読書『逃げ道』(新潮社)フランソワーズ・サガン著、河野万里子訳

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『逃げ道』(新潮社)フランソワーズ・サガン著、河野万里子訳

サガンといえば『悲しみよこんにちは』と連想はするものの、実はちゃんと読んだことはありませんでした。と書いたのは、つい10日ほど前のこと。読んでみようかな、と思ったらすぐに実行に移せるのは、いつものご近所カメリア図書館のおかげです。

さっそく『悲しみよこんにちは』と『逃げ道』を借りて参りました。まず手にしたのは『悲しみよこんにちは』。ところが期待が大きすぎたのかもしれません、ちょっぴり肩透かしを食らった感じがいたしました。が、これを18歳の少女が書き上げたということには、ただただ驚愕。物語のテーマにでは無く、あちらこちらに散見する文学的な空気感に、驚きました。読後に訳者である朝吹登水子さんの「あとがき」を拝見し、なるほど、その文学少女ぶりに納得させられました。

フランソワーズ・サガン『悲しみよこんにちは』

対して、続けて読んだ本書『逃げ道』は、期待を大きく超える「サガン節」でした。少々サディスティックな悲喜劇とでも言いましょうか、わたしの持っている「フランスっぽさ」のイメージそのもので、一人で大盛り上がりしました。喜劇と悲劇は紙一重と言われますが、まさにそんなことを考えさせられるドタバタ劇。頭のなかに映像が次々に浮かび上がってきます。この『逃げ道』こそ、誰か映画化してくれないかしら、と思いました。

フランソワーズ・サガン『逃げ道』

ところが、サガン作品のなかでは人気が無いのでしょうか。アマゾンで探してみたところ、新刊で出ているものがありませんでした。個人的には『悲しみよこんにちは』よりも、断然面白かったです。最後は思わず「えーーーーっ!」と声を出してしまいました。

読書『〔デザイン技法図鑑〕ひと目でわかるレイアウトの基本』大里浩二監修・MdN編集部編

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読書『〔デザイン技法図鑑〕ひと目でわかるレイアウトの基本』大里浩二監修・MdN編集部編

こちらもいつものカメリアステージ図書館。階段を上ったエントランスエリアに、特集コーナーがあり、現在展示されているのは「伝える」をテーマにした本の数々です。その内容は…


【カメリアステージ図書館】

『言いたいことが伝わる 伝える力』『伝える力』をテーマに、伝わりやすい話し方、資料の書き方、レイアウト、広告など、ビジネスだけでなく日常生活でも役立つ様々な本を集めました。①伝わる話し方(コミュニケーション)②資料を使って伝える(資料作り・プレゼンテーション)③まだ知らない人に伝える(広告・POP作り)人に伝える力(技術)を学んでみませんか

カメリアステージのフェイスブックページより


ということで、良さげな本が並んでおります。わたしはデザイン系の「伝える」に役立つものを物色して参りました。数回にわたり何冊も借りてきたなかで、「これは買い!」となったのが本書『〔デザイン技法図鑑〕ひと目でわかるレイアウトの基本』。

裏表紙に「ちゃんとデザインの基本原則が学べるデザイン教本。」と書いてある通り、わたしのような、デザインを体系立ててちゃんと学んだことが無いけれど、仕事で使う場面がたくさんある人間に最適です。全ページで実例を挙げて簡潔に示してあり、ビジュアル的・直感的にわかりやすいのが嬉しい。そのうえで解説文を読めば、理屈もしっかり胎落ちします。

「レイアウト」にはじまり、「文字」「写真」「図版」「配色」と網羅していますので、これ1冊あれば、わたしレベルの活用範囲でしたら、ほぼこと足ります。なによりそれぞれの単元で上がっているサンプルが、どれもセンス良く、そのまま技法を部分的に流用して雛型として使えること間違いなしです。素人(=わたし)的には、こういうのが一番助かります。紙媒体・ウェブ、どちらでも生かせそうです。

