「2021九州産業大学国際シンポジウム 博物館と医療・福祉のよりよい関係」後半(2021.2.20)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

「2021九州産業大学国際シンポジウム 博物館と医療・福祉のよりよい関係」後半(2021.2.20)

博物館学芸員技術研修で毎回お世話になっている、九州産業大学美術館・地域共創学部教授の緒方泉先生率いる「2021国際シンポジウム」に、オンライン参加いたしました。2月13日に開催されたシンポジウムの続きです。今回も英国と米国をつないで、Zoomと同時通訳アプリを活用しての開催でした。

テーマは「withコロナ、afterコロナに向けた高齢者プログラムの取り組みと課題」。九州産業大学美術館・地域共創学部教授の緒方泉先生、英国からはダリッジ・ピクチャーミュージアムさん、米国からはArts &Mindsさんからの発表でした。

以下、備忘。


  • (国・文化・機関・立場を超えた)共通項、共通言語を見出す→連携
  • 教育機関・福祉機関・医療機関の関係団体と連携して様々な社会的課題を解決する場としての役割(文化審議会「文化芸術推進基本計画(第1期)について(答申)」(2018年)より)
  • 処方箋に「博物館」と書く。
  • エビデンス。
  • フレイル予防の場としての博物館。
  • Museums Change Lives
  • You can find yourself in the gallery.
  • All ages and backgrounds
  • Together for Museums
  • デジタル格差
  • Holistic and integrated creative programs
  • The importance of green space
  • オンライン、郵便、電話
  • Art Dialogue、Art Conversation、Art and Movement
  • オンライン→生活の場において参加できる利点=外出時の地理的障壁・課題の解消
  • More programs for More places
  • Social、Local、Community
  • Person centered care
  • One to one communication
  • Keep in touch
  • エデュケーションだけでなく、ゆったりする、くつろぐ場としてのミュージアム
  • Gallery and Garden
  • 感情の表出を後押しする
  • 瞑想、ヨガ

2018年度に参加した学芸員連続講座「2025年問題に向けた高齢者の健康と博物館の役割」から、博物館学芸員資格取得者として福祉・医療との連携を考える機会がスタートしたのでした。博物館が地域で果たす役割について、各館・各学芸員がそれぞれの地域でどのような案を見出し、どうすれば実現できるのか。第1回目「コラージュ第2回目「園芸療法第4回目「回想法第5回目「音楽療法」と、さまざまな視点から学んできたことを、今回のシンポジウムでさらに深める機会となりました。

わたしは博物館学芸員資格を取得しているとはいえ「館」に所属したことはなく、フリーで学芸員活動(アートエデュケーター)をしています。そのような立場の者に対しても、情報を提供してくださり、学びの場をオープンにして受け入れてくださる緒方先生をはじめ事務局の皆さまに、心より感謝申し上げます。

九州産業大学美術館・地域共創学部教授の緒方泉先生の発表内容の詳細は、書籍で発刊されることになっています。興味のある方は、ぜひ手に取ってみてくださいね。

「2021九州産業大学国際シンポジウム 博物館と医療・福祉のよりよい関係」前半(2021.2.13)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

2021九州産業大学国際シンポジウム 博物館と医療・福祉のよりよい関係」前半(2021.2.13)

博物館学芸員技術研修で毎回お世話になっている、九州産業大学美術館・地域共創学部教授の緒方泉先生率いる「2021国際シンポジウム」に、オンライン参加いたしました。2019年に初めて参加した九州産業大学国際シンポジウム。昨年2020年はコロナ感染症が広がり始めたところでしたので、残念ながら参加を自粛していましたが、今年2021年はZoomでの開催と発表されたので、嬉々として申し込みました。ありがたいです。

今年は2月13日と2月20日の二部に分けての開催です。英国と米国をつないでのZoom開催。時差への配慮とオンラインでの集中力の持続を考えての二部編成。前半テーマは「withコロナにおいて、どのような感染対策をして、博物館活動を継続していましたか?」。日本からは、福岡市美術館さん、北九州市立自然史・歴史博物館(通称:いのちのたび博物館)さん、海の中道海洋生体科学館(通称:マリンワールド海の中道)の学芸員さんからの3件の発表。英国からはダリッジ・ピクチャーミュージアムさん、米国からはArts &Mindsさんからの発表。それぞれに特徴ある取り組みを聞くことができる、貴重な機会となりました。

