「工芸の英訳ガイドライン」見っけ!

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

「工芸の英訳ガイドライン」見っけ!

何の世界でも同じだと思うのですが、仕事上、英語で話したり書いたりする際に悩ましいのが、業界の専門用語や、日本語に特有のニュアンス。どんな言葉を使えば伝わるのやら頭を抱えることがしばしばあります。

そんな先日、まったく偶然に発見したのが、一般社団法人ザ・クリエイション・オブ・ジャパンなる団体さんが出しておられる「工芸の英訳ガイドライン」。まさに「こんなのが欲しかった!」を見つけました。

サイトで情報を確認したところ、このガイドラインは2018年にできたようです。手掛けられたのがどのような団体さんなのかはよく知らないままに、まずは中身チェック。国内外の美術館博物館関係者の方々が実際にどのような判断(理由)でどのような用語を用いているのかが載っていました。

現場の最前線に立つ学芸員さんはじめ、美術館顧問、美術出版関係者、学術的研究者の方など、日本語ネイティブ、英語ネイティブ両方の複数の意見、実際どうしているかが載っているのがすごいと思いました。とても参考になったので、即ダウンロード。

「これが正しい」というよりは「こう書くことで、より正確に伝わる」という視点で書かれた英訳ガイドライン。英訳する際に、なぜそのように表記すべきなのか理由がわかるというのは、とてもありがたいものです。

同じ日本語に対して数種類の「伝わる英訳」が上げられている場合、それを推薦している方の所属と、その方がおっしゃっている理由を見ることで、自分が使うべき訳を決めることができます。どこの国で、どういう機関・施設で、どのような仕事をなさっている方が使っているのか。自分が伝えたい相手に近いところで仕事をしている方の訳を優先的に選ぶことができるのは、画期的なことです。

これまでは、やきもの関連の英訳の際、陶磁器を扱う美術館博物館の図録や美術展の図録を引っ張り出して、そのなかにある英文から表現方法を探し出して参考にする方法を取っていました。分厚い図録を繰って必要な表現を探すのは一苦労でしたが、これからはこの「工芸英訳ガイドライン」にかなり助けてもらえそうです。

嬉しい^^

読書『7つの階級 英国階級調査報告』(東洋経済新報社)前半。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『7つの階級 英国階級調査報告』(東洋経済新報社)前半。

マイク・サヴィジ著、舩山むつみ訳。そういえば今月のはじめに読んでいたのが、階級社会英国のなかでも「ロウアー・ミドル・クラス」に注目した『英国紳士の生態学』(講談社学術文庫)でした。

本書『7つの階級 英国階級調査報告』は2019年12月発行の学術的研究報告。英国社会に興味があるので読んだ、というのが一番の動機でした。が、その報告内容は世界的に広がりつつある「貧富の格差」や「人々の意識」を読み解くのにも役に立つであろう、という書評も腑に落ちるものでした。