カメリアステージ図書館の特集コーナーでは、いつもいろいろな気づきがあります。そんな場所を作り上げてくださっている図書館スタッフの皆さんに心より感謝です。

[デザイン技法図鑑]ひと目でわかるレイアウトの基本。

読書『打ちのめされた心は』フランソワーズ・サガン著、河野万里子訳

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読書『打ちのめされた心は』フランソワーズ・サガン著、河野万里子訳

いつものカメリアステージ図書館新刊棚で見つけました。サガンといえば『悲しみよこんにちは』と連想はするものの、実はちゃんと読んだことはありませんでした。もう亡くなっているはずなのに新著?と思い、前書きをめくってみたところ「未完の原稿を発見」なるものであることが判明。

手に取った理由は、この機会にサガンを読んでみようと思ったのともう一つ、訳者の河野万里子さんのお名前に惹かれて。以前『オズの魔法使い』を読んだときの訳者さんが河野万里子さんで、とても良い印象があったのです。オズの魔法使いはアメリカ文学で、サガンはフランス。あれ?と思ってググってみたところ、英→日と仏→日どちらの翻訳もなさっているのでした。

さて『打ちのめされた心は』読後の印象は、「フランスっぽい」でした。わたしにとっての「フランスっぽさ」のイメージは、たとえば少し前に見た映画『フレンチ・ディスパッチ』がまさにそうです。皮肉の効き方や不条理な感じ、おしゃれそうでいて俗っぽいところ、素直にはハッピーエンドにならないところなど。『打ちのめされた心は』は、フレンチ・ディスパッチより、ちょっと上流にある舞台での物語というところでしょうか。

「未完の書」です。原稿の推敲されていないところをご子息が「外科手術」して整えての発刊、との説明が載っていました。未完ですから、物語は途中で終わってしまいます。正直なところ「え!ここでお終い!?」という感じです。が、訳者あとがきに書いてあったように、自分だったらこの後をどう展開させ結末に持っていくか、妄想を膨らませる楽しみがあるという意味では、これはサガンからの贈り物といえるかもしれません。いかに「サガンっぽく」エス・プリの効いた結末にもっていけるかが、試されますね(笑)。

あとがきには「これぞサガン」と称える調子の書評がならんでいました。わたしのイメージするフランスっぽさと、フランソワーズ・サガンのサガンっぽさは近いのかもしれないなぁと思った読書でした。それにしても、訳書の印象は、元の言語が何であれ、翻訳家の方の使う日本語力によるものですね。とても気持ち良く読むことが出来ました。ググってわかったことがもうひとつ、河野万里子さんの訳といえば『星の王子様』(サンテグジュペリ)が有名なのだそうです。我が家にある『星の王子様』を確認してみようと思います。

フランソワーズ・サガン『打ちのめされた心は』

福岡商工会議所「女性起業塾」を終えて、備忘メモ。

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福岡商工会議所「女性起業塾」を終えて、備忘メモ。

2月から3月の二カ月計17時間のZoom講座からの、備忘。


  • プロに任せるところは、身銭を切る。
  • 「自分のため」以外の目的をもって事業をする人は、周りの協力を得やすい。
  • 人格と思考は別のもの。議論の論点と人格は別という認識。
  • 生活様式の変化キーワード:在宅、リモート、オンライン、お取り寄せ、健康意識、個室化。
  • 経営キーワード:ホンモノ、コラボレーション(同業・異業)、一点集中、複業化。
  • 事業ドメインはたくさん書き出す。
  • 大きくイメージを広げてから、考えを集約していく。
  • なぜわたしは起業するのか?
  • 日本で一番多いのは「単独世帯」。人口は減っているが、世帯数は増えている。福岡も同様。
  • to B。
  • LINE、YouTube、note、Instagram。
  • SNSをLPと意識して作る、増やす。
  • 自分の年齢プラスマイナス10歳が顧客になりやすい。