以下備忘。


  • HOPE SPRINGS ETERNAL(希望の泉は枯れず)
  • Health & Wealth
  • 国(各国)のガイドラインに沿った対策。
  • 文化庁芸術振興費補助金を活用した感染症対策(空調等大がかりなものも)。
  • 予約システムの導入、曜日・時間帯等による来館者規定。
  • コミュニティ(地域社会)、コミュニケーションへの配慮と、美術館の役割意識。
  • Create responses
  • Here for Culture
  • Social justiceの問題 ※特に米国内の社会問題として
  • Every museum has their own Mission, Process, Outcomes and Lessons
  • Crisis(危機)→Anxiety(心配・懸念)→Introspection(内省)→Innovation(革新・刷新)
  • 2021 Museum Innovation

<以下、オンラインプログラムへのシフトに関連して>

  • オンラインをきっかけとした「新たな顧客」との出会い。
  • 物理的に来館が困難な方(遠方の人、障がいや病気で移動が難しい人)への機会。
  • 代替策としてのオンラインから、両立させるべき手法としてのオンラインへ。
  • 美術館の裏側紹介-いつも見れていたものが見えないときに、いつもは見れないものを見せる。
  • 材料の事前送付を含めた事前応募制による在宅ワークショップ。
  • オンラインでのギャラリートークも質問が出しやすいよう少人数で。
  • 各学芸員による、博物館活動、展示、研究分野等に関する動画制作・公開。
  • 動画再生回数等データ分析と、その後のコンテンツへの分析結果の反映。
  • 小中学校の休校→オンラインでのスクールプログラムの増加・充実。※特に米国ではプログラムの多言語化(英語+スペイン語など)が進んだ。
  • アウトリーチ(美術館教材貸し出し)活用の宣伝と普及。
  • 今後急務の課題として、タブレット利用を前提としたスクールプログラムの検討。
  • 一方で、デジタル活用ができない人への対応・フォローの必要性。
  • Physical and Virtual are different
  • Change our approach to digital programs to be more immediately responsive
  • 共通言語を探す(共通言語の必要性)、デジタルアクセス(つながる)

2月20日の後半も楽しみです!

目的・内容・方法…社会教育・生涯学習を考える。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

目的・内容・方法…社会教育・生涯学習を考える。

福津市には「郷育カレッジ」という市民のための生涯学習の仕組みがあります。このブログでもたびたび郷育カレッジのことを取り上げています^^福津市やその周辺の「ひと・もの・こと」を題材に、ふるさと・健康福祉・環境・生きがいなどのさまざまな分野で、毎年約100講座を展開。市の郷育推進課が中心となり、ボランティアスタッフの「郷育運営委員」がカレッジ運営をサポートしており、わたしもその末席に加わっています。

2020年度はコロナ対策に追われました。まず計画していた講座のうち7-8月の講座はすべて中止となりました。9月以降も「密」になりそうな講座を中止したり、講師の方との判断で中止にしたり。開催できた講座の数は、当初予定より大幅に少なくなってしまいました。開催の際も、マスク着用や消毒などの基本的な予防はもちろん、受講生の定員数をかなり減らすなど、郷育カレッジの開校以来の対応を迫られた一年となりました。

現在、来年度(令和3年度)の郷育カレッジ開校に向けて、大詰めの検討が進められています。毎年この時期は、講座内容の確定や講師の方々への依頼など、気忙しくなってくるタイミングではあります。それに加え、まだ先が見通せず予断を許さない来年度に向けて、内容・方法についての検討に例年以上に頭をひねっています。

この一年を踏まえて、できるだけ開催できるような形を模索しています。移動や接触が前提となる講座は、来年度については計画をせず、「ソーシャルディスタンスを保った座学」でできる内容を増やすこと。「今だからこそ気になること」を学ぶことのできる講座を増やすこと。そして、方法のひとつとして「オンライン」をどう使えるかも、今後は考えて行かねばなりません。