以下、備忘。たくさんになりそうなので、前半(第1部、第2部)と後半(第3部、第4部)に分けて。今回はその前半。


  • 経済資本(資産と所得)、文化資本(思考、興味、文化活動)、社会関係資本(社会的ネットワーク、友人関係、参加する集団)。
  • 人々がどのような知識や専門的技能を持っているか、持つことができたかは、その人が属する階級そのものと深く関係している
  • 「『経済的に不自由のない階級』というとき、私たちは『文化的で教養のある階級』のことを考えている」(T・H・C・スティーブンソンの記述より)
  • 階級は歴史的に構築される
  • 文化資本の継承
  • 文化資本の継承は不明瞭だ。その上、能力主義の実績と努力の名のもとに隠されている。
  • 教育資源
  • 社会関係資本とは、人々の社会的ネットワークの範囲と性質であり、人生におけるチャンスに影響を及ぼすものだ。
  • 資本がどのように蓄積され、継承されていくのか
  • 人々の主観的な階級理解は、経済資本だけでなく、文化資本や社会関係資本にも影響を受けている。
  • 文化活動は(中略)多種多様だが、どれもが社会的に同等に評価されているわけではない。その活動の正当性が社会に認められると、資産となったり、他の活動に対する優位性が生じたりするのだ。
  • 文化を抽象的に鑑賞する能力
  • このような(「高尚な」)文化に精通している人々は、学校の授業を容易に理解し、抽象的な思考能力も養われるため(中略)それがキャリアの成功の基盤となる可能性もある。
  • 文化資本は単にその人の経済的豊かさを表すものではなく、(中略)、多くの文化資本を持つ者とそうでない者との間には大きな違いがある
  • 文化資本の力
  • 彼にとっての文化は、より広い意味を持った社会的な通貨であり
  • (社会がグローバル化し)芸術のヒエラルキーは姿を変え始めている
  • 文化的思考の相違は、根本的な社会的区分をはっきり表している
  • 文化的な催しに出向くことで、積極的に携わっている感覚を味わうことができ、その自覚が文化的な自信や誇りを増幅させている。
  • 識別する能力
  • 文化的活動に携わって得た自信によって文化資本を蓄積している
  • 「高尚」な文化資本と「新興」の文化資本
  • 新興文化資本の本質は(中略)様々な選択肢からクールなアーティストや作品を巧みに選び出す技量を証明することであり
  • それが自分の好みだと公言するには、その理由を説明できなければならない。
  • 鑑識眼
  • 「ものの見方」
  • スノッブな人々の高尚で学術的な美学をきっぱりと拒絶する人もいた。そこに社会的な差別の匂いを嗅ぎ取るからだ。
  • 文化的スノビズム
  • 文化活動には個人の熱意だけでなく、社会関係がついてまわる。
  • 社会関係資本には極めて排他的な特徴があり、恵まれた環境にある人の方がより大きな利益を得られる構造になっている。
  • 誰もが何らかのクラブや広範な社会的ネットワークに参加していれば、社会構造は全体として強化していくという
  • 非常に幅広く、弱いつながりで結ばれている(中略)そのような知人を必要に応じて、情報や支援を得るために動員することができる
  • 社会構造の全体で弱い紐帯のネットワーク
  • 誰が誰を知っているか
  • 「橋渡し型社会関係資本」
  • 非常に裕福な人々は、それ以外の人々に比べて際立った社会的紐帯を持っている
  • 社会関係資本は人々の所得や学歴だけでなく、生い立ちや経歴など、その他さまざまな背景とも関連するため、経年的に蓄積する。
  • 経済資本は高年齢層に蓄積されるが、文化資本では、高尚な文化資本は中高年上中流層に蓄積し、新興文化資本は若年専門職層に多く蓄積している(中略)社会関係資本は比較的、年齢の影響を受けない。

『7つの階級 英国階級調査報告』(東洋経済新報社)より。


思った以上に、大量の文章になってしまいました。学術的内容にしては読みやすい文章でした。日本語に訳する際に、平易な表現を心がけてくださったのかもしれません。

『英国紳士の生態学』(講談社学術文庫)を読んだときには、「ロウアー・ミドル・クラス」の行動原理の切なさに「身につまされる」思いがしましたが、今回は「文化的スノービズム」なる言葉に、ハッとさせられました。

後半につづきます^^

読書『森美術館のSNSマーケティング戦略 シェアする美術』(翔泳社)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『森美術館のSNSマーケティング戦略 シェアする美術』(翔泳社)

著者は森美術館広報・プロモーション担当の洞田貫晋一朗氏。このブログでビジネス書の紹介は久しぶりのような気がします。お友だちがSNSマーケティング関連の書籍を何冊も紹介している中に「森美術館」の文字を見つけ、即購入。

2018年美術館展覧会入場者数で、「ルーブル」「ゴッホ」「印象派」「北斎」など美術的キラーワードを並べた国公立美術館の数々の展覧会を抑え、日本では特に道半ばにある現代アート分野の展覧会でみごと1-2位を占めた(『美術手帳』調べ)という森美術館。その集客を支えたのが無料のSNSツールと聞けば、読むしかありません。

