肥前磁器の美:藤吉憲典の器「染付梅散し文小壺」

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

肥前磁器の美:藤吉憲典の器「染付梅散し文小壺」

磁器作家・藤吉憲典がつくる肥前磁器の美しさを伝えるシリーズ。「美しさ」には「用途の美」を含みます。使い勝手の良さも含めて「美しい」と言えるもの。そこにこそ、江戸時代から400年続く肥前磁器の価値があると思っています。

「肥前磁器(ひぜんじき)」という呼び方は、まだまだ一般的ではありません。「有田焼」とか「古伊万里」といった方が、わかりやすくイメージできると思います。肥前磁器とは、有田焼、伊万里、鍋島などと呼ばれる、北部九州地方(肥前地域)で作られてきた磁器の総称です。地域的には現在の佐賀県・長崎県あたり。

下の写真は、藤吉憲典の作った「染付梅散し文小壺」。つくりも絵付も、それぞれは古典に倣ったものですが、このつくりと絵付の組み合わせは全くのオリジナル。古いものを古いままに写すのではなく、組み合わせや創意の足し算で新しいものを生み出すことこそが、現代作家としての仕事の価値だと思います。

染付梅散し文小壺 藤吉憲典
染付梅散し文小壺 藤吉憲典

名前に「小壺」と付けていますが、この形を見て「文琳(ぶんりん)」とピンとくる方も多いと思います。茶道具の一つ、お抹茶を入れる「茶入(ちゃいれ)」に見られる形です。文琳とは、林檎(りんご)の異名(美称)です。ご覧の通り、リンゴのような形をしているから、ですね。

茶道具でお茶を入れる器を「茶入」と呼び、茶葉を入れる大きな壺に対して、お抹茶を入れる小さな壺を「小壺」と呼び、さらにその形によって「茄子(なす)」「瓢箪(ひょうたん)」「肩衝(かたつき)」「文琳(ぶんりん)」「弦付(つるつき)」「大海(たいかい)」「丸壺(まるつぼ)」「鶴首(つるくび)」などの呼び名がついています。

実際にお茶を習う場面、お茶会の場面では、磁器の絵付のついた茶入に出会ったことはほとんどありません。けれども、そもそも「見立て」の道具もまたお茶の楽しさのひとつですから、いろいろなものがあって良いはず…ということで生まれた小壺。

ちなみに茶入の蓋(ふた)は、古いものだと通常「象牙(ぞうげ)」で作られているのですが、本作は「象牙っぽく作った磁器製」です。本作をお買い上げのお客様が「これは面白い!」と一番気に入ってくださったポイントでした。お使いになる方と作り手との間に、こうした遊び心を共有できるのも、お茶をはじめとしたやきものを取り巻く文化への造詣あってこその楽しみです。