小学生から大学生まで、学校教育の現場もやり方も一変した昨年一年間。コロナ禍で「方法」の変化を急激に求められた感がありましたが、ここ数年の世の中の大勢としてその流れはありました。大人の学び場である社会教育の現場でも、それは同じです。郷育カレッジの場合、変えるというよりは選択肢を増やすという意味合いでも、「オンライン」を検討の土台に載せることが必要です。ますますたくさんの市民の方々に活用していただけるように、目的・内容・方法を検討していきたいと思います。

読書『美術館っておもしろい!』(河出書房新社)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『美術館っておもしろい!』(河出書房新社)モラヴィア美術館

「展覧会のつくり方、働く人たち、美術館の歴史、裏も表もすべてわかる本」阿部賢一・須藤輝彦 訳

このところ、カメリアステージ図書館の新刊選書がツボにハマっています(笑)いつもの図書館で、選書しておられる司書さんのなかに、自分と好みの合う方がいらっしゃるのだなぁと思うと、ひそかに嬉しくなります。そういえば佐賀に住んでいたころは、有名になる前の「武雄市図書館」を利用していましたが、当時の武雄市図書館の新刊コーナーも秀逸で、毎回嬉しかったのを思い出しました。

さて『美術館っておもしろい!』。素晴らしい本です。「絵本」です。美術の本というよりは、美術館の本です。目次は「美術館の歴史」「美術館の仕事」「展覧会のつくりかた」。モラヴィア美術館は、チェコ共和国でプラハの国立美術館に次ぐ規模を持つ美術館なのだそうですが、そこの学芸員・スタッフによって作られた本です。今年の「わたしのベスト本」上位入りが確実な本です。

子どもたちがこの本を読み終えたとき、美術館を面白い場所だと思ってくれるはず!という期待が持てます。アートエデュケーションを考えるときに根底にある「美術館」という存在への思想が、そのまま絵本になっているような感じで、とても嬉しくなりました。わかりやすく紐解かれていて、それはそのまま、大人が読んでも同じです。美術が好きな人、美術に関わる仕事をしたいと思っている人、皆さんにおすすめしたい本です。

原書も探してみたところ、紀伊国屋さんのウェブ書店ではドイツ語の中に入っていました。あ、これはチェコ語なのかな。すみません、見てもよくわかりませんでした。とにかく英語ではなかったので、わたしは断念。日本語版を手に入れることに。

図書館は借りるだけの場所ではないと、つくづく思います。「図書館で読めるから、本は買わなくていい」という論法ももちろん成り立ちますが、「図書館で出会って、良い本・必要な本だとわかったから購入する」も、同時に成り立ちます。これは、新刊書に限らずで、古典の良さに気づかせてもらえるのも、図書館。

図書館で本を物色 → 家で熟読 → 気に入って本屋さんで購入

手元に置いておきたい本が、じわじわと増殖中です。

そこに「愛」はあるか?

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

そこに「愛」はあるか?

週末、友人から声がかかり、ある会合に足を運んでまいりました。年齢も性別も職業も社会的立場もさまざまな十数名が、私人の立場で参加するというもので、共通しているのは、今住んでいる地域の未来を真剣に考えている、という一点のみ。

初顔合わせということで、まずは自己紹介兼ねそれぞれの地域に対する想い(=課題感)を共有するだけでタイムオーバーとなりましたが、それだけでもふつふつと湧き上がるものを感じる、面白い時間でした。

以下、備忘メモ。


  • 将来そこに帰りたいと思えるか。
  • 住まいと仕事場。
  • 腰を据えると決めたからこそ、腹が立つこと。
  • ビジネスをスタートしようとしたときの、風通しの悪さ。
  • 世界基準で見たときに、どうか。
  • 毎日歩き、見るからわかること。
  • とにかく情報を集める。
  • シビックプライド。
  • 愛情と誇り。
  • 地元民と移住者との温度差。
  • ひいきをする。
  • 下町。
  • 巻き込む。
  • 地域の分断。中立的な場所。
  • 「次」が無い。
  • ○○と言えば、□□。
  • その「次」の必要性。
  • キーマンはどこにいるのか。
  • その「場」はどこにあるのか。
  • 元気な事業者がたくさんいることの大切さ。
  • スピード感を阻む壁。
  • 変化の必然性。
  • そこに「愛」はあるか。
  • 他力。
  • 若者。

