こんにちは。花祭窯おかみ/アートエデュケーターふじゆりです。
読書『スクラップ・アンド・ビルド』(文藝春秋)羽田圭介著
いつものカメリアステージ図書館から先日借りてきた、羽田圭介さんの短編集『バックミラー』の「日常版滅びの美学」のインパクトが大きかったので、今回も羽田氏の著書を借りようと思っていたら、ちょうど図書館の貸出カウンター横の特集コーナーに本書が並んでいました。わたしの心の声が司書さんに聞こえたかしらと思いつつ、即座にゲット。
10年前の芥川賞受賞作。だからというのではもちろんありませんが、おもしろくて、一気に読んでしまいました。短編ではありませんが、長編という感じでもなく、サクッと読めます。家族小説であり、介護がテーマでもあり、深刻にしようと思えばいくらでもできる材料を、軽くいなしている感じがなんとなく痛快でジワジワ来る、不思議な感覚でした。
「死にたか(死にたい)」が口癖の87歳の祖父と、「死にたい」の手助けを不自然でない形でやろうと決意した主人公と、家族に甘える祖父に我慢の限界が近づいている主人公の母(=祖父の娘)。それぞれのセリフが面白いです。特に祖父の行動とセリフの端々にあらわれる、「イラつく要素」の描写が秀逸です。祖父の方言は長崎弁のようで、祖父の気持ちの載せ方がうまいなぁと思いました。そのニュアンスがよくわかるわたしとしては、思わず笑ってしまいました。
ラスト、思いがけない終わり方に唸りました。全編を通して、そしてラストも、大きな事件やイベントは起こらず、日常の延長線上にある展開なのですが、そのなかでこれだけ面白く読ませることができるんだなぁと思いました。そういえば『バックミラー』も「日常版滅びの美学」でしたので、「日常」の絶妙な切り取り方が、著者の持ち味の一つなのかもしれません。ほかの著書も読んでみようと思います。