という用途を考えたときに、このサイズになったのだだろうと合点。この本の考え方から派生して、好きな禅庭や庭園の写真を寝室に飾るという方法もありそうです。

読書『リアルビジネス3.0 あらゆる企業は教育化する』(日経BP)日経トップリーダー編

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読書『リアルビジネス3.0 あらゆる企業は教育化する』(日経BP)日経トップリーダー編

ちょっと前に気になっていながら手に取りそびれていた本です。たまたまお友だちが本書の内容に触れている記事をブログに書いていて、「そういえば気になっていたんだった!」と思い出しました。初版が2019年11月となっていましたので、1年ちょっと前の本ですね。月刊経営誌『日経トップリーダー』(日経BP社)の特集記事などをもとにしたものだそうです。

「まえがき」に書いてある一文が、本書が出版された背景を簡潔に示していました。


『モノの時代が終わった日本では、製造業はサービス化し、サービス業はより進化したサービスを展開してきました。モノを売り買いしていた時代が「1.0」だとすれば、サービス化の時代は「2.0」、そして教育化が「3.0」と位置付けられます。』(『リアルビジネス3.0 あらゆる企業は教育化する』(日経BP)日経トップリーダー編より)


そういわれてみると、事業をしているお友だちのなかで、この方向にかじを切っている人がどんどん増えていることに心あたります。ただ、切り替えるというよりは、もうひとつの事業として、あるいは本業(もともとの事業)をサポートする事業として展開しているというイメージ。何かの代わりとして教育化があるのではなく、教育化によって全体が伸びていくイメージです。

「教育化の実例」が、BtoC(企業から一般客へ)、BtoB(企業から企業へ)の両方で合計16件載っています。よく名前を聞く会社もあれば、初めて知る会社もあり、業種業態も多種多様。どの事例も、読んでいて楽しくなってきます。この楽しさが「教育化」の本質だと感じました。誰かに何かを「教える」ことも、知らないことを「教えてもらう」ことも、お互いにとって「学び」や「成長」につながり、楽しい。

事例紹介の後にある「だから儲かる!」とタイトルのついたまとめコラムと、各事業の「三段活用」が図解されているのがわかりやすく、自分の事業に置き換えて考えるときに参考になります。「三段活用」とは、「売り買い → サービス化 → 教育化」というステップを整理する考え方。巻末には「三段活用シート」なるワークシートもついていますので、自社の事業の教育化を検討したいと思ったとき、すぐに取り掛かることができます。

わたし個人的には「事業の教育化」が一番最初に頭に浮かんだのは、花祭窯が創業してすぐの頃でした。それから20年以上が経って、やっと形にするタイミングがやってきたかな、と感じています。一つの事業分野でキャリアと年齢を重ねてきた今だからこそ、できるような気もしています。グッドタイミングでの読書でした。

読書『起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)大西康之 著

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読書『起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)大西康之 著

リクルート創業者・江副さんやリクルート社について書かれた本は、江副さんの自伝を含めたくさん出ています。社内(グループ内)向けに書かれたものを含め、四半世紀以上前の在職中から何冊も読んできました。にもかかわらず、新たに出るとまた読みたくなり…久しぶりにじっくり振り返りとなりました。上の写真は、カモメ。

わたしは残念ながら江副さんご本人に直接お会いしたことはありませんでしたが、それでもリクルートへの執着、その生みの親である江副さんへの関心があることは否定できません。その理由が、江副さんという創業者に対する熱狂ではなく、リクルートの仕組み(社風・考え方)に対する共感であることが、本書読後にあらためてわかりました。