これからの地域を考えるとき、あらためて、「住まいと仕事・仕事場」「愛情と誇り」がキーワードになると感じました。地域が何をしてくれるのか、の前に、自分たちは地域で何ができるのか。これを考えることは、そのまま自分たちの事業の在り方を考えることにもつながります。

ふわふわとしたミーティングではなく、ちょっとした緊張感がまた楽しい時間でした。参加者それぞれが、これまでもシビアなビジネス環境(ビジネスに限りませんが)を当事者として乗り越えてきた方々だからこその、根拠ある視点、広い視野、変化への意欲に触れることができました。

新しいことがはじまりそうで、ワクワクしています。

優先順位を再確認。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

優先順位を再確認。

昨日までの数日は、読書記録のブログ記事が続きました。隙間時間の積み重ねではありながら、読書時間を確保できているのは、とても幸せなことです。「本を読む」は、わたしのこれまでの生き方のなかで、優先順位が高く、もっとも資本(時間とお金)を投下したジャンルだと思います。実際に数字を出してはいないので、あくまでも印象ですが。

2020年に新たに学びはじめたもののひとつに、タロットがあります。カードを読む訓練のひとつとして、毎朝一枚カードを引いています。一日のスタートに、それなりに示唆があるので面白く。今朝の一枚が「人生の優先順位を再確認してみるタイミングかも」と言っていたので、ちょっと手を止めて考えてみることに。12月に入ったところでもあるし、ちょうどよさそうです。

価値観(自分にとって何が大切か)がはっきりしている方だと思うので、意識しなくても自動的に優先順位がついていることが多いのですが、もしかしたら惰性になっているだけかもしれません。わたしの場合、日々の選択に対するスタンスは、自分の決定への信頼感というよりは、選択の結果に対して(それが失敗しても)受け止めるよ、というほどのもの。でも、自動運転に選択を任せているうちに、真に優先すべきことがないがしろになっているかもしれません。

そう思いながら、つらつらとメモを書き出してみると、確かに、年内にやり遂げたいと思いながらまだ見通しの立っていないものがいくつか出てきました。でも、やる気モードになっていないことをしようとすると、なかなか進まないので、すぐに取り掛かることはいたしません。まずは無意識に後回しになっていたものを、目に見える形にして意識に上ってくるようにするところから。

優先順位の番号を振って目に見えるようにして、「よし、やるぞ!」が下りてくるのを待ちます。それが完結するのが、目指すべき期間内であればよいのですが、ギリギリになって「やらざるを得ない」状況に自分を追い込むのもまた一つの方法です(笑)。ともあれ月の初めにこのカードが出たことに感謝。

ところでタロットを手に取ったきっかけは、夢のなかで、美術鑑賞を使った訓練との共通点に気づいたことでした。すなわち、丁寧に「見る」ことと、そこから何を「読み取る」か、ということ。わたしが美術鑑賞教育のなかで一番大切にしていきたいこれらのことが、カードをツールとして用いることでも展開できそうだということです。特にルネサンス絵画というジャンルでみたときに、タロットとの結びつきにハッとしたのでした。夢のなかで気づくとは、無意識おそるべし(笑)。

読書『小説 イタリア・ルネッサンス 1 ヴェネツィア』(新潮文庫)塩野七生

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『小説 イタリア・ルネッサンス 1 ヴェネツィア』(新潮文庫)塩野七生

塩野七生さんといえば『ローマ人の物語』。過去何度か読もうとチャレンジしましたが、そのたびに途中で挫折していました。わたし自身の世界史・地理・宗教などについての基本知識不足が理由となって、いちいち前に戻ったり別書を開いたりして確認しないと読み進むことができず、ついには本を閉じてしまう…の繰り返しでした。