今回お世話になったのは、福岡商工会議所。わたしは通常、地元の福津市商工会にお世話になっていますが、福岡商工会議所が開催するセミナーや商談会などにお世話になることも年に数回あります。そのたびに、実務を担当するスタッフの方々の熱意やフォロー体制の厚さに感心すること多々。こういう場所が近くにあることは、とてもありがたいです。

読書『弓を引く人』(KADOKAWA)パウロ・コエーリョ著、山川紘矢+山川亜希子訳

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読書『弓を引く人』(KADOKAWA)パウロ・コエーリョ著、山川紘矢+山川亜希子訳

パウロ・コエーリョと言えば『アルケミスト』、ちょうど1年ほど前に読んでいました。『アルケミスト』同様に本作『弓を引く人』も、哲学的な受け取り方、自己啓発的な受け取り方、スピリチュアル的な受け取り方、読む人によりそれぞれだろうという感じです。

実は『アルケミスト』を読んだ後、もうパウロ・コエーリョは(読まなくて)いいかな、という感じがしていました。前言撤回で手に取ったのは、本書が刊行される半年ほど前に「息子が弓道をはじめた」というわかりやすい動機によるもの。もしかしたら弓道の世界を垣間見ることが出来るかも、との期待を持っていました。

実際に本を開いてみると、それほど厚くない(約150頁)うえに文章の書き方が散文的でページの隙間も多く、あっという間に読み終わりました。当初もくろんだ「弓道の世界を垣間見ることが出来るかも」は、まあまあ達成できたように思います。とても簡単に言ってしまうと、茶道と同じだな、というのがその感想。息子が弓道を習い始めて以来、的を射ることを目的とするのではなく、正しい姿勢・動作を身に着けることが大切なのだと言われ続けている、その意味がよくわかりました。

「女性起業塾」最終日は事業計画書の発表でした。

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「女性起業塾」最終日は事業計画書の発表でした。

初心に戻ってお勉強、「女性起業塾」に参加しています。…とアップしてから早一か月。昨日は最終日でした。

参加者21名の事業計画書発表は、一人当たりの持ち時間わずか5分。計17時間のZoom講座を担当してくださった中小企業診断士の先生が「プレゼン時間は短いほど難しい」とおっしゃっていた通り、肝心の要点を第三者にわかりやすく伝える難しさを痛感。前日までに練習はしたものの、フィードバックではダメな部分ばかりが目につき、反省だらけの最終日となりました。

事業形態を決め、自分の強みを棚卸し、創業の(わたしの場合は新規事業進出の)動機・目的を文字にし、事業環境を客観的に把握し、想定する事業ドメインを書き出し、資金計画・収支計画を立てる。これまでの事業運営のなかで、新しいことをするときはいつもある程度頭の中で考えていた(つもりでいた)ことも、こうして「第三者に伝えることを想定して文字にする」ことの意味・効果を、あらためて実感しました。

一方で、20名の皆さんのプレゼンテーションを拝見出来たことは、大きな収穫でした。さまざまな視点・方法があることを学びました。先生も講評でおっしゃっていたのですが、今回の参加者の方々は、起業の動機や目的に社会課題の解決を挙げている方がとても多かったのが印象的でした。それも、いかにも「社会課題解決に取り組みます!」というアプローチではなく、やりたいことが結果としてそこにつながるというパターンが多く、さりげない善意があふれていることを感じました。

起業塾は終わりましたが、新規事業計画書の実行はこれからがスタート。今回の起業塾でご一緒した皆さんに、胸を張ってご報告できるよう、頑張ります。

続・『いちばん親切な西洋美術史』(新星出版社)で、彫刻の歴史をざっと学び直し(その5)。

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続・『いちばん親切な西洋美術史』(新星出版社)で、彫刻の歴史をざっと学び直し(その5)。