以下、個人的備忘。


  • ファクトとロジック
  • 仕組み
  • 江副浩正というカリスマではなく、江副さんが構築した思想体系を信奉していた
  • 日本株式会社の人事部
  • モチベーション経営のもととなる「心理学」の大沢
  • 自分より秀でた人間をまわりに置くことで、自分のやりたいことを実現していく
  • ヒア・アンド・ナウ
  • 創り出す
  • ピーター・ドラッカー『現代の経営』
  • 二本の草を育てる者
  • データ・イズ・マネー
  • 社会への貢献・個人の尊重・商業的合理性の追求
  • 自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ
  • 窮すれば変じ、変ずれば通じ、通ずれば久し(易経)
  • 君はどうしたいの?
  • カリスマの「リーダーシップ」に置き代われるもの(中略)社員の「モチベーション」
  • じゃあそれ君がやってよ
  • ハーズバーグの動機付け要因
  • 大沢武志『心理学的経営 個をあるがままに生かす』
  • PC(プロフィットセンター)制度
  • 垂れ幕文化
  • RING(リクルート・イノベーション・グループ)
  • GIB(ゴール・イン・ボーナス)
  • 情報の共有
  • 分からないことはお客様に聞け
  • バッド・ニュースほど早く
  • 情報の民主化
  • 「地方、貧乏、野望」とSPI
  • 企業人より起業人
  • ゼロ・トゥ・ワン
  • 自分の仕事は自分で作れ
  • 目標が定まると、知恵と行動力が湧いてくる
  • リクルートマンシップ
  • 暁の駱駝プロジェクト
  • マッチング
  • 言い出しっぺ
  • 圧倒的な当事者意識
  • 革新的なビジネス・モデルと、心理学に根差した卓越したマネジメント理論

『起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)大西康之より


リクルート文化として一番わたしのなかに残っているのは、「君はどうしたいの?」と「最近どう?」です。「最近どう?」は、そのままの言葉では本書内に出てきませんでしたが、「情報の共有」に置き換えられるでしょうか。それも、単なる情報交換というようなものではなく、とても温かみのあるものであったことを言い添えておかねばなりません。しょっちゅう交わされる「最近どう?」の短い簡単な投げかけが、とても大切なものであったことは、リクルートに在籍した経験のある人なら心あたると思います。

「そうそう、そうだった!」ということももちろん少なくありませんでしたが、まったく知らなかったこと、気づかされたことがそれ以上に多く、読んでよかったと思いました。特に、創業期メンバーの一人であり、わたしにとって経営思想の師であるHRR創始者・大沢さんの、江副さんとの関係性を客観的な文章で垣間見ることができたのは、大きかったです。

読書『レンブラントをとり返せ―ロンドン警視庁美術骨董捜査班-』(新潮文庫)ジェフリー・アーチャー 著

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読書『レンブラントをとり返せ―ロンドン警視庁美術骨董捜査班-』(新潮文庫)ジェフリー・アーチャー 著

2019年に原著が出版された、ジェフリー・アーチャーの新刊です。まずは「え!ジェフリー・アーチャーの新刊!?」と驚いてしまいました。2019年にスティーヴン・キングの『書くことについて』を見つけて読んだ時と同じ驚きです。そう、彼らはまだ現役で執筆しているのですね。ちなみにジェフリー・アーチャーは2020年で80歳だそうです。ずいぶん前から彼らの名前を知っているから、勝手に「ちょっと昔の人」のイメージを持ってしまっていましたが、若くからずっと活躍し続けているということ。あらためて、すごいなぁと思いながら読みました。

さて『レンブラントをとり返せ』。タイトルからわかる通り、美術を取り巻く警察ものです。ジェフリー・アーチャーの著作では、デビュー作『百万ドルを取り返せ』でも画廊街でのストーリーが出てきますし、『運命のコイン』のストーリーのなかでも美術が一定の役割を果たしています。わたしはまだ読んでいませんが『ゴッホは欺く』のタイトルもあり、著者自身の美術への造詣の深さが感じられます。

読後感としては、『百万ドルを取り返せ』や『運命のコイン』を読んだ時のような重さ、衝撃はありませんでした。ジェフリー・アーチャー作品に対する勝手な思い込みがありましたので、正直なところちょっと物足りない感じ。でも裏を返せば、複雑さや難解さが取り払われていて、娯楽的に楽しんで読めるということでもあります。

本書はシリーズのスタートに位置づけられています。これから同主人公が活躍するシリーズがどこまで続いていくかは、ジェフリー・アーチャー自身がどれだけ長生きできるかにかかっていると、本人によるコメントが「はじめに」に添えられていて、思わずニヤリとしました。芸術家の方々を見ていてもそうですが、キャリアに安住することなくチャレンジ精神を持ち続けることが、長く活躍する秘訣なのですね。

