読書『kotoba(ことば)(2023年春号)』集英社クオータリー

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『kotoba(ことば)(2023年春号)』集英社クオータリー

カズオ・イシグロ特集号です。

まずこのような季刊誌があることを知りませんでした。先日観てきた映画『生きる LIVING』の報告ブログを読んで、お友だちが紹介してくださった季刊誌です。『単なる「情報」ではなく、残すべき「コトバ」を紙の本で残したい。』と、その公式サイトにありました。過去の特集で取り上げられたテーマを見てみると、まあ、なんとも興味深く。

一番上の写真は、今号の目次の見開き。そうそうたる文化人の方々が、カズオ・イシグロ作品への思いを語っています。まあその暑苦しいこと(笑)。どなたの文章からも、イシグロ作品への偏愛があふれていました。映画『生きる LIVING』をきっかけになされた特集ですが、それだけでなく、各著作についての掘り下げた論考や、著者その人に対する分析がこれでもかと続き、食傷気味になるほどの情熱を感じました。皆さんほんとうに、カズオ・イシグロ作品が好きなのですね。

わたしはイシグロ作品のなかでは『日の名残り』が一番好きです。邦訳された小説はほとんど読んだと思っていましたが、短編に読んだことのないものがあるのがわかりました。新刊を待ちわびる身には、まだ読んでいない本があったことはとても嬉しく。また、これまでは他の人がイシグロ作品に対して書いた論評には興味が無く、『日の名残り』はもちろん、その他の著作についての論評も、読んだことがほとんどありませんでしたが、今回このようにまとめて拝読してみると、これはこれで面白いことに気がつきました。

本書での特集の寄稿記事には、イシグロ作品を読んだ時に浮かんでくる、いろいろなキーワードが挙がっていました。なかでもわたしが一番考えさせられたのは、「日本的なもの」とはいったい何なのか。わたしたちが「日本的」だと思い込んでいる事象は、実は普遍的にどこにでもあるものかもしれない、ということ。どこにでもあるわけではなくとも、日本固有のものだとも言い切れない、ということ。国や文化や宗教を超えてたくさんの共通点があるからこそ、そこに共感が生まれるのだという事実。そんなことを考えさせられました。

それにしても、雑誌は冬の時代と言われながら、このような良質な情報誌があったのですね。2010年創刊ということでしたので、紙媒体が廃れていくなかでの、起死回生の一矢という感じでしょうか。とても嬉しい、本書との出会いでした。おススメしてくれたお友だちに心より感謝です。好み・関心の傾向を理解してくださっているからこその、ありがたいベストヒット。先日ご紹介した『TRANSIT』同様、内容の文章の質・量、使われている紙の良さも、気に入りました。