先日偶然この「小説 イタリア・ルネッサンス」シリーズを見つけ、これならばスラスラ読めるかもしれない!という淡い期待を抱き手に取りました。「ルネッサンス」「ヴェネツィア」と時代やエリアを区切ってあるだけでも、読みやすいはず…という期待は裏切られませんでした。いやぁ、面白い。「歴史物語の力」を感じた一冊です。

文庫を開いてまず巻頭に、物語の時代を象徴するような絵画がカラーで紹介されているのが、魅力的です。ルネッサンス期というのは、美術に関わる人にとって、やはり特別な時代なのだと思います。美術作品を見たときに、その背後にあるものを知りたいと思い、そのために本を開く。わたしもこれまでも、そうして手に取った本がたくさんあります。

塩野七生さんの本をずっと「読みたい!」と思いながら、読み通せずに不甲斐無い思いをしていたので、とても嬉しい「小説イタリア・ルネッサンス」シリーズとの出会いとなりました。時間をかけて読破していく楽しみができました^^

読書『最後のダ・ヴィンチの真実』(集英社インターナショナル)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『最後のダ・ヴィンチの真実』(集英社インターナショナル)ベン・ルイス著、上杉隼人訳

そういえば、少し前に読んだ鑑賞教育関連の本『知覚力を磨く 絵画を観察するように世界を見る技法』(ダイヤモンド社)の著者・神田房枝さんの肩書は、ダヴィンチ研究所ディレクターでした。本書『最後のダ・ヴィンチの真実-510億円の「傑作」に群がった欲望-』は、偶然図書館の新刊棚で見つけたもの。このところ、思いがけずダ・ヴィンチづいています。ダヴィンチに関する本はフィクション・ノンフィクションともにたくさんありますが、あらためて、世界中にダ・ヴィンチ研究者がたくさんいることを思いました。

表紙裏に書かれた「13万円で買われた絵は、なぜ12年で510億円になったのか」のフレーズが、この本を物語っています。最初に「本書はノンフィクションであるが、ミステリー小説のように楽しめるので」と書いてある通りの本です。アート関係者としては、発見された名もない絵が「傑作」として認定されるまでの過程がとても興味深く、ドキドキしながら読みました。

作者も来歴もわからない美術品の中から、「眠れる美術品」を見出す才能は、まさに審美眼と呼ぶべきものでしょう。その才能はまた、美術史とその周辺の膨大な知識・教養に裏付けられたものであり、どれだけたくさんの美術品を見てきたかの結果でもあります。そのような審美眼を持つ「発見者」の存在は、本来美術の表舞台には出て来にくいだろうと思います。この本で一つのリアルな物語を見ることができたのは、わたしにとって貴重なことでした。

名もない絵が「傑作」として認定されるまでの過程を眺めるにつけ、「誰に発見され(見いだされ)、どこでどのように評価されるか」が、その作品と作者の行く末を決めるのは、古いものも新しいものも同じことだなぁと、つくづく感じました。署名が無いがゆえに名作と認定されず廉価で取引されるオールドピースの数々と、無名であるがゆえに評価の土俵に上がることさえできない現代アートの作品たち。

生まれても日の当たる場所に出ないままに忘れ去られていくアーティストや作品たちが、世の中にどれだけあるでしょう。古今東西、そういうことが繰り返されてきているのだと思うと、やっぱりまずは土俵に上げるための努力をしなければならないと痛切に感じます。美術史に残っていけるのは、ほんとうに、ほんの一握り。「いいものをつくれば、いつか日の目を見る」は、よほどのラッキーであって、「知られなければ、存在しないのと同じ」が実際だと、あらためて思いました。

Meet Me at Art コラージュ講座。

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

Meet Me at Art コラージュ講座。

コラージュ講座のインストラクションをしてまいりました。今年は全国的に、オフラインでの各種講座の開催は様子を見ながらでしたので、Meet Me at Artとしても、美術教育のプログラムは焦らず安心して計画できるようになってから、と思っておりました。そんなわけで、久しぶりのインストラクション。