2020年読んだ本ベスト5。

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2020年読んだ本ベスト5。

すでに記事にしたと思い込んでいました…昨年の「読んだ本ベスト5」をまだ出していなかったことに気づき、あわてて読書記録を振り返り。昨年は例年よりたくさん読んでいたうえに、良書との出会いが盛沢山でした。とても5冊では足りない!と思いながらも、選んで選んで残ったのがこの5冊です。上の写真は、第1位の本の目次ページ。

第1位 『美術館っておもしろい!』(河出書房新社)モラヴィア美術館

「展覧会のつくり方、働く人たち、美術館の歴史、裏も表もすべてわかる本」(阿部賢一・須藤輝彦 訳)です。これまでこういう本(美術本ならぬ美術館本)を見たことがありませんでした。アートエデュケーターとして仕事をしていくうえで、常にそばに置いておきたい絵本です。

第2位 『小説 イタリア・ルネッサンス』(新潮文庫)塩野七生

「1 ヴェネツィア」「2 フィレンツェ」「3 ローマ」「4 再び、ヴェネツィア」の全四巻の塩野七生ワールド。アーティストにとって特別な時代「ルネサンス」を、史実をベースに描いた歴史小説です。政治の話のなかに芸術・芸術家とのかかわりが必然的に描かれているのが、かの国での芸術・芸術家の地位・重要性を感じさせるものであり、とても面白く読みました。

第3位 『知覚力を磨く 絵画を観察するように世界を見る技法』(ダイヤモンド社)神田房枝 著

ここ数年美術鑑賞によるトレーニング・研修効果をうたう本が次々と出ています。そんななか「効果が科学的に検証されている、絵画観察を用いたトレーニング」について論じているのが本書の特徴であり、強み。鑑賞教育の担い手にとって、心強い一冊です。

第4位 『7つの階級 英国階級調査報告』(東洋経済新報社)マイク・サヴィジ著、舩山むつみ訳

英国社会に興味があるので読んだ、というのが一番の動機でしたが、予想していたよりもずっと重い問題提起の本でした。英国だけの問題ではなく、自分の住んでいる国、地域、そして自分自身を省みて考えさせられます。個人的には特に「文化資本の力」と「文化的スノビズム」の二つのキーワードが、課題となりました。

第5位 『運命のコイン 上・下』(新潮文庫)ジェフリー・アーチャー

ソビエト(ロシア)、イギリス、アメリカの近現代史を振り返ることのできる小説。ストーリーの面白さに加え、ジェフリー・アーチャーその人への興味もかきたてるものでした。ここからスタートして『ケインとアベル』『百万ドルを取り返せ!』と、楽しみが広がりました。

ちなみに、ベスト5候補として挙がったほかの本は、トルストイの『アンナ・カレーニナ(上・中・下)』チャップリンの『チャップリン自伝(「若き日々」「栄光と波瀾の日々」)』ディケンズの『クリスマスキャロル』エミリー・ブロンテの『嵐が丘(上・下)』プレジデント社から出た『観光再生』など。特に『アンナ・カレーニナ』と『嵐が丘』は、衝撃的でした。

和・洋の小説、ビジネス書、学術書、絵本まで、たくさんの良書と出会えた一年でした。こうしてあらためて振り返ると、本のおかげで広がった世界があることを、あらためて感じます。感謝!

読書『「日本の伝統」の正体』(新潮文庫)藤井青銅 著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『「日本の伝統」の正体』(新潮文庫)藤井青銅 著

なんとも痛快な一冊を見つけました。あとがきに『「これが日本の伝統」に乗っかるのは、楽チンだ』と書いてある通り、実に皮肉に満ちていて、面白おかしく読みました。著者の肩書に「作家・脚本家・放送作家」とありますが、「放送作家」としての経験や視点が色濃く反映されているのでしょう。伝統とビジネス、伝統とメディアの関係性が、さらっと暴かれています。上手に持ち上げられ、作り上げられ、利用されている「伝統」を、目の前に突き付けてくれる本です。

とはいえ著者が『「伝統」そのものを否定しているわけではありません』というのは、読めばよくわかります。多様な「伝統の例」を斬ることを通して、読者自身に何が問題かを気づかせてくれます。深刻な問題提起というよりは、4コマ漫画的な批判精神とユーモアあふれる切り口。ズバッとやられます。

