津屋崎浜

読書『人間であることをやめるな』(講談社)半藤一利

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『人間であることをやめるな』(講談社)半藤一利

いつものカメリア図書館「新刊コーナー」で手に取った一冊です。「新刊コーナー」は、ジャンルにとらわれずアンテナに響くものを見つけることが出来るので、わたしにとっては、視野を広げるのに最適な場所になっています。読書傾向が偏りがちなのは当たり前のこととしても、「たまにはこんなのいかが?」と無言でプレゼンしてくれるのが、新刊コーナーです。

半藤一利さん。恥ずかしながら「お名前だけは聞いたことがある」というぐらいでした。映画『日本の一番長い日』(2015年)の原作者、昭和史研究の第一人者にして「歴史探偵」。今年の初めに亡くなられたのですね。著書を読むのは初めてで、読後、もっと早く手にする機会が無かったものかと自問しました。でも、本との出会いはタイミング。わたしにとっては、今がその時ということですね。

本書は2021年4月初版。亡くなったのが1月でしたから、その後に刊行されたことになります。2009年から2015年の間に初出された文章の中から、「墨子と竜馬と」「明治の将星のリアリズム―名言『坂の上の雲』」「石橋湛山と言論の自由」「昭和天皇の懊悩と歴史探偵の眼」「人間であることをやめるな」が収録されています。

図書館で手に取ったときには「なんとなく」でしたが、読んでみて、わたしにとって今まさに読むべき本であったとわかり、驚きました。久しぶりに「本に呼ばれた」と、感じました。ここ最近の読書で再三考えさせられている「時代は進んでも、同じ失敗を繰り返す」わたしたちへの警鐘に他ならない文章の数々です。

同じ過ちを繰り返すのは、歴史を直視せず、事実を知ろうとせず、そこから学ぶことを怠ってきたからに他ならないということ。そもそも為政者によってそれぞれの時代の「記録」がきちんとなされてこなかった(不都合なことは隠蔽された)傲慢・怠慢。そして明治期以降の短い期間にも、同じこと(失敗)が繰り返され続けているという驚愕。著者の言う「リアリズムとは無縁の、想像的楽観主義」による政治…。

「リアリズムとは無縁の、想像的楽観主義」。もう、今まさに、というところですね。先日読み終わった山崎豊子さんの『運命の人』しかり、 「ペン」で警鐘を鳴らし続けている人たちがいた(いる)ことに力を得る一方で、それでも世の中が「空気」に押し切られてしまう怖さ弱さを思います。

上の写真は、ご近所の津屋崎浜から大峰山方面を仰いだところ。大峰山の山頂には「東郷公園」「東郷神社」があります。「東郷」は、東郷平八郎のこと。司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』に出てくる日本海海戦ゆかりのスポットです。わたしは「なぜここに?」が理解できなかったのですが、日本海海戦がこの岬の沖で行われたことから、東郷平八郎の信奉者らにより大正時代に建設運動が起こり、昭和初めに完成したということです。

半藤一利さんはもちろん、墨子、司馬遼太郎、石橋湛山と、これまで自分にとって距離のあった人物に対して、興味の沸いてくる読書となりました。司馬遼太郎さんは、いつかはと思いながら、まだ全く手についていませんでしたから、今からがタイミングということでしょう。ほんとうに、読んでいないものばかりです。少しづつ、手に取っていこうと思います。

投稿者:

ふじゆり@花祭窯

花祭窯(はなまつりがま)の内儀(おかみ)であり、Meet Me at Artを主宰するアートエデュケーターでもある、ふじゆり のブログです。