読書『にんじん』(新潮文庫)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『にんじん』(新潮文庫)ジュール・ルナール著

著者自身の少年時代のエピソードを題材にしたという『にんじん』。一話、二話、三話と読み進めながらどんどん苦しくなり、読むのをいったん止め、先に訳者によるあとがきを読んでみました。

「母親による精神的虐待の物語」と、訳者・高野優氏が「あとがき」ではっきりと書いてくれていました。そして、その虐待の物語がどうして「文学」足りえるのか、心理学的な見地も含めて腑に落ちる解釈があり、最後に「この本を読んだ方が訳者と一緒に、にんじんのために涙を流してくだされば嬉しく思う。」と。この「あとがき」を先に読むことによって、あらためて本書を開くことができました。

「負けるな、にんじん!」と思いながら読みました。にんじんが小さな(とても小さな)勝利を手にすると一緒に喜びました。目をつむってしまわずにいられたのは、にんじんに虐待を生き抜く力(抵抗する力、逃げる力)が備わっていたからで、そのことも訳者あとがきで説明されています。それでも、幼少期に心に負った深い傷は、大人になってもずっと残るのですが。

この物語が、虐待のメカニズムと、そこから子どもを救い出すためのいくつかの示唆を読む人に伝えてくれたら。そしてなにより、読んだ人が虐待を受けた子どものために泣いてくれたら。そんな訳者の気持ちも一緒に伝わってくる『にんじん』でした。

わたしが読んだ新潮文庫版は2014年の高野優氏の翻訳版。比較的新しいので、「母親による精神的虐待」の解釈も昨今の時世にあったものになっていると思います。その前にもいくつも訳されているようなので、どう違うか読んでみたいと思いました。