それぞれの事例の伝統度合いを「○○から○○年」というように数値化しているのが秀逸です。「土下座は謝罪なのか?」として『土下座が謝罪の意味を持ち始めて、約90年。国語辞典にそれが載り始めて、約50年。ドラマ「半沢直樹」の土下座から、約7年。』(『「日本の伝統」の正体』(新潮文庫)藤井青銅 著より)とあったのには笑いました。

あとがきに、本書の意図がしっかり述べられています。『「伝統」という看板を掲げてはいるけれど、その実態は「権益、権威の維持と保護」にすぎないケースもあります―ミもフタもない言い方ではありますが。』(『「日本の伝統」の正体』(新潮文庫)藤井青銅 著)の言葉に、大いにうなずきました。伝統工芸の世界「あるある」なのです(笑)

仕事柄わたしも、「伝統」「伝統文化」「伝統工芸」などなど「伝統」を含む言葉をよく使います。無意識に「この言葉を使っておけばとりあえずOK」になっていないか、気を付けなければならないと自省しました。「権威」「ブランド」「伝統」に頼るようになったらお終いですね。

読書『古代エジプト解剖図鑑』(エクスナレッジ)近藤二郎 著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『古代エジプト解剖図鑑』(エクスナレッジ)近藤二郎 著

こちらも最近お気に入りの「カメリアステージ図書館の新刊紹介棚」からです。上の写真は、古代エジプトの遺跡からでてくる副葬品のひとつである神聖な「カバ」を、磁器作家・藤吉憲典が作ったらこうなる、というもの。

さてエジプトと言えば、大学生の時に山口県立美術館に来た「大英博物館展」で見たツタンカーメン黄金のマスク、新婚旅行で大英博物館に足を運んだ時に釘付けになったミイラの数々、一時期流行っていた吉村作治先生のテレビで見たピラミッド&スフィンクス、つい最近「雰囲気似てるよね」と言われてちょっとうれしかった(笑)ネフェルティティの胸像…。

本書「はじめに」で著者が『日本でエジプトといえば、「大ピラミッド」・「ツタンカーメン」・「クレオパトラ」の3つの話題ばかり(後略)』『視聴者の多くが(中略)古代エジプト史の歴史の流れを知らないことが多い。』と書いておられる、まさにその通りの認識でした。福岡acad.建築の勉強会シリーズ「第2回エジプト・ローマ」で少し学んではいましたが、知らないことだらけの古代エジプト。

『古代エジプト解剖図鑑』(エクスナレッジ)近藤二郎 著
『古代エジプト解剖図鑑』(エクスナレッジ)近藤二郎 著

著者の近藤二郎氏は、吉村作治先生と同じ早稲田大学エジプト学研究所・所長として調査研究をなさってきた方ですが、本書では学術的な難解さを感じさせることなく、一般向けに専門的な領域を語ってくださっています。「解剖図鑑」とある通り、図解中心の本ですので、読むというよりは「見る」という感じ。写真は全く載っていませんが、単純化されたイラストだからこそわかりやすいです。なんとなく読み始めましたが、面白くて、読了したときには手元に一冊置いておきたいと思ました。

それにしても、古代エジプトの遺物にのこる絵画・図象表現、ヒエログリフの文字表現、建築を含む立体表現の多様さ面白さがたまりません。リベラルアーツは古代ギリシア・ローマに源流を持つと言われていますが、古代エジプト文明もまた、言語的要素・数学的要素・芸術的要素の総動員だと感じました。また「神様」の位置づけが、八百万の神々を拝む日本と似ているというのも、興味深く。自然界のあらゆるものに神が宿るという考え方、人間に不可能な力を持つものを神聖視することなど、なるほどと思わせられました。

エジプトの墳墓から出てくる副葬品のひとつ「カバ」についても、改めて考える機会となりました。アートの世界で最も有名なカバは、ニューヨークメトロポリタン美術館にいる「カバのウィリアム」ですが、これにインスパイアされて作品化する現代アーティストもたくさん。磁器作家・藤吉憲典もまたその一人であり、藤吉の作るカバもまた、世界のあちらこちらでコレクターに愛されています。紀元前の古代から数千年を経て、現代に受け継がれてきたアートの底力を感じます。