「その1」では、エジプト・メソポタミア文明からエーゲ・ギリシャ文明まで、「その2」では、エトルリア・ローマから初期キリスト教・ビザンティン、続くロマネスク・ゴシックまで「その3」ではプロト・ルネサンスからルネサンス、マニエリスムまで、前回「その4」ではバロック(17世紀)、ロココ(18世紀)、新古典主義・ロマン主義(18世紀後半~19世紀前半)までを振り返りました。

最終回となる「その5」では、印象派、世紀末芸術、現代美術まで。


印象派(19世紀後半)

  • アカデミズムへの反旗。
  • ジャポニズム:日本美術への傾倒。浮世絵、工芸品の収集。日本美術の持つ造形感覚。
  • アール・ヌーヴォー。
  • オーギュスト・ロダン:アカデミズムの逆。絵画の印象派と象徴主義を彫刻に導入。部分から全体を構成する手法(キュビズム)。
  • エミール・アントワーヌ・ブルーデル:アルカイック彫刻への回帰。円と直線による幾何学的な構築性。
  • コンスタンティン・ブランクーシ:極限まで対象の形態を単純化し、素材そのものの質感を前面に打ち出す抽象主義的な表現。

世紀末芸術(19世紀末~20世紀初頭)

  • 背景:産業革命以降、機械による大量生産。
  • 工業社会への反動→アーツ・アンド・クラフツ運動(家内制手工業と中世的な装飾への回帰)。
  • アール・ヌーヴォー:特に工芸品や建築装飾で流行した様式。中世的な動植物文様や昆虫などの有機的素材を装飾に用いた装飾美術=機械社会に対する反発によるモチーフ選択。
  • 伝統図象と華やかな装飾を融合した新たな美の構築=工芸と絵画を融合する表現=総合芸術(ユーゲントシュティル)。
  • クリムト:装飾工房の設立。職人が主導する分野だった工芸の技術と絵画の融合。
  • アーツ・アンド・クラフツ運動:ウィリアム・モリス。職人の手で一つひとつ作られる工芸品の価値を見直す試み。=中世の手仕事を理想に掲げたデザイン革命。生活と芸術の一体化を目指す。
  • ガラス、鉄などの新しい素材による手工芸。ガラス:エミール・ガレ。
  • アール・デコ:1925年パリ万国装飾美術博覧会。装飾芸術=アール・デコラティブから、アール・デコと呼ばれる。
  • アール・ヌーヴォーが手作り製品を中心としたのに対し、アール・デコは大量生産の工業製品や近代建築にも用いられる。
  • ガウディ:アール・ヌーヴォー、アール・デコの特質を建築分野に適用。有機的で色鮮やかな細部装飾と、曲線を多用したデザイン。

現代美術(20世紀~)

  • ダダイズム:伝統的な芸術様式や既成の秩序に対する否定や破壊を目的とした芸術思潮。マルセル・デュシャン「泉」。レディ・メイド。
  • バウハウス:近代デザイン思想の基礎。新たな技術や機械を積極的に取り込み、新たな美的価値を創出して人間の側に近づけようとする動き。中世の工房がモデル。
  • 戦時のプロパガンダ:古典的な表現への逆戻り。
  • 第二次世界大戦後:科学技術の飛躍的な進歩・加速度的な変化→美術の広大化、細分化と混迷。

『いちばん親切な西洋美術史』(新星出版社)より


現代美術は今なお継続中ということになりますが、ずっと先の未来にどのように分類され説明されるのか、気になるところです。個人的には、サロン=アカデミズムの広がりと、その後のアーツ・アンド・クラフツ運動が、彫刻=立体にとっての大きな転換点に思えました。現代美術の説明で必ず登場するデュシャンの「泉」は、コメディとしては面白いと思いますが、これを崇める風潮は理解出来ないというのが正直なところ。ともあれ、5回にわたる「彫刻の歴史をざっと学び直し」は、思った以上に自分の考察を深める役に立ちました。