以下、『森美術館のSNSマーケティング戦略 シェアする美術』(翔泳社)より、備忘。


  • インターネットで情報を得(62%)、SNSが来館動機(55.6%)※ただし来館者の約70%が10-30代。
  • 公式ハッシュタグ(長くても)正式名称で。
  • 「文化や芸術は、経済より上にあるべきもの」(森ビル2代目社長森稔氏)。
  • 「中の人」は接客の最前線。
  • 「『アート&ライフ』をモットーに生活の中のあらゆる場面でアートを楽しむことができる豊かな社会の実現」(森美術館ミッション)
  • アメリカの美術館では(中略)公正利用の範囲であれば著作権侵害にはあたらない(中略)それに対して日本は、著作権法に公正利用に関する規定が無い。
  • クリエイティブ・コモンズ。
  • 基本情報をきちんと伝えていくこと。
  • そのアカウントから伝えるべきこと、ユーザーが欲している情報。
  • タイムラインは流れるもの。
  • 必要なことは様々なタイミングで「同じ内容の短冊」を何度も流す。
  • 大事なお知らせや基本情報は、日本語と英語、バイリンガル投稿。
  • 「自分は何者なのか」をきちんと発信していく。
  • 最初のステップは、森美術館の名前を覚えてもらうことでした。
  • 長期的なブランディング。
  • アイコンとカバー写真を固定。
  • アカウント名も固定。
  • SNSは公式ウェブサイトに誘導するだけのものではない。
  • できるだけ情報はリンクに頼らず、SNS内で完結していることが望ましい。
  • 実際の行動につながるフックとなっているのは圧倒的にSNS。
  • SNSはプライベートな空間。
  • 値段を載せない。
  • その投稿で一番伝えたいこと、大事なことを、1行目で表現(中略)これはどんな投稿なのかという「タイトル」にする。
  • せっかくいい展示をしても、見る人がいなければ何の意味もありません。
  • 目指すゴール。
  • 「文化的な投稿」は突出してユーザーの心に届きやすい。
  • ユーザーの日常を少しだけ豊かにする「提案」。
  • その場の思いつきだけで投稿するのではなく、なるべく計画を立てること。
  • SNSの話題にあがっているトレンドを作品に紐づける。
  • 口コミで拡散したいならツイッター、ファンとのつながりを強めたいならインスタグラム、ピンポイントでファンに情報を届けるときにはフェイスブック。
  • インスタで重視される「統一感」と「リアリティ」。「美観」。
  • 動画を投稿したいなら「ストーリーズ」に。
  • コツコツ信頼を積み上げて、将来的にユーザーに来館してもらう道。
  • 企業アカウントは、最初にしっかり設計図をつくってから始めるべき。
  • 「自分たちが伝えたいこと」(目的)と「その先にあるもの」(志・理念)。

『森美術館のSNSマーケティング戦略 シェアする美術』(翔泳社)より抜粋要約。


「文化や芸術は、経済より上にあるべきもの」という森ビル2代目社長森稔氏の言葉を知ることができただけでも、この一冊を読んだ甲斐があったというものです。と言いつつ、ちょうどインスタグラム運用について考えていたタイミングでもあり、ずいぶんたくさん本文中から引っ張りました(笑)。おかげさまで一番大切にしたいことを思い出しました。

そういえば、インスタグラムで海外美術館のフォローはしていましたが、国内の美術館はほとんどフォローしていなかったことに気づき…。さっそく森美術館をフォローです。

読書『日はまた昇る』(早川書房)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『日はまた昇る』(早川書房)

アーネスト・ヘミングウェイ著、土屋政雄訳。これまでも何度か手に取り、途中までは読んでいましたが、このたびようやく読了。つくづく「本を読むタイミング」ってありますね。読むつもりで手にとっても、まったく内容が入って来ないときもあれば、同じ本が別のタイミングではスイスイと入ってきます。