「美術的アプローチでのコラージュ」との出会いは、約2年半前。2018年度の「博物館マネジメント人材育成事業」の一環である連続講座「2025年問題に向けた高齢者の健康と博物館の役割」の第1回で「美術館でコラージュ療法」を学び、その魅力に惹かれました。アートセラピーとしてのコラージュを、美術的アプローチに重きを置くことによって、もっと気軽に誰でも実現できる創作体験として広めていく。その可能性に、ビビビッと来たのでした。

今回は、福津市の生涯学習の仕組み「郷育カレッジ」の講座のひとつとして開催したもの。多様なジャンルの講座を抱える郷育カレッジですが、美術系の講座はそれほど多くありません。コラージュも今年度が初めてでした。約1時間半の講座は、皆さんの意欲的な姿勢に支えられ、サクサクといい感じに進みました。

昨今のご時世を鑑み、グループワークによる意見交換「分かち合い」の時間は割愛することになり、それが少し残念でしたが、その分、自分自身の内面と向き合う時間をしっかりとることができればと思いつつ。後日、講座終了後のアンケートに書かれた感想をフィードバックしてもらったのですが、受講者の方々がその意を汲んでくださっていたことがわかり、ホッとしました。

いただいたご感想を要約すると…

  • 初めてやってみたけれど、新鮮だった。
  • 集中して一人静かな時間が持てた。
  • コラージュ制作を通じて、自分の好きなことに改めて気づくことができた。
  • 自分で考えを創作していく過程に、希少価値を感じた。
  • 今自分が表現したいことが明確に出て、面白かった。
  • やりだしたら、ついついはまり込んだ。
  • 空間で何かを表現したいという思いが出てきた。

などなど。

このように皆さんが感じてくださったことこそが、Meet Me at Artコラージュの面白さであり、目指しているところです。このようなご感想をいただけたということは、コラージュの深さや面白さを感じていただけたということ。ほんとうに嬉しかったです。久しぶりのインストラクションで、コラージュの可能性をますます感じました。

読書『知覚力を磨く 絵画を観察するように世界を見る技法』(ダイヤモンド社)

こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。

読書『知覚力を磨く 絵画を観察するように世界を見る技法』(ダイヤモンド社)神田房枝 著

美術鑑賞の効用を説く本がまた一冊登場しました。上の写真は帯で紹介されているコンテンツ。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)で対話型鑑賞法を説いた山口周さんはじめ、ここ数年美術鑑賞によるトレーニング・研修効果をうたう本が次々と出ていて、アートエデュケーターとしては嬉しい限りです。目についた都度、読むようにしています。

著者によれば、「その効果が科学的に検証されている、絵画観察を用いたトレーニング」について論じているのが、本書『知覚力を磨く』の強み。たしかに自らを省みても「効果があると確信を持ってはいても、それを証明しろと言われると、検証までは出来ていない」のが、鑑賞教育の担い手としての実態です。それだけに、裏付けが語られることに、とても心強さを感じました。

以下、備忘。


  • 思考の前提となる認知、すなわち「知覚(perception)」
  • 「知覚」の幅を広げるというアプローチ
  • 知覚→思考→実行
  • 純粋によく見る
  • 知覚は「コントロール」できない
  • 知覚から「知識」がはじまる
  • 「他者」の知覚を取り入れる(=読書)
  • マインドアイ(見えないものを観る力)
  • 知覚力を奪う「敵」は「認知バイアス」
  • 「具体性に満ちた全体」をとらえる
  • 点と点をつなぐ観察(=関連づけ)
  • 人文科学は、明確な答えが無い問いに対して、自分なりの答えを提案していく学問

『知覚力を磨く 絵画を観察するように世界を見る技法』神田房枝 著より


ところで著者の神田房枝さんの肩書きが「ダヴィンチ研究所ディレクター」。ダヴィンチ研究所なるものがあるのですね。ダヴィンチはアーティストであっただけでなく、他分野を横断した様々な創造・業績を残していますが、そのほとんどが独学であったということを、本書で知りました。

アーティスト以外のアート関係者、教育関係者、企業人にもおススメの一冊です。