続・『いちばん親切な西洋美術史』(新星出版社)で、彫刻の歴史をざっと学び直し(その3)。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

続・『いちばん親切な西洋美術史』(新星出版社)で、彫刻の歴史をざっと学び直し(その3)。

「その1」では、エジプト・メソポタミア文明からエーゲ・ギリシャ文明まで、「その2」では、エトルリア・ローマから初期キリスト教・ビザンティン、続くロマネスク・ゴシックまでをまとめました。

「その3」ではプロト・ルネサンス(13世紀~14世紀)からルネサンス(14世紀末~16世紀)、マニエリスム(16世紀半~17世紀前半)まで。


プロト・ルネサンス(13世紀~14世紀)

  • プロト・ルネサンス:13-14世紀イタリアの美術様式。
  • 宗教観の変化によりキリスト磔刑像に写実的・彫刻的な立体表現
  • 人体把握・空間性・感情表現。
  • 大聖堂の内部装飾。

ルネサンス(14世紀末~16世紀)

  • 古代ギリシャ・ローマの文化・思想・芸術の再生・復興。
  • 芸術作品を注文する2大パトロン「君主」「協会」に第3のパトロン「ギルド」が登場。
  • 「お守り」としての彫像・壁画・絵画。
  • 初期ルネサンス:ブルネッレスキ(建築)、マザッチョ(絵画)、ドナテッロ(彫刻)。
  • 盛期ルネサンス:レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロ。
  • ミケランジェロ「私は彫刻家であって画家ではない」。
  • 古代彫刻の模作→マニエリスム様式の起点。

マニエリスム(16世紀半~17世紀前半)

  • マニエリスム:洗練された手法や技巧を意味する「マニエラ」に由来し、滑らかな肌感や優美な線、人為的な色彩を重視。自然を模倣しつつ、自然を凌駕する人工の美しさを追及。
  • セルペンティナータ:蛇がとぐろを巻いたような。多方向から見られることを意識した螺旋状の構図。それまでの彫刻には必ず「正面」があった。
  • 1506年ローマで「ラオコーン(紀元前40~紀元前30年頃)」発掘。→マニエリスム的な構図への契機。
  • ジャンボローニャ「サビーニの女たちの略奪」、ミケランジェロ「勝利」。

『いちばん親切な西洋美術史』(新星出版社)より


ダヴィンチ、ミケランジェロがたくさんの作品を残しているこの時代が、西洋美術史的には彫刻のピークであったのかもしれません。この先時代を進むにつれて、建築・彫刻という立体から、絵画(平面)へと美術の主役が移動するように感じます。

ともあれ近代が近づいてきました。「その4」ではバロック、ロココと進みます。ここから先もまた楽しみです。

読書『博物館の世界』(誠文堂新光社)栗原祐司著

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『博物館の世界』(誠文堂新光社)栗原祐司著

正式なタイトルは『教養として知っておきたい 博物館の世界』です。でも「教養として知っておきたい」は要らないかなぁ…と思いつつ。「教養」はこのところ出版の流行り文句のひとつですね。個人的には、一般的に教養知識として知っておくべき内容だとは思いませんでしたが、博物館業務に関連したところにいる人たち、そういう仕事につきたいと思っている人たち、博物館や美術館が大好きな人たちに、おススメしたい本です。

さておき、わたしにとっては面白い本でした。著者は京都国立博物館の副館長でいらして、文化庁出身者。そのうえ「博物館オタク」を自任しておられますから、それはもう、高度に専門的な視点をお持ちですし、いわば現場を知るプロ中のプロ。国内外1万館以上に実際に足を運んでおられるというのですから、フィールドワークの量も半端ではありません。そんな方の書くものですから、面白くないはずがありません。