新書版の訳者・土屋政雄氏は、カズオ・イシグロ作品の訳書でもなんどもその文章を読んでいます。わたしにとっては、今回もその日本語表現がとてもしっくりきました。名作がときどき「新訳」で復刊されることにはきちんと理由があるのだなぁ、と思いました。

ヘミングウェイの最初の長編であり初期の代表作と言われている本書。あらためて、27歳の時の作品というのがまず驚きです。その若さで、登場人物の心の機微をこのように描けるものなのですね。解説では「粗削り」とされていましたが、その後の作品を読むことによって、そう感じられるのでしょう。このあと『誰がために鐘は鳴る』を読もうと思っていますので、楽しみです。

舞台は第一次世界大戦後のヨーロッパ。ヘミングウェイ自身が戦後パリで経験したのであろう環境が、色濃く反映されているのだろうと思えました。登場人物は、イギリス人、フランス人、ユダヤ人、スペイン人…主人公はヘミングウェイと同じアメリカ人であるものの、そのことを忘れそうになりました。

主人公はじめ、登場人物それぞれが、プライドと自嘲の間を行ったり来たり。とても切なかったです。そして、直接的な表現はないものの、戦争の悲惨の影がずっとつきまとっていました。分類すれば「恋愛小説」ということになるのかもしれませんが、もっと重々しいものを感じました。

その後の作品を読んだ後に、もう一度読み返したい本です。

2020上半期読書ベスト3。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

2020上半期読書ベスト3。

少し早いですが、半年振り返り。この上半期は家にいる時間が長かったので、読書数も増えているかもしれないと、数えてみました。写真は図書館が臨時休館する前に本を借りてきたときのもの。

さてブログにあげているだけで15タイトルありました。そのなかに上下巻ものやシリーズものもあったので、冊数で換算したら20冊を超えます。月平均3冊以上ペースは、自分としては十分充実の読書生活と言えます^^


第1位『アンナ・カレーニナ』(新潮文庫)
トルストイ。読んでいなかった名作シリーズです。国も時代も環境も自分とはまったく異なる登場人物の「ダメなところ」に共感しつつ、この年齢だからこそ理解できる機微を楽しむことのできた本でした。

第2位『三銃士』(角川文庫)
アレクサンドル・デュマ。昨年はまった『ハリー・ポッター』同様、登場人物の魅力がそのままストーリーの面白さとなっていました。『ダルタニヤン物語』の続きは是非読みたいと思っています。

第3位『新・リア王』(新潮社)
高村薫さん。『晴子情歌』に続く上下巻で、ボリュームも内容も圧巻でした。現在の日本の状況と合わせて、政治の問題、地域の在り方の問題を考えさせられました。高村薫さんの本、特に2011年以降の既刊でまだ読めていないものがあるので、折を見て読みたいと思います。


顔ぶれからわかるこの上半期の読書傾向の特長は、小説の多さでした。それも、ボリュームのある長編。ベスト3も小説で、いずれも上下巻、あるいは上中下巻でした。小説をたくさん読むのは、現実逃避的傾向とも言えるのですが(笑)、仕事頭からスカッと切り替えることができていた、という前向きな捉え方もできましょう。

最近の本のニュースで嬉しかったのは、カズオ・イシグロ氏の新作ニュース。日本では来年春に刊行される予定ということで、今から楽しみです。

続々・Talking about Art

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

続々・Talking about Art

レポートがちょっぴり遅くなりましたが、英語で対話型美術鑑賞のオンラインセッション第3回目。『英語でアート』の宮本由紀先生による「Talking about Art in English」。第1回目第2回目の受講を通して、オンラインセッションを受講するのにも、だいぶ慣れてきました。

さて第1回目の課題は具象画、第2回目は抽象画でしたが、続く第3回目はオブジェクト=立体。毎回頭の切り替えを要求され油断できません(笑)が、それがまた、宮本先生のセッションの魅力。特に連続講座の場合には、こうした新鮮な刺激が、受講生へのさりげない配慮であることを実感しました。

実は「立体での対話型美術鑑賞をどう進めるか」は、個人的な課題でした。自分が対話型鑑賞法をナビゲートするときに、立体でもやりたいと思いつつ、進め方と効果に対する確信が持てず、ついつい絵画をテーマに選んでいました。

もちろんこれまでにも立体作品による対話型美術鑑賞のトレーニングはしてきましたが、なにかがしっくりきていなかったのです。それが、今回のセッションを通して、すっと霧が晴れました。なにがどうスッキリしたのかを言葉で説明するのは難しいのですが、おかげさまで次からは迷いなく立体での対話型美術鑑賞を実践できそうです。

この実感を通して、あらためて学び続けることの大切さを思いました。今回のオンラインセッションは、わたしにとって「通学講座で受講していたものがオンラインに変わった」のではなく、東京まで通学できずに眺めていたものが「オンライン開催に変わったことによって参加できるようになった」もの。まさに「棚からぼたもち」で、ありがたい機会をいただいています。

宮本由紀先生のアートエデュケーションは、こちらから詳細をご覧いただくことができます。「教養」「リベラルアーツ」という言葉に惹かれる方に、おススメです!

読書『三銃士』(角川文庫)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『三銃士』(角川文庫)アレクサンドル・デュマ

「読んでいなかった名作を」シリーズ。今回はデュマの『三銃士』上・中・下巻合わせて約1080ページ。そういえば前回の名作はトルストイ『アンナ・カレーニナ』でした。1870年代ロシアから1600年代フランスへ。時間と空間を軽々と超えるのが読書の楽しみですね。

実はまったく三銃士のストーリーをまったく知らず、「三銃士と言いながら、四人の物語」だということを、読みはじめてから知りました。それも『ダルタニヤン物語』の一部であると。『ダルタニヤン物語』は全11巻なのですね。いずれ続きを読まねばなりません。

さて『三銃士』。読みながらまず思ったのは「この時代の世界史を頭に入れてから読むんだった!」ということでした。でも読みはじめてしまったもので、面白くてページをめくる手を止めることができず。時代背景がきちんと頭に入っている状態で読んだ方が、深読みできただろうなぁ、というのが反省点です。

ストーリーの面白さもさることながら、登場人物の個性が魅力的でした。主役の4人だけでなく、悪役側キャラクターのアクの強さも、漫画でも読んでいるような感じでした。そういえば、NHKで放送されたという、三谷幸喜氏が脚本脚色した「新・三銃士」の人形劇も相当面白かったようですね。

登場人物が魅力的だからこそ、その人物にまつわるストーリーをもっと読みたくなるし、きっと作者もその人物のストーリーを描き続けたくなるのだろうな、と感じました。スティーブンキングが著書『書くことについて』で「登場人物がストーリーを作ってくれる」ということを言っていたことを思い出しました。

ところでわたしは本を読むとき、自然とそのシーンがカラーで頭のなかで再生されています。今回は、全体として薄暗いというか、セピア色のメガネをかけて見たような色合いで再生されました。次に読むときは、この時代の絵画をしっかり目に焼き付けて、もう少し色鮮やかなシーンを見ながらストーリーを追うことにいたします。

読書『<英国紳士>の生態学』(講談社学術文庫)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『<英国紳士>の生態学』(講談社学術文庫)

著者の新井潤美さんは英文学・比較文学を専門とする東大大学院教授。本書は2001年に中公新書の一冊として刊行されたものが、約20年ぶりに復刊したものでした。文庫として復刊されたおかげで、原著が刊行されたときには目に留まらなかった本にも出会うことができる。ありがたいですね。