学芸業務の末端では知りえない政治的な動きも含め、日本の文化行政がどのように動いてきたのかを垣間見ることもできました。政府の方針ひとつで文化芸術の先進国にも後進国にもなりうることがわかります。特にあらためて考えさせられたのが、文化財の所有と課税制度と保護とのいろいろ。わたしが学芸員資格を取得してから10年近くが経ちますが、当時京都で実習を受けていたときに、指導してくださる先生方がことごとくその問題点・難しさを語っておられたことを思い出しました。

巻末の第6章には「厳選!ニッポンの行くべき博物館20」が紹介されていますが、その視点もまたユニークです。巷にある博物館ガイドや美術館を紹介するムック本などではなかなかお目にかかれない顔ぶれがずらり。わたしが訪ねたいと思ったのは、角川武蔵野ミュージアム、福井県年縞博物館、ボーダレス・アート・ミュージアムNO-MA、河井寛次郎記念館、南阿蘇ルナ天文台。ルナ天文台は同じ九州内ですので、さっそく旅行計画を立てたいと思います。

『博物館の世界』(誠文堂新光社)栗原祐司著

続・『いちばん親切な西洋美術史』(新星出版社)で、彫刻の歴史をざっと学び直し(その2)。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

続・『いちばん親切な西洋美術史』(新星出版社)で、彫刻の歴史をざっと学び直し(その2)。

「その1」では、エジプト・メソポタミア文明からエーゲ・ギリシャ文明までをまとめました。

「その2」では、エトルリア・ローマから初期キリスト教・ビザンティン、続くロマネスク・ゴシックまで。上の写真はゴシック建築。


エトルリア美術・ローマ美術(紀元前10世紀頃~紀元後4世紀頃)

  • エトルリア=墳墓美術:墳墓の建築、彫刻、絵画。
  • ローマ美術=ギリシャ美術+神話体系に基づく独自美術への発展。
  • 彫刻群:騎馬像・皇帝像などが増える。より高度な写実性。
  • ネクロポリス(死の街)=死後の世界を彩る壁画・彫刻の発展。
  • エトルリアでは大理石が採れない→テラコッタ(粘土の素焼き)による彫刻作品。
  • 巨大建築とアーチ。
  • ギリシャ彫刻ブーム→ブロンズ(戦争時に溶かして失われた)、大理石によるコピー作品。
  • ポンペイの壁画群:フレスコ画。

初期キリスト教・ビザンティン(3世紀~15世紀半ば)

  • 偶像崇拝禁止時代のキリスト教美術=イコンによる板絵形式の聖像やモザイク壁画。
  • ビザンティン美術=ローマ(政治)、ギリシャ(地理)、ヘレニズム美術(文化)の影響+イスラム文化。
  • ケルト美術=鉄器文明の初期普及段階を担ったケルト民族。古来の自然崇拝を土壌とする動植物文様や一筆書き状の組紐や無限に続くかのような渦巻き文様による高い装飾性:写本装飾、金属工芸。
  • 聖堂建築のはじまり。
  • ラヴェンナのモザイク画:表面の凹凸と色彩による表現。

ロマネスク・ゴシック(10世紀~14世紀)

  • ロマネスク・ゴシック=教会建築、祭壇画、ステンドグラス、装飾写本。
  • 聖遺物容器:それ自体が崇敬の対象となる特殊な工芸品。
  • ロマネスク教会:柱頭、半円形壁面(ティンパヌム、タンパン)が、説話的場面を彫り込むレリーフ(浮彫)の表現場に。
  • ロマネスク彫刻=教会彫刻の隆盛:柱頭彫刻とタンパンがレリーフ(浮彫)用の大画面(壁面)。
  • ゴシック教会=尖頭アーチと交差ヴォールト、ステンドグラス。
  • 装飾写本美術とタペストリー:一般的な絵画(壁画とタブロー)以外の絵画表現。

『いちばん親切な西洋美術史』(新星出版社)より


こうして文字に書き出すと、頭の中の整理になりますね。続き「その3」では、ルネッサンスに入ります。