さて英国の「階級社会」を論じた本は古今いろいろと出ていますが、この本の面白さは、そのなかでも「ロウアー・ミドル・クラス」に的を絞ることで階級の全体が見えてくるところ。階級社会を生きる英国市民の生態が、愛情と可笑しみをもって描かれています。

ロウアー・ミドル・クラス。文字そのままを読むと、中流階級をさらに下級・中級・上級に分けた、その下級、というところでしょうか。英国のようなあからさまな階級意識ではなくても、あらゆる場面でロウアー・ミドル・クラス的な悲喜こもごもがあるのは、日本の社会も同じですね。思い当たること多々で、読んでいて決して他人ごとではないのでした。「身につまされる」という感じ。

この『<英国紳士>の生態学』を読むことによって、本や映画に登場する英国の背景が、もっと色鮮やかになります。シャーロック・ホームズ、ハリー・ポッター、オスカー・ワイルド、メアリー・ポピンズ、ウィニー・ザ・プー、ミスター・ビーン、『日の名残り』(カズオ・イシグロ)、『ハワーズ・エンド』(フォースター)…再度、読み返す(観返す)のが楽しみになってきました。

図書館再開!

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

図書館再開!

6月1日から地元のカメリアステージ図書館が再開しました。図書館に行くのに嬉し涙が出そうになるなんて、そんな日が来るとは思いもしませんでした。こんなことでは、コンサートや演劇を観に行くことができたときには、間違いなく泣きますね、わたし(笑)

再開に先立ち、市の図書館のホームページから、キーワード蔵書検索で借りたい本の名前をピックアップ。開館したとはいえ「長時間滞在はしないでくださいね」というスタンスですから、サッと行ってサッと帰れるよう、事前準備です。

借りたい本が具体的にわかっていない時こそ、図書館内をぶらぶらして長居したいのですが、もう少し我慢です。あらかじめ蔵書のキーワード検索をかけておくことは、さしづめ「図書館内をぶらぶらする」の代理行為。

閉まっていた間に図書の整理がされて、新刊も増えていました。またたくさん本を借りることができます。嬉しいなぁ。

続・読書『色の秘密』(文春文庫PLUS)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

続・読書『色の秘密』(文春文庫PLUS)野村順一 著

昨日、読書『色の秘密』(文春文庫PLUS)のブログを書いたところでしたが、本日はその内容備忘メモ。


  • 生命は色彩である
  • 「肌で感じる」
  • 目とか心とかで判断する以前に、皮膚が識別する。
  • 色には感情がある
  • 味は視覚で決まる
  • 色彩呼吸法
  • 色聴
  • 音楽を色彩に翻訳
  • 色をして語らしめよ
  • 何よりも太陽光線
  • (色彩の)面積配分による快い芸術的な効果
  • 私たちの目は無意識のうちに、色彩や形態を単純化して見てとろうとする。
  • 生活空間のリズムを、視空間のなかの五パーセントの小さな面積が作り出す。場所は一か所に限定するものではない。
  • 緑色は名医だ。
  • “皿まで食う”
  • 食器の優劣で料理の味は、ものの見事に大差がついてしまう。
  • (味覚は)自らの視覚経験や味覚記憶によって条件づけられている
  • 成人の視覚は観察と観念の累積
  • 「捨て色」の美学
  • 日本人は色を見るための色を使う。
  • 思考などはこわれやすいのに、シンボルはこわれにくい。
  • 色は形よりもずっと容易に記憶される
  • 生命あるものは震動で形成されている
  • 人間は「見る」ことに慣れるにしたがって、「見えないもの」に対する感覚を鈍らせてしまった。

『色の秘密』(文春文庫PLUS)野村順一 著より


第4章「IV社会を動かす色彩術」で茶道の話が出てきます。今回十数年ぶりに読み直して、そのなかにわたしの入門する南方流の『南方録』からの引用があったことに気づき、思いがけず嬉しかったです。この本を手に入れ最初に読んだときには、南方流の存在も知らず、目に留まらなかったのですから、面白いものです。